第57話 皇女の動揺
ローグ、ミーラ、リオルの三人は帝城に向かっていた。この少し前に、殺者たちから話を聞いてリオルがいてもたってもいられなくなって帝城まで飛び出してしまった。一旦、ローグがリオルを羽交い絞めにして動きを止めた後、どうするか話し合った結果、上手く帝城に侵入して第二皇女サーラに会うことに決めた。
帝城は、帝都の中央に建つ大きな城で帝国の象徴のようなものだ。その大きさは王国の王城よりも大きくて頑丈な造りになっている。警備も厳重になっており、周りの堀も深い。皇族もこの城に住み政を行っている。つまり、皇族のリオルの兄と妹、そして父親がいるのだ。そして、最大の敵と予想されるクロズクの長も。
この城に入るには入場許可証が必要になるか皇族の直々の許可が必要になる。当然、ローグ、ミーラ、リオルの三人が帝城に入ることは困難に思えた。何しろ、今のリオルは追われている身であり、帝城の前に姿を見せればそれだけで捕まってしまうだろう。その後で、運が悪ければすぐに殺されるか、運が良ければ一部の兵士に救出されるかだ。
その上で三人はうまく侵入できる経路を探し出して帝城に入り込もうとした。だが、肝心の帝城の前にまで来て、リオルは驚きを隠せなかった。
「ど、どういうことだ、これは……!?」
「おい、どうかしたのか?」
「リオさん?」
ローグとミーラがリオルの驚いた様子に気になって聞いていた。すると、リオルの口からこんな事実が分かった。
「警備が薄くなっている、門の前の帝国兵がいないのだ。こんなことはあり得ないし、あってはならない!」
「何? どういうことだ?」
「私に聞かれても……もしや、帝城の内部で何かあったのか? 兄上やサーラは、父上はどうなったんだ!?」
追われている身でありながらも帝城の内側を心配するリオルだが、このような事態を経験したことがなかったせいか何が起こっているのか予測できないようだ。ただ皮肉なことに、部外者であるはずのローグのほうがある程度の予測をしていた。
(リオル、この人自身は自覚無さそうだが多くの国民に慕われていた。もちろん、帝国兵からもな。おそらく、原因はそこにあるだろう。もしくは……)
「不測の事態だ! このまま正面から帝城に入るぞ!」
「リオさん、あんたはやっぱり脳筋だな」
「は? 何? 脳筋? どういうことだ?」
「…………?」
いきなり正面から入るというリオル。そんな彼女に対してローグは悪口かつ事実を言ったのだが、混乱しているリオルは疑問に思うだけだった。本当は怒ることなのにだ。ミーラも悪口を言われて怒らないリオルに首を傾げている。
「不測の事態? ならばなおさら冷静に考えて作戦を決めて行動をするべきじゃないか?」
「え? う、うん、まあ、そうだが……」
「警備が薄くなっているといったが、クロズクが俺達をうまくおびき寄せて罠を張っている可能性があったりしないか?」
「! それは……」
「そもそも、警備が薄くなっていると言ったが確認したのはここだけだろう? 他はどうなってるか見てみないと分からないじゃにか。その後で確認してから作戦を決めるべきだ。違うか?」
「……そうだな。すまん、私が安直すぎた」
ローグに言われてリオルは落ち着き、素直に謝罪した。そして、ローグは提案する。
「それなら、他の場所を見てみようぜ。ミーラ!」
「あっ! はい!」
今度はミーラにローグの声がかかって、ミーラは気を引き締めて返事をした。
「これから帝城をぐるっと回るから、お前の【解析魔法】でも中の様子とかを調べてみてくれ。分かったことは全部話せ」
「うん、分かった!」
「リオさんもそれでいいな? 案内を頼むぞ」
「……分かった」
三人は帝城の周りを回ってみて外側の様子を見てみることにした。それと並行してミーラの【解析魔法】で間接的に帝城の内部を探手も見てみる。その行動は後に驚くべき事実を証明した。
数時間後。
リオルは頭を抱えて叫んだ。
「なんということだ、ここまで警備が薄くなるなんて!」
リオルの叫びも無理はなかった。帝城の周りを回ってみた結果、ほとんどの門番も見張りもいなかったのだ。叫んでも気付かれなくて済むほどにだ。更には、
「……ミーラ、内部の様子はさっきと変わってないんだな」
「うん。さっきも言ったけど、ほとんどの兵士が城の中で走り回ったり、下のほうで何か大きな魔力を持った人が暴れてるみたい。ほとんどの兵士はそこに集まってきているかな? 上のほうで全く動かない人が二人ぐらいいるけど、その二人はリオルさんと似た魔力を感じる……」
「まさか、そんな……にわかに信じられないが、それが本当なら……」
ミーラの話をもう一度聞いて、リオルの声が震える。それでもローグは冷静に分かりやすくまとめて言った。
「皇族が上で待機して、多くの兵士が下で何かと戦っていることになるな」
「そんな!?」
「さっきも言ったけど信じてもらえなかったが、警備が薄くなるどころか無くなってる現状を見ても信じられないか?」
「……っ!」
見て回る最中に、ミーラは【解析魔法】で感じたことをそのまま言っていた。それをローグが要約して城の内部で戦闘が起こっていると推察した。流石にリオルはこの目で見るまでは半信半疑だったが、警備がここまで薄いどころか全く無くなっている以上、信じるしかない。
ただ、ミーラの言ったことを信じるということは、何か恐ろしいことが起こっていることを示す。兵士が何と戦っているのか分からないが、上で待機している皇族が『二人』ということも気になる。それが何を意味するのかというのは、リオルの家族三人のうち一人の所在が不明だということだ。
「兄上やサーラは、父上はどうなったんだ!? 何故二人だけが上に待機なんだ!?」
「へぐうっ!?」
リオルはミーラの肩に掴みかかってガクンガクンと揺らす。そんなことをしてもミーラの集中力が乱れて分からなくなるだけなのだが、リオルは相当動揺してしまったようだ。
「おい! 答えろ! もっと探ってくれ! 何が起きてるんだ!?」
「はわわわわわわ!? あ、あの、落ち着いて……」
「【外道魔法】!」
ビリビリッ!
「うあっ!?」
「きゃっ!」
【外道魔法】を最小にとどめて軽い電気ショックを掛けたのだ。リオルのあまりの動揺ぶりにローグはショックを与えたほうが早いと思い、無理矢理リオルとミーラを引き離したのだ。
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