第十五章 地球圏決戦2

「戦艦クリープ撃沈!」

「後衛の艦艇を前に出せ! ここを崩されたら負けるぞ!」

 第十三艦隊第二分艦隊旗艦ベルファストの艦橋でミュラー准将は矢継ぎ早に指示を出す。

 ヤン中将からミュラー准将に出された命令は実にシンプルであった。

『その場から決して引かずに担当宙域を守り抜いて欲しい』

 守り抜け、ではなく守り抜いて欲しい、と言う言葉がヤン中将らしさを表している。

 ミュラー准将はその守勢の巧みさで連合軍に名前を知られた男だ。いつもであれば容易く守り抜くことができるだろう。

 だが、今回はそれが難しい。

(数が多すぎる……!)

 問題は宇宙怪獣の物量であった。ミュラー准将の部下達も奮戦しているが宇宙怪獣の物量に押されつつある。

「ユリシーズから伝達! 『宇宙怪獣からポーン型の出撃を確認』とのことです!」

「モビル・トルーパー部隊の準備は!」

「整っています!」

「ならば順次出撃させろ! 宙域を奪いとれ!」

 ミュラー准将の言葉にオペレーターは第十三艦隊第二分艦隊の各艦に通信を入れている。それを見ながらミュラー准将は軍帽を一回とって握りつぶした。

「数が多すぎる」

 ミュラー准将はこのままじゃ押しつぶされる、と言う呟きは指揮官の責務として心の中にとどめておくのであった。





「坊や! 坊やの機体にはマサムネブレードを搭載しておいた! こいつは大型のブレードで取り扱いが難しい! やれるか?」

「やらなきゃ生き残れないでしょう!」

 整備員の言葉にユウは怒鳴り返す。ユウの言葉に整備員は「もっともだ」と笑った。

 フリューゲル中佐からモビル・トルーパー部隊の出撃が命令され、モビル・トルーパー部隊は急ピッチで最後の換装作業に入っていた。新型のモビル・トルーパー『フンメル』はそれまでの機体性能から大きく上がっているのは当然として、多彩なヴァリエーションの装備を可能にしていた。

 そしてユウの機体にはその近接戦闘の能力を買われて巨大なブレードであるマサムネブレードが装備されていた。

「坊や、生きて帰ってこいよ!」

「坊やと呼ばれる年で死にたくないんで、絶対に生きて帰ってきますよ!」

「その息だ! それじゃあ頑張ってこいよ!」

 整備員はその言葉を最後にコクピットから離れる。ユウはそれと同時にコクピットを閉めてシステムを起動する。一瞬だけコクピット内が暗闇に包まれるが、すぐに全方向モニターが起動して周囲を確認できる。すでに準備ができた機体はカタパルトから宇宙空間に飛び出していた。

 ユウがカメラを向けると、ユウの機体の隣には肩にキャノン、片手にビームライフルを積んだファン曹長の機体、その隣には両肩に三連装ミサイルポッドと対大型宇宙怪獣用のハイパービームバズーカ、そして通常のビームライフルを積んだ所謂エース専用の『スターク装備』になっているキッペンベルク少尉の機体がある。両機もすでに起動されているのは機体のアイカメラには光が灯っていた。

『ファン曹長、フィーシーズ。準備はいいか?』

『いつでも』

「大丈夫です!」

 キッペンベルク少尉の言葉にユウは通信で答える。

『よぉし! ブリッジ! キッペンベルク小隊出られるぞ!』

『了解、三番カタパルトから出撃してください』

 オペレーターの指示に従って機体を三番カタパルトに乗せる。

『キッペンベルク小隊、出撃どうぞ』

『了解、十匹は落としてくるぞ、シャンパンの用意を頼む』

『戦闘中です。水で我慢してください』

 キッペンベルク少尉とオペレーターのやりとりにユウは小さく笑う。

(やっぱりすごい人だな、キッペンベルク少尉)

 この戦いは人類の存亡を賭けた戦いだ。それでもキッペンベルク少尉に悲壮感はない。どこまでもいつも通りだ。

『キッペンベルク少尉、出るぞ』

『ファン曹長、行くぜぇ!』

「カミセ伍長、出撃します!」

 ユウの言葉と同時にカタパルトから機体が射出される。凄まじいGに耐えながらユウはすぐに機体の態勢を整える。

 そして周囲を見渡してキッペンベルク少尉とファン曹長の機体を確認してすぐにフォーメーションを組んだ。

『お! 今回は迷子にならなかったなフィーシーズ!』

「前回の偵察の時も大丈夫でしたよ!」

 ファン曹長の揶揄いの言葉にユウは顔を真っ赤にして怒鳴る。それにファン曹長は悪びれずに「悪い悪い」と言っていた。

『ファン曹長、フィーシーズで遊ぶのは終わりだ。お前さんのキャノンだったらもう射程距離だろう』

『おうおう、随分といっぱいいるこって』

 ファン曹長はそう言いながら射撃用のスコープを覗き込む。

『ほれそこだ!』

 その言葉と同時にファン曹長の機体からキャノンが発射される。宇宙で味方機とドッグファイトをしていた宇宙怪獣はファン曹長のキャノン砲に撃ち抜かれて爆散した。

『お! 今回の初撃墜いただきじゃないですか!』

『残念ながらすでにコアー小隊の連中が荒稼ぎしているよ』

 ファン曹長の言葉にキッペンベルク少尉が答えるとファン曹長は小さく舌打ちした。

「初撃墜すると何かあるんですか?」

『なんだフィーシーズは知らないのか。初撃墜するとライアン大尉から酒一杯奢ってもらえるんだ』

『他人の金で飲む酒ほど美味いものはないな』

 キッペンベルク少尉の言葉にそうかなぁ、と首をかしげるユウ。そんな反応をみてキッペンベルク少尉とファン曹長は笑った。

『お子ちゃまなフィシーズには酒は早かったか?』

『残念ながらママのおっぱいはないからな。食堂のミルクで我慢するんだな』

「少尉! 曹長!」

 ユウが顔を真っ赤にして怒ると二人は悪びれずゲラゲラと笑う。

『さぁて、まだフィーシーズで遊びたいところだが戦闘宙域に入るぞ!』

『了解!』

「あ、はい!」

 キッペンベルク少尉の言葉に慌ててユウは気を引き締める。

(戦闘中だ。気を引き締めろ!)

『出撃前にも言ったが前衛は俺が行く。中はフィシーズ、ケツは曹長だ』

「前衛でしたらマサムネブレードを装備している自分の方がいいのでは?」

『新人のフィーシーズに一番前は任せられんよ。ほれ! 来たぞ!』

 キッペンベルク少尉の言葉にユウはモニターとレーダーを注視する。モニターには迫り来る宇宙怪獣。そしてレーダーには六匹の証である反応が出ていた。

『曹長! キャノンを撃て!』

『牽制ですね! 了解です!』

 阿吽の呼吸でファン曹長はキャノンを放つ。だが六匹の宇宙怪獣は散開してそれを避けた。

『ついてこい!』

 キッペンベルク少尉は六匹のうち大きく逸れた一匹を追い始める。

『ほい終わり』

 キッペンベルク少尉がそう言うと同時にハイパービームバズーカで宇宙怪獣が撃ち抜かれる。

『少尉! 月方面から四匹! さっきの奴らです!』

『最後の一匹はどうした?』

『寂しそうにフヨフヨ飛んでいたんで落としておきましたよ』

 ファン曹長の言葉にユウは驚く。ユウは目の前の宇宙怪獣を見るだけで精一杯だったが、ファン曹長は周囲を見渡して落とせるものを落としておいたのだ。

 ユウの驚きなど気にせずにキッペンベルク少尉は四匹の方へ機体を向ける。ユウも慌ててそれについていった。

 そしてキッペンベルク小隊と宇宙怪獣の距離がある程度詰まったところでそれは起きた。

『なんだと!?』

『うお!?』

「嘘でしょ!?」

 突然ポーン型宇宙怪獣がビーム射撃攻撃をしてきたのだ。これまでポーン型宇宙怪獣は突撃しかしてこなかった。その単純な動きのおかげでモビル・トルーパーは五分で戦えていたのだ。

「しょ、少尉! 宇宙怪獣がビーム攻撃を!」

『うろたえるなフィーシーズ! 連中の母艦クラスだってビーム攻撃をしてくる! それを考えたらポーン型だってビーム攻撃ができるように進化するだろうさ!』

「で、でも!」

『ゴチャゴチャ喚くな! 生き残りたいなら戦え!』

 キッペンベンベルク少尉の言葉にユウの頭が冷える。怒鳴られて冷静になったとも言う。

(そうだ! 宇宙怪獣がビームを撃とうと生き残るには戦うしかないんだ!)

 キッペンベルク小隊と宇宙怪獣四匹は激しいドックファイトを繰り広げる。どちらも落とそうと動き回る。

 そして変化が出る。キッペンベルク少尉が両肩にある三連装ミサイルポッドを発射したのだ。合計六発のミサイルが宇宙怪獣を追いかける。

 キッペンベルク少尉のミサイルは見事に三匹の撃墜に成功した。そして最後の一匹はちょうどユウの機体の正面に来ている。

 ユウの動きは素早かった。マサムネブレードを抜刀すると同時にバーニアを最大にして宇宙怪獣に接近する。

「チェストォォォォ!」

 叫び一閃。ユウが繰り出した一刀は見事に宇宙怪獣を両断した。

『よぉし! よくやったフィーシーズ!』

『いい踏み込みじゃねぇか!』

 キッペンベルク少尉とファン曹長の褒める言葉をユウはシートに座りなおしながら聞く。ユウの息は荒い。

『だがなフィーシーズ! 休んでいるヒマはなさそうだ!』

『お代わりが来たぞ! そぉら! 気張れよフィーシーズ!』

「は、はい!」

 キッペンベルク少尉とファン曹長の言葉にユウは気合いを入れ直すのであった。

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