第58話 叱られる

 ローグの電気ショックを浴びたリオルは尻もちついた。ついでにミーラも同じ目に遭った。


「くっ、何をする!」


 リオルはローグに突っかかるが、ローグも怒鳴る勢いでリオルを説得する。


「落ち着け! ミーラは魔法で十分調べてくれたんだ! 後は直接中に入って見て聞いたほうがいい! 思ったよりもややこしいことになってるみたいだしな」

「! それは……!」

「そ、そうですよ。これ以上はここからじゃ何も分かりません。怖いけど中から調べたほうがいいと思います」


 ミーラでさえ、リオルに意見を述べる。流石にリオルは動揺しすぎたことを理解して落ち着き始めた。


「……分かった、それもそうだな。城で何が起こってるか分からないが、追われる身になっても私は皇族の一員。動揺して焦ってる場合ではない。いや、私こそが冷静になって対処しなければならないんだ!」

「そうですよ、リオさん!」

「では、早速城に入るとしよう。お前たちついて来い」


(何回もその冷静を失ってるけどな)


 どうにかリオルを落ち着かせたローグは、リオルのセリフに多少呆れながらも上手くいったと思った。だが、ここで馬鹿正直に正面から行く気はない。


「それよりも上から城に入ろうぜ。下は込み合っているみたいだしな」

「何? 上からだと? どうするつもりだ?」

「ええ?」

「リオさん、あの窓から入ったら皇族の部屋まで近道で行けるか?」


 怪訝そうに見るリオルに対して、ローグは城の上のほうに設置されたベランダ付きの窓を指さす。その窓を見たリオルはこう答えた。


「……近道も何も、あれは妹のサーラの部屋の窓だ。だが、それがどうしたというのだ? まさか、登っていくつもりではあるまいな?」

「さ、流石にあそこまで登るのは、ちょっと……」


 二人が微妙な顔をする中、ローグはドヤ顔で違った方法を示す。


「そんなわけないだろう。もっとも、最初にあそこに行くのは間違っていないがな」

「「え?」」

「まあ、しっかり捕まってろよ? いや、この場合は俺のほうがしっかり掴んでおく必要があるのか」


ガシッ ガシッ


「「!?」」


 そう言うとローグは、ミーラとリオルの二人の腰ををしっかり抱き掴んだ。第三者が見ればまさに両手に花だ。二人はいきなりのローグの行動に顔を赤くして驚いた。


「ふ、ふわあ!? な、な、な、何をするんだあ!?」

「えええええ!? ちょ、ちょっとお!?」

「行くぞ! 【昇華魔法】『身体昇華・脚力』! えい!」


ダンッ!


「「きゃああああああ!!」」


 ローグは二人を抱き掴んだまま跳躍した。向かう先はもちろん、第二皇女サーラの部屋の窓だ。事前に何も聞かされていない二人は派手な叫び声を上げてローグの首元にしがみついた。もっとも、その声に気付いた者は帝城にいなかったことが幸いだった。




帝城・第二子皇女の部屋・ベランダ


ドンッ!


「ふう、着いたぞ。もう、首元を放してくれ」

「「…………」」


 三人は無事に目的のベランダ付きの窓の前に着陸した。ミーラとリオルはゆっくりとローグから身を離していく。そして、二人はそろってローグを睨みつける。


「? おい、どうかしたか?」


 心配して声を掛けたが火に油を注ぐような行為だ。


「無礼者! 一体なんてことしてくれるんだ!」

「ええ!?」

「怖かった! 怖かった! 怖かった! 怖かったよ~!」

「うおお!?」


 リオルは怒り狂い、ミーラは膝を曲げて泣き出してしまった。


「どんな思考があれば、地上からここまで跳んでいこうなどと思うのだ! 頭おかしいんじゃないのか!?」

「そんなことするなら先に行ってよ~! 怖かったんだよ~!」

「す、すまん……」


 リオルは怒りを込めて、ミーラは泣きながら、それぞれ違った方法で文句をぶつける。流石のローグも女性二人の非難を受けて反論できなかった。


「お前には常識的な考え方はないのか! 女二人を抱えてここまで跳ぶなど、何か起こった時どうするつもりだったのだ! そもそも、よくここまでたどり着けると思えたな!」

「そ、そりゃまあ、俺の魔法なら、身体を強化して飛び上がっていけると思えるし、計算通りに行けたから、もう……」

「ふん! やっぱり魔法頼みか! これだから魔法持ちは力を持てば何でもできるなどと思い上がるのだ!」

「リオさんの言う通りだよ、今度だけは……グスン」

「うう……」


 この時ばかりはミーラも賛同してくれそうにないようだ。あれだけローグに付き従ってきた少女にまで非難されれば、ローグも反省せざるを得ない。


(はぁ、失敗したなあ)


 ここまで言われてローグも非常識な行動をしたと気付いた。気付かないうちに自分は魔法に毒されて常識から逸脱して異常な存在になりかけていたのかもしれない。この時、本気で危機感を覚えた。


(まあ、【外道魔法】は精神力が試される魔法だからな。俺は前世の記憶もあるから、そっちが上手くいけると思っていたが、これからはもっと気をつけないとな)


 ローグの【外道魔法】は強力で応用もきくが、負の感情や悪意を力の源にしていることもあって、使い手にそういう感情を増幅させる効果もある。ローグもそれを承知で使ってきたが、「常識がない」と言われれば戦闘以外は控えたほうがいいかもしれない。


(もっとも、それはこの後の戦いが終わった後でじっくり考えるか。今は戦いに混ざってもいないし)0


 とりあえず、今は怒りで騒ぐ二人を沈めて先に進む必要がある。ローグは反省の言葉を伝えて、第二皇女の安否を催促する。


「ストップストップ! 分かった! 反省した! どうやら、俺自身も強力な魔法をもって思い上がったことはよ~く分かった。だけど、今は他にやるべきことがある。そうだろう?」

「おい! 話を無理矢理逸らすな!」

「ここが第二皇女様の部屋で間違いない、そうだよな?」

「! くっ、そうだったな……。その通りだ間違いないが、サーラはいないのか? 私達がここで騒いでも様子を見に来ないなんて……」

「え? でも、気配は感じますよ? リオさんに似た魔力の持ち主が……」

「とりあえず中に入ろうぜ。暗殺者共の言っている言葉が本当なら、ちょっと面倒なことになってるしな」

「そうだな、中に入るぞ」


 三人は窓から部屋に入っていく。

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