第十三章 作戦会議

 地球連合軍本拠地ジェネラル・レビル会議室。ここには地球連合軍の各艦隊の指揮官や幕僚達が勢揃いしていた。表情は一様に緊張している。それというのも威力偵察に出ていた第十三艦隊から送られてきた映像と偵察衛星の映像が原因であった。

 宇宙を覆い尽くすような宇宙怪獣の大群。それは人類が未だに直面したことのない大群であった。

 汗を拭く者、水を飲む者。それぞれが緊張を隠そうとしない中で動じていない男がいる。

 アルベルト・フォン・カスペン大佐であった。

 カスペン大佐にとって緊張することでもない。そしてイライラするように口を開いた。

「動じるな! いつもより『少々』数は多いが、宇宙怪獣に違いはない!」

 カスペン大佐の檄によって会議室の空気に張り詰めたものになる。それにカスペン大佐は満足そうに頷いて瞑目した。

(これでよい。人類とて何もしなかったわけではない。この局面も人類一丸となれば突破できよう)

 そうカスペン大佐が考えていると、一人の老人が会議室に入室してくる。

 地球連合軍総帥ニワ元帥である。

 室内にいた軍人全員がニワ元帥に立ち上がって敬礼すると、ニワ元帥も手本のような敬礼を返して自分の席に着く。

 そしてゆっくりと室内にいた全員を見渡してから口を開いた。

「諸君、宇宙怪獣の大侵攻だ」

 そしてニワ元帥が合図をすると副官がコンソールを操作して映像を出す。そこに映っているのは宇宙を埋め尽くす宇宙怪獣の大群であった。

 実際に映像を見た将帥は思わずうめき声を出してしまう。それほどの量であった。

「威力偵察に出たヤン中将と偵察衛星の映像から、この映像は冗談などではないようだ」

「第十三艦隊は?」

「ヤン中将は勝てないと判断し、即座に撤退したそうだ。まぁ、当然であろうな」

 髭を撫でながらニワ元帥は言う。カスペン大佐も内心で頷く。あの大群を前に一個艦隊で戦うなど自殺でしかない。

 そしてニワ元帥は鋭い眼差しで言い放つ。

「この大群を前に策などない。総力戦だ」

 ニワ元帥の言葉に会議室内の空気が変わる。ニワ元帥は言葉を続ける。

「諸君、我々人類は非力だ。それを認めよう。だが、我々には宇宙怪獣にはない結束がある。地球連合軍総力を持って奴らを迎撃し、撃滅してくれようぞ!」

『おぉぉぉぉぉぉぉ!』

 ニワ元帥の檄に室内にいた軍人全員が叫ぶ。

(うむ、流石は元帥。言葉だけで士気を高められた)

 室内には弱気になっている将帥もいた。しかし、ニワ元帥はその弱さを認めた上で総力を挙げて戦おうと言ったのだ。これには弱気になっていた将帥に力が入り、カスペン大佐のように最初から戦う意欲が強い者にはさらにプラスになる。

「宇宙怪獣の襲来は一ヶ月後と予測される。こちらも総力というからには地球連合軍全艦隊が迎撃に出る。それぞれの守備配置はこう」

 ニワ元帥の言葉に副官がコンソールを操作して迎撃戦の布陣が映される。それは地球を守るように全艦隊が配置されていた。

「そして問題なのは新型モビル・トルーパーの配備状況だ。シルヴァーベルヒ技術少将」

「は」

 ニワ元帥の言葉に立ち上がったのは地球連合軍の技術者達の統括者であるシルヴァーベルヒ少将であった。

 シルヴァーベルヒ少将はニワ元帥を見ながら口を開く。

「新型のモビル・トルーパー『フンメル』はジェネラル・レビル、資源衛星サカイだけでなく、生産能力を持つコロニーや地球本星でも二十四時間体制で生産に入りました。これにより二週間後に全艦隊に配備可能な数が揃います。その後、一週間のパイロットの慣熟訓練を持って今回の作戦に入ることが可能です」

「カスペン大佐、新型は一週間で使い物になるような代物かね」

 往々にして技術者と現場の使用者に意見の食い違いは出る。ニワ元帥が気にしたのはそこである。新型での訓練不足によって逆に戦力が下がることがないかの確認だ。

 ニワ元帥の言葉にカスペン大佐は立ち上がって答える。

「問題ありません。新型の開発にはパイロット側のわがままをだいぶ聞いてもらっております。ベテランのパイロットならば三日で、新人でも一週間あれば使いこなすでしょう」

 カスペン大佐の言葉にニワ元帥は満足そうに頷く。それを確認してからカスペン大佐は席に着く。

 そしてシルヴァーベルヒ少将は言葉を続ける。

「それと第六コロニーで建造中の大型艦『アース』が三週間後にロールアウトします。こちらはどうされますか、ニワ元帥」

 シルヴァーベルヒ少将の言葉にニワ元帥は指で机を叩きながら少し考える。だが、すぐに口を開いた。

「地球連合軍総旗艦として私が座乗して出陣する。先ほども言った通り総力戦だ。戦力の出し惜しみは無しにしていきたい」

「ならばそのようにしておきます。ですが元帥、例の兵器はまだ完成度が六割と言ったところです」

 シルヴァーベルヒ少将の言葉にニワ元帥の表情が険しくなる。

(例の兵器だと? 噂になっている超兵器とやらか)

 カスペン大佐は腕を組みながらシルヴァーベルヒ少将の顔をみる。確かにトンデモ兵器を作り出すことで有名な技術部だが、その中ではシルヴァーベルヒの作り出すものは良い者が多い。カスペン大佐が聞いている限りではその超兵器の中心人物はシルヴァーベルヒ少将だ。

(アースリアンのパイロット候補生に専用の訓練をつけているという噂も聞いたが……)

 その超兵器は既存の兵器とは全く違うらしく、パイロットにも専用の訓練を受けさせなければいけないという話は聞いていた。

 ニワ元帥は厳しい表情のまま口を開く。

「完成は間に合わないか?」

「どんなに急いでも七割が限界です」

 少し考えていたニワ元帥であったが、考えをまとめ口を開いた。

「パイロットと共にエデンに搭載しておきたまえ。あれならば七割でも十分な働きをしよう」

「了解です」

 ニワ元帥の言葉にシルヴァーベルヒ少将はニヤリと笑いながら答えた。

 そしてニワ元帥は立ち上がり室内にいた全員に向けて口を開く。

「人類の興廃はこの一戦にある! 諸君らの奮闘を期待する!」

 ニワ元帥の言葉に全員が敬礼を返すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る