第6話: 火竜討伐1

 気軽に。と言われても、翌日の昼からそわそわとログインする。少しでも防具をグレードアップできないかと思い、競売を眺めるも目当てのものは見当たらない。

「何か探しとるの?」

 ちょうど近くにバルテルがいたらしく、話しかけられる。


「スヴェル装備を。あと頭と足なんですけど売ってなくて……」

「ああ。頭はレアじゃからね」

「ですよねー。前見かけた時は手持ちがなくて……。まぁ、今もそこまでお金ないですけど、足揃えば運用できそうだから、足だけでもないかなぁって」

「スヴェル重の足ならございますよ。50Mでいかがでしょう」

 会話を聞いていたらしいクッキーが割って入ってくる。

「是非!」

 相場より安めの良心価格だ。

「ではギルドハウスで、お待ちしております~」

「はーい」


 ギルドハウスに移動すると、大広間でクッキーが待っていた。クッキーは、ギルドハウス内ではだいたい割烹着を着ていて、今日もその装いだ。

「お願いします」

 トレードウィンドウを開くと、防具とともに料理が一緒に並べられる。一定時間最大HPがアップして継続回復がつく料理だ。盾には嬉しい。

「これは?」

「スキル上げで山ほどできましたので、使ってください」

「ごちそうさまです」

 渡す金額を入力して決定を押す。

 頭以外の部位は手元にあったので、さっそく着替える。

「おお、お似合いでございます」


 クッキーに褒められた防具は、白と金を基調にしたデザインの鎧だ。白い鎧は聖騎士っぽくてテンションが上がるな。と、腕を組んでうんうんと頷く。


「クッキーさんは、何か欲しいものありますか? 素材とか……」

「七色鳥の卵と、エールリッグハーブがございましたら買い取らせていただきたいです」

「はい! あまり数はありませんが、取ってきますね」

 料理は消費アイテムとしては便利ではあるのだが、なかなかそちらのスキルを上げる時間もなく、ある程度上げたところで止まっている。

「お取引ありがとうございました」

 クッキーは、ペコリと頭を下げて調理場へと消えていった。

「こんー」

 マリンがログインしてきたので挨拶をする。

「セーレいないー?」

「日曜のこの時間は、だいたいジムでございますよ」

 クッキーが答える。

「あ、そっかー」

「あの人、リアルでも鍛えてるんですか?」

「鍛えてるっていうか、身体を動かしにいっているというか」

 ジムは場所によってだいぶ毛色が違うから、雰囲気からしてライトなジムの方なのだろうか。俺も一時期通っていたが、一度途切れてしまってそこから行かなくなってしまった。

 それにしても、セーレは自由な時間はゲームしかしていないのかと思っていたから意外だ。


「わたしも運動しないから行こうかな~。って思うけど、思うだけだよね~」

「わしもわしも。おかげさまでぜい肉たっぷりよ。さっきビール開けたしダメダメ」

 ドワーフの見た目で発言されると、とてもリアルな発言である。

「それで、狩りとか行く予定じゃったの?」

「いやー。コスの合わせしてくれる人探しててさー。セーレしてくんないかなぁって……」

「セーレくん、前に一回連れていかれた時、イベントはもう嫌って言ってなかったっけ」

「今度はスタジオ借りるから~」

「コスプレかぁ……」

「えっ、レオくん興味ある?」

「いや、モカもやってるって言ってたなーって」

「おおっ」

「こんちわー。なんか名前呼ばれました?」

 モカがちょうどログインしてくる。

「タイミングいー。モカちゃんコスプレするって?」

「え、ええっ。するっすけど」

 それから、よく知らないアニメのよく知らないキャラの名前を言い始めるマリン。

「あー、僕微妙っす。身長低いし童顔だし……」

「そっかー。あ、でも他のキャラで~」


 二人が盛り上がり始めたが、話についていけないのでピザの配達クエを始める。まぁ、楽しそうでなによりである。

 配達を終えるとスキル付与アイテムが出て、試しにブーツに使うと移動速度アップがついた。

「おっ、ラッキー」

「レオくんレオくん、ヘルム売ってるよ」

 まだ競売を見ていたらしいバルテルから情報を得て向かったものの……。

「600……か。今の手持ちじゃ無理だなぁ。今の防具売っても足りないかな……」

 ヘルムは高いものの、だいたい相場くらいの値段だ。当分値下がることもないだろう。下手すれば値上がる。

「代わりに買っておこうか? 後日返してくれれば問題ないよ」

「ま、まじですか? じゃあ、お願いしちゃおうかな……。とりあえず300Mなら今すぐお渡しできます」

「ほいほい。ポチっとな」

 バルテルに代行してもらったものを受け取ってさっそく装着すると、セット効果が発動してステータスが大幅に上がる。

「おおー。すげー」

 本来なら間に挟まったはずのレベル90の装備を飛ばして、ワンランク上の装備になったことにより、数値を見ているだけで楽しい。

 さっそく以前着用していた装備をNPCに売るよりいくらかマシな程度の価格で競売に流して倉庫整理を始める。ある程度整理してしまっていたので微々たるものではあるが、借りたからには少しでも早く返さねば。



 軽くダンジョンに行ったりして、フレイリッグ討伐の集合時間が近づき、ばらばらと石像の前に集合し始める。

「あれ、セーレさん装備いつもと違うんすね」

「フレイリッグ用に強化しましたので」

 セーレを見ると白いロングコートを羽織ったスヴェルの軽鎧になっており、いつも黒づくめなのでずいぶんと印象が違う。武器も氷でできた青い大剣で、確かフィンブルという名前のレア武器だ。

「装備、複数あるんっすか……」

「あまり出番はありませんがPvP用のもありますよ」

「ソロでPKギルドを壊滅させたという噂の?」

「あれは……、たまたまLAが全部オレだっただけで、他にパーティーメンバーもいたので正しくはないですね」

 LAとはラストアタックで、レアモンスターやプレイヤーを倒すと周囲にログが流れる仕様があり、それで勘違いされたということか。

「強いのにあまり戦争は出ないんっすねぇ」

 聞いた話ではイーリアスの助っ人で戦争にでているらしいが、俺やモカが参加していたような低いグレードの戦場では見かけたことはない。

「そうですね。面白そうな相手の時だけ参加しています。っと、そろそろ編成開始時間です。掲示板に編成書かれているので、各自パーティーリーダーに従ってください」


 モカとクッキーはウィザードパーティー、マリンとバルテルは弓パーティーに配属されていて、俺とセーレは主催パーティーだ。なぜ俺まで? と、疑問に思うものの、憧れていたアキレウスが同じパーティーなので楽しみだ。

 そして、そのアキレウスからパーティー勧誘が来る。

「よろしくお願いします」

 緊張しながら挨拶をする。

「よろー。レオさんレベルようあがったなー」

「よろしくですー」

 同じパーティーに、以前一緒に狩りをしたヒーラーのエリシアと、バッファーのリコリスがいた。そして、主催の盾であるアキレウスと、初対面のアサシンとヒーラーが各一人ずつ。

「はじめまして。レオ君はサブタンクでよろしくお願いするよ」

「はいっ……!」

 アキレウスが、よろしく。と言った風にお辞儀のジェスチャーをするので俺もそれに倣う。


 アキレウスの装備はスキン付きなので何を装備しているのかはわからなかったが、スキンはスヴェル装備とはまた違ったプラチナのフルプレートアーマーで、短く刈り込まれた金髪に城主の証であるサークレットをつけていて、背中には金の刺繍が施されたレア物の白いマントが翻って威厳がある。手にはクラウ・ソラスという光輝く剣が握られていた。

「レオ君は、タゲを取らない程度にヘイトを稼いでおいてほしい。行動は僕たちもまだわかっていないところが大半だからね。今日は一緒に楽しもう」

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