第十九章 メンシュハイト・プファイル作戦(人類の矢作戦)
地球連合軍総旗艦『エデン』ブリーフィングルームには各艦隊のエース級モビル・トルーパーパイロットが揃っていた。
ユウは居心地が悪く、思わず隣に座っているファン曹長に話しかけた。
「なんか自分、場違い感がすごいんですけど」
「あ~、結構有名なパイロットばっかり集まっているからな。俺とフィーシーズはちょいと落ちるな」
「いや、曹長も割とこっち側だからな」
ファン曹長の言葉にキッペンベルク少尉が突っ込む。キッペンベルク少尉は名の知られたパイロットだ。だからここにいるのは当然だろう。だがユウはこの戦いで撃墜数を稼いでいるとは言え新米パイロットだ。だから周囲のエースパイロットの雰囲気に気おされる。
それにキッペンベルク少尉は苦笑しながら口を開く。
「そう緊張するなフィーシーズ。ガラハウ少佐だってお前さんを買っている」
「? そうなんですか?」
ユウの言葉にキッペンベルク少尉は頷く。
「うちの艦でエースと言えばコアー小隊の連中とリイ軍曹だ。コアー小隊の連中は当然のように呼ばれているが」
その言葉に三人の視線がコアー小隊の面々に移る。
そこでは平然と賭けポーカーをやっているコアー小隊がいた。
三人にとってはいつものことなのでそれをスルーしてキッペンベルク少尉は言葉を続ける。
「だが、リイ軍曹は呼ばれちゃいない。おそらくだがフレイル伍長の腕前を心配してガラハウ少佐が外したんだろうな」
「あまり引き抜きすぎるとうちが担当している宙域がやばいって線はないですか?」
「まぁ、曹長の言うことも一理あるだろうが、それでも少なくともフィーシーズはここに混ざっても邪魔にはならないと判断されたんだろうさ」
そこまで言ってキッペンベルク少尉はニヤリと笑う。
「良かったなフィーシーズ。上官には気に入られているぞ」
「気に入られていると何かいいことありますか?」
「便利屋のようにそこら中に援軍で出されたりする」
「忙しいだけ……!」
ユウの嘆きにキッペンベルク少尉は楽しそうに笑い、ファン曹長は大笑いしながらユウの背中をバシバシと叩く。
するとブリーフィングルームの扉が開き、カスペン大佐が入室してくる。ブリーフィングルームにいたパイロットは一斉に立ち上がるとカスペン大佐に敬礼した。
カスペン大佐も敬礼を返すと全員を座らせる。そして集まった二百人近いパイロットを見渡して口を開いた。
「諸君、重大作戦である」
その言葉にブリーフィングルーム内に緊張が走る。カスペン大佐が手元を操作すると大画面に現在の戦況図が映し出された。
「現在の戦況であるが物量で全体的に我々が押されつつある。特に中央にはかなりの数の宇宙怪獣が集結している。だが、この動きは宇宙怪獣には見られたことのない動きだ。それを受けて上層部は一つの仮説を出した」
そこまで言うとカスペン大佐は正面に向き直って口を開く。
「即ち、中央に宇宙怪獣にとって守るべき親個体、もしくは指揮官個体がいる可能性があるということだ」
その言葉にブリーフィングルーム内が静まりかえる。そしてコアー少尉が胡散臭げに手を挙げた。カスペン大佐が発言を許すとコアー少尉は顔を顰めながら口を開く。
「正気で言っていますか? それとも上層部も我々パイロットのように隠れて一杯やって作戦たてましたか?」
ある意味で上官侮辱罪にあたりそうな発言であったが、そこはパイロットとして戦い続けているカスペン大佐である。平然とその言葉を受け入れて説明を続ける。
「諸君らの懸念は最もであるが、上層部はいたって真面目である。そして一応納得のできる説明もある」
「教えていただきたいですね」
別のパイロットから出た発言にカスペン大佐は説明を始める。
「知っての通り宇宙怪獣は生物である。地球の生物の多くは群れをなしたときボスがおり、それを中心に生活をしている。そうであるならば宇宙怪獣にも親、もしくはボスのような指揮官個体がいてもおかしくはなかろう」
カスペン大佐の言葉にも部屋の空気は半信半疑といったところだ。
「諸君らの疑問はもっともである。だが、このままで戦況が推移すれば一週間後には人類は敗北していよう。それを避けるために砂粒のような可能性にも賭けてみるというのが上層部の考えだ。異論はあるか?」
その言葉に多くのパイロットの手があがった。それをカスペン大佐は真面目な表情をしながら頷き、口を開く。
「だが異論は認めん。作戦に従え」
カスペン大佐のあまりな発言にパイロット達からブーイングが出るが、カスペン大佐はそれを一睨みで黙らせた。
ユウは小声で隣のファン曹長に話しかける。
「本当にありえるんですかね?」
「まぁ、上層部もそれなりの材料があっていきついた答えだろうさ。一兵士は従うだけってな」
ファン曹長の言葉にユウも納得しながらカスペン大佐の作戦説明を聞く。
「今回の作戦は単純である。五機のストライカー装備にしたモビル・トルーパーを中心に爆撃装備で固めたモビル・トルーパー部隊で片っ端から巨大宇宙怪獣を藻屑に変えるだけだ。制宙権は我がカスペン戦闘大隊が奪っているから安心して爆撃装備で突っ込むがいい」
「なんつぅ脳筋作戦」
キッペンベルク少尉の言葉にユウも頷く。本来なら護衛機を用意して突入する爆撃装備で敵陣に突っ込み片っ端から指揮官と思わしき巨大宇宙怪獣を沈めろというのだ。確かにカスペン戦闘大隊なら制宙権の心配はないだろうが、それでも爆撃装備の集団だけで敵陣に突っ込むのは自殺行為に近い。
「そしてストライカー装備の説明だが」
カスペン大佐がそう言って手元のコンソールを操作すると画面にモビル・トルーパーの装備と思わしき映像が出た。
「ストライカー装備は開発部が作り出した決戦装備である。しかし、コストが高すぎるために五機分の生産が限界であった。見てわかるとおり脚部と背面に大型ブースターが搭載され機動性が確保されている。防御面では対ビームフィールド……ビームを無効化するシールドを展開して防御性能を高めている。攻撃性能はポーン型の宇宙怪獣なら問題なく対処できるバルカン砲、下半身のブースターユニットに取り付けられた一般的な戦艦クラスの宇宙怪獣なら沈められる四門のビームカノン。長距離射撃用のビームスマートガン。そして右肩には対超巨大宇宙怪獣用のハイパービームキャノンが取り付けられている」
説明を聞いているだけでも頭おかしいと思える装備だ。本来なら何機かにわけて行われる装備を一機に搭載してのけたのだ。そのために一騎当千の機体性能になっている。
「大佐、その数値だとパイロットにかかる負荷が尋常じゃありませんが」
問題はキッペンベルク少尉の言った通りである。機体の出す速度などもそうだが、武器の取り扱いも一人のパイロットでやれというのだ。無茶は話である。
キッペンベルク少尉の言葉にカスペン大佐は頷きながら言葉を続ける。
「一応、管制補助システムとして『エグザム』というシステムを搭載している。これも開発部が自信をもって送り出してきたシステムだ。少なくとも邪魔はせんだろう」
「肉体的負荷は?」
「耐えろ」
カスペン大佐の言葉にパイロット達から恐怖の声があがった。
確かにストライカー装備は一騎当千の装備であろう。だが、それ以上にパイロットにかかる負担が尋常じゃない。これに乗るくらいだったらまだ慣れている爆撃装備のほうがマシだろう。
「ストライカー装備に乗るのは私、ガトー少尉、ダカラン少尉、コーネフ少尉、キッペンベルク少尉の五名だ」
「選ばれちまった……!」
「ご愁傷様です、少尉」
名前を呼ばれた瞬間に思わず天井を見上げたキッペンベルク少尉にファン曹長が同情のこもった声をかける。
「なお、この作戦には秘密裏に開発されていた特別機動兵器『アース』も導入される」
カスペン大佐の言葉にパイロット達からざわめきが出る。誰しもが噂だと思っていた代物が作戦に導入されるとわかったからだ。
「先陣を切るのはこの特別機動兵器『アース』が務めることになった。技術部の連中や超兵器に関わっている連中の自信作を我々は特別席で見物させてもらおう」
「大佐、そのまま観客席に残ることは可能ですか」
「残念ながら特別席は時間制限があってな。すぐに演者で出演してもらう」
カスペン大佐の言葉にパイロット達から笑いが出た。
「作戦名は『メンシュハイト・プファイル(人類の矢)作戦』だ。諸君、人類の興廃はこの作戦にあり。心してかかれ』
カスペン大佐の言葉にパイロット達は立ち上がり敬礼を返すのであった。
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