助けに行くから!


 九十九里溯夜はバスケ部員である。もう図書室に行く口実が無くなってしまったから、無意味な埃取りくらいしかない。


口実が無くなってしまってからも、部活を休んでばかりいた。


そんなある日のこと。昼休み。昼ごはんを食べ終わって、溯夜が教室を出ると、そこには同じバスケ部員の川口かわぐち山池やまいけ佐藤さとうがいた。


何も挨拶をせずに通りすぎると、


「おい、聞いてんのか?」


「シカトすんのか」


「今日も部活サボる気かよ」


と3人に言われた。


溯夜は「今日は仕事があるから」と言い返した。


と、その時「てめぇーナメてんのか?ぁあ?」と制服のえり首をつかまれた。


「知ってんだよ、どうせ図書室で捜査でもしてるんだろ?そんな暇があるなら練習来いよ」と川口に言われた。


「だって川口のほうが上手いじゃん」と言ったその時、ガッとお腹と下腹部辺りを蹴られた。


「そういう問題じゃねーだろーが、ボケ!」


バスケ部員の川口と山池と佐藤はバスケットボールを手に持っている。


そのボールを集団で当ててくるのかと溯夜は瞬時に思った。が、逃げることが出来なかった。


次々とバスケットボールを当ててくる。溯夜に抵抗する気力は無い。


(痛い……)


さっき食べていた物が口から出そうだ。


ずっと幽霊部員だった溯夜も悪い。けれど、こうやって集団で追いこむのも卑怯ではないのか。


そして、バスケ部の部長である綾ノあやのまちもやってきた。


「グワッ」

ついには溯夜の口から血が出てきた。殴られたのだ。しかも拳で。


孤独だから誰も友達がいない。助けてくれる人なんていない。PMMの効果が無くなった今ではいじめや虐待、差別、戦争などが再び世界中で巻き起こっている。


げんに、溯夜は同じ部員達に集団暴行を受けている。


ボールが次々と飛んでくる。一点を集中的に溯夜に当ててくる。廊下を歩いている人もいるが、止めることもなく、ただただ溯夜の傷が多く、深くなっているのを遠目で見たり、はたまた廊下を通りすぎておしまいだ。


そんな中、一人の女子生徒が立ち止まった。そこにはなんと舞浜明依らしき姿があった。まだ、付き合い始める前のことだ。明依にはまだ告白を受けていない。


(舞浜さん!)心の中でそう叫ぶ。


「ちょっと何やってるんですか!?」焦って人の中をかき分ける。


「溯夜さん!」


「何?九十九里の彼女?」佐藤はあり得なさそうな顔をして、言った。


「まさか、九十九里に彼女がいたとかウケるんですけど。」山池も笑いながらそう言う。


他の男子部員達も腹を抱えて笑っていた。


「彼女じゃないです!ただの捜査仲間です、そんなことはどうでもいいとして、溯夜さんこんなに傷だらけじゃないですか?なんでこんな酷いことするんですか?」と目で訴えても聞く耳を持ってはくれない。


「おい、てめぇーも殴られたいのか?」と言われたが明依は手にしていた謎の木の棒で横をバットのように打ち、ひるませた。


そして沢山のバスケ部員を、明依が殴られたりもしたが、叩いたり、蹴ったりして見事に全員をやっつけた。


「溯夜さん、危ないから行きましょう!」と腕を引き、走り去ろうとした明依に、

「ちょっと待てよ、まだ話は終わってねーんだよ」と部長の綾ノ町に止められた。


「なんですか?」と明依が聞くと、

「もう暴力はふるわないから」と前置きされ、「こいつ、バスケサボってたんだよ。しかも重要な大会にだけ出て、それで優秀って腹立たないか?」と言われた。


(やっぱり……)と明依は思った。


千星ちゃんが言ってたのを思い出した。


「それは悪かったです。私、溯夜さんと私の姉が自殺した件で捜査をしてたんです。私も溯夜さんに練習にも出たほうがいいって言ったんですけど……嫌だって断られてそれで。成績が落ちたりしてるなら溯夜さんが悪いです。私も捜査の依頼人として毎日、彼とは図書室で会ってました。これは私にも責任があります。その時、部活に無理やりにでも連れていけば、こんな事にはなってなかったはずです、ごめんなさい!でも、彼のこういう姿は見たくないっ!!やめて下さい!」


明依の顔からは大粒の涙が流れている。


受け入れてくれるかどうか少しの期待をしていた。


溯夜は明依に守られて少し彼女がカッコよく見えていた。そんな明依にれていたらすぐさま、明依に促された。


「溯夜さんも謝って、皆に」


そう明依が言うと、「部活サボっててすみませんでした。もう、捜査は終わって、一頻しきりついたので練習にも出ます。もうサボったりはしません。許して下さい」と溯夜は謝った。


それに対し、他の部員達も、部長である綾ノ町も頷き、「分かった。ちゃんと来るんだよな、こんなに傷を負わせて悪かった」と謝ってくれた。


「ごめんな」と口々に言われる。


どうやら、許してくれたようだ。

やっぱり皆、良い人達だ。サボっていた溯夜にも非がある。


これからは試合にも練習にも出るつもりでいる。


   *************


この悲しい騒動の後、溯夜の体からは血が止まらず、あざだらけになっていた。


明依は泣いてばかりで、保健室の丸椅子に座りながらハンカチで目をおおっていた。


「舞浜さん、大丈夫?」と傷だらけの溯夜に心配される。


「私は泣いてたっていいんです。それより、自分の心配して下さい」


「溯夜さん、少しは痛み、おさまりましたか?」


「うん、ありがと。舞浜さん」


何故か、溯夜はドキドキしていた。ガーゼを額に被せられた。さっき殴られたっぺたも触られる。キスされそうで、さらに欲求がピークに達する。が、さすがにそれ以上はしない。


なにせ、明依は傷の手当てをしてくれているだけだから。


頬っぺたには薬を塗られ、絆創膏ばんそうこうを貼られた。


足とか腕とかも痣やり傷だらけで、お腹には青痣ができていた。


ひとつ言えることは、彼女に上半身裸を見られるのが恥ずかしいことくらいだ。


溯夜は筋肉が無い。ひょろひょろなのだ。別に明依はそんなところを気にしてはいないだろうが。


「触りますよ。ちょっと我慢しててね」と明依は先に告げた。


くすぐったい。でも、我慢しないと……。


「ひゃんっ!」変な声を出してしまった。


「あ、ごめんね」


完全に呆れられている。冷たく、ジト目で見つめられる。なお、恥ずかしい。


「今のは完全に忘れて。無しだから」


「はーい」棒読みだ。


はたから見ていると二人は付き合いたてのカップルのように見える。


しかも、なぜ保健室の先生に手当てさせられないのだろうか。それも不思議だ。明依に手当てをされて、暴行からも助けられて、男としてのプライドがズタズタに破壊されてしまっている。俺はなんてバカなことをしているのだろう。こんなことになるくらいならバスケ、全部参加して、皆勤賞でも狙っておけばよかった。


あー死にたい。


そんなふうに後悔して、内省する溯夜であった。


これで、足も腕も、顔もお腹も全ての傷の処理が終わった。


昼休みは色々なことがあったけど、良いことも悪いこともあったなぁ……。


そうして、昼休みが終わったのだった。


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