第18話 戦闘開始!2
ローグは「魔法協会をつぶす」という宣戦布告を告げて、『堕落の壁』の範囲から出た。バルムドとハイドは、攻撃態勢に入る。
「魔法協会をつぶす? 笑わせんな!」
「貴様らに何ができる? 叩き潰してやる!」
「来るぞ坊主! 嬢ちゃんは下がれ!」
「ロー! 逃げて!」
「ルドガーさんはミーラを守ってろ。俺が相手してやるよ」
「な、何?」
「え?」
(どんな魔法が来る? 見せてもらおうか)
どんな攻撃が来るか期待するローグは、バルムドの周囲の温度が下がっていくことに気付いた。ハイドは何やら顔が獣のようになってきている。そして、バルムドが先行して攻撃を繰り出した。
「結界から出たことを後悔するんだな! 貴様を捕獲する! 【氷結魔法】『氷矢・雨』!」
「【獣魔法】『狼化』! 死なない程度に殺してやる! ぐるあああああああああああ!」
(ほう、【氷結魔法】と【獣魔法】か。なかなかの魔法じゃないか)
ハイドは狼の姿に変身し、そのまま襲い掛かってきた。バルムドの周りに氷の矢が形成され、氷の矢はそのままローグに向かって飛んできた。ローグは【昇華魔法】で身体能力を強化して彼らの攻撃をうまくよける。
ヒュン! ヒュン! ヒュン! ガチン! ガチン! ガチン!
氷でできた矢と狼になったハイドの爪と牙をかわしながら、ローグは敵の魔法を分析する。【氷結魔法】は戦闘に利用できるが相手を凍らせれば拘束できる、多様性も広い。【獣魔法】は狼をはじめ、あらゆる『獣』の能力を使いこなせる、こちらも多様性も広い。この二人がローグにたどり着いたのは、狼になったハイドの嗅覚を利用したのだろう。
(姿を変えてもにおいのことは考えなかったな、これから気を付けるか)
「どうしたあ! かかってこないのかあ! がるるるるるる!」
「来ないならこっちから行くぞ! 【氷結魔法】『氷の剣』!」
「何!?」
矢を飛ばしていたバルムドが手に氷の剣を出して向かってきた。どうやら矢を打ってもよけられると思ったバルムドは、直接攻撃に切り替えたようだ。ハイドもそれを見て、バルムドに合わせた動きに変わる。
(身体能力が高いなら遠距離で魔法を打ってもかわされる。ならば二人で直接向かっていけば対応が難しくなるはず)
(俺の『狼化』とバルムドの『氷の剣』の猛攻があれば、一人で戦ってるやつなんざ楽勝だ!)
二人がそんなことを考えている中で、ローグは勝利を確信した。後は二人が同時に攻撃してくれればいいのだから。この二人はローグの魔法を見誤った。
(この二人は俺の魔法は『防御と探知もできる魔法』としか見てないな、攻撃手段を観察してから攻め方を変えるべきだったな)
ガチン! ガチン! ガチン! シュッ! シュッ! シュッ!
二人が交互に攻撃してくる中で、ローグは同時に攻撃させるために、わざと挟み撃ちの状態になって隙を見せた。すると、二人はうまくかかってくれた。同時攻撃だ。ハイドの牙とバルムドの氷の剣がローグを仕留める寸前に、ローグの魔法が発動する。
「今だ!」
「がるあああああああ!」
「かかったな! 『理不尽の拡散』!」
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!
「ぐるあああああああああああ!?」
「ぐあああああああああああああ!」
ドサッ ドサッ
(【外道魔法・憤怒】『理不尽の拡散』。この魔法は俺自身を中心とした全体攻撃系の魔法だ。近ければ近いほどダメージを食らう。うまくいけばこの二人みたいになる)
二人はローグの罠にかかり、二人同時に倒れてしまった。その拍子に二人の魔法も解除された。ローグの戦いを見ていたルドガーとミーラは目を丸くしていた。
「し、信じられん……。こんな若者があのバルムドを倒すとは……! それになんて強さだ!」
「二人相手に……ローがこんなに強くなるなんて……!」
ローグの言われた通りにミーラを守っていたルドガーが、小屋から出てつぶやいた。ミーラも驚いている。彼女が、昔の『ロー・ライト』を知っているだけに。
「ルドガーさん、こいつらを縛り上げた後で聞かせてもらうぞ」
「……何をだ……?」
「もちろん、あんたと魔法協会のことでだ。無関係とはいえないんだろ? 魔法協会と敵対する俺としては、聞いておきたいところなんだ」
「さっきのことは本気なのか!? 魔法協会をつぶすってのは!?」
「本気なの!?」
ルドガーとミーラは驚いてローグ人詰め寄ってきた。ローグは理由を告げる。
「俺の復讐の獲物だったミーラを先に手を付けやがったんだ、当然だろ?」
「そんな理由でか!?」
「な、何よそれ!?」
「いろいろと気に食わないってのがあるな」
(俺の見たところ、ろくな研究機関ではなさそうだからな)
少なくとも、ローグの中の『ナイトウ・ログ』は、魔法協会はないほうがいいと告げている。旧時代の滅亡の理由は定かではないが、その理由としてあげられる有力候補の中には魔法の研究がどうしても絡むため、危険な研究機関はつぶしておきたいというのがローグの本音なのだ。それを知らないルドガーとミーラは、『堕落の壁』から出てさらに近づいてきた。ローグを説得するために。
「坊主よ、悪いことは言わないから表立って魔法協会と敵対なんかするんじゃねえ! しかも動機もわけわかんねえよ!」
「そうよ! 王国のすごい魔法使いが集まってるのよ! その『会長』は魔法を奪える恐ろしい魔法を持ってる! いくら今のローでも敵いっこないよ!」
「……その通りだ、愚か者どもよ」
「「「!」」」
「くらえ! 【氷結魔法】『生命氷結』!」
ヒュウウウウウウウウウウウウウ!
突然、バルムドが起き上がりローグたちに魔法を放った。『生命氷結』は至近距離で放たれる最上級の【氷結魔法】だ。確実に相手を凍らせられるこの魔法はかなり魔力を消費するが、ローグを倒すにはこの手しかないとバルムドは判断したのだ。
(殺してしまったか、仕方ない……。こんな危険分子は生かすのは危険すぎる……)
「ふう、危なかったな……」
「!?」
「もう少し遅かったら死ぬとことだったぜ」
バルムドは信じられないものを見てしまった。自身の最強の魔法を使ったのに、ローグは何ともなかったのだ。それもそのはず、レントとの戦い(不意打ち)から油断は禁物だと身をもって学んだローグは、いつでも『腹外消化』か『堕落の壁』を一瞬で発動する努力をしていたのだ。今回は『腹外消化』で防いだ。
「そ、そんな馬鹿な……! な、何をした……!? う、く……」
ドサッ
バルムドは訳が分からないまま、再び倒れてしまった。今度は、すぐに起き上がれそうになさそうだ。
「おや? 魔力切れを起こして倒れたか。二人とも呆然としないでこいつらを縛ろうぜ」
「……あ、ああ……」
「え、ええ……」
ルドガーとミーラは、いきなり起こった事態に呆然としていたが、ローグに言われて流されるように縛るのを手伝った。
数時間後。
バルムドとハイドを縛り上げ、ローグは改めてルドガーに魔法協会のことを聞き出した。ルドガーもローグの意志が固いと感じ、すべてを話すことにした。知ったローグが諦めることを願いながら。
「俺はかつて、王国の騎士団にいたんだ。魔法協会に関わるようになったのは、俺の魔法に連中が目を付けたからだった」
「え? そうだったんですか?」
「あんたは騎士団だったのか、どんな魔法を持ってたんだ?」
「……【再生魔法】だ。肉体の傷の再生を一瞬で終わらせたり、破壊された物を直せたりできる。今もあれば嬢ちゃんの傷も治せたんだが……」
「奪われた。関わった魔法協会を裏切った代償にか?」
「……そうだ」
「ルドガーさん……」
ローグは内心驚いていた。【再生魔法】は旧時代でも希少な魔法で、主に医療機関に重宝された魔法だった。ルドガーが奪われたことを肯定したことは、【再生魔法】も魔法協会にあることになる。
「俺は自分の魔法が役に立てるならと、たいして目立つことができなかった騎士団から魔法協会に移籍した。だが、そこで見たものは嬢ちゃんが言ってたことと同じだ。それが許せなかった俺は『会長』を非難して騎士団や国王に訴えようとしたんだ。しかし、『会長』はそんな俺に信じられないことを告げたんだ……」
「それはあんたがこの外町でひっそり暮らし続けるほどの理由なのか?」
「そうなの? ルドガーさん?」
「……ああ」
そこまで言うと、ルドガーは少し黙ってしまった。どうやらあまりにもつらい何かがあったようだ。やがて、ルドガーは再び口を開いた。
「……魔法協会には、強大な後ろ盾がいたんだ」
「う、後ろ盾? 強い味方がいるんですか?」
「魔法協会を支援する強大な組織がいた。それを知ってあんたはショックを受けた。それはあんたもよく知っていた……」
「その通りだ、頭が回るな坊主」
「な、何なんですか、その後ろ盾って?」
「……国だ」
「へ?」
「…………」
「この国、王国そのものさ。国王が知ってて黙認どころか支援してるっていうんだよ……」
「王国が!? 国王様が!?」
(やはりそういうことか)
ルドガーの話は事実だとローグは思った。というよりも、そういう展開も予想していた。王都で魔法協会の悪い噂をよく耳にしているにもかかわらず、騎士団が魔法協会に取り調べをしたという話を一切聞かない時点で、黒幕が国そのものだという可能性を考えていた。
「そんな!? どうしてそんなことに!?」
「俺も耳を疑ったが、後になって考えるといろいろと辻褄が合うんだ。ろくな噂が絶えない組織を王国がほったらかしてるのは事実だ。思えば、騎士団に魔法協会の手先がいたかもしれない……俺に縁がなかったはずの魔法協会が目をつけてくるんだからな……」
「そんな、そんなことって……! そういえばレオンも魔法協会との仲がどうとか言ってたけど、そういうことだったのね、あいつ……!」
ミーラは国そのものが憎むべき魔法協会に加担してると知って、深く絶望した。さらに、レオンがこのことを知っていた可能性を思い返して怒りもあらわになった。
「坊主、これが真実だ。魔法協会に敵対するのはやめろ。国そのものを敵に回すことになるんだ。いや、そもそも復讐自体止めろ。お前さんはまだ若いんだから、人生を無駄にすることはない」
「……ロー、憎いから復讐したい気持ちは分かるけど、横取りされた気分になったから敵対するなんて馬鹿げてるよ。復讐を望むなら私で最後にして……。その後で、昔の優しかったあなたに戻ってよ……」
「………………国が敵か………………」
ローグは考える。最初の方針は目立たないことだったが、国を相手にすると嫌でも目立つ。しかし、自分の復讐を台無しにした魔法協会は許せない。それに、レオン・ビリーが残っている彼は国に使える騎士団にいる。最終的に国を敵に回すことになる。遅かれ早かれだ。
ローグは決断した。少し方針を変える形で。それをはっきり口にした。
「俺は復讐を続ける」
「何だと……」
「そんな……!」
「どんな敵だろうとも邪魔なら排除するまでさ」
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