第二章 地球対宇宙怪獣史

 その日は唐突に訪れた。

 ノストラダムスの大予言において人類が滅びると言われていた一九九九年七月。突如として宇宙怪獣はアメリカ大陸に飛来し、周辺を滅ぼし始めたのだ。人類も既存の兵器で対抗したが、戦車や戦闘機の機銃やミサイルなどは宇宙怪獣に通用しなかった。

 アメリカの国土の三分の一が滅ぼされた時、時のアメリカ大統領は核攻撃に踏み込むことにした。

 結果的にそれは通用した。アメリカが『核の傘』のために保有していた核ミサイルの九割を使用することでようやくアメリカに現れた宇宙怪獣を倒すことに成功した。

 この後、宇宙怪獣が襲来することはなかったが、偵察をするかのような宇宙怪獣が世界中で発見される。

 ここにおいて国連の意見は二つに割れる。

 片方は地球を脱出し、新天地を求めて逃亡する道。

 もう一つは宇宙怪獣に対して戦い続ける道である。

 結果的に国連は宇宙怪獣との戦いを選択する。これには二つの理由が存在する。

 逃亡しようにも当時の技術では全人類が乗り込める宇宙戦艦は作れていなかったこと。

 もう一つは観測によって宇宙怪獣はすでに火星まで占拠していることが判明したからだ。

 逃げる方法もなく、逃げる先もない。気づかない間に人類は追い詰められていたのだ。

 そして人類は国連を新たなる組織『地球連合軍』を結成する。皮肉にも人類は追い詰められて初めて国や、人種、性別、宗教を問わずに協力することができたのである。

 人類はまず宇宙怪獣に対抗できる武器を作り出した。問題はそれを運用できる兵器が存在しなかったことだ。

 そこで人類は研究資料として残されていた膨大な宇宙怪獣の亡骸を利用することにした。宇宙怪獣の亡骸を利用してできた自立歩行型機動兵器がモビル・トルーパー先行試作型だ。

 この時、地球の外にはすでに宇宙怪獣達が集まって地球侵攻の機会を伺っていた。人類はこれを急襲する形で宇宙に向けて対宇宙怪獣兵装をつけたモビル・トルーパー二十機を打ち上げた。

 戦闘の結果は人類側の圧勝という形になった。

 これに気を良くした人類首脳部はモビル・トルーパーとモビル・トルーパーを搭載する宇宙戦艦の建造を開始する。

 宇宙戦艦の建造は上手くいったが、問題はモビル・トルーパーの大量生産である。モビル・トルーパーの部品の多くは宇宙怪獣の亡骸を利用したものだ。戦闘の時に手に入るとは言え、修理にも使うために新規建造には多く回らなかった。

 しかし、再び人類は革新的な発見をする。

 地球連合軍発足前は技術大国として名馳せていた日本の科学者達が虫と動物の遺伝子を混ぜ合わせたものが宇宙怪獣の遺伝子と近い配列になることを発見。これを物資が豊かな超大国が大量生産したことによってモビル・トルーパーの大量生産を成功させた。

 そして二〇二一年。万全の準備を整えた地球連合軍は地球圏(地球からの重力と月からの重力が釣り合う均衡地域)に存在する宇宙怪獣の討伐の軍を起こす。

 宇宙戦艦十二隻。当時の一隻に搭載できるモビル・トルーパーは一隻に二十機と少数であったが、レビル大将の指揮とサカイ中佐率いるモビル・トルーパー部隊の奮戦で宇宙怪獣を地球圏からの撃退に成功する。

 そしてそのまま人類は月解放作戦に着手する。指揮をとる予定であったレビル大将は準備不足を理由に作戦に反対、しかし第一次月解放作戦は決行される。

 結果的に人類側は大敗した。地球圏海戦で奮戦したサカイ中佐率いるモビル・トルーパー部隊は味方を逃すために殿軍となって全滅。

 準備不足も敗北の理由であったが、それに以上に衝撃だったのが、宇宙怪獣が短い間に進化を果たし、モビル・トルーパーに対応してみせたのだ。

 人類はこの結果を踏まえて長期戦を覚悟した。地球一致の協力によって人類の技術力は凄まじい勢いで進歩しているが、宇宙怪獣側もそれに対応してみせたのだ。

「我々人類は耐えることを知る。今は耐え忍び、子や孫の時代に宇宙怪獣を撃滅しよう」

 こう語ったのは地球連合大統領ガイエス・ゴールデンバウムであった。

 そしてその言葉に地球圏の人々は応えた。

 二〇六四年。満を辞して地球連合軍は第二次月解放作戦を決行する。

 宇宙戦艦二百隻。モビル・トルーパー総数二千機。参加兵士は十万を超えた地球が行える一大作戦であった。総大将にはすでに引退していたが、軍の強い要望でレビル元帥が着任した。レビル元帥も子孫のためにと老体を押して指揮をとった。

 結果的に人類は月を解放することに成功した。

 しかし、受けた傷も大きい。戦艦の八割が撃沈され、モビル・トルーパーの被害も千五百を超えていた。何より人類が大きな衝撃を受けたのは名将レビル元帥の戦死であった。

 しかし、人類は英雄の死を悲しむ余裕はない。火星への偵察に向かった宇宙高速船レグⅢ号の報告によって火星はすでに宇宙怪獣達の巣となっているのが正式に確認されたのである。

 これによって人類は宇宙怪獣との継戦を決断。月自体を巨大な宇宙基地に改造。ここで宇宙戦艦の建造やモビル・トルーパーの生産ラインを作り上げた。

 人類はこの基地の名前を宇宙怪獣との戦いで戦死した英雄の名を冠して『ジェネラル・レビル』と名付けて最前線基地とした。

 それから時は流れて二一二一年。火星圏での遭遇戦は頻発しているが、大きな決戦にはいたっていない。

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