第46話 暗殺者2

 3人は心から一致団結した。


「ふっ、たとえ3人がかりだろうとも、我の技をもってすれば貴様ら3人などあっというまに屈する」

「ええ!?」

「ほう」

「何!?」


 男は3人が一致団結しても余裕を崩さなかった。あろうことか挑発するようなことを語りだす。


「我らはクロズク。その歴史は百年前から続く帝国と王国の戦争から始まる」


(百年前か、中々長いな)


 ローグはクロズクに興味を持った。この時代の技術の底を把握できるかもしれないからだ。ローグ自身の目的を果たすためにもそういうことを知る必要があるのだ。


「わが帝国は強国であったが王国の最強最悪の武器である魔法には必ず苦戦させられていた。そのために魔法に対抗もしくは魔法を超える技術が必要とされるようになった。そこで当初、白羽の矢が立ったのが魔術」


(ふむ、当然だろうな。魔術なら魔法が無くても魔力さえあれば使えるし)


「しかし、王国に比べ、帝国の民に魔力を多く蓄える者は少なかった。そもそも、魔術も王国から出た技術。そんなものを学ぶのには抵抗があった」


(帝国人は魔力が少ないのか。そういえば、この皇女様も魔力が少ないそうだったな)


「魔力? あっ!」

「どうした、ミーラ?」

「あの人の魔力が今でも感じられないの!」

「何?」

「だろうな、それがクロズクの技の一つだ。【魔力遮断】と言って、魔力の体外への放出を完全に遮断することによって、その女のような感知系の魔法が通じなくなる、らしい」


 ミーラが気付いたことを口に出すとリオルが補足した。どうやら、彼女自身も詳しく知らないようだが、気配を消すようなものらしい。ローグはそう要約した。


「それも我らが百年の間に作った技が一つ」


(厄介な技術が出来上がったものだな。さっきの壁になりきることと言い、百年なんて短い期間でそんなものを……)


 ローグはクロズクの技を危険だと判断した。今、じっくり見せてもらうよりも捕まえて吐かせるほうがよさそうだと思って右手に魔力を集中させた。


「そして、これから貴様らに見せるのが我らが百年という長い時間をかけて磨き上げてきた対魔法の技術。血と汗と涙の結晶たる技を今貴様らに……」

「断る」

「「「えっ?」」」


バンッ!


 ローグは右手を勢いよく地面に叩きつけた。


ボゴッ


「っ!? ぐぼああああっ!?」

「ええ!?」

「今度は何だ!?」


 突然、男の真下から地面が盛り上がった。そこからさらに巨大な赤紫色の拳が出現して男をぶっ飛ばしたのだ。男はそのまま、巨大な拳に殴られた形で気絶してしまった。


「あれって、ローグの、魔法……?」

「あ、あれも魔法の一種なのか!?」

「当たり前だろ? 何でミーラまで驚く?」

「え、えと……」


 ミーラとリオルは突然の事態に頭が追いつかなかった。男が話している隙に攻撃するなど考えてもいなかったのだ。しかし、ローグは違う。


「敵の前でダラダラ話し続けるなんて馬鹿だろ? 聞くのもだけどさ。だから、切り上げたんだよ」

「「……」」


 ローグの言うことはもっともだったが、二人は微妙な気持ちになった。


「さてと、あいつを始末するか」


 ローグは二人の様子も気にすることなく男に近づく。するとここで意外なことが起きる。


「ぐ、ぐほっ、ゲホゲホっ……!」

「! もう起きたのか! 早い寝起きは体に悪いぞ?」

「げふっ、ぐっ! ふ、ふ、ふざけるなあ!」


 男が目を覚ましたのだ。さっきまで気絶していたはずだったが、目を覚ますのが早すぎる。


「え!? 起きたの、その人!」

「急いで始末しろ! 反撃が来るぞ!」

「だろうな。えい」


ビリビリビリビリビリビリ!


「ぐわあああああ!?」


 ローグはリオルと戦った時と同じ要領で魔法を放った。それはクロズクの耐久力を試すためだ。今後も彼らと戦うことになることを想定すれば基準を知る必要がある。


「ぐ、ぐぬう……」

「まだ立ち上がるのか、ならばこれならどうかな?」


バリバリバリバリバリバリ!


「わあああああ!?」


 一回目の攻撃で立ち上がったため、二回目はその二倍の威力で放ってみた。すると……


ドサッ


「う、うぬ……」

「これくらいがちょうどよさそうだな」


 男はうめくだけで立ち上がれなくなった。どうやら、リオルに勝った時の倍の威力で倒せるようだ。男はうめき声とともにこんなことを言いだす。


「き、貴様らは、ここで終わりだ……! ひ、卑怯者め……!」

「何を言い出す?」

「貴様らの周りには、我の、部下が、控えている、大勢な……!」

「……!」


 ローグは目を細めて男を見る。男はローグの反応に少し満足したのか笑みを浮かべ始めた。


「我の部下たちが、貴様らを葬る! 我を人質にしても無駄だ、すでに覚悟はできているのだからな! 見捨てることも、見捨てられる覚悟も!」

「それは称賛に値するな」

「余裕なのも今のうちだ! もはや手遅れだ! ふははははっ!」

「いや、そうでもない」

「何?」

「すでに対策はしてあるんでね」

「……!?」


 ローグはあくまで余裕だ。何故なら本当に対策しているからだ。たとえ、今みたいに後ろからクロズクの手下が襲ってきても……


「主の仇!」

「命はもらう!」

「…………!」


ボゴッ! ボゴッ! ボゴッ!


「っ!? ぎゃああああ!?」

「ぐあああああ!?」

「ぐげええええ!?」


 先ほどのように地面が盛り上がり敵をしとめるのだ。ただし、出現するのは巨大な赤紫色の拳ではなく、巨大な赤紫色の刃だった。殺傷能力はさっきよりもはるかに上だ。襲ってきたクロズクの手下は刃に切られるか串刺しにされて確実に死んでいる。


「なっ、これは!?」

「言っただろ? 対策はしてあるって」

「まさか、さっきの魔法で……!?」

「正解」





 離れた位置にいるミーラとリオルの周辺でも同じことが起こっていた。


「ローグとあの人は何を話してるんだろ?」

「話というよりもクロズクが糾弾しているようにしか見えないが、様子を見に行くか?」

「……はい」


 ミーラとリオルが心配していると、ローグの時と同じようにクロズクの手下が襲ってきたが……


「「「死ね!」」」

「え?」

「なっ!?」


 ここでもローグの魔法が発動する。


ボゴッ! ボゴッ!


「っ!? ひぎゃあああ!?」

「ごあああああ!?」

「ぶはああああ!?」


 そして、ここでも、襲ってきたクロズクの手下は刃に切られるか串刺しにされて確実に死ぬ。もはや惨殺だ。


「きゃああああ!」

「こ、これは……!?」

「ひいいいい! な、な、何々!?」

「なんと、惨い……!」


 襲ってきた者たちの死にざまは真っ二つにされたり串刺しにされたりと酷いものだった。襲われたミーラとリオルも絶句している。


「ミーラ、皇女様! 大丈夫か!」

「ロ、ローグ……?」

「ローグ・ナイト、これもお前の魔法なのか……?」

「ああ。こんなこともあろうかと仕込んでおいたのさ。最初の時にな」

「……! 地面に手を付けた時か!」

「正解だ」


 ローグのやったことはこんな感じだ。まず、襲ってきたクロズクの男に対して行った魔法は【外道魔法・怠惰】『大地の拒絶』という土を介して魔法を放つ攻撃魔法だった。それに【外道魔法・傲慢】『超える模倣』を加えたうえで数分の間だけ、自分たちに攻撃を仕掛けてくるものに向かって発動し続けるように設定していたのだ。これがローグの仕込んでいた対策というわけだった。


「これが、魔法の力、あのクロズクをこんな簡単に……。いや、お前が規格外なのだな、ローグ・ナイト」


 リオルは死亡したクロズクの男たちを見て、ローグの魔法に対して戦慄を覚えた。


「まあ、そうだな」

「そこは認めるのだな……」

「王国に混乱をもたらしたんだ。それぐらいは自覚してるさ。自覚できてないと逆に怖いだろ?」

「そうか、それもそうだな……」


 ローグの言ってることは肯定できるが、リオルは複雑な気持ちになる。今見ているのは自分を救った力だが、王国出身の人間の力なのだ。たとえ、仇敵たる王国を裏切って帝国に身を寄せているとはいえ、簡単に受け入れられるのは難しい。


「さて、もうここから離れるとしよう。死体まで出たんだからな」

「……そうだな」


 あっさりと言い切るローグにリオルはより一層複雑さを感じる。そんな風に思っている時に、ミーラが上着をもってリオルに近づいてきた。


「あ、あの、皇女様……」

「ん?」

「う、上着をどうぞ……」

「ああ、ありがとう」


 リオルはボロボロになった自分の上着を脱ぎ捨ててミーラから新しい上着を受け取った。フードがついているので顔も隠せる。ここでローグが口を出した。


「ボロボロになった上着は処分しよう」

「何? どうするんだ?」

「こうやるのさ」


 ローグは魔封書を出した。書を開いて何か悩み始めるローグ。魔封書のことをよく知らないリオルは不思議そうに眺める。


(何だあの本は? 魔法の道具か何かか?)


「これでいいか。【炎魔法】『連打炎弾』」 

「え?」


ボンッ ボンッ ボンッ


 魔封書が光りだした途端、書から火の玉が3回出てきた。リオルが捨てた上着に着弾してそのまま焼き尽くした。


「なっ! これは【炎魔法】か!」

「知ってるのか」

「王国との戦争でよく見た魔法だ! どういうことだ、お前は複数の魔法が使えるというのか!?」

「そ、その通りですよ皇女様! ローグは……」

「そうだな。まあ、今のはこの本の力だけどな」

「っ! その本に秘密が!?」

「そういうことだ」

「…………むう」


 魔封書に秘密があるのも事実だが、本当はローグ自身の体に二つの魔法が宿っているのだ。ミーラはその事実を堂々と話そうとしたがローグは遮った。何故なら、そう簡単に秘密を知られていいことではないと判断したからだ。ミーラはそのことを理解していないのかむくれてしまった。


「よし、もうそういうことはここからさっさと移動してからにしよう。俺たちのいた宿に戻るぞ」

「そ、そうよね。結構大きな音出しちゃったし……」

「むっ、それもそうだな」

「その前に身だしなみを整えよう。【魔術】『クリーン』」

「「え?」」


パアァ


 ローグが魔術を唱えると3人の体が淡い光に包まれた。


「な、何だ!? 今度は一体……!?」 

「落ち着け皇女様」

「奇麗になるだけですよ」

「何を言って……こ、これは!」


 リオルは何が起こったのかすぐに理解するために自身の体を見直した。すると、上着以外の衣服の汚れが無くなっていることに気付いた。更に傷ついて血と泥で汚れた手の汚れも無くなっている。ローグとミーラにも同じ変化が起こっていた。


「言っとくけど、これは魔法じゃなくて『魔術』だ。魔法よりも少ない魔力で済む」

「便利な生活必需品みたいなものですよ」

「……こんなことが……あれだけ残酷なことができる男に、こんなに女性のためにあるような芸ができるとは……」

「おい、芸じゃないぞ……」

「でも、女性のためにっていうのは分かるよ」

「ミーラ、お前まで……」

「なんか奇麗になり過ぎて新品の服をそのまま来てる感じになれるし」

「……なるほど(やり過ぎたか?)」


 リオルはローグの魔術に少し感動(?)しているようだった。だが、今度はローグのほうに向きなおってこんなことを言いだした。


「こ、こんなことをしても! す、すぐに認められると思うなよ!」

「「は?」」

「お、お、恩に着るが! この程度で私の心は掴まれたりはしないぞ! 覚えておけえ!」

「はあ?」

「ええ!?」


 リオルはそれだけ言うとそっぽを向いてしまった。もしかしたら顔が赤くなっているのかもしれない。ミーラが青い顔して震える隣でローグは呆れてしまう。


(何だ? この思い込みの激しいお姫様は? 何故ここでそんな反応をするんだよ、こういうのは流石に求めてないな~)


「はあ、もうとっとと戻ろう。一休みしたい……」


 残念ながら、ローグが休めるのは長い話の後だった。


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