1-6 リスタート「ウチと七渡君は幼馴染で十年間も一緒だったんだよ」

「ちょっとトイレ行ってくる」


 七渡が席を立って、廣瀬と二人きりになる。

 七渡を通して廣瀬と絡むのは平気なんだけど、二人きりはいまだに少し気まずい。


「俺が邪魔じゃなかったか?」


「邪魔なわけないじゃん。何でそういうこと言うの?」


「七渡と二人きりの方が、地葉は幸せかなと思って」


 廣瀬は空気読めないとこあるけど、性格は優しい。今もこうして、七渡と二人きりにさせるべきだったんじゃないかと悩んでいるみたいだし。


「そーいうのいいから。変に気を使われた方が困る」


「なら問題無いな。二人きりにしてほしい時があったらいつでも言えよ」


「どーも」


 気まずさもあってフラペチーノを飲むスピードが速くなる。この気まずさは廣瀬にどこか後ろめたさを感じていることも関係しているのだろうか。


「相変わらず七渡がいないと無愛想になるな。地葉は俺のことどう思ってんだ?」


「廣瀬は七渡の大切な親友。七渡の大切な人はあたしにとっても大切だから」


「じゃあ、あの突然、現れた七渡のおさなじみもか?」


「っ」


 廣瀬の鋭い指摘に思わず舌打ちをした。


「廣瀬のそういう容赦ないとこ、まじでムカつくんだけど」


「問題を先送りするのはよくないと思ってな。あの子はたぶんこの先、七渡と距離を詰めてくると思うぞ。きっと俺達の関係にも影響してくる」


 あたしが見て見ぬふりしていた問題を提示する廣瀬。考えたくないから先送りにしていると取り返しのつかないことになるのは、廣瀬もわかっているみたいだ。

 きっとあたしのことを思ってくれての発言だろう。口にはしないが、頭の中では感謝している。


「……はぁ、まじでどうしよう」


「一応、俺もこの関係が崩れないように気を回すが、突き放すのは無理があるな。七渡もあの子にはどこか執着しているみたいだし」


「あたしはみんなと楽しく高校生活を過ごしたいだけなのに」


「関係性に変化はつきものだ……俺はいっそ丸め込む方が楽だと思うがな」


 廣瀬はこの関係性にあの田舎娘も含めて丸め込むという考えを持っているようだ。七渡が抜けるとかは絶対にあってはならないし、その考えは理解できるけど……


「単純な話、地葉があの子に負けないようにすればいい」


「は? どう考えてもあたしの方が可愛かわいいでしょ? あの子は、地味で鈍くさそうだし。そもそも田舎娘で、いも臭いのよ。ふかし芋女、大学芋女、ジャガイモ女、サトイモ女」


 嫉妬があたしの口をより悪くさせている。七渡の前では慎まないとね。


「油断大敵だぞ。綺麗な顔立ちしてたし、オシャレすれば可愛くなりそうだった」


「ぐるぅうあ! そういう可能性は危惧しないでいいの!」


 あたしが不安を爆発させると、七渡が席に戻ってくる。あたし達の心配をよそに、すっきりとしてお気楽そうな顔をしている。あののんな顔のほおをつんつんしてやりたい。

 気を取り直してフラペチーノを飲もうとするが、あたしのフラペチーノはいつの間にか空になっていた。


「あっ、七渡君」


 七渡を呼ぶ甘ったるい声が聞こえたので、あたしは恐る恐る後ろを振り返った。

 はぁあああ!? かあの田舎娘がこのカフェにやって来たんだけど!

 何なのあいつ……もしやストーカーなの?


「どうして翼がここに?」


「そ、その、クラスメイトの柚癒ちゃんに連れられて」


「どもども、しばゆーでおみの柴田柚癒です」


 七渡を見てうれしそうにしている田舎娘とクラスメイトの柴田とかいう陽気な女。

 この状況に戸惑っている七渡と手で顔を覆い表情を隠している廣瀬。あいつ絶対、この状況を見て楽しんでんだろコラ。


「せっかくだし相席していい?」


「俺はいいけど……二人は?」


 柴田の提案を聞いて、あたしと廣瀬に委ねてくる七渡。余計なことしないでよあの柴田とかいう女め。


「俺は大丈夫だけど地葉は?」


「……別に」


 ここで露骨に断ったら流石さすがに七渡から嫌われかねない。ここは受け入れつつ、あの田舎娘をけんせいしなければ。


「じゃあ、ちょっと広めの席に移動しようか」


 みんなで立ち上がり場所を移動する。あたしは流れを予測し、七渡をソファ席に座らせてその隣に間髪入れずに座る。七渡の隣には座らせない。

 結果的に七渡とあたしがソファ席に座り、七渡の正面が田舎娘でその隣に柴田と廣瀬という席の配置になった。いや廣瀬よ、そこは七渡の正面に座ってよ。空気読めないな。


「ウケる、何か合コンみたいだね」


 ぜんぜんウケないんだけど柴田とかいう女。七渡に色目使ったら許さないんだから。


「じゃあ、合コンらしく連絡先交換タイムしますか」


 くそっ、あの柴田とかいうやつ、場を仕切りたがるタイプの女だ。早速、この時間の主導権を握られてしまっている。


「七渡君、高校生になったし引っ越したこともあってスマホ買ってもらったから七渡君の連絡先教えて!」


 この時間を利用して七渡の連絡先を入手しようとする田舎娘。

 柴田が田舎娘に親指を立てているので、柴田が気を回して連絡先を交換しやすい空気を作ったようだ。

 どうやらあの柴田という女は、田舎娘に協力して七渡への接触をサポートしているみたいだな。世界一、余計なことしかしない女として認定しました。


「いいよ。今からコード表示させるから」


 七渡の返事を聞いた田舎娘は慌ててスマホを取り出した。

 連絡先を交換することに慣れていないのか、スマホをいじりながら戸惑っている田舎娘を見てイライラが募っていく。ムカムカ。


「ほい、これで完了」


「た、たまに連絡しても迷惑じゃない?」


「うん。俺も連絡するから」


「ありがと……嬉しい」


 や、ヤバい、見ていられない。七渡があたしの知らない顔を田舎娘に見せている。それがすごく屈辱的で、机をたたきたくなる。

 そんなあたしを見てか、斜め前にいる廣瀬から落ち着けというジェスチャーをされた。


「柚もみんなの連絡先知りたいから教えて~」


 柴田の一声で、この場にいる全員が連絡先を交換する流れになった。

 柴田は七渡に関心はないみたいだが、自分のことを名前で呼んでいる女にロクなやつはいないと思われるので要警戒だ。


「三人ってどういう関係なの?」


 柴田があたし達の関係を不思議がっているみたいだ。男二人女一人のグループは珍しいと思うので、無理もない話だけどね。


「俺と一樹は中一から同じバスケ部でそこからの仲だな。受験勉強の時になって麗奈と一緒に勉強することになって、そこから三人になった」


 七渡があたし達のめを簡単に説明している。まだ七渡と仲良くなってから一年もっていないけど、あたし達には時間以上に深いつながりがあるの。


「そーなんだ、中学からの繋がりってことね」


 話をまとめる柴田。田舎娘の顔を見ると、何故かあんした顔を見せている。


「柚癒ちゃん、ウチと七渡君は幼馴染で十年間も一緒だったんだよ」


「良いな~幼馴染って。柚はそういう存在いなかったから憧れるよ」


 何あれ、勝利宣言ですか? そっちは七渡と一年も一緒にいないけど、こっちは十年も一緒だったってマウント取ってきてんの? やんのかオラ?


「へぇ~十年も一緒とか長い付き合いだったんだね。七渡から幼馴染の話なんて聞いたことなかったから驚きだよ。特に話す思い出もなかったってことかな?」


 あたしはカウンターを放ち、七渡に会話を振る。あたしの言葉を聞いて田舎娘は少し顔を下に向けていた。


「そういうわけじゃないって、思い出はたくさんあるよ」


「じゃあ何で一つも話さなかったの?」


「聞かれたりとかしなかっただろ」


 話さなかったのは良い思い出ではなかったということだろう。七渡じゃないから気持ちはわかんないけど、そういうことにしておこう。

 だが、大好きな七渡をあまり困らせるわけにはいかないので話題を変えることに。


「二人って彼氏とかいるの?」


 どうせいないだろうけど、いたらいたで安心できるので聞いておいて損はないだろう。


「ウチはいないよ、付き合ったりもしてこなかったから」


 何故か七渡に向けて話している田舎娘。私フリーですアピールをされてしまった。

 その後はあたしに向けて頭を下げてきた田舎娘。別にあんたにお膳立てしてあげたわけじゃないんだけどっ! 勝手に感謝するなし!


「柚も彼氏はいたことないかな……それに恋愛する派より~見る派だから~」


 うざ。それモテない奴の典型的な言い訳じゃん。

 でも、そういう考え方なら七渡に近づかないだろうし安心かも。


「その気持ち少しわかるな。自分が恋愛するよりも、見ている方が楽しいしな」


 廣瀬は柴田の発言に同意している。私は見ているだけなんて嫌だから、何一つ共感はできない。

 その後はみんなとスタバであいのない話を一時間ほどして、解散することになった。

 田舎娘は買い物を頼まれていると告げて、帰り道は一緒ではなかった。

 それにしても疲れる一日だった……まさか高校生活初日から、あたしの平穏を脅かす存在が現れるとは。

 おさなじみだか許嫁いいなずけだか知らないけどさ、七渡を一切譲る気はないんだから。

 これはもう本気で七渡を落とすしかないわね──


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次回:第2章突入! 一緒に登校するなら許嫁? それともギャル? ヒロインたちのアプローチに、七渡はかなり揺れていた――!!

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