第16話 復讐宣言
王都には全部で4っつの門がある。ミーラは他の三つの門の門番に話を聞いてもらおうとしたが、駄目だった。すでに魔法協会の手が全ての門番に回っていたのだ。
(魔法協会は手が早いな)
「私は絶望したわ。だけど、途方に暮れてた時に門から王国の騎士団が出てきたの。その騎士団の中には『あいつ』がいたのよ……」
「『あいつ』ってまさか?」
「……そう、『レオン・ビリー』よ」
レオン・ビリーとは、ローグの復讐対象の最後の一人にして、最悪の相手だ。騎士団にスカウトされたとは聞いていたが、もうすでに他の騎士団員と一緒に働いているとはローグは思ってもいなかった。彼もまだ少年のはずだったからだ。ミーラは彼に助けを求めたようだが、この様子だと最悪の結果になったようだ。彼女の今の惨状はそれが原因だろう。
「私は彼に助けを求めたのよ……それなのに……うう……」
「それなのに、どうしたんだ?」
「あいつは、あいつは! 私を見捨てたのよ! 裏切ったのよ! そして、こんな目に合わせたのよ! 私の現状を知ったら、助けるどころか私に向かって魔法をぶつけたのよ!」
「そんな!? あいつが!?(やっぱり、そこまでしたのか)」
「じょ、嬢ちゃん……」
ミーラはレオンのことを思い出すと、怒りで興奮し涙を流しながら、さっきとは別の意味で落ち着きをなくした。だが、ローグはレオンの非道を聞いていたが、あいつならやりかねないと思った。
(あいつは表では優等生顔だけど裏じゃかなり利己的な奴だったからな。普段は正義面してるが、自分のためなら平気で他人を蹴落とすようなやつだったんだが、ミーラはそこらへんは分っていなかったな。思えば、俺のことは魔法なしと分かった時点で誰よりも態度を変えてたからな)
「わ、私……レオンなら助けてくれると思ったのに、信じてすがったのに、あいつは、『魔法協会と敵対したら僕の立場が危うくなるじゃないか、ましてや魔法なしに落ちぶれた君はもう価値が無い』なんて言って私を焼いたのよ! 最低最悪よ!」
「ミーラ……」
「そんな、友達にやられた傷だったのか……俺はてっきり魔法協会だと……」
「魔法なしになったくらいで……! こんな……こんな……!」
(……なんだと……この女……!)
ルドガーが絶句するほど衝撃的な事実がミーラの口から語られるが、ローグは別の意味でミーラの言葉が聞き捨てならなかった。それは、魔法なしになったミーラがレオンに攻撃されたことに怒りを覚えていることだ。
「うう、許せない、絶対許せない! レオンのこと信じてたのに、魔法なしだからって、こんなひどいことを平気な顔でやったのよ! こんなこと許されるはず……」
「その言葉、そっくり返してやろうか? 元魔法持ちのミーラ……!」
「え?」
「坊主?」
突然、ミーラの言葉をローグが遮った。一瞬、キョトンとしたミーラとルドガーはすぐには分らなかった。今のローグの顔には、かつて『ロー・ライト』の頃の怒りと憎しみが宿ったことを。
「ミーラ、お前は自分が昔やったことを棚に上げて何を言ってるんだ?」
「な、何を……」
「魔法なしを差別していじめるのなんて、村にいた頃からやってきたことだろ? この僕に対してさあ、忘れちゃったのかな?」
「!? あ、あ、そ、それは……」
ローグの言葉にミーラは激しく動揺した。というよりも、ローグが意図的に動揺させたのだ。一人称も「僕」にしたのもそのためだった。そこまでしたのは、復讐の対象のはずのミーラがかつての自分『ロー・ライト』と重なったからだ。それが気にくわなかったローグは、徹底的に痛めつけるとは違う形で復讐することに決めた。それは、深く反省した者に対して保留として考えていた計画だった(実は没案だった)。
「思い出しなよ、お前は僕が魔法なしと分かった途端にみんなと一緒になって僕をいじめてたじゃないか、その前は仲良かったのに」
「そ、それは……その……」
「なんだ? 自分は違うなんて言わせないよ。あの頃のことはしっかり覚えてるんだよ。お前たちが村を出る前日にどんな話をしてたのかもな」
「なっ!? あ、あの時の……」
「そうだ。僕は耐えきれなくなって叫んで外に出ていったけどな」
「……!……ロー……」
「坊主……」
ローの言葉はミーラの心を深くえぐる言葉だった。聞いていたミーラは怒りが収まるどころか言葉を失ってしまった。彼女もまた、あの時のことを思い出していたのだ。自分が放った言葉も含めて。
「本当につらかったよ。世界の全てが信じられなくなった。村を出ようとした矢先に……誰かに井戸に落とされたりしてさあ、……誰かは知らないけど、ミーラなら分かるんじゃないかな?」
「ッ! う、あ、あ……」
(この反応、やっぱりな。この女しか可能な奴はいない)
ローグは、自分を井戸に落としたのはミーラだと思っていた。あの村で、誰にも気づかれずに近づける魔法を持っているのはミーラ以外に心当たりが無かったからだ。今ここでカマをかけてみたところ、ミーラは足からガクガク震えだした。その様子を見て、ローグは自分の推測が正しかったことを確信した。犯人はこの女だと。
「井戸の奥から生きて出てくるのは大変だったよ。その過程で僕、いや、俺はいろいろと変われることができたんだ。そこで得たものもある、最強の武器と目的だ」
「……え……?」
「見せてやるよ。俺の武器を!」
ビッビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!
「「ッ!!」」
ローグは手から【外道魔法】を出した。赤紫色の光が、ここにいる三人を照らす。その威力は、人を大やけどさせる程度のものだった。雷魔法にも見えるそれを見たミーラは、信じられないものを見るような目になった。ミーラはローグが魔法なしのままだと思い込んでいただけに、かなり衝撃的だった。
「い、今のローは……」
「ああ、俺はもう魔法なしじゃない。今の俺は昔と変わることができたんだ。そして、俺の目的は復讐だ!」
ローグは、魔法を消してミーラに宣言する。
「……ふ、復讐?」
「……復讐だと?」
ローグの言葉に二人は違った反応をした。ミーラは恐怖を感じたようだが、ルドガーは眼を鋭くしてローグを凝視している。ルドガーはローグを警戒しているようだ。もしかしたら、只者ではなかったのかもしれない。ルドガーのことも知る必要がありそうだが、今のローグにとって重要なのはミーラだ。
「そうだ。実際、俺は村の連中全員に復讐をやり遂げたんだよ。お前の母も含めてな」
「ええ!? 村の人たちを!?」
「む、村ごとだと!? 馬鹿な! たった一人で何をしたっていうんだ!?」
「お、お母さんまで……そんな……」
ミーラは、絶望して膝をつき、涙を流した。ルドガーはさらに警戒して睨め付けている。ローグの目的が復讐だと知って、ミーラに危害を加えると判断したのだろう。ローグはそのまま話を続ける。
「う、う、……お母さん……」
「おいおい、勘違いするなよミーラ。さすがに殺してはいないんだ。生きて苦しみ続けることに意味があるからな」
「え……生きてる……?」
「……どういうことだ?」
ミーラは戸惑う。ルドガーは訝しむ。復讐したと言っておきながら、生かしていることがおかしいと思ったのだろう。
「俺はあいつらを死なない程度に痛めつけたんだ。そして、最後に、俺と同じ苦しみ、魔法なしの苦しみを味わってもらうために……」
「「……………?…………」」
「あいつら全員の魔法を奪ったんだ! 魔法なしになってもらうためにな!」
「ッ!?」
「何だと!? 魔法を奪っただと!? 坊主、お前が!?」
ローグが語った復讐の内容に二人は驚愕した。ミーラはローブで分からないが、火傷した左目さえも大きく見開くほど驚いていた。何か知っているようなルドガーは、ローグに問いただしてきた。
「ローに……そんなことが、出来るの?」
「……お前は、魔法協会の者か? 一体、どうやったんだ? 」
「俺は魔法協会じゃないよ、ルドガーさん。それに俺の魔法は【強奪魔法】じゃない。大規模な魔術を構築して奪ったんだよ。この本がその証明さ」
ローグは、持っていたカバンから古びた分厚い本を取り出した。その本を開いて二人に見せた。
「これは……何なの?」
「この本は魔道具の類か?」
「そうだ。ここを見てみろよ、村長の名前と魔法が書いてあるだろ? こっちにはミーラの母さんの名前と魔法が書いてる、違うか?」
「あっ! 確かに村長とお母さんの名前があるけど、これが何の証明になるの……?」
「そうだぞ、この本の何が証明になるんだ?」
「まあ見てろよ」
ローグは二人から距離をとると、手に持った本に魔力を流した。本も魔力に比例して光を放つ。そして、本から魔法が放たれる。
「【風魔法】『風圧弾』!」
ヒュウウウウウン! ドオンツ!
「これは、お母さんの【風魔法】!?」
「さっきとは別の魔法だと!?」
《驚いてくれたかな? そして、聞こえるか? これが証明だ》
「え?」
「何!?」
本から放たれたのは、ミーラの母親の【風魔法】だった。それを見て驚く二人だったが、突然、ローの声が頭から聞こえてきてさらに驚いた。
「な、何? 頭から……ローの声が聞こえる!?」
「これは【念話魔法】か! こんな魔法まで……まさか!?」
《おや? ルドガーさんは気付いたかな?》
「その本……魔道具の中に奪った魔法があるのか!」
「《正解!》」
今度はローグの口からも聞こえた。
その後、ローグはいくつもの魔法を二人の前で使って見せた。5回目で遂に二人はローグの言っていたことが真実だと理解した。
(ローは、もう昔のローじゃないの? そういえば、俺、って言ってた? 目的が復讐? 村のみんなにも? それで魔法を奪った? 魔法協会みたいに? でもなんか違う? 本から魔法が出た、だから違う? どういうこと?)
「……坊主、お前、本当に何者だ? 魔法協会じゃなくても、魔術だけで魔法を奪うなんてただものじゃないだろ?」
「ただものじゃないやつが、そう簡単に招待を明かすと思うか?」
「それもそうか……」
「……ロー……」
ルドガーもただものじゃない。この男には注意が必要だ。ローグはそう思っている。ローグとルドガーは、鋭い目でにらみ合っていた。一方、ミーラはこの数時間で知ったことを、整理できないでいた。
(ちょっと待って、ローの目的が復讐? ローは今、私の目の前にいるってことは……)
「……復讐が目的か。それでどうする? この嬢ちゃんもそうだってのか?」
「その通りだ。聞いてたなら分かるだろ?」
「!」
(……そういうことか、そうだよね……)
「……何者だっていいよ」
「「!」」
突如、ミーラが口を開いたのだ。この状況で言葉が出たミーラに二人は少し驚いた。二人の視線はミーラに移った。ミーラはうつむきながらも言葉を続ける。
「ローは……私に、復讐を……つまり、今までの仕返しをしに来たんだよね……?」
「当然だ」
「おい、坊主……!」
「いいんです、ルドガーさん。私は確かにそれだけのことを……取り返しのつかないことをしてしまったんです。本当に、馬鹿なことをしました」
「ほう(驚)」
「彼が望むのなら私は命すら差し出します」
「そんな、嬢ちゃん……!」
ミーラの言葉から、彼女は覚悟を決めたのだとローグは察した。おそらく、今のミーラなら何を聞いても正直に答えてくれるだろう。『あの時』のことも。そう考えたローグは、すでに確信していたことをミーラに聞いてみることにした。
「そうだな、ミーラ。俺がお前に復讐するのは決定事項だ。だけど、その前に聞きたいことがある」
「……聞きたいこと?」
「正直に答えろ、俺を井戸に落としたのはお前か? 【透明魔法】があるなら簡単だろう? いきなり謝ってきたのはそのことじゃないのか?」
「…………」
「嬢ちゃん……まさか……!」
「やっぱり分かってたんだ。その通りよ、私がローを突き落としたの」
「「…………」」
やはり、ローグの推測通りだった。聞いていたルドガーは言葉を失ったが、ローグは冷静に受け止めていた。『ロー・ライト』のままだったなら怒り狂っていたことだろう。覚悟を決めたミーラは、ローグを井戸に突き落とすまでの経緯を話した。
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