第23話 VS魔法協会3
魔法協会内部・入り口付近。
「生存者の確認を急げ! 復旧作業にも取り掛かるんだ! 決して外部に情報を漏らすな!」
魔法協会幹部のアルフレド・アンリルの声が響く。魔法協会は魔術の暴走が止まってから、生存者の確認と復旧作業に取り掛かり始めていた。だがここで、予想外の出来事が起こった。
ギギィ
「「「!?」」」
こんな状況でバルムドとハイドが魔法協会に現れたのだ。それを見た構成員たちは二人に罵声を浴びせる。
「おい! あれを見ろよ!」
「バルムドとハイドだ! 何でこんな時に戻ってきたんだ!?」
「お前らどこ行ってたんだよ!? 怪しい奴を探してたんだろ!? そいつは見つかったのか!?」
(バルムドとハイドだと!? 今戻ってきたのか!?)
こんな時に戻ってきたバルムドとハイドに不信感を抱く者達は、二人に容赦なく攻め立てる。だが、肝心の二人の様子はおかしかった。何故なら……。
「「…………」」
「おい! 黙ってないでなんか言えよ!」
「後ろめたいことでもあんのか、ああ!?」
「「…………」」
(なぜ黙っている? ハイドまでお大人しいとはどういうことだ? そもそも定期連絡はどうしたんだ? 何故、仮面もかぶらないで戻ったんだ?)
アンリルだけが疑問に感じているが二人は何を言われても黙ったままだった。その代わり、バルムドが手をかざしだした。そして……。
「おい! 何のつもりだ!?」
「ひょ、」
「「「ひょ?」」」
「【氷、結、魔法】……『氷矢・雨』……!」
「「「なっ、何!?」」」
ヒュン! ヒュン! ヒュン! ドガッ! ザシュ! グサ!
「「「うわあああああああああああ!?」」」
「くっ! あのバルムドが我々に攻撃だと!? まさか!?」
バルムドが構成員たちに対して攻撃を始めた。驚く構成員たちとアンリルだが、それで終わりではなかった。今度はハイドが魔法を発動していたのだ。
「うう……【獣……魔、法】『狼、化』……! ぐるあああああああああああ!」
「ハ、ハイドが狼に!」
「ど、どうしちまったんだお前ら!?」
「おい! 逃げるぞ!?」
多くの構成員が混乱するなかで、一人の男が走り出した。
「くそ! 私が相手をする! 他のものは戦闘班と幹部に知らせろ! バルムドとハイドが敵に操られているとな!」
「「「!」」」
アンリルが二人の前に出る。攻撃してきた二人は操られていると判断したのだ。だからこそ、アンリルは、事態の収束のためにも自分が戦わなければならないと思って行動した。たとえ、この二人を殺すことになったとしてもだ。
(バルムドとハイドは強い。私が本気で殺す気にならなければ勝てんだろう。幸いにも、二人の実力は知っている。戦闘パターンもな。二人には悪いが、運が良ければ重賞だけで済むだろう。……死んでも悪く思うなよ!)
魔法協会内部でついに戦闘が始まった。皮肉にも、幹部と操られた構成員との間で。
「【針魔法】『毒針千本』!」
「「!」」
シュパパパ!
アンリルの手から毒の針が飛びだした。暴れるバルムドとハイドに向けて放たれたが、二人は難なくかわしてしまう。バルムドが右に、ハイドが左に避けた。
「やはりかわせるか、だがそれは分かっていたことだ! これで二人を引き離せたのだからな!」
これは二人の行動パターンを知っているアンリルの作戦だった。二人のうち、どちらかの動きを封じることで被害の拡大を食い止めるつもりったのだ。左に避けたハイドがすぐに間合いを詰めてきた。
「ぐるあああああああああああ!」
「今だ! 【針魔法】『針網』!」
シュパアアアアア!
「ぐっ!? ぐるああああああああああ!?」
「ハイドよ。これで少しの間大人しくしてもらうぞ。【針魔法】『眠り針』!」
ブスッ
「ぐるうううううう……」
ハイドのスキを突いたアンリルは、『針網』で針でできた魔法の網でハイドを絡めとり、『眠り針』でそのまま眠らせてしまった。
「あとはお前だけだなバルムド……」
「……【氷、結……魔法】……『氷、の剣』」
バルムドが氷の剣を形成した。アンリルもそれに合わせるかのように、【針魔法】を発動する。アンリルは槍を形成した。
「【針魔法】『針の槍』。私の槍がお前を止めてやろう! 魔法協会のために!」
ジャキン! ガキン! シュバツ! ガッキーン!
二人は互いの武器を手に持って、戦い始めた。槍を避け、剣を避け、そして、槍と剣が交差する。その戦いはまるで、魔法のぶつけ合いというよりも兵士や騎士の戦いのようだった。見ている構成員たちはそんな風に思ってしまった。
「これが……戦闘班と幹部の戦い……!」
「これが魔法持ちの戦いだって? どうみたってそれ以上だろう……」
構成員たちの驚きは無理もない。今、戦ってるアルフレド・アンリルとバルムド・ヒョウは、どちらも元騎士団に所属の身だった。魔法持ちで剣や槍を持って戦う戦法はもともと慣れている。それどころか、魔法を使うよりも得意だと言っていいほどだ。
「はあああああ!」
「…………っ!」
ジャキン! ジャキン! ジャキン!
その二人が壮絶な戦いが繰り広げられる中、ついに勝敗が決まった。
ジャキン! ガタンゴトン!
グサッ! ブシュウウウウウウウウウウウウ!
バルムドの剣がはじかれて、剣を手放してしまったのだ。そのスキをついて、アンリルの槍がバルムドを貫いた。アンリルはバルムドの出血を確認して槍を抜いた。だが……。
「終わったな、悪く思うなよバルムド。幹部と戦闘班に伝えろ! 戦いは終わ……」
「がはっ、【氷……結……魔……法】……」
「何っ!?」
「『自、爆……氷、花』」
(……まさか……この、魔法、を……味、方に……使、う、ことに……なるとは……す、すまな、い……アン、リル……殿……)
カッ
アンリルが気付いた時には遅かった。アンリルとその場にいた構成員たちは、氷の中に閉じ込められてしまった。彼らを閉じ込めた氷は、花の形をしていた。それはさながら、氷の花のようだった。
魔力協会中央。
メルガーの耳に第二の非常事態の知らせが入った。その知らせを聞いたメルガーは忌々し気な顔を隠さなかった。
「何ということだ……! バルムドとハイドが戻ってきたと思ったら、操られて暴れだしただと……アンリルがその対処をしてくれているとは……すぐに戦闘班を呼んで応援に向かわせろ! そして、念のため他の二人の幹部にも戦闘班を向かわせるのだ! 急げ!」
「はい! 承知しました! では、第一部隊を……」
知らせを持ってきた構成員が部隊編成の確認を口にしようとしたその時、
「大変だー! 大勢氷漬けにされたー! アンリル殿も氷漬けになったー!」
「何だと!? アンリルが!?」
新たな知らせが入ってっ来た。それを聞いたメルガーはさらに驚かされてしまった。
魔法協会入り口付近。
メルガーが現場に駆けつけてみると、すぐに氷の塊が目に入った。そして、よく見ると、
「なっ! これは……!」
アンリルとバルムドが戦っていた場所を中心に、周りが氷漬けになっていたのだ。上から見たそれは、まるで氷でできた巨大な花に見えた。それを目にしたメルガーはさすがに絶句してしまった。氷の花の中心に驚愕した顔のアンリルと血だらけのバルムドが見えたのだから。
「……! ア、アンリル……」
よく見ると、アンリルとバルムドだけではなかった。針でできた網に絡まったハイドや多くの構成員も氷の中に閉じ込められていた。氷の中にいる者たちは、アンリルとバルムドも含めて即死しているだろうとメルガーは思った。
(これが【氷結魔法】『自爆氷花』か。バルムドが以前話してくれた【氷結魔法】の禁断の魔法。それは己の命と引き換えに、周囲の敵を巻き込んで氷漬けにするというが、これがそうか、ここまでとは……。バルムドもアンリルと同じ元騎士団だったと聞いてはいたが、これほどの実力者だったのか……)
「会長! 大変です!」
「っ!? 今度は何だ!?」
氷の花の前で呆然としてしまったメルガーだったが、構成員の声に我を取り戻した。だが、メルガーの耳に入ってきた知らせは、またしても悪い知らせだった。
「非常用の隠し通路から侵入者が大勢現れました!」
「な、何い!? 隠し通路からだと!? そんな所から侵入したのか!?」
「近くにいたパルサ殿が駆けつけて、対処してくださっていたのですが、処理しきれず、殺されてしまいました!」
「そ、そんな、馬鹿な! あのパルサまでもが!?」
知らせを聞いたメルガーは、悪夢を見ているような気分になった。悪い知らせが立て続けに耳に入ってくるのだ。
「い、一体、何がどうなっているというのだぁ!?」
「……」
メルガーは怒りのあまり怒鳴り散らすが、そんなことをしても周囲の構成員たちが一歩引くだけだった。
数分前。
バルムド達の騒動が聞こえてきたローグ達は次の作戦を開始した。
「次は『彼ら』の番だ。ルドガーさん、しっかり先導してやってくれよ?」
「ルドガーさん、気を付けてくださいね」
「分かっているさ。任せとけ」
ローグは魔封書を手に持って魔力を流す。そして、ルドガーに向けて手をかざすと……。
「【移動魔法】『指定転移』!」
パアッ! スッ……
ルドガーが一瞬光って、その場から消えた。
「ルドガーさんが消えた!」
「違う、バルムド達に案内させた隠し通路に行ってもらったんだ」
「そ、そうよね。何言ってんだろ私!」
魔封書による【移動魔法】『指定転移』は、特定した対象を指定した場所に瞬間移動させる魔法だ。ローグはこの魔法を使って、ルドガーを対象にして隠し通路に移動させたのだ。
隠し通路とは、魔法協会と外をつなぐ秘密の地下通路のことだ。本来なら魔法協会の一部の者しか知らないはずだが、ローグ達はバルムド達(操ってる)からこの通路の存在を知った。ローグ達は魔法協会を襲撃する前に、この隠し通路にある魔道具を設置しておいた。それは、ローグが【移動魔法】をヒントに作った『転移装置』だ(前世ですでに作ってる)。転移装置は一つの本体と複数の端末に分かれていて、本体を起動させると端末を持った者たちをその場に瞬間移動させる仕組みになっている。ルドガーを隠し通路に送ったのは、その転移装置を起動させるためだ。
「上手くいくかな……」
「俺が作った魔道具が信じられないか?」
「そんなことないわ。私が心配してるのは、あの人たちのことよ」
「『彼ら』のことか……」
「うん……」
『彼ら』とは、ルドガーが集めた協力者、つまり『共犯者』たちのことだ。彼らのほとんどが外町の者たちで、ルドガー以上に魔法協会に恨みを持つ者がほとんどだ。魔法を奪われた者もいる。ルドガーに集めさせたのは、大人のほうが適任であり下町に詳しいこともあるから任せたのだ。
案の定、共犯者になってくれるものは十数人ほど集まった。ローグは協力と引き換えに魔法を与えることで、計画への協力を約束させた。彼らの中には魔法を失った者もいたため、喜んで協力することを誓った。そして、彼らは普通の魔法持ちのグループと、二つの魔法持つグループに分かれた。
ただし、ローグは単純に魔法を与えるだけではなかった。魔法を与える手段は、魔封書に入っている魔法を取り出して与えればいいだけだが、その際、工夫を加えていた。ローグの【外道魔法】を一緒にかけていたのだ。【外道魔法・強欲】『強くない心』。心の奥底にある思いを増幅する魔法だ。ローグはこの魔法で、彼らの心の中にある魔法協会に対する怒りと憎しみを増幅するように仕組んだ。
そこまでしたのは、計画への協力を絶対にするためであり、計画が外部に漏れないようにするためだ。下町に住む人間は貧乏どころか、まともな暮らしができない。魔法なしという理由で王都どころか普通の町でも邪険に扱われるのだ。しかし、魔法が手に入れば、生活後大きく変えることができる。つまり、魔法だけもらって逃げ出す可能性があるのだ。それどころか裏切る可能性もある。その予防のために、協力者たは「魔法協会への復讐」という目的が一番でなければならないのだ。
(もっとも、そこまでする必要なかったかもな。どうやら全員が魔法協会を恨んでたみたいだし。それに、あの目だ。『ロー・ライト』の頃の俺と同じだったな……)
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