第十七章 小さな勝機

 出撃のために格納庫に入ったユウは驚きに包まれた。右足がなくなっていたはずの自分の機体の右足が復活していたのである。それだけでなく、全身に装甲が追加されて重武装となっている。近くに駐機されていたキッペンベルク少尉の機体もすっかり元どおりになり、ユウの機体と同じ武装が追加されていた。

「おう坊や! 機体はすっかり元どおりだぞ!」

「ありがとうございます!」

 整備員にお礼を言いながらユウはコクピットに入りシステムを起動する。すると整備員が覗き込んできた。

「坊やの使っていたマサムネブレードは耐久が持たなくなっていたから取り外した。代わりに取り付けたのが全身に武装を仕込んだ装甲を積んだ『ヘビーウェポン』装備だ。胸部装甲、バックパック、腕部装甲、脚部装甲にミサイルポッド。左腕にダブル・ビームライフル。この装備の一番のメイン武装が右腕で担いでいるハイパー・メガ・カノンだ。ハイパー・メガ・カノンは艦砲射撃並の威力が出るからな。取り回しには気をつけろ!」

「自分、訓練校で射撃成績は下から数えた方が早かったんですが!」

 ユウの言葉に整備員は笑った。

「安心しろ、そう言う奴のための『ヘビーウェポン』装備だ。あたりにミサイルばら撒いて大出力のビームで薙ぎ払えば細かい照準なんかいらねぇよ!」

「なんて脳筋装備」

「その代わりに坊やお得意の近接装備はできないと思えよ! それじゃあ生きて帰ってこいよ!」

「はい!」

 ユウの返事を聞いてから整備員はサムズアップしてからコクピットから離れる。ユウも即座にコクピットを閉めてシステムを起動した。

「うわ、すごいエネルギー量」

 大火力のビーム兵装を積んでいるせいか表示されるエネルギー量がマサムネブレード装備時の倍以上になっている。

『曹長、フィーシーズ。聞こえるか?』

『こっちは大丈夫ですよ』

「あ、自分も平気です」

 各種システムを点検しながらユウはキッペンベルク少尉に応答する。

『整備員の奴らのせいで俺とフィーシーズの機体は『ヘビーウェポン』装備になっている。これじゃあ今までの連携は取れん』

『と、なるとフォーメーションチェンジですか?』

『三人仲良く後衛装備だ。とにかく宇宙怪獣の射程距離……あ〜、おおよそのデータがPSR-67に入力されているはずだ。確認できるか?』

 キッペンベルク少尉の言葉にユウはデータを確認すると、ポーン型宇宙怪獣の推定射程距離が表示された。

『データが正しければ『ヘビーウェポン』装備と曹長のキャノン装備なら宇宙怪獣の射程距離外から攻撃可能だ』

『なるほど、宇宙怪獣の射程距離外から射的ゲームですか』

『問題はその射的の的が動き回るところだな』

「クソゲーじゃないですか」

 思わず溢れたユウの言葉にキッペンベルク少尉のファン曹長は大笑いする。

『言うようになったなフィーシーズ!』

『それでこそユリシーズのパイロットだ!』

「パイロットとしての腕前で評価されたかったです」

『安心しろ、ちゃんと腕も買っている』

 キッペンベルク少尉の言葉にユウは嬉しくなって笑ってしまう。

『キッペンベルク小隊、第四カタパルトより出撃をお願いします』

 するとオペレーターから通信が入る。

『よしきた! 行くぞ曹長、フィーシーズ!』

『はいよ!』

「はい!」





 第十三艦隊旗艦パラミティース艦橋。指揮卓の腕で胡座をかきながらヤン中将は宇宙怪獣について考えを巡らせている。

(宇宙怪獣の攻勢が少なくなったのか……?)

 宇宙怪獣との決戦が開始されてから三日が立ち、指揮官や兵士達は麻薬などを打ちながら意識を保って戦闘を続けている。

 ヤン中将も意識を覚醒させるために腕から麻薬をうちながら考えを続ける。

(二時間くらい前からだいぶ宇宙怪獣の攻勢が弱まっている。それは間違いない)

「すまない、宇宙怪獣の現状の配置図を出してくれ」

 ヤン中将の言葉に副官が即座に画面に宇宙怪獣の配置図を出した。

「タナカ少将」

「はい」

 ヤン中将の言葉に即座に総参謀長であるタナカ少将が反応する。お祭り騒ぎになりがちな第十三艦隊において『真面目』と『規律』を保たせている初老の男性で、ヤン中将からの信頼も厚い。

「宇宙怪獣が中央に兵力を集めている」

「なんですって!?」

 慌てた様子でタナカ少将は画面を確認する。すると確かに中央部分に多くの宇宙怪獣が集結しつつあった。

「タナカ少将はどうみる?」

「さて……我々の常識を当てはめるならば、中央突破を図っているように見えますが」

「うん、そうだよね」

 タナカ少将の言葉に頷きながらヤン中将は考え込む。

(宇宙怪獣は『兵士』ではなく『生物』だ。その宇宙生物が中央に兵力を集める理由……)

「中央に総大将がいて、それを守ろうとしているのか……?」

「なんと」

 ヤン中将の言葉にタナカ少将は驚きの声を出す。

 ヤン中将は胡座に肘をつきながら推測を述べる。

「中央ではカスペン大佐が大暴れしていて他の場所とは比べものにならないくらいの損害が出ているはずだ。だが、特に守る必要がないんだったら『生物』である宇宙怪獣は中央に兵力を集める必要はない。だが、集めた」

「するとそこには宇宙怪獣にとって守らなければならないものがある、と」

 タナカ少将の言葉にヤン中将は頷く。

「総旗艦エデンに通信を」

「了解、総旗艦エデンに通信繋ぎます」

 副官の言葉の後すぐに通信画面に総指揮官ニワ元帥が現れた。

 ヤン中将は一度敬礼するとすぐに本題に入る。

「総指揮官、提案があります」

『地球連合軍において最高の名将と言われるヤン中将の提案だ。聞こう』

 ヤン中将はニワ元帥の物言いにむず痒くなりながらも言葉を続ける。

「各艦隊から腕利きのモビル・トルーパー部隊を爆撃装備で集めて、中央突破をしましょう」

『ふむ、理由を聞こう』

 ニワ元帥の言葉にヤン中将は先ほどタナカ少将にした説明を行う。それを聞きながらニワ元帥は髭を撫でている。

『ふむ、なるほど。確かに言われてみれば宇宙怪獣の動きは妙だな。今まで観測したことのない動きをしている』

「親、もしくは指揮官としての個体がこの戦いには出てきているのかもしれません」

 ヤン中将の言葉にニワ元帥は少し考え込むが、すぐに考えをまとめたのか口を開く。

『どの道このままいけば物量に押しつぶされる。その提案、受け入れよう。すぐに各艦隊に命令を出そう。選抜されたモビル・トルーパー部隊の集結場所は総旗艦エデンだ』

「了解しました」

 最後に敬礼をするとヤン中将はエデンとの通信を切る。

「ガラハウ中佐に通信を繋いでくれ」

 次に通信画面に現れたのはパイロットスーツを着た黒いロングヘアーを靡かせた女性。

 第十三艦隊においてモビル・トルーパー部隊を指揮するシーダ・ガラハウ中佐だ。

「ガラハウ中佐、頼みがあるんだ」

 ヤン中将の言葉にガラハウ中佐は露骨に顔を顰める。

『なんだい? ヤン中将の頼みってのは大概面倒事だから引き受けたくないんだけどね』

 ガラハウ中佐の言葉に髪をかき混ぜながらヤン中将は口を開く。

「腕利きのモビル・トルーパー部隊を総旗艦エデンに向かわせて欲しい」

 ヤン中将の言葉にガラハウ中佐の瞳に怒りがこもる。

『バカ言ってんじゃないよ! こっちは中隊指揮官クラスにも戦死者が出て大わらわなんだ! そんな余裕なんてないよ!』

「うん、それは僕も理解している。でも、数少ない勝機なんだ」

 ヤン中将はそう言ってから再び同じ説明をガラハウ中佐にも行う。ガラハウ中佐も難しい表情をしながらそれを聞ききった。

『あんたの言いたいことは理解できる。だがね、下手に腕利きの連中を抜いちまうとせっかく奪ったここの宙域も奪い返される可能性がある。それは多数のパイロットの戦死だ』

「君が部下を大事にしていることは僕もよく理解している。だけど、それを踏まえて頼む。パイロットを出してくれ」

 通信画面越しにガラハウ中佐はヤン中将を睨みつける。ヤン中将はそれを正面から受け止めた。

 数瞬のうち、折れたのはガラハウ中佐の方であった。

『わかった。出す。でも出せるのは一個中隊規模が限界だよ』

「二個中隊規模は無理かい?」

『そんな余裕はないよ!』

 ガラハウ中佐はそれだけ言うと通信を切ってしまった。ヤン中将は髪をかき混ぜながら従卒に声をかけた。

「紅茶をお願いするよ。ブランデーをたっぷり入れてね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る