社畜は生意気後輩の弱さを知る
人は脆く弱い。俺の上司であっても、あの生意気後輩でも。だが、その弱さは普段隠れているもので、きっかけがなければ気づけない。人は弱さを隠すからな。いつも笑っている能天気そうなやつも、普通に怖がったり、悩んだりする。むしろ人に迷惑をかけたくないと思い、人に相談せずにいる。結果、他の奴以上に悩む。だが別にそういうやつらがみなに、助けを求めるわけじゃない。迷惑をかけたくない親しい奴に、仲が深い奴に助けてもらいたいと実は思っている。みんながみなそう思っているわけではないだろうが、少なくともこの生意気後輩はそう思っているような気がする。根拠こいつと仲の深いおれの勘だ。
伊月「そういえばこのデート、ストーカーに私をあきらめさせるための作戦でしたね。私忘れてました。」
おいおい、何で被害者が忘れてるんですかね。老化かな。見た目は成長しなくて、頭が老化とかなんの病気だよ。
武田「つーかお前のストーカーさんどこよ。今見てたりすんの。」
伊月「そーですね。多分この時間に外出歩けば、着いてくるんじゃないんですかね。」
武田「じゃあさっきまでの時間は何なんだ。」
伊月「息抜きですかね。先輩こうでもしないと付いてこないですもん。それに女の子とデート出来て先輩もうれしいですよね。」
武田「言っておくが今日楽しかったのは音ゲーであって、お前とのデートではない。」
伊月「ほんとは?」
武田「まあ、そこそこ楽しかったよ。」
伊月「え。何ですか?デレですか、なんかきもいです。」
今のってデレれる流れじゃないの。流れに乗った何でここまで言われなきゃならんのか。やっぱこの世界俺に厳しいわ。
伊月「先輩。ストーカーが先輩を見てどうするのかはわかりません。でも、何があっても守ってくださいね。」
若干震えている彼女の声。おそらくこいつの本音、という奴だろうか。伊月もこう素直に助けを求めると可愛く見えるな。
こうして俺と伊月はゲーセンの外に出た。それでまあ、人通りの少ないところを歩いたわけだ。すると、いかにも怪しい見た目の奴ではなく、普通のイケメンな奴が後をつけていやがった。
武田「なぁ伊月、まさかあのムカつくイケメンがそうなのか。」
伊月「そうなんです。」
犯罪とは無縁そうに見えるタイプか。結構厄介そうなやつだ。普段、周りに明るく接しているだけで上位カーストに属せそうだ。こんな奴にストーキングされている、なんて訴えても信じてくれないどころか、周りに攻撃されるリスクがある。友達に相談しなかったのではなく、できなかったわけか。
武田「あいつ、俺らを見て何もしてこないぞ。草食系なのか?」
伊月「そう…、なんじゃないんですかね。」
辛うじて話せているが、かなりビビっていやがる。そりゃあ、いつストーキング以上のことをしてくるかわからん状況は怖い。警察も、これで即逮捕は無理だろう。即逮捕じゃないと、あのイケメンが何をしでかすかわからん。伊月の悪い噂を広めるかもしれないし、一時的にストーキングをやめてくるかもしれない。そうなると奴が行動を起こしたときだ。俺には会社があるから、こいつにずっとついているのは無理だ。行動を起こすタイミングを予想する必要がある。だが、奴がどのタイミングでやってくるか予測するには、情報が足りない。
武田「今日のところは何もできなさそうだし、帰ろうぜ。お前は今日も泊っていけ。」
伊月「え…、ふぇっ!?」
武田「まあ、あれだ。お前も一人じゃ不安だろうし、トラウマにもなりかねないだろ。だから俺が安心させてやるというか、なんというか。」
我ながらなにいってんだろ、俺。気持ち悪いどころの話じゃないくらい、痛いこと言ってるんだが。絶対伊月に『は?物語の主人公気取りですか?きもいです。』とか言われるんだが。
伊月「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。」
武田「え。」
伊月「『は?物語の主人公気取りですか?きもいです。』って、言われると思いました。」
うん。めっちゃ思った。
伊月「それは心の中でだけいうことにしました。」
武田「だったらそれも言うなよ。思いっきり本人に伝わってるからね。」
伊月「おっと、しまった。思わず本音が。」
武田「それ一番傷つくやつ。何?俺のメンタル削るのそんな楽しい?悪魔、鬼、お前人間じゃねえ。」
伊月「冗談ですよ。普通にうれしかったですし、先輩が少しかっこよく見えました。」
冗談を言えるくらい落ち着いてよかったと、思ったのと同時に、『かっこよく見えました。』という言葉に、ときめいちゃっている俺がいるのは、内緒だ。
そうして俺と伊月は家に戻った。例のストーカーは、特になにもすることもなく、いつの間にかいなくなっていた。これがいつものパターンらしい。って、何でパターン熟知してんだよ。
武田「やつの情報をくれ。出来るだけ性格に関することでだ。」
伊月「いきなりなんですか。早く寝たいんですけど。」
武田「当事者意識持てよ。お前の事なんだぞ。写真で脅すくらい悩んでたんじゃねえのかよ。」
伊月「だって、怖い思いしたあとは早く寝たいんだもん。」
武田「そうか。」
伊月「と言うのは90%嘘で、眠いだけです。」
そう言うと、眠そうにあくびをした。
武田「てか90%とかほぼ嘘じゃねえか。一瞬普通に信じた、俺の純情返せ。」
伊月「先輩私より私の事気にしてるんですか。そんなに私の事が気になるんですか。」
うぜえ。この野郎舐めてんのか。一瞬でもこいつを可愛いと思った俺がバカだった。
武田「あームカつく。さっさと風呂でも入ってこい。」
伊月「先に私を入れるって。まさか、私のだしの取れた風呂の湯をゴクゴク飲むつもりですか!」
武田「おい、待てゴラァ。お前の中の俺はどんだけ変態なんだよ。」
伊月「だって先輩の持ってるエ○漫画、全部ドMロリコン向けのドS小学生のやつじゃないですか。」
武田「おいおいちょっと待て。何で俺のエ○漫画の内容知ってるんですかねえ。」
伊月「いやぁ、実はですねえ、先輩が寝ている間に漁らせてもらって。」
武田「金庫に入れといたはずなんだが!何で開けれるんだよ。」
伊月「先輩の考えるパスワードくらい、大体わかりますよ。それより先輩、何で変態にトラウマがある先輩が、こんな本もっているんですか?」
武田「うるせえ。トラウマ克服してから、なぜかみたい衝動にかられるんだよ。」
伊月「それって、遅れてきた思春期ってやつですかw。かわいいですね先輩ww。」
武田「うるせええええ‼️」
この生意気後輩はやっぱり小悪魔だ。
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