第5章 消えない傷痕、そして解決。
Episode8
ゆっくりと起きる。制服姿の彼は、顔を洗って、学校へ行く準備をする。いつもそうだ。年中制服の彼はTシャツや部活着等は持っているものの、可能な限り、制服で居続ける。
「
「いきなり、大声出して飛びついてくるなよ」
「飛びつくなとは何たる無礼な。朝、何度も起こしたのだぞ。」
(さっきからガサガサと人の声や物音がしたのはお前だったのか)と呆れまじれに思う。
「つくも。お兄ちゃんはもっと寝たいんだ。分かるか、捜査で色々、大変なんだ。あと、早く学校行かないと遅刻する」とつくもに訴える。
「もう、そうやって
「悪いが、今はその話をしている余裕はない。」
「
「朝飯、作ってくれてありがとう。でも何だよ、“戦”って。」と溯夜は笑いながら言う。
溯夜を見届けるかのようにおたまを持ちながら台所へと過ぎ去っていくのだった。
*************
学校に着いた。溯夜は教室中を見回した。あの時、手を重ね合わせた時、確かに温もりを感じた。(もっと触れていたかった。手を繋ぎたかった)この気持ちは何だろうと溯夜は思う。テンとは違って、大事にしたくなるこの気持ち。でも、教室中どこを見渡しても彼女はいない。そして、溯夜に話しかけてくれる人もいない。何だろう、この孤独感。以前は感じなかったのに。なぜだか泣きたくなった。
放課後、図書室の扉を開けても誰もいなかった。(やっぱり人気ないんだな)と溯夜は思った。最近はネットで小説や漫画が読めてしまうため、圧倒的にここに来る人は少ない。居ても、溯夜と明依くらいだ。
溯夜はもうバスケ辞めて、図書委員、図書部(?)にでも入ろうかと思っていた。だって、そのほうが舞浜さんと多く接する事ができるから。毎日、ここで会っているのに……。
いつものように意味無い埃取りをしていると、明依がいつもの溯夜より少し遅い時間にやってきた。
「この間は捜査を一緒にしてくれたこともそうですし、海に行こうって俺が言ったら快くOKしてくれたこと、海に一緒に行ってくれたこと含め、ありがとうございました。楽しかったです、良い想い出になりました。」
「こちらこそ、ありがとう!楽しかったよ、また行こうね」と明依は笑顔で言った。
「またって……もし今度、一緒にどこか行ったら、どうなっちゃうのか分かんない……」と溯夜はぎこちない様子で呟いた。
「なんでですか?」と明依はあからさまに意味不明だという態度を示した。
「何でもないです。でも、俺、こうやって舞浜さんと話せて、毎日のように会えて嬉しいです」
「私もです。溯夜さんといると笑っちゃいます。。」
「え、そんな!?笑える?そうかな」
静寂な図書室は二人の会話でそこがまるで特別な場所のように感じられた。二人が男女だから――同性でも学年が違っても誰かと過ごす時間は青春なのだと思い知らされる。
「でも、姉が麻薬やってたなんて、初めて知りました」明依は、冷静に新鮮かのようにそう口にした。
「まあ、能力使わない限り、よほどの事がないと分からないからな」
「でも、こうして君の姉さんは麻薬による間接的殺人ってことがハッキリ証明されたよ。協力してくれてありがとな」と溯夜は礼を言った。
「いえいえ、私は何もしていません。むしろ、矢岬さんにお礼言ってあげて下さい」
「もう、言ったよ」当然のように言う。
彼女のそういうでしゃばらない所が好きだ。何か自分が成し遂げたとしても謙遜している姿。溯夜には彼女が輝いて見えた。だけれど、それを明依に伝える勇気はない。
そうして一日は過ぎてゆく。
「そういえば、世界を元通りにしてもいいって言ってたよね……」
「言ったけど、それって私が決めちゃっていいものなんですか?」明依は不安な目をして言った。
「いや、そういうわけではないけど。でも、舞浜さんが海憂さんに一番関係してるから。舞浜さんがいいって言ったら、その流れでいこうと思ってる」溯夜は
「じゃあ、人集めるから」
溯夜は埃を落としっぱなしで、帰る支度をした。
明依は今日は借りる本が無かったのか、溯夜に続く感じで準備をした。
「人って能力者の事ですか?」ふいに聞いてみた。
「そう。俺と矢岬を入れて7人。全員男だから」と溯夜は返す。
「はぁ。」明依は呆気に取られていた。
「世界を元通りにする事は平行世界の2つの世界を一つにするって意味だから。舞浜さんは危ないからついてこないで欲しい」
「え、嫌です。そんな……何で?」明依は明らかに私だけなんで?っていう仕草をした。
「嫌でも舞浜さんを危険な目に遭わせたくない。俺は舞浜さんを守りたい」溯夜のその思いは揺るぎない精神だった。
「でも私、溯夜さんと一緒に死ねるならいいです」
思いがけない言葉に溯夜は驚いた。
「は?って嘘でしょ。」
「嘘じゃないです。私、絶対ついていきます」
いつまでもこの話は永遠に続くと踏んだのか、溯夜はもう、どうとでもなれと投げ捨てたのだった。
「もうそろそろ帰ろうか」
「そうだね」
そう言って図書室を後にする。二人はまた一緒に帰るつもりだ。
「そう言えば、溯夜さんって謎ですよね?」
「何が?」
「今度、家行っていいですか?私の家にも来てもらったので……」と明依は控えめに聞いた。
「え、何でそうなる?舞浜さんの家に行ったのは捜査の為で俺の家に行くのは完全にプライベートになるのでご勘弁下さい」
溯夜はダメ押しした。
「ああ、そう」明依は傷ついてはなさそうだった。だけど、残念そうな顔をしている。
「溯夜さんって歩いてその後バス帰りでしたよね?」
「そうだけど。それがどうかした?」と溯夜は聞いた。
「それって何分くらいなんですか?歩くのもいれて」と明依は言った。
「あー35分くらいかな」
「そうなんだ」
二人の足音が乱れながらもコツコツという音が鳴っている。溯夜がちょっと歩くのが早めで、それに早足で追いつこうと明依は歩幅を合わせる。
「溯夜さんの家族の事とか知りたいです」
「……」溯夜は黙ってしまった。言ってはいけない言葉だったらしい。
しばらくは無言が続いた。
「どうしたの?何か悪いこと言った?私。」明依は心配そうにそう告げた。
「ううん。気にしないで。俺の家族のことも
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