2-1 グループ「翼ちゃんとギャルさん、どっちが好みなの?」

   +なな


「母よ、つばさがこっちに引っ越してくることを俺に黙っていた」


 翌朝目が覚めて朝食を食べている時に、俺は翼が引っ越してきたことを知っていたはずの母に問いかけた。


「再会したの?」


「再会したどころか同じクラスだったぞ」


「それはまた凄い偶然ね」


 母親は驚いているが、あまり嬉しくなさそうな表情を見せる。

「それで隠してた理由は?」


「あんたって、こっちに来てからあんまり翼ちゃんの話しなかったじゃない? だから、もしかしたら七渡は会いたくないのかと思ってて。だから、黙って七渡の受ける高校とか今どこ住んでいるかとか教えてた」


「勝手に推測すんなよな」


 俺が翼の話をしなかったのは、あまり翼のことを思い出したくなかったからだ。

 ずっと一緒だった人と離れるのは心に穴が空いてしまうような喪失感があったし、寂しいとか会いたいとか思ってしまえばキリがない状態だった。

 だから俺は忘れることにしようとしていたのだが……翼はまた俺の元にやってきた。


「違うのなら仲良くしてあげなよ」


「当たり前だろ」


「また付き合えば? 翼ちゃんならあんたのこと受け止めてくれるんじゃない?」


「はぁ?」


 母親の勝手な発言を聞いてにらむ。


「あ、そっか、七渡にはあのギャルの女の子がいるもんね」


れいは友達だから」


 麗奈は俺が体調を崩した時に家へ様子を見に来たこともあったので、母親とは顔見知りになっている。

 翼と異なり実際に麗奈が母と顔を合わせたことは数回しかないが、麗奈の派手なギャルの見た目もあって覚えられているみたいだ。


「翼ちゃんとギャルさん、どっちが好みなの?」


「うっさいな」


 俺は気まずくなったので素早く準備をして、逃げるように家を出た。


 ▲


「あっ、七渡君」


「えっ!?」


 まさかの家から出て数秒で翼と会ってしまった。意味がわからない。


「何でこんな場所にいるんだ?」


「ウチの家、そこなの」


「なんとぅ!?」


 どうやら、翼は俺の住むアパートから徒歩三十秒ほどのマンションに引っ越してきたようだ。


「俺のアパートあそこだからな」


「知っとるよ。七渡君のお母さんから教えてもらった」


 俺は住んでいるアパートを指差す。どうやら偶然ではなく、母から俺の住んでいる場所を教えてもらっていたために近い場所を選んでいたみたいだな。


「近いね……うれしい。隣の家だったことを思い出すよ」


「だな。隣ではないが、見える位置にはある」


 翼とまた近くに住めるのは嬉しいな。ここまで近ければ、何か困った時にすぐに駆け付けることができそうだ。


「一人で住んでいるのか?」


「お姉ちゃんと一緒。お姉ちゃんが引っ越す時に七渡君の家の近くが良いって言ったの」


「そうか……」


 翼のお姉さんも来ているということは、近い内に挨拶へ行った方がいいな。子供の時は何度かお世話になったしな。


「あの七渡君、もしよかったら……」


「どうした?」


「やっぱり何でもない。忘れ物思い出したから家戻るね」


 少し挙動不審だった翼。何かを言いかけていたみたいだが、その言葉を飲み込んでしまっていた。

 もしかしたら一緒に登校しようと提案しかけていたのだろうか……

 俺は翼に一緒に学校行くかとスマホでメッセージを送ろうと思ったのだが、約束はしてないが麗奈と一緒に登校する雰囲気になっていることを思い出してちゆうちよした。

 まぁ、俺の思い違いだったら恥ずかしいし、やっぱりめるか……

 俺は切り替えて早歩きで麗奈の元へ向かった。



「おはよー」


 昨日と同様に公園のベンチに座って麗奈が待っていた。

 肩にぶら下げているスクールバッグには、俺が受験前にあげたお守りがぶら下がっているのが見える。

 学問の神様をまつっているざい天満宮で買ってあげたお守り。地元福岡では有名なのだが、麗奈はそんな神社知らんがなと言っていた。


「お、おい麗奈スカート!」


 ベンチから立ち上がり前を歩きだした麗奈だったが、かばん身体からだの間にスカートが挟まっているのかスカートがめくれてパンツが見えてしまっている。

 まさかのラッキースケベで朝から目が覚めてしまった。しかも白黒のゼブラ柄のパンツとかエロ過ぎるだろ、やっぱり麗奈はギャルなだけあるな。


「あっ」


 慌ててスカートを直した麗奈だが時すでに遅しな状況だ。


「見た?」


 青ざめた表情で俺に問い詰めてくる麗奈。


「慌てて目をらしたから大丈夫だ」


「どんな柄だった?」


「ズィーブラ」


「見てんじゃん! しかも無駄に発音良い!」


 怒った麗奈にスクールバッグで優しく身体をたたかれる。


「悪いな、ズィーブラは見逃せなかった」


「まっ、あたしのミスだから気にしてないけど」


 気にしていないと言う割には顔を真っ赤にしている麗奈。第一印象からして照れたりしない人だろうと思ったけど、今思えば麗奈は普通の人以上に照れ屋さんだったな。


「そういえば、翼が俺の家の近くに引っ越してたんだけどさ」


「は?」


 一瞬で不機嫌になる麗奈。元々、人にあまり興味がないのは承知しているが、翼に対しては何故か敵意のようなものが見える。


「麗奈は俺と登校したいか?」


 麗奈の目つきがこわいので俺は一旦話題を変えることに。


「当たり前じゃん」


「そっか、決めてなかったけど俺達は友達だし、そうなるよな」


「うんうん。別に約束しなくても一緒なの」


 一緒の通学路なのに別々に通う方が俺達にとってはおかしいのだろう。いつの家は反対側だから一緒に登校できないけど。


「……翼と一緒に登校したいって言ったら嫌か?」


 俺は気になっていたことを聞くことに。やはり、翼の話題になると麗奈は露骨に嫌な顔を見せた。

 何か翼について誤解でもしているのだろうか……特に翼が麗奈に何かした記憶は俺にはないのだが。


「嫌に決まってんじゃん。七渡だって急にあたしが七渡の知らない男友達と一緒に登校したいって言ったら困るでしょ?」


「そ、そうだよな」


 麗奈の意見には納得だ。今思えば、早過ぎる提案だったな。

 麗奈と翼は同じクラスなので、時間がてば打ち解けあえるかもしれない。その時が来れば、三人で一緒に登校の形になるだろう。


「……拒否られて怒った?」


「いや、まったく。麗奈が駄目と言うなら駄目でいい。友達の気持ちを優先するのは当然だろ」


「そうだよ。あたしと七渡は親友でしょ?」


 自分の意見だけを押しつけてはならないし、行動は慎重にしないとな。

 そうでなければ、つながりや関係というものはあっけなく消えてしまう。

 そう考えるのも俺には苦い思い出があるからだ。

 中学生になった時、同じクラスのメンバーで仲良し四人組ができた。

 俺と一樹とおおつかの男女四人組。部活が無い日はみんなでいつも遊んで、放課後も無駄に遅くまでだべったりしていた。

 このまま四人でずっと一緒にいて、そのまま同じ高校に行って、ずっと仲良く遊んでいるのだろうと当時は思っていた。

 だが、俺と須々木が付き合うことになり、その三日後に須々木が「ごめん、やっぱり付き合うってどういうことかわかんない」と言い出して別れることになった。

 その後は俺と須々木は気まずくなってしまい、一緒にいることができなくなった。そして仲良し四人組はそれぞれ別々の二人組へと分離することに。

 あの時を思い出すと、やはりもっと慎重に行動すべきだったと反省する。別れた時にどうなるかとか考えるべきだった。

 特に男女での関係はすごく繊細な部分がある。ちょっとした行動が大きなゆがみを作ってしまうのだ。

 翼の時だってそうだ。親から許嫁いいなずけだと言われて恋人として見るようになり、関係性に歪みが生じた。結果、仲がこじれる結果に。

 もう俺はそういうことを二度と経験したくはない。

 自分の居場所を失いたくないんだ──


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次回:「それを嫉妬って言うんじゃないの~?」麗奈への気持ちは友情? それとも…。揺れる七渡に麗奈の反応は――?

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