Episode4
それから授業が続き、気づけば放課後。図書室で昨日と同じように二人きりになった。明依は必死に新聞や本をあさり、姉の事件の手がかりを探しつつ、趣味で読書に勤しんでいる。溯夜は昨日とは違って、明依の手伝いである、資料探しをしている。
「溯夜さん、何か良い情報ありました?」
「いや、全然。どうでもいい魚の種類の資料が出てきた」と溯夜は呆れて言う。
「何処探してるんですか。」と思わず明依はツッコミを入れた。
「さっきの咲花。とっても人当たり良さそうでしょう。」と明依は続けて、
「スイーツ好きな私の親友なの。」と明依は自慢した。
とはいえ、溯夜は「へーそうなんだ」と興味なさそうに言った。
溯夜はいっときを境に人に興味を示さなくなった。孤独は好きでも嫌いでもないが、環境は常に独りになっていた。明依が自ら声をかけなければ、ずっとこのままだっただろう。今でも明依の事は過去の事件を掘り返しやがってとしか思っていない。男女として意識するのはよっぽどの事があっても永遠にない。それだけはハッキリしている。
明依は新聞を見ながら、「姉についてですが自殺ではなく、殺人事件とか偶然が重なって起きた事故とか病気の可能性はなかったんですか?ここにも高2少女何者かに突き落とされたか-。と書いてありますよ。」と溯夜に向かって聞いた。
溯夜は「同じ学校の高校の同級生とか色々調べたが、殺人ではなかった。他に殺すような動機を持ってる人はいない。ただ、君の姉さん、別の生徒をいじめていた主犯者だったらしいんだ。もしかしたら、それの復讐で殺された説も筋が通るけど、その生徒は特定は出来ているけど、現在失踪中だから捜査のしようがない。」と溯夜は淡々と説明した。
「あの、お姉さんのことは覚えてないの?いじめた事について何か知らない?」と溯夜が聞くと、明依は「その、当時は仲が悪くて、私とは全く違う性格してるから。
「ピース・メイク・マジックの効果か」と溯夜は呟いた。
溯夜の言葉に明依は「ピース・メイク・マジック?」と疑問に思って反応した。
「おそらく、海憂さんが掛けた呪い(いわば能力のようなもの)で世界を平和にするために様々な現象を発生させる。通称PMM又はPM。」
「昨日言ってた呪いの総称なんですね。覚えておきます。」
「溯夜さんって何だか辞書みたいな喋り方しますよね。」
「そうかな?」と自覚ないかのように言った。
「明依さんの
「さっきの話に戻るけど、事故路線は周りに車とか走ってなかったし、遺体の状況からして、
明依は「ただ知りたいだけなんです。死んだ理由だけでも……母も絶対、生きている間に解明してほしいと思ってるはずです。私は当時、仲が悪かったですけど、今は姉の印象もいなくなった今だからこそ何かしら変わっています。だからお願いします」と今にも泣きそうな顔で溯夜に訴えた。
「あんまり俺も、当事者家族である君にペラペラ詳細の内容、教えてはいけないんだよね。秘匿義務っていうか……」と残念がった。
心の病気だとすると代表的な
「いろんな病気がこんなにたくさん……」
独り言だが明依に聞こえる声の音量だった。
そこには様々な病気が詳しく掲載されていた。
「いじめる側が病むこともあるんだ……へぇ……。」と溯夜が他人事のように言うと、
「人によってはそうですね。いじめている人達が逆にいじめられていると錯覚しているケースやそのグループ内で仲間割れしてしまうケース、他にも社会的責任で制裁を加えられたケースなどは病むんじゃないでしょうか?」と明依は溯夜の独り言にまで答えた。
「よくもまぁ……単細胞が珍しく難解な考えをしていますね」と嫌みのように言ってきた。
「単細胞?そう思っているのは溯夜さんだけでしょ」と明依も負けじと言い返した。
明依の気持ちなどお構い無しに「心理学の本、読むといいよ。すごい良い事書いてあるし、ほらほら、」と溯夜が言っても明依は「私は楽しい小説や漫画とか、さっき話してた咲花が好きなスイーツの雑誌の方が好きなんですよ!単純に親しみやすくて。ごめんなさいね、子供っぽくて!!」と怒り口調で言って、その後は溯夜が話しかけても口を利いてくれなくなった。
「……」
これが明依と溯夜の初めての喧嘩となった。明依は親友とたまに口喧嘩したりするが、溯夜にとっては人と喧嘩したことがないと言っても過言ではないので戸惑ってずっと黙ってしまった。
(舞浜さんには言ってないけど言いたいこと沢山あるんだけどなぁ……舞浜さんの姉は気絶させられた上で海に流された説、船で海に沈められた説も考えられる。こちらの人間はこれ以上、死の真相を広げたくないから丸く収める為に自殺として片づけて、終わらせたいだけだったりするんだよ。これを舞浜さんに言ったらどれだけショックを受けるだろうか。考えられない俺はバカだ……)
落ち込みながら、それでも着実に明依のことも考えられるようになっていた。明依の姉の死についても以前より積極的に真相を追求するようになっていった。そう、溯夜は明依と出会う前と比べて少し変わったのである。
明依は無言でそのまま本だけ借りて、図書室を後にしたが溯夜には言い過ぎちゃったけど、資料を見ている彼を見て、再度、姉の死について一緒に調べたいと思っていた。明依は自分でも気づいてはいるが、少しだけ溯夜の事を恋愛対象として意識している。
*************
とある日の休み時間。今日も咲花と水音と明依の三人でおしゃべりしていた。図書室での喧嘩があって以来、相変わらず溯夜とは一言も喋っていない。最初に会った日から、明依から話しかけることしかなかった。だから、喧嘩は二人の気持ちが落ちついてからで長引くことになるだろう。
「でさー明依と溯夜くん、すごく仲
「分かる。だよねー」
「そんなことないよ。だって……。今のはなんでもないよ!なんでもないから。咲花はいっつも“男子といる”ってだけで、そういうこと言ってくるから困っちゃうわ。はぁ」
「えーなんでぇーちょっとくらい、いいじゃん。」
「いつもと口調違うけど、大丈夫?」と水音が心配そうな顔で聞いてきた。
「本当だー。ひょっとして、溯夜くんと何かあった?」
明依は「何にもないよ。別に。」と怒り口調で言った。「あと、勝手な想像でキュンとくるとか変なこと言わないで!!」
明依は今度こそ本気でキレた。
「ごめん。ごめんって……」
「難しいよね……そういう年頃なんだって。」
「水音も心配しなくていいから」
そう言って明依は席から離れた。その後も咲花と水音の会話は繰り広げられた。
「大丈夫かな?明依。」
「大丈夫でしょ。明依なら。すぐ元通りになるって。」
「それよりさー聞いてよ。一昨日、飴細工のピエスモンテで桜作れるようになったんだよ。すごくない?」と水音に自慢した。
「すご!もうパティシエールになっちゃえば?」
「勿論そのつもりでいる」笑顔で咲花は頷いた。
その頃、明依は暗い顔して教科書とノートの準備をしていた。
(失礼でカチンとくる発言をしたのは溯夜さんだけど、私も言い過ぎちゃった……青臭いな、自分。早く謝らないと。)と心の中で内省していた。
放課後、図書室に行っても溯夜はいなかった。部活があるのか先に帰っちゃってるのかなと明依は思った。
しんと静まりかえる下駄箱付近。生徒の人通りは少なく、外から
「舞浜さん、この間は
溯夜にしては真面目な謝罪であった。
しかも、溯夜の方から謝りにくるなんて、予想も付かず、明依は
「もうしょうがないなぁー許してあげる」
「というか、何でそんなにかしこまっちゃってるの?ウケるんだけど。」と明依は目を点にさせながら言った。
確かに溯夜には友達や彼女がいない為、喧嘩の経験が浅かった。家族とも喧嘩したり、反抗したりといったことがなかった。だから、おどおどしていて当然である。
「それにしても溯夜さんから謝りにくるなんて意外だね」と明依が言う。
「人を怒らせるのはしょっちゅうなんだけど舞浜さんずっと黙ってたし、もうこのまま二人で君の姉さんの件を通して関われなくなっちゃうのかと思ったんだ」
「そんなことないよ」と諭すように慰めた。
「ちゃんと謝ったほうが許してもらえるっていうしな?」
「やっぱ一生許さない」
「えぇ……」と溯夜は悲しい顔をした。
「なんて嘘。ほら、帰るよ」と明依は溯夜の手を引いて、校舎玄関の方へ駆け出した。二人は手を繋いでまた一緒に帰った。夕焼け色に染まる空、梅雨も終わり夏になった。そうして、半袖を着た男女は夏へと溶け込んでいった。
「そういえばさ、君の家に重大な証拠があるって言ってたよね。今度、家行っていい?」ふいに溯夜が話しかけてきた。
「いいですよ。でも、誤解されるんじゃ……」と明依は戸惑いつつ言った。
「誤解?怪しまれるとでも言いたいの?」
(ほんと溯夜さんは疎いなぁ)と明依は思った。
「カレカノにだよ。家行くとかクラス違う上に男女だったら、よっぽどのことが無ければ無いし。」と明依は言う。
「あ、そっか。」ようやく溯夜は気づいたようだった。
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