第五章 最終決戦

第96話:始動1

 セーレと、フレイリッグ討伐の相談を軽くした翌日。ウィンダイムに運ばれてカーリスを目指す。

「ウィンちゃん。先にカーリスの手前にある港に寄ってくれない?」

「はーい。あ、違う。畏まりました」

「……変なもん食った?」

「いいえ、オールグリーン。至って正常の極みです」

「うん。日本語なんか変だよ」

「私、ウィンダイムは心を入れ替えたから、セーレ様バイオリンをお聞かせよろしくください」

 なるほど、そういうことか。

「……アダマンティアに何か言われたのですか」

「そ、そうでございますが、マリニアンの海より深く反省しておりますので、最初の非礼はごゆるし? お許し? ください」

 ウィンダイムの妙な日本語にマリンがぷっと吹き出す。

「とりあえず、その変な喋り方やめてください」

「ええっ……」

「弾いてあげますから……。その代わりに、後でちょっとお付き合いくださいね」

 セーレが薄く微笑む。

「わーい。なんでも付き合う!」

 何に付き合うのか。事情を知っている俺は胸が痛い。


「バイオリン楽しかった~」

 海を渡って港に降り立つと、ウィンダイムは上機嫌だ。

 港の周辺には、幸い他のプレイヤーはいないようだ。まぁ、海に来たくなるような季節でもないからいなくて当然とも思える。

「それでなーに?」

「ええ、少し的になってください」

「まと……?」

「攻撃の的です」

「え、ええっ?」

「殺しはしません。少しだけですから」

「えええっ……痛いのはやだぁ」

「終わったら、もう一曲弾いて差し上げますよ。なんなら歌もつけてもいいです」

「歌……! うん、わかった」

「いいのかそれで」

 引き受けてくれるのは助かるが、あっさりと引き受けたウィンダイムに思わずツッコミを入れてしまう。

「では、そこで待っていてください」

 セーレが港から少し離れたウィンダイムを浜辺に立たせて、バルテルにバフを要求してから船の中に消えて行く。

「何するの……?」

 シオンが首を傾げている。

「まぁ……すぐわかるよ」

 しばらくすると船から、ドンと大砲が発射される音がしてウィンダイムが悲鳴を上げる。

「いったーい!」

 さらにもう一発大砲が発射されて、ウィンダイムに当たる。

「うわーん、痛いよー!」

 ウィンダイムのHPに変動は見られないが、竜のHPは膨大なので一発でどうこうというレベルではないだろう。

 しばらくするとセーレが戻ってくる。

「お、終わり?」

「いいえ」

 セーレが大剣を抜いてウィンダイムを斬りつける。

「やーん」

 数発攻撃をした後でセーレは大剣をしまう。

「ありがとうございました。もういいですよ」

「う、うん。お歌ください」

「マリン、ギター貸して」

「はいよ」

 マリンからギターを受け取ってセーレが歌っているのをしばらく皆で眺める。

「セーレさん、楽器得意っすよねぇ……」

「まーねぇ。楽器もだけど、運動神経もいいし、頭もよくて中高で首席だったし、天才ってやつだよ」

「まじっすか……」

「うんでも、一般常識は落第」

「そうっすかね……?」

「この世界だと知識あるからマシに見えるだけで、リアルはダメだよ……。ちょっと前まで、電車も一人で乗れなかったもん……。初めて一緒に旅行行った時は何から何までダメだったよ。飛行機の予約の仕方もわからないし、そもそも空港に一人でたどり着けないし、ホテルついても首傾げてたし、泊まるつってんのに着替えも持ってこなかったし、現金持たずにクレカしか持ってきてないし……。あー、前のゲーム買う時も買い方がわからないとかで……」

 マリンがべらべらと喋りまくっていると、歌い終わったセーレが大股で歩きながらマリンのところに来る。

「マリン、やめて」

「えーっ。可愛いエピソードでしょー?」

「だいたい、常識ないって言うならマリンだって、ウニとかイクラがあの状態で海泳いでるって思ってたでしょ?」

「いやいや、それ小学校の時の話だよね!?」

「はいはい、ストーップ」

 二人の間に割って入る。

「はーい」

「はい」

「それで、セーレ。大砲はどうだったの?」

「ダメログ確認しましたが、弱点属性の大砲ならなかなか威力ありますね。オレの通常攻撃の倍以上あります。ただ命中率と攻撃速度でどこまで使い物になるかはわかりません」

「そういえば、ダメージログなんてあったねぇ……」

 シオンが呟く。表示項目にあるにはあるが、この世界ではノイズになるので基本的にオフだ。

「確認したってことは、フレイリッグで使うのかね?」

 バルテルが船に視線を移す。

「ええ」

「フレイリッグの物理攻撃の射程外から攻撃できそうだし、船から取り外して運び込めたらなーって。もうちょっと数あった方がいいから、他のギルドにも作ってもらって……。って思ってる。とりあえず、試しに一つ持っていって移動してみようかなって」

 装備品は、所有者からある程度距離ができるとインベントリに戻ってしまう仕様なので、大砲も船から持ち出すとどうなるかわからない。

「でも、大砲撃ったら流れ弾で近接に被害いかないっすかね?」

「俺はそのまま頑張って、他も耐えられそうな人か避けれそうな人を編成……とか」

「脳筋思考はやめるっすよ」

「オレはいいと思いますけど」

「この人が首席は嘘でしょ!?」

 モカがセーレを指さしながら言う。

「フレイリッグは大きいですし、対角線上に立てばそれほど被害ないと思いますよ」

「そう言われると、そうかもしれないっすけど~!」

「まぁまぁ、まだ戦略とかしっかり決まってないし、その辺は追々」



 大砲は空から運ぶにはかさばるので、モカたちが馬車でカーリスまで運んでみると言い、俺はセーレとマリンと共にウィンダイムで一足先にカーリスの城へ向かう。

「ウィンちゃん、一つ頼みがあるんだけど」

「なぁに~?」

「喋ると威厳ないから、俺たち以外の人間とは喋らないでくれないかな?」

「えーっ、ひどい。けど、まぁいいよ~」

 あっという間にカーリスの街並みが見えてきて、城まで飛んで行く。

 城に着く頃には、イーリアスのメンバーが気づいたのか、ちらほら外に出てきていて武器を構えているが、先制攻撃をしてくるような素振りはない。

「中庭に下ろして」

「はーい」

 城の入口にはアキレウスとメロンの姿が見えて、マリンが二人に手を振る。

「やっほー」

 アキレウスは怪訝そうな顔をして、メロンは目をぱちくりさせている。

 中庭に到着するとアキレウスが歩いてくる。

「そちらは見たところウィンダイムのようだが、これはどういうことかな?」

「フレイリッグ討伐に協力してくれるって」

「それはそれは……」

 アキレウスがじっくりとウィンダイムの様子を見ている。

「君たちを運んできていたし、嘘ではなさそうだが……。気前のいいものだね」

「色々とあって」

「まぁ、立ち話もなんだし中へどうぞ」

「ここで待ってて」

 そう告げると、ウィンダイムは頷いてその場に丸くなる。

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