第98話:始動3
深夜まで掲示板に掲載する内容を詰めて、翌日はそれを持ち込んでアキレウスに確認してもらって、各作業のとりまとめについて相談を行った。
ひとまず、他の街からの参加者の受け入れと、洞窟内の舗装に関してはイーリアスが行ってくれることとなった。
「それじゃ、後は……掲示板に貼りだすのを作って、まずは参加希望者の受付と、他の街への宣伝あたりか……」
「受付窓口はマリンが向いていると思うけど、マリンだけだと不安だな……」
「不安って何よー」
イーリアスの城からセーレとマリンと会話しながら帰っていると、見知ったエルフの女性のが雑貨屋から出てくるところに遭遇する。
「あっ、エリちゃーん!」
マリンがエリシアに手を振って駆け寄っていく。
「ちーっす。両手にイケメンとか、やるじゃん」
「もー、やめてよ~。で、何買ってたの?」
「手芸でもしようかなーって材料買ってた。そっちは?」
「あー、ちょっとイーリアス行ってて~。うーん、エリちゃんって……」
首を傾げているエリシアを誘って、近くの喫茶店に入る。他に人がいないことを確認して、マリンが口を開く。
「エリちゃんは、フレイリッグ討伐するって言ったら来てくれる?」
「なんでまた……。あんたたちチャレンジャーだねぇ」
「うん、フレイリッグ倒したら……元の世界に帰れるっぽいんだよね」
その言葉にエリシアが目を見開く。
「それで、これから討伐企画しようと思ってるの」
「……うん、行く。行きたい」
エリシアがマリンの手を握って、真剣な表情になる。
「え、エリちゃん?」
「だって、ずっと……帰りたいって思って……」
エリシアの瞳からポロポロと涙が零れ落ちていく。
「えっ、えええっ、エリちゃん。どうしたの」
「このまま、家族……ずっと会えないのかなって思ってたから……。少しでも可能性あるなら、あたし何でもする」
「う、うん」
「エリさん、これ」
セーレがハンカチを差し出して、マリンがエリシアの肩を抱いて落ち着かせる。
しばらくすると落ち着いたのか、エリシアが苦笑いを浮かべる。
「あー、みっともな……。ごめんね」
少し鼻声でエリシアが言う。
「ううん。気にしないで」
「ありがとう。うん、それで協力させて。リコさんにも相談しておくね」
エリシアと別れた後で、マリンがポツリと呟く。
「なんか……わたしたち、能天気だったのかな……。こっちも楽しいこともいっぱいあるし、別にいいかなーって思い始めてたけど、そりゃ、こっちですごく寂しいとか苦しい思いしてる人いるはずだもんね……。わたしも最初は、すごく不安だったし……」
マリンの言う通りだ。強く帰りたいと願う人はいるだろうし、この世界が嫌だという人もいるだろう。
「そうだな……。エリさんは子どもいるって言ってたし……帰りたいだろうな」
いつぞや、エリシアが家族の話をした時に少し沈んだ表情をしていたのを思い出す。
「うん。よーし、頑張ろう!」
マリンが気合を入れるように、両手で頬をパンと叩く。
「おう」
今日のところは、交流のあるギルドに皆で手紙を書いて出した。
「明日、これを掲載して……、ひとまず人通り多い時間にカーリスでチラシを撒いて、その後に他の都市にも行きたいな」
俺の発言にセーレが頷く。
「ハルメリアとコルドでは宣伝しておきたいですね」
「そっちは、ウィンダイムで行くとして……。グバルもそれなりにプレイヤー多いけど、こっちは平行して船で行くといいかな」
「ターハイズはイーリアスが船造りに行く予定があるので、そちらに宣伝しておいてもらいましょう」
「うん。えーっと、明日は窓口としてマリンさんとクッキーさん残ってもらって、俺とセーレとモカでウィンちゃん使ってハルメリアとコルド、行けそうならもう少し先まで。シオンさんとバルテルさんは船でグバル行って宣伝してきてもらう感じでいいかな? 製作とか兵器どうするかとかは、ある程度人集まってからで」
特に異論も出なかったので、ひとまずそういう感じで参加者を集めることになった。
翌日、掲示板にフレイリッグ討伐の案内を掲載して、午後にウィンダイムを呼び寄せて、モカとセーレと一緒にチラシを手に取る。今日は籠ではなく、見栄えを重視してウィンダイムの上に乗っている。
「いやー……緊張するなぁ。人集まるかな……」
「まぁ、最悪の場合は雨使える人が48人いれば二十四時間耐久で倒せる可能性も」
「それはないっす、セーレ先生」
「さすがに冗談ですよ」
「よーし、カーリス上空」
チラシを数枚下に落とすと、風に流されて街の外に飛んでいく。
「…………えーっと。ウィンちゃん、もうちょっと高度下げて」
「わははっ、幸先悪いっすね!」
「うるせー。風向きがこっちだったから……。もうちょっと西の方にお願い」
「はーい」
よさそうなポジションについたところで、カーリス上空を旋回しながらチラシを撒いていく。
「いやー。これちょっと楽しいっすけど、リアルだったらゴミどうこう言われてできなさそうっすね」
「そうだなー。飛んでったやつどうなるのかな……」
「ダメージや劣化でいずれは消えると思います」
「ああ、うん……そうだね」
チラシを撒きつつ地上を眺めていると、歩いているプレイヤーがチラシを拾って、上を見上げている姿がチラホラ見える。しばらくすると、他のプレイヤーから知らされたのか、だんだんと家の中からプレイヤーが出てきて、まるで祭りのように人通りが多くなっていく。
「ついでに降りてスピーチしたらどうですか?」
「いいっすね。レオさんがんば」
「えっ、ええっ」
「下降りるの~?」
俺たちの会話を聞いたウィンダイムが聞いてくる。
「いや、降りなくてい……」
「はい。降りましょう。あそこの聖堂の前で」
「はーい」
「待って、ウィンちゃん」
「セーレの言うこと聞く~」
ウィンダイムは、完全に音楽で買収されているようだ。
「待ってー! 話すこと考えてないからー!」
俺の止める声は虚しく、聖堂前にウィンダイムが降りると他のプレイヤーがぞろぞろと集まってくる。
セーレがウィンダイムの背から飛び降りたので、俺も諦めて飛び降りる。モカはのろのろとウィンダイムにしがみつきながら降りてくる。
人が集まるまで話す内容を頭の中で整理し、そして、それなりに人が集まったところで口を開く。
「どうも、お初目にかかる方も多いかとは思いますが、サウザンド・カラーズのレオンハルトと申します。この度は、フレイリッグを討伐したいと思い、討伐参加者や製作等の支援者を募っております。なぜ、フレイリッグ討伐かと言うと、以前、この世界のフレイリッグを見に行った際に、フレイリッグは自分を討伐することができれば、なんでも願いを叶えると言いました。つまり、フレイリッグを討伐できれば元の世界に戻るという望みも叶う可能性があります」
俺の言葉に集まったプレイヤーがざわつく。
「ただ、現在の世界で討伐するのは容易ではないと思い、下準備を進めていました。そして、勝算が高まったため、討伐に向けて募集を開始した次第です。フレイリッグ以外の竜から支援してもらえることになり、マリニアンからはフレイリッグの炎を消すアイテムを、アダマンティアからは支援物資を、こちらのウィンダイムからは直接支援の約束を取り付けています」
俺の言葉にウィンダイムが頷く。
「討伐予定日は、こちらの世界に来てちょうど1年になる、4月22日を予定しております。詳しくは掲示板に掲載しておりますので、そちらをご覧ください。是非、参加の検討をお願いいたします」
俺が頭を下げると、横にいたセーレとモカも頭を下げる。
ざわつくプレイヤーたちの声を背に、俺は再びウィンダイムに乗る。その後から、セーレがモカを抱えてウィンダイムに飛び乗ってくる。ウィンダイムにもたもたと登るモカの姿が絵的に映えないと思ったからかもしれない。
俺が合図をするとウィンダイムは空へと飛び立つ。
「レオさん、意外とすらすらと喋るっすよね」
「まー。会社で、たまにプレゼンとか発表とかしてたから多少はね……」
「これが社会人ってやつっすか……。働きたくない」
モカがげんなりとした表情で言う。
「リアル戻れたら、いずれは働かないとだぞー」
「へへっ、そうっすね……」
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