第1章 溯夜との出会い
Episode1
廊下をスタスタと歩く。急いで
図書室に向かう。朝6時。
学校に着くにはまだ早い頃だ。
教室に入ってもやっぱり人の姿は無かった。
つい最近、素敵な本を見つけた。
一人の木こりのお話。
とても感動するファンタジーなお話だった。
最後まで読んだけどこれほどの長い
本は久しぶりだった。
今日、返さなきゃいけない。
返すのがもったいないくらいだった。ずっと手にしていたかった。
それでも返さないと。
「この本返します」
図書委員の人に、本を渡す。
「はい」
まだこの本の余韻に浸っていたい。だからなのか、手を離してしまった事を、後悔する。
その時だった。自分の目に入ったのはこの本よりも遥かに面白そうなものだった。
「ついでにこの本借ります」
「了解、楽しんで読んでね」
「うん」
新たな興奮、楽しみを味わえるとわかったからか先ほどの後悔は無くなった。
今日は2冊借りた。
楽しみだなぁ……と思いながら教室に戻った。
教室に着く頃には大半の生徒が居て友達とおしゃべりしてる子が多かった。
賑やかな教室はいつもの風景。
そこに私もいる。
「おはよう」と
「おはよう、
「おはよう」と私は元気よく挨拶した。
「どこ行ってたの?」と咲花に聞かれた。
「ちょっとね、用事。」
「用事って?」
「トイレだよ」
「そっか、ごめんね。疑っちゃって。心配してたんだよ」
1時間目は数学。その次が理科。
数学は予習してきたから簡単だった。
今日は実験で、水溶液に物質を混ぜて色を確かめるやつ。
好きな授業だから明依は嬉しそうな笑みを浮かべている。
あれ?その次はなんだっけ?忘れちゃった。
必要な持ち物持ってきたかな、さっきまでの表情は一変し、明依はそわそわしだした。
キーンコーン カーンコーン
キーンコーン カーンコーン
3時間目は体育だった。あいにく、体操着を忘れたので隣の席の子に貸してもらった。
体育は苦手だからあっという間に終わってほしい……
*************
風のように1日が過ぎた。放課後。
いつも通り図書室の前を通りすぎると人の気配がした。
“あれ……誰かいるのかな”
そう思ったけど振り返ってみても誰もいなかった。
ということは図書室にいるのは私ひとり。
静かだし、楽しみにしていた本を読もうとしていたら、
ガタッ、ガタガタ、ドンッ
どこからか物音がした。
振り返ってみると知らない男子生徒が倒れていた。
「大丈夫ですか?」そう声を掛けると予想外の返事が返ってきた。
「誰?というか貴女のような
「は?いやいや、物凄い音がしたし、あなたがその脚立から落ちたような気がしたから私は心配して……絶対バランス崩して落っこちましたよね?あと、ブサイクじゃないし!!」
「あー心配して損した」と言いながらカバンを肩にかける。
図書室から出ようと思ったけど、折角だから聞いておこう。
「あの、姉の
ちょっと強気になってしまった。
まあ、いっか。この人だし。
「もしかして
「そうです。あ、自己紹介まだだったね。」
「私、妹の
「はぁ~どうでもいい。それより死んだよね、そいつ。なんで俺にそんなこと聞くの?」
「えっと、普通の自殺じゃなかったんです。死因について調べてて一人じゃ何も解決出来なかったから。
だから、少しでも力になってほしいんです、よろしくお願いします。」
「死因は溺死です。海憂さんは17歳の夏に海に入って溺れました。
あと、助手にはなれない。もう解決したでしょ?これでおしまい」そう言って見知らぬ少年は立ち去った。
「待って下さい。なんでそんなに姉に詳しいのですか?」と聞くと
「詳しくないし、有名な話だよ。平和で残酷な呪いかけた犯人だろう?」と訳の分からないことを言ってきた。
「呪い?それは何なんですか?」
「今は争いの無い世界で災害すらここ最近起こってないのは気づいてないの?」
「そういえば心当たりあるかも。言われるまで不思議に思わなかった。
でも、良くない?争いないし、平和じゃん。何も悪事ないのに何で呪いって言うの?」
「永遠にこのままだろうし、世界を
「えぇーーっ」
信じられない言葉に明依は思わず悲鳴をあげた。
「で、でも助かる方法はあるよね、、
このままだと死んじゃう……私はじゃあ何をしたらいいんですか!?」とキツくあたった。
明依の目からポロリと涙が
手にしていたペットボトルの水を飲み
ほすとその人はこう言った。
「君は何もしなくていい。俺は不思議な
能力を持ってるからそれでなんとかする。
なんとかなんなくてもいずれ死ぬんだから……」
私は「そういう問題じゃないです!」と
反論した。
「そんなに言うんだったら君が阻止したら
いいんじゃない?凄い波がくるから
多分君の力じゃ抑えられないと思うけど。
どちらにせよ、死ぬことに変わりないね。
ただ、阻止できたら皆から称えられるね。
死んでからだから嬉しくもないけど。」
「あのさ、からかうの大概にしてくれない?
無理に決まってるでしょっ。」
「そっか、諦めが早いな。」
「諦めてませんが、あなたが阻止するなら
私は全力で応援します。
あと、今から対策しておかなくていいんですか?
ニュースになっていい内容だと思うのですが。
早めに町の人たちに知らせてあげなきゃ……」と私は言う。
「まあ、それもそうだね」
散らかった本を片づけている少年を見て
ふと思った。
“そういえば名前知らないじゃん”
「そういえばお名前は?」
「へ?何で教えなきゃいけないの?」
「あー何だっけ?名前?」
「普通、自分の名前忘れる!?」
驚いてしまった。この年で自分の名前忘れる
人がいるなんて。
「隣の隣のクラスに所属している
「えっともう一度お願いします。
つごもりさくあさん?」
「隣の隣のクラス?3-Cって言ってよ」
あまりの自己紹介の下手さに呆れてしまった。
「もういいや、何と呼んでも返事しますよ」
「分かりました、隣のキミ。」
「悲しいですね。まあいいでしょう」
「そういう
いつ誤解されても知りませんからね。明依
さんのことですから俺には関係ないですけど。」
「紛らわしい?何か変なこと言いました?」
「鈍感すぎる……」
——そうして明依と溯夜の青春謎解きライフが始まった
「ああああああー」
「ど、どうしたんですか?」
ようやく本が片付いたというのに
まだ何かあるようだ。
「テンがああぁぁーっ!!」といきなり溯夜が
泣き叫び出した。
「テン?」
「テンってあのキツネに似た天然記念物
ですよね?」と明依が言うと、
「俺が愛してやまない家で飼っている
テンのことだ。俺が宿題やり終えた頃には
「翌日も
あいつの姿は見ていない……
あの日から、ずっと、ずっと。」
そう言いつつも彼の目からは涙が零れた。
「隣のキミってこんなにも簡単に泣くんですね。」
「会った時から滅多に泣かないキャラだと
思ってました。」
「泣かないキャラ?」
そう言うと、
「ほら、いるじゃん?
アニメとかでみんなを助けたりするヒーロー的存在って泣いてる所、人に見せないじゃん。」
「確かに」
「でも俺、ヒーローじゃないし、あれは演技だけど産まれた時に泣けないと息してない事になって、それはそれで大変なんだよ。」
溯夜は涼しい顔でさらりと言う。
「え、演技?ちっともそんな風には見えなかったけど……それにヒーローじゃないにしても隣のキミ、皆を巨大な渦から助けてくれるって言ってたじゃないですかー。」
「世界救うとは言ってもまだ渦せきとめた
わけでもないし。まあとにかく見つけ次第、俺に知らせて」
「その子を見つけたら隣のキミに伝えればいいんですよね。分かりました。」
「そのテン探しに協力してくれますか?」
「姉の事件を解明してくれるなら、ぜひ!」
「まだ事件と決まったわけじゃない。」
「……。」
「事件かもしれないですよ!今は事件の確率の方が高いです!証拠も見つかりましたし……。」
「証拠?見せてくれないか?」と溯夜が要求すると、明依は「私の家にあります、今度来て下さい」と言った。
*************
日が暮れて、下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。
「やっべ、早く帰らないと……」
廊下を走る生徒の声が聞こえた。
「竹本君の音楽LIVE確か今日の6時からだったよね。」部活終わりの女子生徒だろうか。
何人かで喋っている声が聞こえた。
(もうそんな時間?)と明依が思うと、
「あーね。早くおうち帰ってテレビ見ないとね。うちは録画してあるドラマ見たい。昨日、見てる途中で寝ちゃって、後の内容さっぱりで……」
「楽しみー」と別の女子生徒も口を揃えて言った。
溯夜は今度こそカバンを
その時、人の気配を感じて後ろを振り返ると「一緒に帰ろう!」と明依は誘ってきた。
溯夜は「一人でも二人でも帰りに楽しい事なんてないよ」と告げると、
「だって一人じゃ寂しいし、友達は部活終わって先に帰っちゃったし……」と悲しそうな表情で呟いた。
*************
帰り道、何も話すことが無かった為、
葉っぱが生い茂る頃で、風に揺れる木が緑色に染まっている。
ザアァ……という
ふいに明依が、
「テンちゃん?さんの色とかって覚えていますか?」と聞いた。
すると、「白だよ。」と溯夜は即答した。
「あーあと“テンちゃん”か“テンさん”の
どちらかにしてくれない?」と一瞬、惑わされそうになったと言わんばかりに明依に責めるように言った。
「ああ、ごめんごめん。」と明依が謝るついでに「テン様って名前(愛称)とかあったら嬉しいんだけど。」と言い、
「まさか、様付けするとは思わなかった。敬いまくってるよね、それ。俺でもそうは呼ばないって。」と笑いながら溯夜は言った。
「で、名前の事だけど。名前はないから舞浜さんが好きに付けて」と言われた。
「結構、愛してらっしゃるように私の目には映ったのにその子の名前はまだ決めてないの?」と不安そうに明依は聞いた。
「そりゃ、勿論、愛しのテンだよ。でもだからこそ付けてはいけないような気がしてねぇ……。」と溯夜は言う。
「そうなんですね。何となく分かる気がする。
あとそういえば、さっき言ってたけど天然記念物をペットとして飼っていいの?」と明依。
すると溯夜は「俺様が許可したからね」と言った。
「勝手すぎるでしょ!」と明依がツッコんでも動じることはなかった。
それに加え、
「色は白だから忘れないで」と溯夜が
再度言った。
「白ね、分かった。その子、絶対探すから。
だからお姉ちゃんを殺した犯人、絶対、退治してね」明依が言っても全然シリアスには聞こえてこない。
ただ、二人のおしゃべりの空気だけは一変した。
「あ。」思わず明依は言う。
「何?」と溯夜。
「なんか、ごめんね。こんな事、初めて会った隣のキミに言って。私は感じてないけどかなり重くなっちゃったよね。」
「全然大丈夫。」と何事もなかったように
溯夜は言う。
「本当?それなら良かった。」とほっとした顔で明依は言った。
「もうすぐ家つくね。」
「そうだね。」
「バス停という名のハウスにね。」
「えぇーっ。は?え?」
驚いた表情で彼を見ると溯夜は
「はえ?虫?ああ、俺はそういう奴らが嫌いでね。詳しくないから」と言う。
すぐに「その“はえ”じゃありません!
こんなに歩いたのに?嘘でしょ。君の家は隣の県なの?」と明依は聞いた。
「隣の県じゃないけど、近いっすね。」
それだけ言うと、バスの並びの最後尾で
足を止めた。
「そういえば、白いテンってオコジョじゃない?」
————いきなりの明依の言葉に戸惑った様子の溯夜。夕焼けが消えそうなくらい溯夜の心はもうすでに闇真っ
「その話は明日でいいや。」
(俺は今まで、とんだ間違いをしてたのか?あれは誰に何を言われてもテンだ。そうだよな?しらゆき。早く帰ってきてくれよ。)明依の後ろ姿を見ながら、そんな事を思っていた。
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