6
マックから出ると、図っていたように二対二に分かれた。
「じゃあな。ちゃんと送っていくんだぞ」
「わかってるよ」
桜井くんが手をあげて答えると、ふたりは駅の方角へ。そして私と桜井くんは別方向へ。
腕時計をちらりと見て、私は空を見上げる。意識が視線につられてさばさばと晴れ渡っている空へ向かう。どうしても、日は長く、長くなっていく。
「日がどんどん長くなっていきますね」
「そうだね。放っといても、時間はどんどん流れていくんだよね」
歩きながらそんな会話を交わす。ぽつぽつと、時々思い出したかのように会話を交わす。それでも、歩いているあいだ、沈黙の時間のほうが多かった。
私はそもそも自分からぺちゃくちゃ話すほうじゃない。だからそれはそれでいい。でも、なにより桜井くんの口からは、会話が滞ったときに男子がよく口にするような、例の必死な接ぎ穂が出てこなかった。それでなんとなくわかった。きっと、この人は岡倉くんの手前、常識的に振舞っていただけだったのだ。如才なく、落ち度なく。夢を諦めた代償に、それを応援してくれていた岡倉くんに恥をかかせないためにも。大切な人を悲しませないために。そして、私はその対象には入っていない。
もはや違和感は複雑に絡まりあって判然としないものに姿を変えている。
こういうときどうすればいいのか、よくわからなくなる。
賢しらな客観が訊きにくるのだ。で、おまえは結局なにがしたいのか。それにわからないと答える。すると困ったことに客観は私の隣に重い腰を下ろしていっこう動かない。それから私をじっと見る。じっと見る。
あのとき小人を真っ二つに割っておけばよかった? それでも客観はぴくりともしない。
小人なんか好きにならなければよかった? 客観は静かに首を振る。
答えがほしかった。わかりやすくて強くて、精神年齢が低いと鼻で笑われようと、そんな鼻息なんて意にも介さないほど悠々としてまっすぐな、そんな答えがほしかった。
「じゃあ、ここで」
角に差し掛かると、彼は言った。じゃあ、ここで。さようなら――
一瞬、客観に伺いを立てたくなった。私はどうするべきですか、と訊きたくなった。でもやめた。まず意味がない。客観なんて、いつだって知らんぷりを決めこむものに決まっている。
「あの、桜井先輩」
自分の声がひどく落ち着いていることに驚いた。それから、やっぱりと思った。しょせん、客観はなにも知らない。答えは外になんかなかった。
「先輩のおうちにお邪魔していいですか?」
「え? いや、それはあまりよくないと思うよ。うち、今親がいないし」
すべてを言わせるつもりはなかった。
「話したいことがあるんです。桜井先輩、というか……宙みすずさんに」
彼は驚きを見せなかった。
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