3-1 チェンジ「七渡君に、もっとウチのこと見てほしい」
∞
「麗奈……」
「なーに
七渡に呼ばれたので返事をした。
ベッドに座っている七渡は隣に来てとあたしを手で招いている。
あれ、何であたし七渡の家にいるんだっけ……ぜんぜん思い出せないや。
「本当に
あたしの腰を抱き寄せて見つめてくる七渡。えっ、何この展開?
恥ずかしいし
「ちょっと待ってよ七渡」
「どうして?」
力が入らなくて七渡の手から抜け出せない。
「恥ずかしいから」
「俺のために我慢してくれ」
「あんっ……」
服の上からあたしの胸を触る七渡。まったくこんなことして……七渡じゃなかったらぶん殴っている。ぼこぼこだもん。
「あたし達、友達でしょ?」
「こういうことする友達関係もあるだろ?」
「もぅ……」
七渡がそういう関係を望むのなら、あたしは受け入れる。
七渡の要求は全て受け入れてあげたいから。
「失礼します」
「ちょ、ちょっとそこは!」
抵抗できずに七渡になされるまま、あたしは手のひらで転がされる。
「ばか、ばかぁ~」
あたしは文句を言いつつも、七渡から求められることが嬉しくてたまらなかった。
こんな幸せな時間がずっと続けばいいのに──
「いや夢かよ!」
意識を取り戻すと、あたしの
七渡との関係がステップアップしたかと思ったが、それは夢の中の話だった。
「七渡~」
大きな枕を抱きしめて、七渡の名前を呼びながら足をばたつかせる。
今思い返すとめっちゃ恥ずかしい、現実であんなこと起きたら卒倒してしまいそうだ。
それにしても、朝からめっちゃ汗かいちゃったな……着替えないと。
時計を確認するが、普段より三十分も遅く起きていた。
シャワーを浴びる時間も無いか……軽くデオドラントケアして化粧に時間を回そう。
「ふんふ、ふ~ん♪」
朝から七渡の夢を見ることができたので、時間の余裕はないがテンションは高い。自然に鼻歌も出てしまう。
とりまヘアアイロンをして、カラコン入れーのアイラインだけ書こう。マスカラは省略して学校でやればいいか。
……七渡とのあんな夢を見るようになったのも、高校生になって距離感がより近くなったからだろうか。
つまり、あたしはピンチをチャンスに変えていたわけだ。やるじゃんあたし。
ショッピングモールで遊んだ時の帰りも、七渡は自らあたしと二人きりの時間を作ってくれた。
でも、少し不安もある。それは七渡が好意を明確にさせようとすることだ。
あの公園での時も七渡はあたしの好意に気づき、それを明確にさせようとした。七渡の予想は当たっていたが、あたしはあえて否定をした。
七渡は誰かと付き合うことにトラウマがあるから、あたしのことが好きでも告白は断られる可能性が高い。
七渡があたしと付き合いた過ぎてどうしようもなくなった場合も、向こうがあえてあたしと距離を離してくる可能性もある。
距離が近づき過ぎても、それはそれで問題が生じる。もどかしいな……
どちらにせよ最低限の距離は保ち続けなければならないかな。七渡を取られないように近づいて、逆に離れていくことになったら本末転倒だし。
まっ、城木との勝負は圧勝ということでいいだろう。ウィナーあたし。
七渡に何かしてあげることもなく自分のことで精一杯だったみたいだし、身体でアピールなんてみっともないことをしている始末。
あの様子じゃあ七渡があたしを差し置いて城木を好きになることもないだろうし、城木が告白しても七渡がトラウマを乗り越えてでも付き合おうとは思わないだろう。
そもそも過度に心配し過ぎていたかな……
城木が美人でクラスのアイドルとかだったら今頃は大変だったけど、現実は鈍くさい田舎娘だ。
あたしに挑むくらいなら、もっとオシャレして可愛くしてこないと話になんないっつーの。あたしは毎日、時間かけて自分磨きしてるんだもん、他の
どうせその内、城木の方から諦めて身を引いていくだろう。逆襲なんてありはしない。
セットを終えたあたしは化粧ポーチを
「おはよー七渡」
いつもの待ち合わせ場所である公園に着くと、今日は一足先に七渡が待っていた。
あたしを目にした七渡は
好きとは口にできないので、頭の中で
+七渡+
麗奈と教室へ入ると、何やら普段よりもクラスメイト達がざわついていた。
まるで転校生がやって来る日みたいだなと思うが、まだ新学期は始まったばかりなのでその可能性は無さそうだ。
「何かあったのか
俺は教室の後ろで突っ立っていた一樹に声をかける。
「面白いことになった」
「変なマスコットキャラクターが出てきて、デスゲームでも始まったのか? クラスメイトで殺し合いの始まりだとかいうやつ? 物語後半、絶対にグダるやつ?」
「七渡に関することだぞ」
「俺ぃ!?」
まさかの俺に関することで騒動が起きているようだ。
「その面白いこととはいったい?」
「そろそろ戻ってくるんじゃないか? 今はお手洗いの鏡で最終チェックをしているみたいだ」
「もしかして城木?」
麗奈は一樹を
「まっ、そんな感じだな」
一樹のはぐらかした回答。だが、翼に関することではあるようだ。
「俺はこんな日が来るのではと予想していたが、
「……なんとなく察しはできたけど、別に何かが劇的に変わるわけじゃないと思う。みんな
二人は何かわかりきった様子で会話しているが、俺は蚊帳の外だ。
「大袈裟なんかじゃない。予想してた俺でさえ驚いて二メートル飛んだからな。今でも足が震えている」
「大袈裟の極みじゃんか」
一樹の足は一切震えていないので、冗談を言っているみたいだ。
「ちょっと
教室に入ってきたしばゆーに、立ち位置を指定される。教室の床に蛍光テープ貼って立ち位置を指定するほどの発表なのか……
「いったい何をするつもりなんだしばゆーよ」
「天海っちは女神って見たことある?」
「急にどうした?」
「
ニヤリとしながら教室を出ていったしばゆー。意味深過ぎるな……これから何が起こるのか見当もつかない。
ガラガラと教室の扉が開き、見知らぬ可愛い生徒が入ってくる。
ショートカットで大きな目がくりくりとしていて可愛い。あどけなさの中にもどこか大人っぽさがあって、魅力的な人だなと思った。
クラスメイトではないので、誰かに用事があるのだろうか。俺は指定されたポジションに立っていなければならないせいで彼女の前から動けない。
「……七渡君、変じゃないかな?」
知らない女性から聞こえてきた、
俺の目の前にいる女性は、見知らぬ生徒ではなく友達だった。
「つ、翼か?」
「うん……やっぱり変?」
どうやら翼は俺の知らないところでイメチェンをしてきたようだ。
長い髪をばっさりと切ってショートカットになっている。眼鏡も外してコンタクトにしているのだろう。スカートも短くなっていて、女性らしさが強くなっている。
翼のまさかの姿に俺はどこか浮ついた気持ちになる。翼と聞いてからは、
「変じゃない。
「本当に!? 嬉しい……
笑顔が
「でも、急にどうしたんだ?」
「昨日ね、
地味という印象だった翼が今では眩しくてアイドルみたいな女の子になっている。
「七渡君に、もっとウチのこと見てほしい」
目を
「そ、その、恥ずかしくて……ごめん」
「ふふっ、いいよ」
俺の反応を見てさらに嬉しそうにする翼。そんな小悪魔的な反応をされると、思わずドキドキしてしまう。
今までは妹みたいな存在として見ていたが、雰囲気が一変するとより女の子として意識してしまう。目線を下げてもスカートが短くなっているため、太ももが大胆に見える。
「こんなに可愛くなったらめっちゃモテるんじゃないか?」
「そんなことないよ……それに今は七渡君と仲良くしたいし」
おいおい、そんなこと言われちゃうとめっちゃドキドキしてしまうだろ。俺とこれ以上仲良くなるって、勝手にその先とか想像しちゃうだろ。
「どっすか天海っち? 今のお気持ちは?」
エアマイクを向けて俺にインタビューしてくるしばゆー。
「雰囲気がガラリと変わって、何だか不思議な気分だな」
「そう、可愛いは作れる」
どこかで見たCMの決まり文句を言いながら、嬉しそうにしているしばゆー。
「色々と翼の相談に乗ってあげてるみたいだな。俺からもありがとう」
「友達だから当然じゃーん。それに翼ちゃんが可愛くなるところは柚も見たかったしさ」
頭の後ろに手を回し、翼の笑顔を見て自分のことのように嬉しそうにしているしばゆーは本当に良い
「地葉さん、どうかな?」
翼は下を向いていた麗奈の元に行き、感想を求めている。
「……まぁ、前よりは良いんじゃない?」
素直に可愛いとは褒めない麗奈。翼は麗奈とタイプは違うが、麗奈に匹敵しそうな可愛さを手に入れている。
「そうだね。もう前とは違う」
自信に満ちた顔で麗奈を見ている翼。麗奈は少し不安そうな顔をしている。
「言っとくけど、あたしはずっと前から可愛くなる努力を続けてるよ」
「……ウチもまだ始まったばかりだと思っとるよ」
笑顔で睨み合っている両者。まだ二人が仲良くなったとは言い難いが、互いを認め合っている印象だ。
「七渡っ」
「七渡君!」
「はいっ」
二人は俺の方を向いて同時に名前を呼んできた。
「あたしの方が先だった、邪魔しないでよ」
「ウチの方が先やった」
どっちが先に俺を呼んだか張り合っている二人。可愛い二人がじゃれ合っている姿は見ていて和むな。
「なに呑気な顔してんだよ、こっちはヒヤヒヤしてんのに」
一樹から小言を言われる。何かを危惧しているみたいだ。目に見える問題は特になさそうだが……
「柚も心機一転して、明るい緑色の髪とかに染めようかな」
「そんな不祥事起こしそうなユーチューバーみたいな髪色にすんなよ」
翼に触発されたのかイメチェンを考えているしばゆー。翼の影響でみんなが変化を求め始める問題が起きてしまっていたのか……
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次回:「七渡をあたしの匂いで染めちゃおう」体育の授業でも、少女たちは競い合う!!
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