第22話 VS魔法協会2
会長室。
暴走する防衛魔術を潜り抜けたトーレンとメルガーは、会長室にたどり着いた。会長室には他の幹部がいた。髭面の男と眼鏡をかけた女だった。
「会長! トーレン殿! ご無事でしたか!」
「よくぞご無事で! 安心しました!」
「おお! アンリルさん! パルサさん!」
「君らも無事だったか!」
魔法協会の幹部である『アルフレド・アンリル』と『ミエカ・パルサ』が、トーレンとメルガーと合流した。メルガーはすぐに状況を聞き出す。
「防衛魔術が暴走しているようだが状況はどうなっている? 少し前に流れてきた魔力と関係があるのだろうが、どう対処しているかも話してくれ」
「はい。あの魔力が流れてきた後すぐに警報ベルが鳴ったのですが、それと同時に防衛魔術が発動したのです。それも、魔力が流れた範囲に比例して」
「魔力が流れた範囲に比例して、だと?」
「その通りです、会長。おそらく、流れてきた魔力は、この前のように探りを入れるためではなく、魔法協会のあらゆる魔術を暴走させるためのものでと思われます」
アンリルとパルサの説明をによれば、防衛魔術の暴走は流れてきた魔力の影響が原因だったというものだ。その推測を聞いたトーレンとメルガーは……。
「そ、そんな……。我々の魔術を都合よく暴走させるなんて……」
「そうとしか思えんだろ」
「会長……!」
「「……………………」」
「トーレン、あれを見ろ」
「あ、あれは監視魔術の水晶……!?」
トーレンは会長室の全ての水晶玉を見てみたが、何も映っていなかった。いつもなら常時、内部の映像を映す水晶玉が透明なままなのだ。
「防衛魔術だけでなく、監視魔術も使い物にならん。警報ベルが鳴り続けているのもそのせいだろう。つまり、魔法協会に設置されている全ての魔術が役に立たないものに変えられたのだ」
「そんな……そんな……」
トーレンは絶句してしまったが、メルガーは落ち着いた様子で状況を整理できた。メルガーはここに来るまでに見た状況からある程度推測していたからだ。メルガーの言葉にアンリルは疑問を口にする。
「全てのということは地下でも影響があったということですか? 実験に支障が出たとか?」
「実験に支障が出たどころか収容施設のロックが全て解除されてしまったよ。実験体の脱走だ」
「そんな馬鹿な! そんなことを許したら……!」
「安心しろ。地下は全て封鎖した」
「そ、そうですか………………え?」
メルガーの告げた言葉に今度はパルサが口を出した。
「地下を封鎖ですって!? 会長がここにいるということは、地下にはまだ多くの構成員が残されているではありませんか!? 彼らを見殺しにするおつもりですか!?」
「それはやむを得んことだ。魔法協会の外に出すよりはましだと判断したのだよ。たとえ、犠牲者を出すことになってもな」
「会長……それは……」
今度はパルサが絶句してしまった。アンリルも同じ気持ちでいるようだ。だが、反論することはできない。彼ら、幹部にとっては、会長であるメルガーの言葉は絶対だ。何より、メルガーの言っていることは、立場上、彼らには正論にも聞こえなくはないのだ。メルガーは幹部たちに指示を出す。
「原因がある程度分かったなら対処しようがある。まず、ここで魔法協会の全ての魔術を強制的に停止させる。そしてすぐに、生存者を集めて、敵の捜索と内部の立て直しの二手に分かれて行動を開始する。今度はこちらから反撃だ!」
彼らは、会長室から出て全ての魔術を管理する『魔術管理室』に向かった。
魔法協会の門前。
大混乱に陥っている魔法協会の前で、5人の男女が立っている。
「うまくいったな」
「……うん。何ていうか、大騒ぎどころじゃない、かな……」
「こんな方法を使うとはな……」
「「…………」」
地面に手を付けて魔法協会に魔力を流している少年がローグ・ナイト。そのローグの背中に手を触れて魔法をかけ続けている少女がミーラ・リラ。その二人を守るように立つ、剣を携えた男がルドガー・バーグ。そして、仮面をつけた二人の男がいる。彼らは、正確にはローグ・ミーラ・ルドガーの3人は魔法協会を潰しに来たのだ。残り二人は利用されるだけだ。
ローグは、『呪い探し』を使って、魔法協会の全ての魔術と魔道具の場所を感知した。ミーラがローグに触れているのは、ローグを通じて感知した魔術と魔道具に干渉するため、具体的には魔術と魔道具を暴走させるためだ。そんなことができる理由は、ローグがミーラに【解析魔法】を与えたからだ。
ミーラは【解析魔法】『魔力崩し』の発展形、『魔力暴走』を使用している。『魔力暴走』はその名の通り、対象の魔力を暴走させることができる。それは魔力を持っているものなら、人間はおろか、魔術や魔道具にも適用される。ミーラがローグに触れているのは、広い範囲に『魔力暴走』をかけるため、魔術と魔道具の場所を感知したローグの『呪い探し』を通じて、正確に魔法をかけるためだ。
本来なら、ミーラにこんなことはできなかった。ミーラが以前に持っていたのは【透明魔法】。【解析魔法】は【透明魔法】と系統が違うため、すぐに使いこなせるはずがない。ましてや、『魔力崩し』が発展した『魔力暴走』を使うなど不可能だ。ミーラが【解析魔法】を取得してから、五日間しかたっていないのだから。
それを可能にしたのがローグの【昇華魔法】だ。ローグはミーラに五日間、【昇華魔法】『超順応』の魔法をかけ続けていた。『超順応』は環境適応能力を高める魔法だが、それを応用してミーラに【解析魔法】を早く馴染ませたのだ。もちろん、それだけではない。ミーラは早く【解析魔法】を使いこなせるように、しっかり訓練(拷問)をほどこされた。……【解析魔法】の元の持ち主が誰なのかミーラには分かっていたが、その情報が役立つことは無かったほど厳しかった。
「いい調子だ。反応がまたいくつか消えた。結構、死人が出てくれてるよ」
「……そうなんだ。そこまで……」
「この魔法協会相手にそこまでとは……」
ローグの言っている言葉は事実だとミーラは理解できる。ローグを通じて魔法をかけているため、そして【解析魔法】の効果もあって、嘘をついていないことがはっきり分かってしまうのだ。どれだけ人の命が失われているのかも。
それでも、ミーラは止まることはない。何故なら、魔法協会に恨みがあるという理由もあるが、それ以上に、愛するローグの役に立ちたいという思いがあるからだ。だから、ミーラは喜んでローグの指示(命令)に従う。それがどんなに残酷なことであっても。
「ミーラ、大きな魔力を4人分感知したけど、会長ってやつと幹部の3人かな?」
「えっ、そ、そうね……会長と幹部の人が一番高い魔力を持ってるって聞いてるけど……」
「たぶんそいつらで間違いねえぞ、緊急時に4人一緒にいるなら、なおさらだ」
大きな魔力反応4っつが一緒に行動している。それを感知したローグは、ミーラとルドガーに伝えることで、敵の最高戦力だと確認した。そして……。
「それなら、この4人に『魔力崩し』をくれてやろう。その後で魔術の暴走が対処されたら、この『二人』を使ってやろう」
この後しばらくして、ローグは新たな攻撃を仕掛ける。
魔法協会内部。
ダダダダダッ!
魔法協会の会長と幹部3人が魔術管理室に向かって走っている時だった。突如、彼ら4人にローグとミーラの『魔力崩し』が降りかかる。そして、
「く、うあ……な、何だ」
「ま、魔力が……うう……」
「アンリル! パルサ! くっ、今度は人体への魔力干渉か……!」
「か、会長、どうか……!」
アンリルとパルサが急に苦しみだして倒れてしまった。トーレンとメルガーも同じように苦しみだす。だが、4人はこんなところでうずくまっている場合じゃない。先を急ぐ必要がある。ここで、メルガーが打開のために魔法を使う。
「分かっている! 【反射魔法】『反射結界』!」
ピカッ!
メルガー達四人を包む白い結界が発生した。その結界の中にいる4人は苦しみが無くなって、ほどなく立ち上がり始めた。【反射魔法】『反射結界』は、あらゆる攻撃を反射して跳ね返す魔法。この中にいる間は、魔法による攻撃も受け付けないのだ。当然、『魔力崩し』からも解放される。
「か、会長、ありがとうございます……」
「う、うう……」
「さすが会長です……!」
「そんなことはいいからすぐに魔術管理室に向かうぞ!」
「「「はい!」」」
立ち上がった4人は、再び走魔術管理室に向かって走り始める。
ダダダダダッ!
数分後。
メルガー達4人は、魔術管理室の中にまでたどり着いた。早速、4人は魔術管理用の『大魔力炉』を停止するために取り組み始めた。大魔力炉は4っつの起動装置によって、運用されている。この起動装置を全て停止させることで、大魔力炉は活動を止めて、魔法協会中の魔術を停止させられるのだ。
「準備はいいな。ではいくぞ、第一起動装置停止! 次!」
「第二起動装置停止!」
「次!」
「第三起動装置停止!」
「次!」
「第四起動装置停止!」
「大魔力炉は!?」
ブウウウウウウウウン………………シュウウウウウウウウウウウウウウウウ!
「大魔力炉……停止を確認しました!」
「うむ!」
大魔力炉が停止した。これで全ての魔術が停止して暴走することはなくなるはずだ。実際、魔術管理室からも聞こえていた暴走や悲鳴が収まっていた。
「静かになった……」
「終わったのね……」
アンリルとパルサは一安心した。だが、トーレンとメルガーは違っていた。その顔には、安心しきった様子は一切無かった。
「お二人とも、まだ終わっていませんよ。黒幕がまだ分かっていないうちは安心できません」
「その通りだ。すぐに生き残った者達を二手に分ける。敵の捜索と内部の立て直しに向けて行動せねばならんからな。ここまでのことをしでかしたのだ、戦闘班を中心に何としても始末しなければならん。そのために我々も四方に分かれて指示を出さねばならん。いいな!」
「「了解!」」
トーレンとメルガーの言葉に、アンリルとパルサは気を引き締めなおした。この後、彼らはメルガーの指示のもと、四方に分かれて行動を開始した。
魔法協会の門前。
しばらくして、魔法協会から騒音や悲鳴が聞こえなくなった。それは魔法協会の全ての魔道具と魔術が停止したことを意味する。ローグはそのことに少し感心した。
「ほう。思ったより早かったな。もう少しかかるとおもったんだけどな。さては、4人のうち誰かが『魔力崩し』に対抗できる魔法持ちだったか?」
「そうみたいだったよ。なんか、魔法がはじき返されるような感覚があったから……」
「向こうにも魔力か魔法に干渉するタイプがいるってことか、ハードルが上がったな~」
「それで、次はどうすんだ坊主?」
ルドガーがローグに問いかけるが、ルドガーはこの次にすることは知っていた。これで魔法協会全体を混乱させるという第一段階が終わったのだ。次の段階に入る準備はすでにできている。それをあえて聞くのは、彼が元は戦場で戦う兵士だったからだろう。戦場において、作戦を決行する重要性を体で知っているのだ。確認を怠ることは無い。
「もちろん、この二人に出向いてもらうさ。なあ、お二人さん」
「「…………」」
ローグは仮面をつけた男たちに話しかけるが、二人は答えない。その様子を見たルドガーはどこか複雑な心境のようだ。ミーラは特に気にしたりはしない。ルドガーもミーラも、この二人が何者かを知っているからだ。
「まさか、あのお前がこんな風になるとはな。なあ、バルムド」
「…………」
名前を呼ばれても、答えは返ってこなかった。この二人の正体は、バルムドとハイドという数日前にローグを襲撃してきた魔法協会の追手だった。しかし今は、ローグ達の都合のいい駒になってしまった。理由はもちろん、ローグの【外道魔法】によるものだ。ただ、この場合はミーラのケースとは違っていた。ミーラの場合は心を作り替えたものだが、この二人は体の自由が奪われたのだ。つまり、ミーラと比べれば奴隷か捨て駒かという違いだ。
「それじゃあ、仮面外して暴れてもらおうか【外道魔法・色欲】『愚かな人形』」
ローグの魔法がかかった二人は、仮面を外して魔法協会の門を開いた。外した仮面が道端に捨てられる。そんな二人は内心、こんなふうに思っていた。
(畜生! 畜生! クソガキめ!)
(よくもこんな辱めを! 許さん! 絶対に許さんぞ!)
二人は心の中で怒り狂っているのだが、その思いは表に出せないどころか、魔法にかけられて口を利くことさえできない。屈辱の極みである。二人はそのまま、魔法協会に入っていった。その様子を見ていたローグは、二人がかぶっていた仮面を拾って、次の指示を出す。
「また騒ぎになりだしたら、今度は俺たちが中に突入する。もっとも、その前に彼らを転移するけどな」
バルムド達が突入することで第二段階が始まった。肝心のローグ達が突入するのは、第三段階になるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます