第25話 VS魔法協会5

 ローグとメルガーの戦いが始まった。初手はローグから攻めに入った。ローグの手に赤紫の雷の槍が現れた。そして、それを投げつける。


「【外道魔法・憤怒】『理不尽の雷』!」


ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!


 メルガーはとっさに魔法を発動する。だがそれは、【強奪魔法】ではなかった。


「【反射魔法】『魔法反射』!」


「何っ!?」


キュイーン!  ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!


 メルガーは【反射魔法】で、ローグの魔法を反射した。反射された魔法はそのままローグに向かっていくが、【反射魔法】を見た時点でローグは防御に移っていた。


「【外道魔法・怠惰】『堕落の壁』!」


バッチーン!! シュウウウウウウウウウウウウウウウウ……


 反射された魔法は見事に防がれた。ローグとメルガーの間に距離があったことが幸いしたのだ。肝心の二人はにらみ合う。


(【反射魔法】か。【強奪魔法】を持っているなら、二つ目の魔法は攻守両道な魔法が望ましい。そういう意味ではいい魔法に目を付けたものだ。さすがは魔法協会とかいう魔法の研究機関の長だと言っておこうか)


(あの攻撃魔法、なんて速さだ。反射するのが一歩遅かったら、ただでは済まなかった。防御に関しても相当なものだ。使い手も十分な実力者のようだな。戦闘班もトーレンもまだ来ないとなると私が全力で相手せねばならんな)


 ローグとメルガーの戦いを見ていた構成員たちは恐れおののいていた。実力の違いを感じ取り、戦いに参加しようとも思えなかった。


「……な、何が起こった? あのガキは何をして、会長は何をしたんだ……?」


「光ったと思ったら、あっち行ったりこっち行ったりして、頭が追いつかねえ……」


「俺たちの理解を超えている……何も出来ねえ……」


 一方、ミーラはローグのすぐ隣にいた。彼女は戦いそのものに恐怖を感じてはいたが、自分の心配を全くしていなかった。何故なら、今の彼女にとって一番大事なのは主であるローグのことだけ、つまり、自分はその次くらいのものなのだ。自分の命さえも。


(これが戦い……この戦いで私にできることは無いかもしれないけど、私の命と引き換えにしてでもローグ様に貢献しなくちゃ!)


「【反射魔法】は攻守両道に使える。【強奪魔法】で手に入れたその魔法がメインか。【強奪魔法】は補助と最後に使うってところか」


「っ!? ミーラがいる時点で私の魔法は知っているようだな。その通りだ。だが、【反射魔法】だけではないことは分かるだろう? 【強奪魔法】を持っているということは、私は奪ってきたすべての魔法が使える、つまり、全能の存在と言ってもいい……」


「嘘だな」


「……何?」


「え?」


「「「「「え?」」」」」


 メルガーの言葉を遮ってまでローグは否定した。ローグ以外の周り全てが何故、そうしたのか疑問に思った。ローグはすぐに否定した理由を話す。


「人間は通常、多くても二つしか魔法を持てない。それが限界だ。無理に三つ目四つ目の魔法を持とうとすれば、その分負担がかかって死んでしまう。たとえ、【強奪魔法】を持っていても例外じゃない。そうだろ?」


「な、何を!? 何を根拠にそんな!? 馬鹿な!」


「そ、そうなの?」


「「「「「ええ!?」」」」」


 ローグの説明にミーラも構成員も、メルガーでさえも驚いた。ただ、メルガーの驚きは誰よりも大きかった。自分の魔法の特性を言い当てられたことではなく、もっと重要なことを敵対している少年が知っていたのだから。


「お、おい! お前はどこでそんなことを聞いた! 誰に聞いたんだ! 我が魔法協会の記録でも盗んだのか!?」


「さあ~、どうだろうな~。ていうか否定しないんだな?」


「……くっ! そ、それは……!」


 ローグの言葉に動揺したメルガーは言葉に詰まる。先ほどローグが言ったことは、魔法協会の最重要機密につながる内容なのだ。ただの構成員が聞いていい内容でもないために、この場は何といえばいいか考えものなのだが、既に手遅れだった。


「まじかよ……二つしか使えないって」


「会長も例外じゃないなら……全能って嘘なんだ」


「魔法のことで自慢してたのに、本当は二つだけだったのかよ……」


「っ!? ぐぬぬぬぬぬぬぬ……」


(この会長とやらは、自分の魔法を、いや、自分自身を極端に大きく見せてたみたいだな。ここでばれるだけでも屈辱に感じてら……いいものを見たな。復讐の参考になりそうだ)


「もういい! これ以上の話は無用だ! 【反射魔法】『強制反射』!」


ダンッ! …ゴトッ、ゴトゴトッ、ゴトゴトゴトッ  


ドンッ! ドンッ! ドンッ! 


 ローグは心の中で笑っていると、メルガーが怒鳴り声をあげて、勢いよく地面を蹴りつける。すると、周囲の瓦礫や散らばった武器などがローグに向かって飛んできた。ローグはこれを回避せずに対処する。


「【外道魔法・傲慢】『超える模倣』! ミーラは後ろにいろ!」


「うん! 分かった!」


 ローグの手には、前世の世界で『チェーンソー』と呼ばれる道具を模した、魔法で作った武器が形成されていた。ローグはそれを振り回し、向かってくる瓦礫を削って薙ぎ払う。回避しなかったのは、それだと自分しか助からないからだ。


「【反射魔法】『浮遊反射』!」


スゥ……


「「「「「会長が浮かんだ!」」」」」


「あれは……?」


 ローグが瓦礫を薙ぎ払ってる間に、ルドガーは宙に浮かんでいく。何かの魔法を使いだしたようだ。それを見たローグはすぐに考察する。


(空気を反射させて無理矢理浮かんでいるな。そんなことができるなら、ここから加速して一気に間合いを詰めるってとこか。だが……)


「【反射魔法】『加速反射』!」


ドッ! ゴオウッ!!


 メルガーは突然、浮かんだまま、ものすごい速さでローグに向かって飛んできた。ローグの考えた通りの戦法だった。


(このまま一気に懐に入り、【強奪魔法】『魔法強奪』を使ってお前の魔法を奪ってやる! 【反射魔法】は失われてしまうが、お前の魔法はそれに匹敵する価値があるはず! 奪ったらじっくり研究させてもらう! お前を実験台にしてな!)


(……とか、思ってんだろうな~)


ドンッ!!


 メルガーがローグの懐に入った。そして、


ガシッ!


「【強奪魔法】『魔法強奪』!」


パアァァ!


「ローグ様!」


「「「「「会長!」」」」」


 メルガーがローグの頭を掴み魔法を発動する。青い光がローグを包みこんだ。メルガーは勝利を確信した。これで終わる、新しい魔法が手に入る、メルガーはそう思った。だがここで、思いもよらないことが起こった。ローグの体が透明になって消え始めたのだ。


「な、何い!? どういうことだ!?」


「ああ、こういうことだけど」


「はっ!?」


「ええ!?」


「「「「「ええ!?」」」」」


 その後、誰もが驚いた。消えていくローグの後ろに、もう一人のローグが現れ始めたのだ。それは透明だったものに色が浮かぶように実体化していくようだった。もう一人のローグは、完全に実体化する前にメルガーの腕を掴むと、


「【外道魔法・傲慢】『動き呪い』!」


ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……


「う、うう……し、しまった」


「【外道魔法・暴食】『腹外吸収』!」


キュウウウウウウウウウウウウウン!


「う!? うぐあああああああああああ……」


「【外道魔法・憤怒】『理不尽な裁き』!」


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


ガクガクガク パッ ドサッ


「「「「「会長!?」」」」」


 腕を掴まれたメルガーは、一度目の魔法で動けなくなり、二度目の魔法で魔力を奪われ、三度目の魔法を浴びて黒焦げになって倒れてしまった。誰の目に見えてもメルガーの敗北だ。勝利したのはローグなのだが、その場にいるローグは一人だけ、後から出てきたほうだけが残っていた。


「ローグ様!」


「おい、ミーラ。こんな時に抱き着くなよ」


「だ、だって! 会長に掴まれたり、消えたり、二人になったりするんだもの! 訳が分からないけど、普通心配するでしょ!?」


「まあ、そうだな……」


「でも、本当にどうやったの? 確かに掴まれたと思ったのに……」


「それは後で話す。まだ戦いは終わってないからな」


 ローグが消えたり出てきたりしたのは、やはり【外道魔法】による効果だった。自分の分身を作り出す【外道魔法・嫉妬】『美化分身』で、自身のすぐ前に分身を作っていたのだ。つまり、メルガーが掴んだのはその分身というわけだ。


 消えていたように見えたのは、自分自身に【外道魔法・嫉妬】『認識遮断』をかけて、姿を消すのではなく周囲の認識から外れていたからだ。メルガーが分身を掴んでる間に、本体が分身から距離を取って、メルガーが魔法を使っている隙に攻撃する。そういう作戦だったのだ。


 ローグがこんな作戦を取ったのは、ルドガーの情報を参考にしたからだ。メルガーの実力は、全盛期のルドガーに一対一で勝利するほどのものだという。つまり、元騎士団に所属していた者を倒せるほどの実力者なのだ。他の幹部も相当強いらしいので、最善の策を考えた末、メルガーとの戦いは【強奪魔法】を使った隙を狙うことにしたのだ。


「そ、そんな……会長が……」


「負けてしまった……」


「ど、どうすれば……」


 戦いを見ていた構成員たちは狼狽えていた。何せ、魔法協会のトップが完膚なきまで敗北してしまったのだ。独裁者と言っていいような存在にただ従っていただけの彼らからすれば、何をすればいいのか分からない。


「おい、あんたたち」


「「「「「っ!?」」」」」


「逃げたければ、どーぞ。末端の職員に用は無いから、そのまま戦意喪失してもらったほうがこちらも助かるんだけど?」


「「「「「…………」」」」」


 ローグの言葉を聞いた構成員たちは、その場からすぐ離れていった。指示待ち人間はもろいのだ。それに、確かにローグにとって重要なのは彼らではない。


「魔法協会のトップは4人、会長のこの男と3人の幹部だ。そいつらの中で大事なことをしゃべってもらわないとな。せっかく、仕掛けも作ったんだしさ」


 ローグは魔法協会を潰すだけではなく、利用するために、別の作戦も考えていた。


 それは……

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