第110話:最後の日常2
サッカーのイベントが行われる日。コロシアムに向かうと、コロシアムは芝が敷かれていて、グリーンのコートが出来上がっている。エントリーをすませて待ち合わせ場所に行くとイーリアスのアキレウス、ミストラル、犬まっしぐら、ゲーム時代に一度だけ一緒になったビタミンというプレイヤーと、色即是空のタケミカヅチ、アンネリーゼ、スチュアートに、個別で声をかけたミズキとリコリスがいた。
「ユニフォーム作ってきたよん」
アンネリーゼから声がかかる。トレードで受け取ったそれは、赤と黒に金色の竜の刺繍の入った、フレイリッグのマントに似たデザインのユニフォームだ。
「ありがとうございます」
皆でお揃いのユニフォームに着替えると、それだけで楽しくなってくる。
「皆、経験はほぼないから期待しないでくれたまえよ」
アキレウスがイーリアスのメンバーに軽く視線を移動させてから、俺に言う。
「俺はすぐ手がでるからキーパーで頼むぜ」
一人違うユニフォームを着たタケミカヅチが言う。
「タケ、言うとくけど常に手使っていいわけやないからな~」
「わはは、まぁ、俺にボールがこなけりゃいいだけだろ」
「とりあえず、4-4-2でポジション決めましょうか。フォワードはセーレと……、他に一名誰かやりたい人いますか?」
皆、首を横に振る。
「いやーシュート入る気せんし~」
とは、アンネリーゼの言葉で、皆その言葉に頷く。
「レオ君でいいんじゃないかい? 僕は守備がいいな」
そんな感じで適当にポジションを決めて、皆でボールを触る練習をコロシアムの隅でする。
「えーっと……、オレ本当にわからないんだけど……」
セーレがボールを持って首を傾げていたのも束の間、しばらくすれば何年プレイしていたんだという雰囲気で、話しながらリフティングしている。
「セーレさん、セーレさん、バイシクルシュートしてください」
スチュアートがセーレに話しかけている。
「なんですかそれ?」
「バク宙みたいな感じで……えーっとね、足が頭より上にくるようにしてシュート」
「皆さん、宙返り好きですね……」
そう言いながらも、セーレはリクエストに応えてその技を行う。
「レオくんもあれやって~」
近くで見ていた、アンネリーゼがおねだりをしてくる。
「いやぁ……あれはどうだろう……」
そう言いつつも、昔憧れたこともあって試しにやってみると、身体はすんなり動いてリクエスト通りシュートができた。
「やっるぅ」
「かっこいいね」
アンネリーゼが手をパチパチ叩いて、隣でアキレウスが頷いている。
正直楽しい。しかし、実際使うとなると使いどころが難しいので、使わなさそうだけれど。
「レオン~。それ俺にも教えて」
「教えるもなにも見たまんまだよ」
「えー」
「じゃー、とりあえずバク宙してみるとか……」
ミズキと話しているとリコリスが紙を持って歩いてくる。
「皆さん、大会ルールおさらいです。各種スキル、武器、特殊効果のついた装備、アイテムの使用は禁止。負傷した際は救護班が回復。交代は3人まで、予選は数が多いため1試合45分のみでアディショナルタイムは……」
リコリスの説明のしばらくあとに予選が始まる。皆、最初こそあたふたしていたものの、センスのいい人が多くて慣れれば危なげがなくいいチームだ。そして、セーレが超人サッカーを繰り広げて予選の今日は余裕で終わった。
試合の後は疲れはあるが、高揚していて楽しい気持ちで、セーレと一緒に帰りながら話す。
話しているセーレも楽しそうだ。
「いやー、しっかし、お前ほんとなんでもできて、見てて面白いよな」
「なんでもはできませんよ。リアルだったら絶対無理ですし」
「そうだなぁ。リアルでバク宙とかはちょっと難しいよな……」
「あ、それはできますよ」
「できるんかい」
お嬢様とは一体。
「リアルのセーレ見てみたいな」
「討伐終わったら会いましょう」
「うん」
セーレが池の前で足を止める。
「どうかした?」
「うーん。オレ、思ったよりリアル帰れるの楽しみにしてるなーって……。思いました」
セーレが嬉しそうに笑っているのを見て俺の頬も緩む。
「それはよかった。でも……フレイリッグが言った言葉嘘だったら、どうしようかなって……。少し不安だなー。すごい人数巻き込んじゃってるし……」
「その時は、別の方法探せばいいだけですよ。他から不平不満が出たらオレが叩き潰します」
「頼もしい」
「最強アタッカー様ですので」
ドヤ顔でセーレが言う。
「はははっ、その通りだけど自分で言うなよ」
「あ、電話番号教えておきましょうか」
「今聞いても覚えられないし、なんで」
「リアル戻れたら状況どうなってるかわからないじゃないですか」
確かに最もな話だ。また、普通にゲームができるとは限らない。
「まぁ……それは、あるな」
セーレが紙とペンを取り出して、さらさらと記入していく。
「一応渡しておきますね。オレの名前検索すれば出てくると思いますし」
「そうなの……?」
渡された紙には、本名と電話番号が書かれていた。
名前は、黒銀悠。
「こくぎん……?」
「くろがねです」
「かっこいいな」
「ハルトさんの苗字は可愛らしいですよね」
「はいはい」
俺も本名と電話番号を書いて、セーレに渡す。
「俺は検索しても出てこないと思うけど」
「はい。シオンさんにも後で聞いておこうかな」
シオンの容姿もリアルでは印象が違うだろう。俺と同い年だが、この世界では少女の姿だ。
そして、一番気になるのはクッキーだ。こちらでは犬でしかないので、想像が全くつかない。
リアルに戻れたとして、一緒に過ごした皆と、どこかですれ違っても気づかない可能性があるというのは、少々寂しい。
翌日のサッカーは準々決勝から始まり、順調に勝ち進んでいった。
セーレとタケミカヅチが人間離れしているのはさておき、慣れてきた他面子も相当よく動く。この世界で戦闘などをしていたからだろうか、反応速度がすごい。
「俺、経験者なんだけどなぁ……」
皆の動きを見てそう思ったものの、楽しいは楽しいので全然問題はない。セーレにはマークが多いので、必然的に俺にもパスはきてシュートの機会は多い。
応援席からは黄色い声援と所々野太い声援が飛んでくる。わざわざ名前を書いたうちわを持ってきているプレイヤーもいた。
決勝の相手はサッカー経験者が多そうなチームで多少苦戦はしたものの、それでも勝利を収めることはできて、結果は上々だった。
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