第15話九月二十四日水曜日 ③
返却されたレンタルDVD二十枚ほどを両手に抱え、おれは陳列棚へと収めに行く。
『ハリーポッターと賢者の石』SFのジャンル。おれにはこの作品の面白さがさっぱりわからない。チープに感じる。もっと世界はどろどろとぐちゃぐちゃしている。
『ゴッドファーザー』アクションギャングのジャンル。これは名作だ。マフィア映画であるが、人生を教えてくれる映画だ。決してアクションギャングなどではない。
『愛のむきだし』邦画・青春のジャンル。青春か?作品としては良いが映画ではなかったな。尺が異常に長いし、雰囲気がこれは良質なドラマだ……。
『かのこん』アニメのジャンル。エロいだけだった記憶がある。それでもアニメ化して、DVDが出ているんだ。人間の本質ってのは案外性的な面で解決するのかもな。男は特に。
『新世紀エヴァンゲリヲンシト新生』アニメ・SF。当時子供ながらに衝撃を受けたな……人生の苦しみや辛さを教わった気がする。中学時代のイジメに対しての薬にもなった気がする。
エヴァンゲリオンのDVDをケースに入れ棚に収めていると、全身真っ黒な服を着た女性が横切る。何故だろう咄嗟におれは、「あの、すいません!!」と声をかける。
黒の女性がおれに振り向く。寂しい目をした美しい顔立ちの黒い長髪、黒服の女性。二十代ぐらいか。
「はい?」透き通った美しい声だった。
「あの、」言葉が見つからない。しかし声をかけたのだから何か言わねば。
「あの、かわいそうな人っておれに言ったのはあなたですよね?ほら前に街でうしろから声をかけてきたでしょ?あなた誰なのですか?」
彼女の眼は寂しげなまま、にこっと笑みを浮かべ、ゆっくりとした澄んだ声で、
「言葉の通りあなたがとてもかわいそうに見えたの。何かに苦しんでいるようで、しかもそれが解決せず、悶々としているように見えたから。気に障ったのなら謝るわ。ごめんなさい。私はあなたの知らない人で、私もあなたのことを知らないわ」
この女は何だ?何を言っている?しかし何故かこの女はおれを引きつける。おれのことを全て言い当てている。…………といったシチュエーションなんてあるわけがない。妄想をかき消す。まるで『ファイトクラブ』のような展開なんてありえない。おれのことを全て知っている人間なんていないのだ。
―まるで『ファイトクラブ』か。言えているな。お前、大丈夫か?淋しいのか?―
うるさいぞ、秋山。
だから黒の女なんて存在しない。おれのことを全部分かっている人間なんていないのだ……。そしてお前もだ秋山。死人は黙れ。
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