24話 ゲームオーバーは突然に
「レンレン! 昨日の件、無事解決したよ!」
教室に入った瞬間、美柑が僕に駆け寄ってきた。
「昨日の件って、相談して、もう解決したのか?」
僕は昨日、美柑が下着泥棒の被害にあっているという話を聞き、警察に相談すべきと言った。
昨日警察に相談して、もう犯人が捕まったのだろうか? いくらなんでも早すぎでは。
「いやぁ、警察にはまだ相談してないんだよね」
ん? 警察に相談したから犯人が捕まったんじゃないのか?
ここが教室であるため、美柑は僕の耳元に口元を寄せ小声で囁いた。
「実はね、昨日は下着泥棒現れなかったんだ」
「えっ?」
昨日美柑から聞いた話では、犯人はここ毎日美柑の下着を盗っていたらしい。それが昨日は現れなかっただって?
「……偶然?」
「どうなんだろう? でも、ここ毎日現れてて急に来なくなったってことは、諦めてくれたってことじゃない?」
美柑は犯人が現れなかったことを、楽観的に考えているようだ。けど、本当にそうなのかな? いくらなんでもタイミングが良すぎる気もするけど。
「偶然って可能性もやっぱりなくはないから、警察には相談しておいた方がいいよ」
「うーん。でも、これで終わりならそれでいっかなって。昨日もいったけど、あんまり大ごとにしたくないから」
美柑は苦笑いを浮かべる。その様子から、どこか警察に相談したくない節を昨日と同様に感じる。
美柑は何でこんなに警察に相談したくないのだろう? 下着を盗られたことを言いたくないがゆえに、犯人のことを紛らわしく呼称したり、自分一人で犯人を探そうとしたり……美柑の行動には不可解に感じる点が多々ある。
放課後になり、美柑は部活、ましろは私用があるとのことで、僕は一人になった。
寧と一緒でないと僕は一人で帰ることもできないため、しばらく校舎の外をぶらぶらすることにした。
特段何かすることもなかったが、途中花壇を見つけた。
(……あれ?)
何気なく花壇を見て、違和感を覚えた。けど、すぐにその正体に気がついた。
花壇なのに、花が一つも咲いていなかった。
僕が生前ここに勤めていた時には、ちょうど開花したばかりのポーチュラカの花が花壇一面に咲いていたはずだ。それが今は、一つもなくなっていて、まっさらな砂だけが敷かれていた。
何でなくなったんだろう。綺麗だったのにな……。
密かに勇気をもらっていたポーチュラカの花が気づかないうちになくなっていて、どこか寂しく感じてしまった。
「はぁっ……はぁっ……」
すると、突如息切れする女性の声が聞こえてきた。見れば、少し離れたところに溢れんばかりに詰められたゴミ袋を持つ用務員さんがいた。
「大丈夫ですか⁉」
僕はすぐに用務員さんの元に駆け寄った。用務員さんは僕に気づき、汗が伝う顔に苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、これがなかなか重くてね。年には勝てないもんだねぇ……」
用務員さんは汗を拭う。こんな重そうなゴミ袋、用務員さん一人で運ぶのは大変だろう。
「僕、手伝いますよ」
「いいのかい? すまないねぇ」
これくらい全然大したことないですよと言おうとし、僕はゴミ袋を持った。
「ぐ、ぐぬぬっ……⁉」
全然大したことあったよ! 何これ、すっごい重たいんだけど⁉
「だ、大丈夫かい?」
や、やばい、用務員さんが心配そうな顔で見てくる。
「だ、大丈夫です。これくらい、へっちゃらですっ」
正直大丈夫ではないが、手伝う言った手前上諦めたくはない。
くそっ、男の体だったら、これくらい簡単に持ち上げられるのに。
両手で何とか持ち上げ、近くのゴミ捨て場まで向かうことに成功した。
「本当に助かったわ! ありがとうね」
用務員さんが頭を下げてお礼してくれる。
「いえ、これくらい何ともないです。では、僕はこれで失礼しますね」
僕はそう言うと、逃げるようにすぐその場を離れた。そうして近くの茂みに入り、僕は右肩を押さえた。
あ、あぶなかった。何があぶないって、あと少しで、用務員さんの前で右腕を落っことしてしまうところだった。
ゴミ袋が想像以上に重かったため、腕に負担がかかりすぎた結果、またも右肩が外れてしまった。しかも、今回は運んでいる途中に右肩からぶちぶちといった何かが裂ける音が聞こえてきて恐怖を感じたまである。
僕は右肩を押さえつつ、袖をめくって腕と肩がどうなっているか確かめようとした。
――ぼとっ。
袖をめくった瞬間、僕の右肩から腕が取り外し器具のように簡単に外れ、地面に落ちた。
(ぎゃあっ⁉ と、とれた⁉)
嫌な予感はしてたけど、本当にとれちゃったよ⁉ 以前のドッジボールで肩が外れたために左肩よりもさらに脆くなっていたのかもしれない。にしても脆すぎるけど!
ていうかやばいよ、これ⁉ こんな場面誰かに見られたら、誤魔化しなんて効かない。それどころか、どこぞのホラー映画だよってなってしまう⁉
とにかく、右腕を拾って急いでこの場から離れないと――、
「レ、レンレン……?」
その声を聞いた瞬間、心臓が止まるかと思った(もう止まっているようなものだけど)。
恐る恐る声のしたほうを振り向く。そこには、驚きに目を見開いている美柑の姿があった。
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