第24話 VS魔法協会4

魔法協会・隠し通路の非常口。


「パ、パルサ殿がやられたー!」


「く、くそぉ! 戦闘班をもっとよこせー!」


「侵入者を制圧しろー!」


「幹部の方は来ないのかー!?」


 構成員たちが悲鳴交じりに怒声をあげる。当然だ。戦闘班が造園に来る前に、女性幹部のミエカ・パルサが首を切られて死んでしまったのだから。


「幹部を倒したぞー! 進めー!」


「このまま魔法協会なんざぶっ潰してやる!」


「あとのことは考えんな! 復讐だー!」


「「「「「おおー!」」」」」


(こっちはうまくいったな。勢いに任せて幹部のパルサを倒すとはな……)


 先頭に立つルドガーは協力者たちを指揮して暴れまわっていた。彼らの目的は、魔法協会の上層部を殺して壊滅させること、という話になっていた。あくまでも協力者たちの中ではそうだ。本当の目的は違う。それは……。


(魔法協会の戦力の分散、陽動。それがこっちの目的だ。だが、このまま攻め続ければ本当にぶっ潰せるかもしれん。これほどの戦力になるとは思ってもなかったしな)


 こちらの指揮をしていたルドガーでさえ、本来の目的すら超えるかもしれないと思い始めていた。幹部のパルサを倒したのは、二つの魔法を持ったルドガー自身なのだから。ルドガーは正直、本当に魔法協会を潰すのは不可能だと思っていたが、魔法協会をここまで混乱させ、幹部の一人を始末できた。今になって、ローグの目的が実現できそうな気がしてきた。


「さて、向こうはどうなるだろうな。嬢ちゃんはともかく、坊主のほうは心配はいらないか……?」


「ルドガーさん、行きましょうぜ!」


「このまま魔法協会を潰してやりましょう! 大将!」


「! ああ、いくぞ、野郎ども!」


「「「「「おう!」」」」」


(俺は俺のできることをやろう。それがあの二人の役に立つならば……!)


 ルドガーは、ローグの実力をある程度知っているが、メルガーのことも知っているため、どうにか合流しようと考えていた。そのためにも、このまま彼らを指揮していく必要があった。魔法協会を制圧するまで。




魔法協会入り口。


 混沌に染まる魔法協会だったが、そこに更なる脅威が迫っていた。バルムドとハイドが入ってきた入り口の門が再び開かれたのだ。


ガチャ ギイイイイ


「おい! 誰かが入ってきたぞ! 二人組だ!」


「見ろよ! 暗部の仮面を被ってやがる!」


 入り口から仮面を被った二人組が入ってきた。バルムド達のこともあってか、構成員たちは動揺する。被っている仮面が魔法協会のものであっても。一方、メルガーは二人組を見てかなり警戒していた。一目見ただけで、仮面のもともとの持ち主が分かったからだ。


(あの仮面はバルムド達のものじゃないか! だとすれば、奴らはバルムド達を倒して操った張本人! 下手をすればこの事件の黒幕か!)


 二人組は、ゆっくりとメルガーに近づいていった。まだ距離はあるが、メルガーは身構えて、二人組に問いかけた。


「お前たちは何者だ……魔法協会のものではあるまい……」


「「…………」」


「答えろ! 何が目的だ! いったい何者なんだ!?」


 メルガーが怒声をあげるが、二人組の反応は分かれた。片方が黙ったままだが、もう片方は……。


「くっ、くくくっ、くはははははは! あはっ、あはははっははははははは!」


 まるで、堪えきれないものがあふれ返ったかのように大きく笑い出した。少女の声だった。メルガーはその反応に対し、怒りがこみ上げる。


「何を笑っている!? ふざけているのか! 我々を馬鹿にしているな! 私の魔法にかかればお前など!」


「【強奪魔法】で奪ってやる、ですか~?」


「……な、何? 何故知っている?」


 仮面の少女はメルガーの魔法を言い当てた。そのことにメルガーは驚き、少女に問いかける。


「何故知ってるか、ですって? 人から奪うことしかしない人は頭が鈍いですね~」


「な、何だと!? この私を侮辱するのか!?」


「へえ~、結構短気な人だったんですね~。この私が魔法協会にいた頃は気付かなかったな~。……あの頃の私もかなりバカだったけどね」


「魔法協会にいただと……? いや待て、その声聞き覚えが……?」


 メルガーは話しているうちに少女の声を聞いたことがあることに気付き始めた。少女の言っていた言葉が本当だとしたら、魔法協会をここまで攻めることができたことにも納得がいく。内部の人間によるものでなければ、ここまで追い詰めるのは難しい。そう思ったメルガーは、少女の声を思い出そうとするが、その前に少女が正体を明かす。


「もしや、思い出そうとしてます? 何なら手伝ってあげますよ? ほいっ!」


カラン カラン カラン


「おっ、お前は! ミーラ・リラ! そうだ思い出した! お前だったのか!」


「あはははは! 思い出してくれて何よりです、魔法協会会長メルガー・メンデス!」


 少女は仮面を外して放り投げた。少女の素顔を見たメルガーは正体を知って驚いた。仮面の少女の正体はミーラ・リラ。かつて、メルガーが魔法を奪った元魔法協会所属の少女だった。メルガーはその事実に腹が立った。


「よく私の前に再び現れたものだな、魔法を失った小娘が!」


「ええ。あなたに、いや、お前に魔法を奪われて私は地獄を見た。数週間の地獄だったけどね!」


「ふん! それで復讐のために来たということか。随分変わったようだが、お前が主犯ではない。隣の奴がそうなんじゃないのか? 今のお前の価値など情報だけなんだからな!」


「確かにそうだった。実際、私も初めて魔法なしになって分かった。魔法のあるなしで全てが変わってしまう理不尽を、私が『彼』にしてきた罪をやっと理解できたわ。そういう意味では感謝はしてる。恨みのほうが大きいけどね」


「……何?」


「メルガー・メンデス、私はお前を許しはしないけど、これは私の復讐だけじゃない。『彼』の私に対する復讐に横やりを入れた報復なのよ。つまりね、お前の言う通り、主犯は私じゃない。私はあくまで共犯者にして『彼』の忠実な奴隷にすぎないの」


「ふふふ、よく言うじゃないかミーラ」


「……!」


 ミーラの話の最中に隣から声がかかった。その声は少年のものだった。メルガーはその声には聞き覚えは無かったが、正体について考え始めていた。


(今度は少年か……ミーラの言う『彼』だとしたら、この事件の首謀者か。だとしたら……だが、報告による『少年』はミーラを復讐の対象とみなしているはず……いや、待てよ……「復讐に横やりを入れた報復」と言っていた。それがそのままの意味なら、『少年』と『彼』はやはり……)


「……何者だ、仮面を取って素顔を見せてもらおうか」


「いいだろう」


カラン カラン カラン


 少年は仮面を外した。青い瞳で、赤い髪に少し黒が混ざった頭髪の少年。『ロー・ライト』の顔が現れた。仮面を外した少年は、メルガーに向かって自己紹介を始めた。


「初めまして、魔法協会会長メルガー・メンデス。僕がこの事件の首謀者、ロー・ライトです。あっ、覚えてもらわなくていいですよ。必要ないから」


「……何だと?」


「あんたらはこれから叩きのめして、魔法を失ってもらうからさ。僕の復讐の邪魔をした罪でね」


「…………」


 メルガーは目の前の少年の言葉を、すぐには理解できなかったが、メルガーはこの後、少年に対して思ったことを素直に口に出した。


「随分、頭のおかしいガキだな。そんな理由でこんなことをしでかしただと? 自分が何をしたのか分かっているのか?」


「魔法協会と後ろ盾の王国、騎士団も敵に回すことか?」


「……分かってやっているのか、おかしいことを通り越して狂ってるようだな」


「誉め言葉として受け取っておこう」


「…………」


 メルガーは少年の言葉に苛立ちを感じる。話が通じる気がしないのだ。それは黙って話を聞いている構成員たちも同じ気持ちでいた。彼らのほうは恐怖すら感じているようだが。そんな中で、ミーラだけは違っていた。


(やっぱり! ロー……ローグ様はすごい! あの怖い会長に全く恐れないなんて! 本当は私、あの男が怖くて仕方なかったのに。ローグ様は違う! 本当に素敵! 憧れる!)


 ……本当に、ミーラは変わってしまった。魔法を持つ身も心も。


 メルガーは戦闘班が来るまでの時間稼ぎのために、少年とミーラに質問をしてみた。


「だが、お前の行動に不可解な点があるぞ。お前がロー・ライトなら復讐が目的のはず。なのに何故、ミーラがお前の隣にいる? その娘こそが復讐の対象だろう?」


「その通り。だからこそ、俺の好きなように連れまわし、振り回し、利用するんだ。死ぬまでずっとな」


「その通り! 言ったはずよ、今の私は彼の共犯者にして忠実な奴隷なのよ!」


「…………なるほどな」


 少年とミーラの話から、メルガーはこの二人を理解するのは無理だと早々に諦めた。やはり話は通じないと判断したのだ。今度は少年から質問してきた。


「僕が復讐を目的にしてることが分かってるってことは、その情報はあの村か冒険者役場のものか? まあ、どっちでもいいけどな」


「ほう、私の言葉からそこまで推測したか。思ったより利口じゃないか。その通り、情報元は両方だ。村に唯一無事だった古い通信用魔道具で村長から冒険者役場に連絡が入ったのだ」


「また村長か。もっと痛めつけてやればよかったな、あの爺」


「そうよね。もともとの元凶はあの爺さんだったもんね」


 メルガーは何かを狙うかのように眼を鋭くして話を続ける。


「お前が引き起こした魔法が使えなくなる事件のことで冒険者役場は大騒ぎだ。それで騎士団も動き出すほど大ごとになったぞ、ローグ・ナイト?」


「は?」


「え?」


 少年とミーラは呆けた顔になってしまった。メルガーが少年の改名した名前を言い当てたのだから。


「何を言って……」


「な、何で知ってのよ!?」


「ほう。やはりそうか」


「えっ!? どういう……!」


(あちゃ~……)


 どうやら、メルガーはカマをかけただけだったようだ。少年はしらばっくれようとしたが、ミーラのほうが大きく動揺してしまった。メルガーの中で少年の正体が確定してしまった。


「ミーラの馬鹿さ加減は変わらんな。あまり成長していなくて助かるよ」


「そ、そんな……ち、ちが……」


「今更しらばくれても無駄だ。といっても私は前から推測していたからな」


(ちっ、考えたな。俺はともかくミーラは馬鹿だから口が滑りやすい。情報を得るならこいつを利用するほうがいい。向こうはミーラのことをよく知ってたはずなのに。やられたな……)


 少年は心の中で舌打ちをするが、自身の失敗でもあるのでミーラを攻める気になれなかった。それ以上に気になることもあった。


(それにしても、『ロー・ライト』と『ローグ・ナイト』が同一人物だと推測されてたなんてな。どこで結びついたんだろう?)


「あ、あ、ああ……!」


「もう気にするなミーラ」


「え……でも、わ、私……」


「それはもう別にいい。ばれるのが少し早くなっただけだ。今気にするのはそんなことじゃない。そうだろ? 会長さんよ?」


「ほう。どういうことかね?」


「いつ、『ロー・ライト』と『ローグ・ナイト』が同一人物だって思ったんだ? 気を付けてたつもりだったんだけどな」


 少年は大胆にもメルガーに問いかけた。メルガーは答える義理は無いと分かっていたが、少年の実力までは分かっていないため、時間稼ぎを続けるために答えを聞かせた。


(戦闘班もトーレンもまだ来ない以上はまだ時間を稼ぐしかない。それに、こいつからも情報が出せるかもしれん。ミーラよりも頭は回るだろうがな)


「魔法協会は多くの組織とつながりがある。王国の最高権力を持つ王族、国家の剣と盾となり守護する騎士団、そして冒険者役場がそうだ」


「やはり冒険者役場か。あの村の事件を知って積極的に動くのは分かるな。決定打になったのは二人の女性冒険者からか?」


「え? 二人の女性冒険者?」


 メルガーと少年が話をしている中、落ち込んでいたミーラが「二人の女性」という言葉に反応して、少年の顔をまじまじと見てきた。少年は特に気にしない。


「ふむ。理解が早いな。だが、決定打になったのはその二人ではない。確かにお前が救った二人の情報も参考にさせてもらったが、それ以上の情報があったのだよ」


「村の連中か? あいつらにそこまでの語彙力やうまい説明ができるとは思えんが……」


「故郷の連中に対しひどい言い様だな。だが、彼らでもない。いい情報をくれたのは王都の門番だよ」


「何? 門番だと?」


 少年は全く予想していなかった話になり少し驚いた。それを聞いたミーラは少し納得したようだった。


「王都に入る前に門番に会って色々聞かれたはずだ。名前や目的を簡単に聞いただけだと思うか?」


「……! まさか!?」


「そうだ。門番を担うものは感知タイプの魔法やそれに近い魔法を持っているのだよ。お前を見た門番がお前の魔力を覚えていてな、魔法協会に流した微弱な魔力の残滓を見てもらったのだ。結果は同じだったよ。これが決定打だ」


「…………なるほどな」


 メルガーの説明を聞いた少年はようやく納得できた。門番のことはかなり甘く見ていただけに、少しショックを感じていた。だが、ミーラのように落ち込んで俯いたりはしなかった。


「ご説明、ありがとうございます会長。おかげですっきりしたよ。随分時間稼ぎをさせてしまったけどな」


「ふん、気付いていてあえてそうさせるとは。かなり自分の実力を過信しているな」


「過信してるか試してみろよ。話はもうここで終わりだ。『偽変身』!」


「まさか、ロー!?」


「いや、違うな……」


 少年は赤紫色の魔力に包まれる。魔力に包まれた少年は、姿を変えていくもそして、魔力が消えた後に黒髪黒目の少年が現れた。彼の名前は……。


「改めて自己紹介をしよう! 俺の名はローグ・ナイトだ! 現在進行形であんたたちをぶっ潰す男だ! 覚悟しろ!」


「ふん! 受けて立ってやろう! 報いを受けるがいい!」


 ついに姿を現したローグがメルガーと激突する。

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