第18話:緑の襲撃者1
「じゃ、情報収集は俺とセーレさ……セーレで行くか」
「はい」
昨日あんなことがあったので、モカとシオンは待たせておいた方がいいだろう。
「あっ、昨日のことなら大丈夫っすよ。ボクも行くっす」
「ええーっ、モカちゃん行っちゃだめぇ~」
モカの後ろからアンネリーゼが抱き着く。
「ちょ、ちょちょちょっ何っすか」
抱き着かれたモカは顔を真っ赤にしてジタバタしている。
「ちょーっと製作の人手が足りないから手伝ってほしいなーって」
「そ、そういうことなら……」
「シオンちゃんもお願いできる?」
「わ、私、製作スキル全然で……」
「基本加工で人手が欲しいだけだからNPNP」
「は、はいっ」
アンネリーゼがこちらにウィンクを飛ばしてくるのに頭を下げて、セーレと共に外に出る。
「さてと、情報収集はどこがいいかな」
「門付近がいいですかね。出入りしているプレイヤーやNPCに聞いてみましょうか」
「オッケー」
昨日入ってきた正門とは違う門に向かって歩いていると人だかりがある。
「あれは……?」
合間から見えるのは複数の掲示板らしきものだ。プレイヤーが多いということは何か情報があるのだろうか。
「なんでしょうね。行ってみましょうか」
「おう」
近づけば、いくつかの種類に分かれて張り紙がされている。コマンドリストに、周辺の危険情報、プレイヤー同士の伝言板だ。伝言板にはギルド名とプレイヤー名と用件が書かれている。だいたいは「別の街に行きます」「ギルドハウスで待ってます」と言った伝言だ。
「なるほど」
「俺、街の周辺の情報メモしておくね」
昨日買ったメモ帳にこれからの進路に影響しそうなところをメモしていく。セーレは伝言板を眺めてから、しばらくして伝言板の端に置かれていたメモ用紙を取って記入を始める。
「何書いたの?」
覗き込むと『ギルドハウスに向かいます。ギルメン2名と他1名も一緒です。レオンハルト』と書かれていた。
「なんで俺の名前?」
「すみません。オレの名前ちょっと……。恨み買ってる人もいると思いますし、あまりよくないかと思いまして」
「ああ……。そうか」
さすがにセーレを付け狙うようなプレイヤーはいないと思うが、厄介ごとを持ち込まれる可能性はなくはない。昨日絡んできた輩の件もあるし、確かに伏せた方が無難かもしれない。
「とりあえず道の方は正常みたいだけど、一応東門の方にも行ってみるか」
賽の目状に区画整備された街は大通りを歩いていれば迷うこともなく、門は少し高くなっているので遠目にもわかりやすい。
東門も人の出入りは多く、そこかしこにプレイヤーの姿がある。
「すみませーん、カーリスの方から来た人いませんか?」
少し声を張り上げて叫んでみると、「はーい」と塀に座って休憩していたドワーフのプレイヤーが手を上げる。
「何か変わったことありました?」
「特にないかなー。結構時間かかるからご飯と暇つぶしの道具持って馬車がいいと思うよ。地図で説明するね」
「はい。お願いします」
ドワーフがシステムのマップとは違う、取り出して見ることができる地図を広げる。
「えーっとね。泊まれそうな村はこの辺かな」
ドワーフがシステムのマップにない村をいくつか指さす。
「ここの村も厩舎に馬車止まってたから使えるんじゃないかな。ああ、雨の日は移動速度下がるみたいだから急ぎじゃないなら無理に移動しない方がいいと思う。寒かったし……」
「ありがとうございます」
「ほいほい。よい旅を」
ドワーフのプレイヤーは手を振って街の中に消えていった。
「まぁ、移動は大丈夫そうだな」
「そうですね」
俺の言葉に相槌を打ったセーレが、何かに気付いた様子で周囲を見渡す。
「どうかした?」
「ええ、何か変な音が……」
「うん? 外?」
確かに、少し周囲の音に耳を傾ければ、馬車や馬とはリズムの違うドンッ、ドンッという地面を振動させるような音がする。
「なんだろう?」
奇妙な音はだんだんと近づいてきていて、周囲のプレイヤーも気づき始めたのかキョロキョロしている。しばらくすると門の方から悲鳴が上がって、外から街の中に人が雪崩れ込んでくる。
街の中の人は、まだ状況がつかめていなかったが、門の隙間から見えた光景に慌てて逃げ出していく。
見えたのは、巨大なオークだ。雑魚とは違う大きさなのでどこかのレイドボスだろう。
緑色の巨大な身体で、手には刃の部分が大きいハルバードを持って鎧を着ている。
そのオークが馬に乗ったプレイヤーを追いかけて走ってくる。
「あれはレイドかな……? 見たことある?」
「いえ……少し先にオークがいる狩場はありますけど、レイドはいなかったはずです」
通常、モンスターは一定距離離れると元の場所に戻っていく挙動になっているはずだが、オークはまだプレイヤーを追いかけてきていて、門に迫っている。
「誰か助けてーっ!」
オークに追いかけられるモッフルの姿が、初めて会った時のシオンの姿と重なる。例え見ず知らずのプレイヤーでも見捨てるのは後味が悪い。
「行こう」
他プレイヤーが逃げ出して、がらりと人がいなくなった通りを走る。振り返らずともセーレなら一緒に来るだろうと、レイドに向かって一直線に走る。
馬に乗っているのは白いウサギの姿のモッフルで、ローブを着ていることから後衛だろう。オークのハルバードが振り下ろされ、それが馬に当たる。攻撃を受けた馬は逃げ出し、モッフルはオークの前に放りだされる。
「セイクリッドチェーン!」
しかし、引き寄せ効果はレジストされて、オークは引き寄せられてこない。
「ブリリアントオーラ!」
二つ目のスキルを当てるとオークの剣がモッフルに当たる直前で止まり、こちらに攻撃の対象を変えてくる。身の丈五メートルはありそうな巨大なオークだ。
「レオさん、離れたとこ引いて!」
追われていたモッフルは恐怖から腰が抜けたのか、地べたを這うようにヨロヨロと移動している。このままでは巻き込みかねない。
「ごめんね」
セーレが謝りながらモッフルを抱きかかえてから門の方へ投げ飛ばす。少々荒っぽい扱いだがオークの攻撃に当たるよりはマシだろう。それからセーレは大剣を抜いて、オークに突進攻撃をする。
オークの振り下ろしたハルバードを盾で受けると、ガンッと衝撃が走って手に痺れがくる。重い。少し前に戦ったリザードマンとは比べ物にならない一撃だ。
「やっば、結構強いかも」
それに敵のリーチが長すぎて、こちらから攻撃することは難しい。
「ごめん、デバフ入れられそうにない。守備専念するからお願い」
「お任せください」
セーレが力強く返事をする。迷いがないのは頼もしいが、少々心配にもなる。
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