第7話

『勉強会と合コン、どっちがメインになりそうかな?』


 そのメッセージを送ってからは斉木からは返事がこなかった。

 実は斉木ともう一度会えるという話は実はなかったことになってしまったのではないだろうかと考えてしまうほど、音沙汰はなかった。しかし、西尾を含めて飲もうという話は翌日確認すれば西尾には通っていた。

 数年ぶりに連絡をとった大学時代のサークルの先輩を巻き込んで飲もうという話が流れるとも到底思えなかった。少なくとも新田はそうしない。


 生殺しのような3日間がすぎた。進藤から「こないだの勉強会どうなるの?もし勉強会するなら会社のワークスペース貸すよ?」と催促もされた。

「いやあ、向こうも忙しいみたいで全然連絡こないんだ。まだ本決まりじゃなかったし、流れちゃったのかもね」

「可愛い女の子だったから、がっつきすぎたとかそういうのはないの?」

 進藤から茶化される。もちろん、進藤は新田の黒歴史をよく知る人物だ。

「え、てかなんで可愛いと思うわけ?俺、進藤に写真とか見せてないよね?」

「スマホ見るたびに一喜一憂しているにっちゃん久しぶりに見たんだもん。可愛い女の子の相手をしている時の態度、本当にわかりやすいからさ」

 そこまで表に出ているとは新田自身意識していなかった。

「とりあえず、勉強会するなら、うちのワークスペースも会議室も貸すから。それ本人にいま伝えなよ。勉強会流れてるのは全然いんだけど、にっちゃんが作業に集中できてないその様子は邪魔だからね」

 ほらいった、と猫を払うような仕草で進藤に追われる。


『勉強会するなら、うちの会社の会議室もワークスペースも貸し出ししていいって言われたよ。もし、場所取りこまってるなら、うちの会社でしない?機材とか結構揃っているよ』

 あんまり、返事がこない相手に連投でメッセージを送るのは新田の本意ではない。男が必死になって女の子の尻尾を追っかけているように思えるからだ。

 だが、仕事に身に入っていなかったのは事実だし、もし振られるなら傷は浅い方がまだマシだ。失恋になるまえ抑えられるのならば抑えてしまいたい。


 しかし、返事は2件目のメッセに対する返事は意外と早くに来た。

『会社のワークスペース使えるって本当ですか?』

 そのときは、ちょうど普通の会社員が帰宅する時間に帰ることができるタイミングに帰れることになったから、会社とは関係なしに友達どうしで飲みに行くかと進藤と会社の立ち上げメンバーだった仲間と話し合ってた時間だった。


『うん、もし合コンじゃないならね、うちの会社ボスも同じ大学だし、油絵科卒の装丁デザイナーってところにちょっと興味を持っているみたいなんだ』

『そうなんですか!じゃあ、もしよろしければそこのワークスペースでできたらこっちとしてはありがたいです!

 どんな感じになりますか?会費制で各々活動内容について語り合うみたいな一般的な流れになりますかね?』


 今までにないくらい返事のペースが早い。思った以上に、向こうは乗り気になっているようだ。

 積極的になったのは嬉しいけど、こっちの返事を何日もスルーした結果、こちらが餌を垂らしたらすぐ食いついてくるのは少し新田としてはムカついた。

『斉木さん最近忙しいみたいだし、あらかじめこっちの予定をキチンと組んでくれれば、全面的に斉木さんに合わせるよ。夜でも昼でも土日でも。もちろん合コンでもいいし』

『合コンよりも勉強会がいいです!しかも映像制作会社の会社のワークスペースってのも気になりますし!』

 完全に嫌味が伝わらなかった。どうやら、こちらがやきもきしていたのは自分だけだったらしい。少しどうでもよくなってきてしまった。

『じゃあ、うちのワークスペースで勉強会ってことでいくね。社内の勉強会だから社内の人でその日暇な人は多分みんな参加すると思うし、斉木さんも適当に呼びたい人読んでくれればいいよ』

 新田は急に冷めてしまったというか、なんだこの子は、みたいな気持ちになってしまった。


「おーい、にっちゃん!お店先にいっちゃうよー!」

 進藤から声をかけられる。やさぐれた気持ちで楽しく飲める気なんて正直起きない。

「寝不足だし、頭ぼーっとしてるし、撮り溜めしてるアニメ消化しないといけないから、今日は先に帰るは。また次呼んでくれや」

 ポンと進藤の肩に手をおいて荷物を持って出て行った。

「わかったけどさぁ、撮り溜めしてるアニメ見すぎて寝不足になったら元も子もないんだからなーちゃんと寝ろよー」

 ハイハイ、と軽く返事をしながら新田は帰路につく。


 しかし、むしゃくしゃしてしまった気持ちをアニメで解消できるなんてまさかそんな器用な人間ではない。そもそも、アニメは単純に楽しむものであり、新田にとってストレス発散には繋がらない。

 結局アニメに集中できなかった新田は通話アプリを立ち上げる。ボタンを押してスピーカーにした状態で布団にころがる。

「おい嬉野出ろよ、あー嬉野のバーカ、はよ出ろよ、嬉野のゴミ野郎」

 悪態をつきながらゴロゴロしている。なかなか出ない。

『今日は嬉野は忙しかったのかな、また今度通話するか』と思い通話を切ろうと画面を操作する。通話中の表示。

「あれ?嬉野、お前通話出てたの?」

『なんか、通話ボタン押したら自分なにもしてないのに先輩がめっちゃ悪態ついてるから、とりあえずそれ聞いてました。これだけ自分に対して悪態ついているんだから、相当爆笑事案があったんだろうなぁって思いながらニヤニヤ聞いてました』

「おめぇ、相変わらず性格歪みすだろ…」

 嬉野の弾んだ声を新田はため息で返す。

『あと、自分にそこまで素敵な悪態をつくのは先輩だけっすよぉ。自分いろんなところから可愛い綺麗カッコいい素敵って崇め奉られていたんで。ほんっと、どきどきしちゃいました…』

 とりあえず、今日も嬉野は気持ち悪さは安定というところだ。


「まぁ、いいや、今日なんかお前と電話する気起きなくなったから切るは」

『そんなことは言わないでくださいよ!どうせ、合コンの誘いをしたらうまくいかなくって、どうしたらいいかわからなくて悩んでるとかそういう流れでしょう。

 こういう時こそ自分の出番ですよ!回収しきれない伏線を回収しまくってなんとかして最近さんとのつながりを無理矢理つなげます!任せてください!』

「最近さんって誰だよ…それもやは人間の名字じゃない…」

 確かに、こいつに相談すれば相手の薬指につながった赤い糸をどこから引っ張ってきたのかとツッコミを入れたくなるような方法でつなげてくる。

 そして、宇宙人的この思考回路をいつか解明したいという気持ちもなきにしもあらず。


 結局ここ最近あった斉木とのやりとりを嬉野に話すことになった。

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