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桜井と岡倉という名前だけですぐにわかった。
三年八組、理数系コース所属。
女子の情報網というのはほんとうに便利なものだと思う。もっともそれは岡倉くんの存在のおかげ、と言ったほうがいい。どうやら女子のあいだでは岡倉がメイン、桜井はそのおまけ、という認識であるらしかった。メインとかおまけとか、ほんとうはどっちが正しいのかとか私にはわからないけど。
そして私はまた嘘をついて親友に頼みこんでいる。
「ね、お願い美穂子。桜井先輩と話してみたいの。なんとかならない?」
「わかったわかった。萌の頼みならなんでも聞いちゃう。わかったからすこし離れてよ」
その言葉を聞いて美穂子の腰にあてがっていた手を離す。
「マック一回ぶんで手を打とう」
「えー、さっき私の頼みならなんでも聞くって言ったじゃん」
「それはそれ、これはこれ。世のなかはなんだってギブアンドテイクだからね。等価交換の原則ってやつよ」
「しっかりしてるなー、美穂子はもう」
そうして私は今月のおこづかいに余裕があるのを確認する、ふりをする。
「でも、あんたってなんでそう珍しいとこ珍しいとこにいくの。ウケでも狙ってるわけ?」
冗談めかしてそう言う美穂子の顔は苦笑が隠しきれていない。
「あ、酷いなーそれ。いくらなんでもウケ狙いでこんなことしないよ」
われながらなかなか最低なことをやっている自覚はある。けれど美穂子はこんなことぐらいで腹を立てたりしないと信じているし、なにより私は後悔することをすでにやめている。というよりも、後悔という言葉で自分を美化するのをやめている。
もうとっくの昔に、ずっと。
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