第55話:雪血華3
どれくらい眠ったのか、周囲が慌ただしくなって目を覚ます。外は薄暗く、明け方近くのようだ。
いつの間にかバルテルが隣で寝ていて、かわりにタケミカヅチが起きていた。
「何か……動きありましたか?」
近くで寝ていたセーレも音に気付いたのか身体を起こす。
「まだ報告はねぇが……」
タケミカヅチが椅子から立ち上がって、扉の前に行こうとするとそれより先に扉が勢いよく開く。
「敵影接近中! 総員、出撃準備!」
まだ寝ていた皆も全員飛び起きて、その場に一瞬で緊張が走る。
「各パーティーまとまって移動!」
メロンが声を張り上げる。
慌ただしくも皆で中庭まで行くと伝令が叫んでいる。
「敵主力と思われる一団接近中! ディミオスを見かけたとの報告あり。城内配置! 正門集中!」
正門まで走っている間に、見張り塔から悲鳴が上がって、その後に城壁の上からもざわめきが上がる。攻撃を受けた、という感じではない。
「ウソでしょ!?」
マリンの声が聞こえる。
「何があった!?」
問いかけると、ミストラルが城壁の上から飛び降りてくる。篝火に照らされたミストラルの顔は青ざめている。
「敵の兵器……ガトリング砲らしきもの一台確認……」
ミストラルの言葉に、近くにいたプレイヤーは皆息を飲む。
「威力は?」
すぐさまセーレがミストラルに駆け寄って行く。
「レベル90台のプレイヤーが三秒と持たない様子です……。ヒーラーが近寄れずにリザできません。申し訳ありません、あのようなものを開発していたなんて僕も……」
「ガトリング以外の敵の編成は?」
俺も駆け寄って聞きに行くと、姿は見えないがクッキーの声が上から聞こえてくる。
「ディミオス含むパラディンが十五、ヒーラーもしくはウィザードおおよそ三十、銃兵が二十、クラス不明が二十。東西からも敵多数接近中です! 新たに大砲が四!」
「総員攻撃開始!」
城壁にいるメンバーはすぐさま攻撃を始める。
「ガトリング撃破できません! 盾スキルで妨害されます!」
城門から外を見ると、黒いシルエットの一団が徐々に近づいてきていて、その前に味方がゴロゴロと倒れている。そして、ガトリング砲から火花が散ったかと思えば、城門の外にいて逃げ遅れたプレイヤーのHPが一瞬で消し飛び、また死体が増える。ガトリング砲はとんでもない威力だ。
あれが、中に入ってきたら崩壊する。
「オレが……」
「ダメだ!」
飛び出そうとしたセーレの腕を掴んで囁く。
「いくらお前でも、あそこに行ったらやられる。それに、ここでお前がやられたら皆の士気が維持できない」
「……っ。では、どうしろと……」
考えろ、考えろ。
あれを撃破する方法を。
遠距離職がガトリング砲に向けて攻撃をしているが、敵パラディンによるターゲットを強制的に変更するスキルに妨害されて届かない。敵パラディンの人数は多く、絶えずローテーションでヘイトコントロールを行っているため、ガトリング砲に攻撃を当てることは至難の業だ。
大砲をぶつけたとしても、あの数のパラディンがいれば防がれてしまうだろう。
では、周囲を殲滅する方法はどうか。
パラディンから倒そうにも敵ヒーラーが多く、すぐに回復されてしまう。
しかし、ヒーラーから倒そうとすれば、ガトリングと同じく敵パラディンに妨害されて届かない。
では、あれを通さない方法……。
城門はすでにない。
ガトリング砲にも耐えられるような壁は……。
「ミストラルさん、機関銃の弾は有限ですか?」
「……ええ。弾らしきものが見えていました。しかし、かなりの量かと……。インベントリや、視認できない場所にストックがあるかもしれませんし……。すみません、僕も上に戻ります」
駆けだして行くミストラルの背中から視線を外して、城門の外に移動させる。移動速度はあまり早くないが、敵は着実に迫ってきている。
皆、どうするんだ。と、ざわざわとしている。
誰からも、いい案は出ない。セーレでさえ渋面で考え込んでいる。
ならば、言うしかない。
「聞いてください!」
俺が声を張り上げると、皆がこちらを向くので、思いついた作戦を口にする。
「俺が城門のところで、敵の弾が尽きるまで盾になります」
「いや、いくらパラでもあれの相手はスキルなしじゃ無理だ」
タケミカヅチが首を振る。
「はい。なので、パラディンの方」
俺の言葉に十名弱のパラディンたちが恐る恐る一歩前に出る。
「順番に、俺にファランクスを回してください。あと、ヒーラーのディヴァインウォールも俺にください」
「……え?」
きっと、順番に前に出てくれと言われると思っていたのだろう。皆、ポカンとした表情をしている。
「たぶん、今ここにいる中では俺が一番防御力高いです。自前の緊急回避スキルも合わせれば、この人数ならファラをローテできるはずです。もし、ガトリング以外の敵が入ってきたら、その時はそちらを対処お願いします。待機中のヒーラーの方は俺にヒールください」
言った自分でも、少し声が震える。
「本気っすか……?」
俺より震えた声でモカが見上げてくる。モカの隣にいたシオンも困惑した表情で俺を見ていて、バルテルも険しい表情をしている。
「あれが中に入ってきたら終わりだ。アキさんでも耐えられない。負ける」
「確かに……。あれに、むやみに突撃しても戦力が減るだけですが……」
セーレが苦々しく吐き出す。
「レオさんが……やる必要ないと思うっす」
暗い表情でモカが言う。
「アキレウスさんじゃ、ダメなんすか? なんで……レオさんが」
「アキさんを呼びに行っている時間は、もうない」
「でも……」
「心配してくれて、ありがとう。モカ」
俺がそう言うとモカはそれ以上何も言わなかった。
「バルテルさんパーティーリーダーお願いします。タケさんとシオンさんにパーティー抜けてもらって、順番に盾とヒーラー入れてもらっていいですか。メロンさんは他のヒーラーに指示お願いします。セーレはファラのタイムキーパーをお願い」
三人が頷く。
話している間にも、ガトリング砲は台車に乗せられてゆっくりとこちらに向かってきていて、形がはっきりとわかるようになってきている。
「レオさん」
「何?」
「これ、使ってください」
セーレがトレードを要求してくる。表示されたのはフレイリッグのマントだ。
「ディレイ短縮がついているので、どうぞ」
「……サンキュ」
セーレから渡されたフレイリッグのマントを身に着けると、背中に赤いマントが翻る。
なかなか心強いお守りだ。
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