2-3 グループ「ここは柚が一肌脱ごうじゃないの」

「というか、今日の放課後どーすんの? 声をかけるの?」


 昨日の放課後も七渡君達に声をかける勇気が無くて、気遣ってくれた柚癒ちゃんと一緒に放課後を過ごすことになったんだ。


「緊張するけど、やっぱり七渡君ともっと距離を詰めたい」


「柚もそうした方が良いと思う。時間がてば経つほど入りづらい空気になっちゃうし、先延ばしはマイナスでしかないよ。いつ勇気出すか、今でしょ」


「うん、そのつもり……でも、良いタイミングがあるか心配」


 顔を下に向けた私の肩を、柚癒ちゃんは優しくたたいてくれる。


「ここは柚が一肌脱ごうじゃないの」


 ブレザーを脱いでブラウス姿になる柚癒ちゃん。物理的にも一枚脱いだようだ。

「柚があのグループと翼ちゃんの架け橋になる」


 任せてといった表情の柚癒ちゃん。心強い存在であり、その言葉に救われる。


「どーしてそこまでしてくれると?」


「そんなん友達だからじゃーん」


 面倒な顔一つ見せずに協力してくれる。本当に優しくて良い人だ。

 正直、柚癒ちゃんの存在は私にとって大きな後ろ盾となっている。話も聞いてくれるし私の気持ちをわかってくれる。

 友達とはいえ、ここまで真摯に私のことを考えてくれるなんて……


「ありがとう柚癒ちゃん」


「いーのいーの」


 私は改めて感謝を述べると、柚癒ちゃんは珍しくほおを赤く染めてうれしそうにしていた。

 昼休みの終わりが近づき、生徒が席へと戻り始めていく。

 七渡君は借りていたクラスメイトの席をれたれいな雑巾で拭いていて、その後に空拭きしてから席を離れていた。

 七渡君のああいう気配りができるところ、昔と何にも変わっていない。好きだなぁ……


   ∞麗奈∞


 授業が終了し、放課後になる。

 七渡の元に向かい、今日の放課後もいつものように三人で一緒に過ごす。


「ちょっと待ったぁ!」


 まるでドラマとかでありがちな結婚式で乱入してくる男のように、しい声であたし達を呼び止めてきた柴田。余計なことをしてきそうで恐いな……


「どうした、しばゆー」


 七渡が柴田の突然の奇行に驚きながら、何の用があるか聞いている。


「翼ちゃんが言いたいことあるって」


「えぇ!?」


 急にちやぶりのようにバトンが渡された城木は慌てふためいている。このまま傍観しているか、割り込んで流れを断ち切るか……


「ちょ、ちょっと柚癒ちゃん」


「柚の役目はここまで。ほら勇気出して」


「もっと何かつないでくれると思っとったよ……でも、もう言うしかない」


 柴田に背中を押された城木が一歩前に出てくる。迷っている間に、もう止められない流れになってしまった。


「どうした翼?」


「……あ、あのね、ウチもその……一緒に放課後遊びたい」


 城木は緊張した声で七渡に一緒に行きたいと伝えた。柴田はその城木の姿を見て、我が子を見守る父親のように優しく拍手をしている。

 最悪な展開だ……このままではあたしを取り巻く環境が大きく変化してしまう。

 こうなることはあらかじめ危惧していたけど、予想よりも城木の行動が早い。それだけ、七渡との距離を詰めることに本気ってことかもしれないけど。

 見た目は気弱そうな雰囲気なのに、意外と行動は大胆だ……油断も隙も無い。


「俺はぜんぜん歓迎なんだけど、二人は?」


 七渡は快諾しているが、必ずあたしや廣瀬の意見を聞く。自分の意見だけを押し通すことはない。

 その優しさに甘えれば、城木の行動を阻止することもきっと可能だろう……


「俺は構わないけど」


 廣瀬は反対せず、あたしの方を見た。どっちの答えを選んでもフォローしてくれそうな表情をしている。んあ~どうしよう~……


「ありがとう一樹。麗奈は?」


「…………」


 あたしは悩む。もちろん、この関係を崩されたくない気持ちは強いが、素直に駄目と言えばそれはそれで七渡に申し訳ない。七渡に嫌われたくないもん。

 あたしは自己中心的な人間だが、その自己よりも上に七渡が唯一位置しているの。


「地葉さん、駄目なら駄目って素直に言っていいよ。それならウチは別の日に七渡君と二人きりで会うことにするしさ」


「は?」


 笑顔で提案しているが、言葉の内容はあたしを徹底的に追い込んでいる。ぐぬぬ……

 どっちの選択肢を選んでも城木は七渡とは接触する。でもあたしが承諾すれば、あたしの前で城木と七渡を接触させることができる。

 つまり、ここであたしが承諾するしかないよね? と脅しているのかもしれない。

 どちらを選んでも私は大丈夫。そんな考えが城木の表情に表れている。

 やられた……これは城木が先手を取った時点で有利なんだ。

 やっぱり天然を装っているだけで、中身はとんでもない策士じゃないかこの田舎娘。そうやってこれから七渡をたぶらかしていくというのね城木め……


「なら、柴田も一緒ね。昨日の五人でいるの楽しかったし」


 あたしの言葉にみんなは驚いた顔を見せる。

 どうしても城木一人がこのグループに入ると、七渡との絡みが中心になってしまう。

 でも、柴田も含めて丸め込めば、七渡は柴田もいるから城木のことも安心だと思い、特別気を使わせなくても済むはずだ。

 城木も意表を突かれたのか、驚いた顔を見せている。あんたの思い通りにはさせないんだから。計画通りね。


「珍しいな、麗奈がそんな提案するなんて」


「……別に」


「じゃあ、みんなで一緒に行くか」


 七渡は嬉しそうな表情で出発を告げる。果たしてこれで良かったのだろうか……


「ちょっと待った。そもそも柚は一緒に行くと言っていない件」


 まさかの柴田があまり乗り気な態度を見せていない。


「俺達と来てくれないのか?」


「え、え~どどど、どうしょっかな~」


「じゃあいいや」


「行きます行かせてください」


 提案を破棄しようとした七渡にめっちゃ食い下がった柴田。本音は一緒に行動を共にしたかったようだ。脅かさないでよ……


「地葉さん、誘ってくれてありがとうございます」


 柴田はあたしの元に来て感謝を述べてくる。


「同い年なんだから敬語使わなくていいから」


「うぇいうぇい。しばゆーって呼んでね」


「うざ」


 嬉しそうに脇腹を小突いてくるしばゆー。城木をコントロールするためとはいえ騒がしい女をグループに入れてしまったな。


「それじゃあレッツゴー」


 か仕切り始め、先頭を歩き始めるしばゆー。絶賛、後悔中です。


「いったいどういう風の吹き回しなんだ? 頭でも打ったか?」


 廣瀬があたしのことを心配そうな目で見ている。それだけあたしの発言が意外だったのだろうか。


「あの田舎娘に好き勝手はさせない。向こうは絶対に負けない作戦を練ってきたみたいだけど、こっちは引き分けに持ち込んでやったのよ」


「……深読みし過ぎてないか?」


「あんたもあの表向きの天然キャラにだまされてるの。裏の顔は策士で七渡を何が何でも奪おうとしている悪魔に違いない」


「俺はそうは思わないけど」


「女の勘をめないでよ」


 失うものが無い城木は、これからも積極的に攻めてくるはず。七渡を守りつつ行動していては、防戦一方になる。

 やっぱり、あたしの方からも積極的に動かないとな……

 まっ、可愛かわいいあたしが本気出せば七渡もくぎけになって、きっと頭おかしくなっちゃうけどね。麗奈ぁああ! って叫びながら抱き着いてくるかも。

 今までは七渡と一定の距離を保っていた。友達としての距離感だった。

 けど、これからは徹底的に詰めていくんだもん──


   +七渡+


 みんなで学校から歩いて大型ショッピングモールへと向かった。

 特に目的は無いのでウィンドウショッピングをすることに。


「あっ、リズニーストアだ」


 しばゆーが入ったお店は、リズニーアニメでおみのキャラクターグッズが売られているリズニーストアだった。


「みんなでリズニーランド行こうよ~」


 しばゆーは大型テーマパークのリズニーランドに行きたいようだ。みんなで行ったら絶対に楽しいだろうな。


「高いからなあそこ。まずは無難に健康ランドとかから行くべきだろ」


「廣瀬君、健康ランドとか渋すぎ! ランドだったらどこでもいいわけじゃないよ!」


 何故か嬉しそうに一樹のことをたたいているしばゆー。意外と二人の相性は良いのかもしれないな。


「七渡、見てこれ」


 肩を叩いてきた麗奈の方を向くと、麗奈が猫の大きな耳がついた帽子をかぶっていた。

 帽子からぶら下がっているポンポンを麗奈が引っ張ると、耳がぴょこぴょこと動く。


「にゃんにゃん」


 あざとく猫の鳴きをする麗奈。可愛すぎて見ているこっちが恥ずかしくなる。


「……可愛いな」


「だよね。あたしも思った」


 麗奈は嬉しそうに笑う。麗奈は可愛いから何でも似合う。コスプレとかもどんな衣装でも似合うことだろう。


「猫だと思ってでて~」


 普段はそんなこと言わないのに、今日の麗奈の言動は背中がかゆくなるものが多い。可愛いから言われた通り撫でまくるけど。


「どうしたんだ麗奈?」


「……嫌だった? うざかった?」


「そんなことない。可愛いから照れちゃうよ」


「こっちの方が照れてるよ!」


 真っ赤な顔した麗奈に逆ギレされる。何故そんな照れてまで近づいてくるのだろうか。


「ちょ、ちょっと柚癒ちゃん」


 しばゆーに背中を押された翼が俺の前にやってくる。


「な、七渡君、どうかなこれ?」


 麗奈と同じタイプだと思われる帽子のウサギの耳バージョンをつけてきた翼。


「似合うな」


「う、うん。ありがと」


 恥ずかしそうに耳をぴこぴこと動かす翼。子供の時にお遊戯会で熊の着ぐるみを着ていた姿を思い出した。


「ど、どうかな?」

 みんなと同じように触角みたいなものがついた帽子を被ってきた一樹。


「帰れ」


「ひでーな。しばゆーには宇宙一と言われたのに」


 しばゆーにひいされ過大評価を受けていた一樹。どうかなじゃねーっての。


「……なんだかんだ上手うまくいきそうだな」


 俺は周りのみんなを見て、あんためいきをつく。


「そうだな。まっ、みんな良いやつだしな」


 一樹の言う通り、翼は優しくて大人しい良い子だ。しばゆーもうるさいところはあるが優しさがにじみ出ている。グループをかき回したり、みんなの仲を乱すことはなさそうだ。

 麗奈だってわがままは言わないし、絡んでくるしばゆーにはあきれながらもやり取りをしている。問題は麗奈と翼の仲が少しぎごちないところだけだな……


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次回:「……あんたの思惑通りにはさせないから」恋の駆け引きが本格始動! 放課後の恋愛バトル後編!

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