第18話 九月二六日㈯①
おれはテラスのある喫茶店「サンマルシェ」でコーヒーを啜りながら彼女を待つ。何組か客がいるが騒がしくなくて良い雰囲気だ。木を基調とした落ち着きのある喫茶店。品がある。みんなわかっているのだ。ここは騒ぐ場所ではないと。この喫茶店がそうさせるのか、客がそうさせるのか。この雰囲気はどうやってできたのだろうか。
友子は今日、高校の頃の友人と遊びに出掛けている。腕時計を見る。
十一時二十五分。約束の時間の五分前。
腕時計を見るおれの視界から前方に立つ足が見える。腕時計から目を離し、前を見ると高倉結衣がそこにいた。
「早いね。約束の時間の五分前に着いているよ」
「私、遅れられるのが大嫌いなんですよ。だから自分は遅れないようにしているんです。だけど、松山さんはもっと早く来ちゃった」
そう言いながらはにかむ高倉結衣。
「そうなんだよ。おれも君と同じさ。高倉さん、しかし君は偉いね」照れるようにくしゃくしゃの笑顔をしている高倉結衣。おれはそのまま「何飲む?」とメニューを向け訊ねる。
「アイスコーヒーでお願いします」
「わかった」とおれは右手をあげながら店員の女の子に声をかける。
「アイスコーヒー二つ」
「アイスコーヒーお二つですね。かしこまりました。少々お持ちください」
コーヒーを待っている間。おれも高倉結衣も何も話さない。高倉結衣はその間(ま)に耐えられず、意味なく横を見たり、鼻の下を掻いたりと、そわそわしていた。おれと言えば、彼女をただ見つめているだけである。
何か話さねばなぁ、と思っているとアイスコーヒーが二つ届く。
「なんでそんな見つめるんですか?恥ずかしいなぁ」と言いながらまんざらでもなさそうだ。
「ああそうだね。でも今日来てくれるなんて思わなかったよ。煙草大丈夫?吸っても」
「はい、大丈夫です!」
おれと高倉結衣は前日のアルバイトで今日会う約束をしていた。
「こちらこそ誘ってくれて光栄です。松山さんの話色々聞きたかったんです」
高校生らしいツヤツヤの肌、童顔の顔に似合わない発育の良い胸が袖透けの白のトップスから浮き出ている。プリーツスカートはチョコレート柄。とても似合っている。どうにか胸を見ないように高倉結衣の顔を見ている。などとは言えない。
「結衣ちゃんは学校ではどんな子なの?」
「え?どういうことですか?」
この子は馬鹿なのだろうか?この世界をどうやって生きてきたのだろうか。人によって、環境によって態度は変えるだろう。それともおれが考えすぎなのか。そんな純粋な人間がこの世界を生きていけるのだろうか。
「誰だってその時その時で違うよ。学校での自分。家での自分。友達との自分。友達によって変えるだろ?ペルソナって聞いたことないかな?」
結衣は「ペルソナ……ですか、ペルソナ?うーん……ゲームかアニメのタイトルだったような……意味は、うーん」と言いながら眉間に皺を寄せ腕を組み考え込んでしまう。結局ペルソナの意味はわからなかった。
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