7.トイレット・エレジー
洗面台の蛇口から流れ落ちる水で手を洗う。
十分と思うまでごしごしと強めに擦り洗いをしてから、口に咥えていたハンカチで丁寧に水分を拭き取った。
「………………」
私はその手を天井から降り注ぐ照明の光に透かすように持ち上げて見つめてみた。インドア生活が長いせいか気持ち悪いくらい青白いなと思った。
ここは
(それに比べて……)
私は洗面台に取り付けられた大きな
(なるべく来るのは避けてたんだけどな……)
なぜ避けていたはずのここに私がやってきたのかといえば、
約束の時間を間近に控えて、私は喉から心臓が飛び出していってしまいそうな程緊張していた。
それは期待に、というよりは不安と憂鬱ゆえのものだった。
上京してもう五年も経つけれども、私の東京での交友関係はほぼ
上京してきた当初は友達を作ろうと努力したこともあった。けれども、元々子供が私しかいないド田舎の小集落で生まれ育った私のこと。友達の作り方が解らず繰り返す空回りに、いつしか心折れて諦めていた。
そんな状態の私に降って湧いたこの顔合わせの話。
本来ならとてもありがたい話のはずだ。
黒野さんの
そういう期待も無くはなかった。
だけど、それ以上に不安が心を塞ぐ。憂鬱にため息が漏れる。
私みたいな冴えない女が出て行ったら嫌な顔をされたりしないだろうか。もしも拒絶されたらどうしよう。そうだ、私なんかが気に入ってもらえるはずがないんだ。
考えれば考えるほど、思考は悪い方へ悪い方へと転がっていく。
だけどいつまでもトイレに
最後にちょいちょいとつつくように前髪を直してから、もう一度特大のため息を吐いて私はトイレを後にした。
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