第27話 傍観者、その名は女王?(二)
「ルーフス宰相」
「ああ、これは……。お早いお戻りですね」
「四人とも出て来たわよ」
「それはご無事で何よりです。ですが、あちらから出てくるなら兵を向かわせればよかったのでは?」
「嫌よ、それじゃぁ
「……そんな再会になりましたか?」
「全然! ウィア・フォリウムには扉閉められるし、カイナちゃんには拒否られるし! ねえ、礼儀正しかったのユースだけだったんだけど。あの女子二人の家、淑女教育どうなってんのかしら?」
「そこまでは把握しかねます。それより、参りますよ?」
「あーあ、しっかりしてるのは我が『
ユースを
「……早くなさってください、『女王陛下』」
「へいへい」
馬車へ乗り込み、小さい魔晶を一粒飲み込めば、たちまち自分の周囲に起こる光の乱反射。本来の自分よりも一回り以上大きな被膜が周囲に出来、その間を埋めるように魔法で空間を固定する。最後にその表面を人が触れても平気なように固めればあっという間に別人の出来上がりだ。
「相変わらずお見事で。魔法だか魔晶だか、貴女がお持ちの特殊なモノかは知りませんが随分と便利ですな」
恰幅のいい、世界の最高権力者。
魔晶に詳しいが故にその出自の不確かさを押しのけてリガトゥール家からアイテール王家に入り、女王の座に就いた人物。
トラビオレッタ・レイ・アイテール。
扇子を広げて微笑めば、数刻前の謁見でカイナを震え上がらせた女王陛下の出来上がりだ。
「でもこれ嫌なのよ」
「何がですか?」
「自分より小さい人間には化けれないのよ。おかげで『女王陛下』は、昔も今もぽっちゃりさんじゃない」
「貫禄があってよろしいのでは? ですが一言申し上げてよろしいでしょうか、『女王陛下』」
「なに?」
「……出掛けと服が違います!!」
「あ、別の魔晶だったっけ? いやー、宰相がしっかりしてくれてて助かるわぁ!」
「……」
手持ちの魔晶をあーでもないこーでもないと選んでいると、ルーフス宰相からのジトっとした視線がまとわりついた。
「あ、その『本当にこいつがこの世界造ったのかよ』みたいな顔するの止めてよね」
「いえ、滅相もございません。私はただ、何故『悪王テネリ』は、貴女を悪王に指名したのかと疑問なだけです」
「それは
そう、二千年前、自分が知らないところで誰かに勝手に土俵に上がらされて、気がついたら引けなくなった。周りには誰もいなくなり、一人で突っ走った当時の自分。
自分の後を継ぐ子にはせめて自分の意志で出て来て欲しい、そうしたら、この魔法がない世界でも私が手取り足取り教えてあげられる。その意志で、二千年生きることを決めた。
でも、結局は、アルスは無理矢理中央区に送り出され、魔法を使うことを選んでしまい、見事に魔法を再現してしまった。
「せめてもの救いは、アルスの周りにあの子達がいてくれることかしらね」
「何がです?」
「こっちの話よ。さて、まだ着かないの? アルス達が先に着いちゃうわよ?」
「この短距離で馬車の先回りなど……」
「あら、そうかしら。それは『彼女』を甘く見てるわよ」
―――――
「四人ともご苦労ですね」
乗っていた馬車が着いた場所には、既にアルスたち四人が到着していた。顔には出さないが隣でルーフス宰相が驚いていることは間違いない。
ウルは、『女王陛下』の顔は崩さず、その下で思わずにやけた。
「女王陛下!!」
そう緊張した面持ちでカイナを先頭にして近寄った四人。さっきまでの緊張感の欠片もない雰囲気とは大違いだ。
「随分大事になりましたね。あの氷は一体なにかしら、カイナ?」
「え……」
試しに聞いてみると、正直すぎるカイナは固まった。その隣でアルスも若干顔を青ざめた。まあ、こんな人が大勢いる中で魔法だとは流石に言えまい。
「カイナ様に代わって申し上げます。通路に仕掛けてあった
そう平然と言ってのけたのは、ウィアだ。どうやら全てを魔晶のせいにして終わらせるらしい。まあ、アルスの事を出せないならそれが最善だが果たして最後まで嘘をつきとおせるだろうか。
「そんな魔晶あったかしら? 天候を左右する魔晶と同等のものが
「……その、疑似太陽に匹敵する魔晶がございましたので、他の高純度魔晶もあっておかしくないと思います」
「あら、そんな魔晶どこで使っていたの?」
「
「証拠を押さえてきたの? ずいぶん上出来じゃない」
「おほめに預かり光栄です。女王陛下、
これはあれだ。どうせランセットが捕まるんだから全ての罪を奴に擦り付けようとするやつだ。ウィアが意外と腹黒くて若干面白くなったウルだった。
「貴女、ちょっと気に入ったわ。名前は?」
「……ウィア・フォリウムともうします」
「ああ、貴女が例の……。ヴォルフのお付きね」
その女王の声に場が一気に騒がしくなった。
ルーフス宰相ですらその顔色を青くした。
アイテールとヴォルフの関係など、今更説明することもないこの世界の常識だ。
「そうです、女王陛下。ですが、ウィアを責めるのは待っていただきたい。
「あらユース。責めるとは何を?
栽培現場には、先ほどいた隠し通路の出入り口に行かねばなるまい。だが、ウィアの様子がおかしい。ユースをちらりと見て視線を足元に落として身動きしない。
ウル的には迷っているウィアが面白いことこの上ないが、カイナとアルスはウィアの体調がすぐれないのかと気遣って話しかけている。ま、ウィア本人は別のことを考えているのか全く反応していないが。
「ウィア」
「は、はいユース様!」
「ボサッとするな。しっかり女王陛下を案内してくるんだ」
「ユース様が……そう仰るなら……」
ユースの言葉で渋々動き出したウィア。そしてそれを険しい顔で見送るユース。
女王陛下の仮面の下でウルは随分と懐かしいものを見た気がしたと少々涙ぐんだ。あいにく、号泣するような柄ではないが、それでも懐かしさがこみ上げる光景にウルはようやくここまで来たと実感した。
ウィア・フォリウムが罰される。
そんなことは絶対にさせない。
むしろ、ウィアに付け込み利用してくれたランセットにはそれ相応の罰を上乗せしてやらねば気が済まない。
爵位の剥奪、領地の没収、生涯牢生活? はたまた死罪? いや、生かして今後に利用する手もある。手駒は大いにこしたことはない。
「ふふ、ランセットめ。『
「……女王陛下。それは一体どちらのお気持ちですか?」
「あら嫌だ、宰相。聞いていたの? 忘れて頂戴。『
ひときわ大きいため息がルーフス宰相の口から出た。
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