第49話 これまでの経緯3

 リオルは意を決した様子で言葉を続けた。


「国民の怒りは王国そのものにも向いていた様子だったと聞いている。何でも、魔法の存在についてとんでもない事実が発覚したとかで噂になっていたらしい……」

「魔法の出自に関する真実か」

「! そう、それだ! 王国では魔法は神が王国の民に与えたなどと言われていたようだったが実は違うということが知れ渡ったという話だったんだが、実際はどうなんだ?」

「そうだな……」


 ローグはどのように説明するか考える。ローグ自身の前世の話を話さずに済むような説明をするには、やはり魔法協会が鍵になるだろう。


「事実だ」

「!」

「魔法は神様が与えたなどという話は王国のでっち上げた作り話でしかなかったんだ。実際は王国が国民全員にそうなるよう仕組んでいたのさ」

「やはりそうか! 神が王国だけをそこまでひいきするなんて怪しいと思ってたんだ! それで、どのように魔法を与えたんだ!」

「どのようにっていってもな、王国の上層部が大掛かりな魔術か何かで王国の民が思春期ごろに発現するように仕組んでいただけだったんだ。魔法協会と共謀してな」

「魔法協会と共謀? そんな連中と共謀とは……何か知られてはいけなかったマズい事情がありそうだな」

「正解だ」


 ここで初めて帝国の人間が魔法の真実を知ることになった。


「魔法を持つことにはリスクがある。それは平均して約10年くらいの寿命が縮まってしまうなんだ」

「は? 寿命?」

「寿命の縮まる基準は魔法の能力で決まる。強力な魔法や極端な効果を持つ魔法ほど縮まる寿命が長くなる。ひどい場合は20年程度の寿命が縮んでしまうこともある」

「はあ!? 20年!?」

「もちろん、こんなことは王国の国民は知らされていなかった。魔法協会のトップと王国の上層部以外はな」

「…………」


 リオルは固まってしまった。どうやら彼女の頭がローグから聞いた内容をうまく整理して理解するのに時間をかけているようだ。もしくは戦争中に魔法に苦しめられてきた過去を思い返しているのかもしれない。彼女にとって魔法はそれほど忌まわしいものなんだろうか。



約3分後。



バンッ!


 リオルはまた机を叩いた。グーで。


「ふざけるなよ……」

「皇女様……」

「魔法の力と引き換えに自国の国民の寿命を縮めた挙句、その真実を隠して神に選ばれたなどと作り話をほざいてきただと? そんな国に苦しめられてきただと!? ふっざけるなあ!」


 リオルの今の怒りは今までで一番迫力があった。怒気といい、形相といい、ローグさえ引くほどの様子だった。ローグはもう少しオブラートに説明すればよかったかなと思った。


「国を支えているのは指導者か? 兵士か? いいや、それだけではない、国民だ! 国に生きる大勢の民こそが一番国を支えているんだ! それを食い物か何かのように扱うなど言語道断! 王国は一か月前の暴動で滅びるべきだった!」

「王国は暴動を抑えてしまったみたいだけどな……」

「その頃に我が帝国が攻め寄せていれば、王国に打ち勝つことができたのに! 何とも悔しいことだ! ……うう、父上の病が恨めしい……」

「…………」


 リオルは今度は悔しそうに俯いてしまった。唇を噛んで震えている様子を見れば、ローグですら同情してしまう。ただ、その頃に帝国が王国を打ち破ってもマズいことになるだろうと思ってもいる。何故なら、リオルの様子から見るに、帝国は魔法のことをろくに理解していないということが分かるからだ。この時点で半端な知識しかない帝国が魔法の力を手にしても、王国のように暴走する恐れがあった。それはローグの望むことではない。どうせなら、完ぺきに近い知識をもって慎重に取り扱ってもらうことがローグの理想なのだ。


 やがてリオルは落ち着きを取り戻し、気まずそうな顔でローグを見る。


「……すまん、取り乱してしまった」

「仕方がないんじゃないか? とんでもない事実なんだから、むしろ反応のないほうが怖い」

「そうか……それもそうだな……」

「十分落ち着いたようだな」

「ああ、まあ……それにしても、大掛かりな魔術だと、それはどんなものなんだ?」


 リオルは今度は落ち着いた様子で聞いてくる。魔法について気になる様子だと、よほど魔法を嫌っていた節がある。ローグは事実だけを言う。


「悪いが、俺でも王国がどこでどれくらいの魔術を使ってるなんて詳しいことまでは分かってないんだよ。元は村人だしな」

「ではどのようにして魔法の真実を知ったというんだ? 元村人がそうやすやすと知れる類の情報ではないはずだが?」

「……俺達が襲撃した場所はどこだかもう忘れたのか、第一皇女様?」

「何? どこって魔法協会だろ?」

「その通り、魔法の研究機関だ。王国の魔法や魔術に関する記録がすべてそこにあると言ってもいい。その記録は襲撃した俺達が閲覧できるとは思わないか?」

「……そういうことか!」

「そういうことだ」


 リオルは嘘を言ってはいないことを確認して納得した。自己解釈で。


(うまく嘘を言わずに嘘をつけたな)


 ローグは事実を言ったが、決してリオルの想像するようなことではなかった。王国の魔法と魔術の記録が気になって、魔法協会トップの二人を尋問する前に研究記録をある程度見たのは事実だ。ただ、あくまでもある程度に過ぎない。ローグの前世の記憶に比べれば大したものではなかったのだ。それをリオルは知らない。


「……ふう、とんでもない話を聞いてしまったな」

「帝国にとってはプラスになるだろう?」

「そうだな。私達が今までどんな連中と戦ってきたことが分かって本当によかったと思っている。怒りが増したがな」

「……少し休憩しないか。俺の話は後は首謀者が俺だとバレて帝国に逃げたってことだけだからさ」

「そうだな。だが、そんな話でも帝国にとっては貴重な情報源だ。それを聞かせてもらってから休憩に入ろう」

「……分かった。あの後、俺達は……」


 ローグは騒動の後のことを話した。


 魔法協会から魔物が出現したこと。

 魔法協会トップの二人が魔物のエサになったこと。

 外町が住人ごと焼かれたこと。

 ルドガーという仲間を失ったこと。

 騎士団の追手を逃れて帝国に来たこと。


 全てを話した。それから、リオルから細かい質問をされたが前世のことに触れないようにうまく答えた。休憩に入ったのはその後だ。


 ついでに、休憩の後はリオルの話を聞くことも決まった。

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