9話 元凶が現れました
水鏡高校はただの私立高校で、他の高校と差して何かが優れているわけでもなく、良くも悪くも普通の高校だ。ゆえに、校舎も至って普通の作りだ。
学年は3年まであり、1学年4クラスといった感じである。僕が転校生として入るのは1年B組、よりによって僕の受け持っていたクラスだ。
寧は『顔見知りがいた方が少しは安心できるでしょ?』と言っていたが、果たして安心できるのか? むしろ、不安要素の方が強いんだけど。
だけど決まってしまったものはしょうがない。僕は覚悟を決め、B組を受け持つ
どこか頼りない気もするけど、大丈夫かな……。
そんな不安を抱いていると、藤原先生は急に立ち止まり僕のほうに振り返った。そのまま眠そうな目でじっと見てくる。
「な、何ですか?」
内心で焦りつつ、そう聞き返した。まさか、僕の違和感に気づいたとかじゃないよね?
「……そんな焦らなくて大丈夫だよ。君の事情は全て寧くんから聞いてる」
「え?」
思わぬ発言に、一瞬フリーズする。
「僕と寧くんは古くからの付き合いでね。古くといっても2年前からだけど」
藤原先生はぼさぼさの髪に手をやり、寧との関係を告げた。
驚きはしたものの、納得できた。だから寧はこの人を僕のクラス担任にしたんだ。僕の事情を知っていたら、寧がいなくても寧の代わりにすぐ動けるから。
「あれ? じゃあもしかして、この学校に赴任してきた先生方って、もしかして全員寧の知り合いですか?」
「いや、この学校で寧くんの知り合いは僕だけだよ。他は皆寧くんが根回しして集めてきた教師たちだ」
その根回しというのが気になるが、とりあえず、寧以外にも僕の事情を知っている人がいたことには安心できた。
しかし、依然として藤原先生は僕の体を隅々まで見回してくる。
「あの、僕の体に何か変なところありますか?」
すると、藤原先生は僕の表情に気づいたのか、申し訳なさげに頭に手をやった。
「いや、申し訳ない。変なところはないよ。むしろ、パッと見で変なところがまるでないから驚いたんだよ」
藤原先生は眠たげな目をしっかりと開き、感心したように頷く。
「本当に驚いた。まさか僕が教えた蘇生の儀式が成功するなんて」
…………今、何て言った?
「正直、まだ未完成な部分もあってかなりリスクのある儀式だったんだけど、こうして――」
「あんたのせいかーーーー⁉」
僕は藤原先生の首根っこ、は身長差で届かなかったため、代わりにスーツを掴み激しく揺さぶった。
「あんたが変な儀式を寧に教えるから、僕はこんな体になったんじゃないか⁉」
まさかの元凶が現れ、半ばやけくそ気味に暴言をまき散らした。
「お、落ち着くんだ、蓮ちゃん! ここは学校で他の生徒もいるから、それ以上言うのはまずい……!」
その言葉に、僕は咄嗟に我に返る。運がよかったのか、周りには誰もいなく、今の場面は見られずに済んだようだ。
「ち、ちゃん付けで呼ばないでくださいっ……」
服から手を離し、僕は抗議の意味で藤原先生を睨みつけた。
「……未完成な儀式を教えたのは悪かったけど、未完成でも教えてくれってお願いしたのは寧くんだよ?」
藤原先生は乱れたスーツを整える。そして、周囲を見回してから口を開いた。
「それに、未完成とはいえ、君はこうして生き返ることができたじゃないか。何が不満なんだい?」
「不満しかないですよ! 本来なら僕は異世界へと行けたんです! それが阻止された挙句、こんな体で蘇ったんですよ⁉」
僕は女の子である自分の体を見せつけるように、両手を広げて見せた。けど、藤原先生は鼻で笑った。
「はっ。異世界? そんな創作の中だけの話を信じているのかい? 異世界こそ所詮オカルトの分野の話だよ」
どう考えてもそっちの方がオカルトだよ!
「まあでも、確かに女の子として性転換まで起きるとは予想できなかったよ。でも、話に聞くと、未完成な儀式を、不完全な状態でやった寧くんにこそ原因があるんじゃないかい?」
「ぐっ……」
痛いところを突かれた。儀式を教えた藤原先生もだが、不完全な状態で儀式を行なった寧にも問題はある。
「まあそこまで悲観することもないじゃないか。何せ若くて可愛い女の子として蘇れたんだからね」
藤原先生はニコニコと笑って言うが、やばい……無性にその顔を殴りたくてしょうがない⁉
とてもこの藤原先生と仲良くできる気がしなく、お先真っ暗になる気分だった。
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