8.美青年と芋娘
「あの……私、十五時から第一編集部の黒野さんとお会いする予定の御陵といいますが、お取り
時間ぎりぎりに
「はい、
鈴を転がしたような
椅子からは壁全面に張り巡らされた大きなガラス窓を通じて昼下がりのオフィスビル街が
「御陵先生」
「!」
ふと、後ろから聞き慣れた声に呼び止められて、私ははっと振り返る。そんなに時間が経っていたようには思えなかったが、そこには既に黒野さんが立っていた。どうやらいつの間にか私は時を忘れていたらしい。
慌てた私は椅子をガシャガシャと言わせてよたよたと
「こ、こんにち……は……」
「こんにちは」
いつもの笑顔で挨拶を返してくれる黒野さん。だけど、私は黒野さんが後ろに連れている男性に目が行って、言葉尻を
黒野さんと一緒にいる男性。一瞬彼が草壁氏かと思いもしたけれども、黒野さんの旧友と言うには彼は若すぎるような気がした。多分、
私は田舎で生まれ育ったので都会で言われる
ひょっとすると新人の編集者なのだろうか。だけど軽やかなジャンパー姿、シルバーのアクセサリーで
では彼は何者だろう。
私が彼の姿を見て戸惑っているのを感じたのだろうか。黒野さんは「ああ」と声に出してから背後の彼に手を伸ばすと、その背を前に押し出すようにした。彼もその手に逆らわず私の前へと進み出てくる。
「!!」
手を伸ばせば触れられそうな位置にまで接近してきた彼に、恥ずかしながら私は思わず中腰になって身構えてしまう。
だって私は本当に子供のいない田舎で育って、同じ年頃の異性と話す機会なんて全く無かったのだ。だから急に初対面の、しかも同年代で都会的な彼にこんなに近づかれても、どうしたらいいのかなんてまるで解らない。いくらか年の離れた黒野さんとだって、まともに話ができるようになるまでかなりかかったのに。
そんな泣きたいような心持ちを抱えながら、私は黒野さんに助けを求めるように視線を送ることしか出来なかった。その視線をどう受け取ったのだろうか。黒野さんは私に優しく微笑みかけながら、隣に立つ彼の肩をぽんと叩いて見せた。
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