第11話 勝利

 ゲテも倒された。その事実を前に、ケリーは遂に目の前にいるのが昔の『ロー・ライト』とは違うことを理解した。それと同時に、怒りが込み上げてきた。


「ゲテまで、ロー、テメエは何なんだ! 一体何なんだよ! 畜生!」


「おやおや、どうしたのかな? 自棄になちゃってさあ、暑苦しいよ? ついでに臭い」


「ふざけんな! くそ、何で魔法を使えんだよ!? 今まで隠してたのか!?」


「ばっかだなー、隠す理由ないじゃん。つい最近使えるようになったんだよ。ケリーは蹴ることしか頭回らないねー、あははは!」


「くっ、くそ! テメエごときがこの俺を馬鹿にするんじゃねえええええええ!」


 ローグはケリーをからかいながら質問に答えた。ケリーの怒りが増すように。そうするのはローグにとって、復讐の一つなのだ。


(怒り狂う様子が面白くて仕方が無い。あの迷宮で俺が望んだ光景が今目の前にある。最高だよケリー!)


「半端な魔法が使えるようになったことを後悔させてやる! 俺の最強の蹴りを食らわせてやる! ぶっ殺してやる!」


「ふふふ、ならやってみろよ。できっこないから」


「何い!?」


「難なく防いでやるよ、お前の蹴りは最強からほど遠いからな」


「て、て、て、テメエはあ! 絶対後悔させてやるう!」


 ケリーの右足が光りだした。もはや言葉すらおかしくなったケリーは怒りに任せて魔法を発動したのだ。魔力を右足に集中している様子でいるケリーは、【脚力魔法】を考えなしに最大限まで放つようだ。【脚力魔法】の使い方によっては反動が起こることも覚悟の上なのか知らないが、ローグにとっては都合が良かった。


(思った通り乗ってきた。俺も最大限防御するか。【外道魔法・怠惰】『堕落の壁』っと)


 ローグの前に赤紫色の光の壁が出現した。そしてさらに、


(もう一つ加えるか! 【昇華魔法】『魔法昇華』)


 【外道魔法】の『堕落の壁』が【昇華魔法】によって強化された。これがローグの最大の防御になる。それに対して、ケリーも準備できたようだ。


「【脚力魔法】『破壊蹴り』! 食らいやがれええええええええ!」


「ああ。この壁を壊せたらな」


ガッキイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!


 ケリーの【脚力魔法】『破壊蹴り』が最大出力で放たれた。要するに、魔法で最大まで強化した足で蹴りつけてきたのだ。そして、その強烈な蹴りはローグの『堕落の壁』に直撃した。ケリーは『堕落の壁』を破壊してローグも一緒に蹴り飛ばすつもりでいた。しかし、結果はローグの予想通りになった。


「う、ぬっぐああああああああああああああああああ! おっ、俺の足がああああああ!」


「いえーい、予想通りー」


 『堕落の壁』はビクともしなかった。それどころかケリーの方がダメージを負った。強く蹴りつけた衝撃がその足に負担をかけたせいで、物理的につぶれているようだった。【脚力魔法】の反動もあって、その場でうずくまっている。


「う、う、うああああああああ……」


「残念でした。それじゃあ、俺からも蹴りを一発くれてやるよ」


「う、ぐ、や…やめ…て…くれ……」


 ローグは【昇華魔法】で肉体を強化しながら、足に【外道魔法】を付与して、苦しむケリー近づいた。


「だーめ。それじゃ復讐にならないだろ。えい」


ドガッ!


「うぐっ!? げはあ!?」


ドサッ


 ケリーは、ローグに腹を思いっきり蹴飛ばされた。そのままゲテのように気絶した。




過去。


 村で暮らしていた頃、レントは自身の魔法をはっきり分かった後、ローが魔法なしだと言われている様子を見て、正直不思議に思っていた。ローには確かに魔法を感じていたのだ。


(どうしてローは魔法を使おうとしないんだろう?)


 レントはその答えを、ロー自身ではなく、彼の親戚の叔父にあたる人物に聞いてみたが、思いもよらない答えが返ってきた。


『いいか、レント。ローの魔法に関しては秘密にするんだ。誰にも言うな、ローにもだ。何故だと? そんなこと知る必要もない。いいから黙ってろ、いいな』


 レントはその人の言葉に押され、ローがどれだけいじめられても、そのままいう通りに黙っていた。そのことを後悔する時が来るその日まで…………。




現在。


「よし。こんなもんか」


 ローグはゲテとケリーが気を失ったのを確認して、二人を大きな岩に縛りつけた。


「後はレントだな。どこにい…」


「ここにいるぞ!」


ガシッ


「何!?」


 レントを探そうとしたその時に、そのレントが後ろからローグを羽交い締めにしてきた。どうやら意識を取り戻してローグの隙を狙っていたようだ。羽交い締めにはできたが、それだけでは終わらないだろう。


「【解析魔法】『魔力崩し…」


「させん!」


ビッビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!


「うえぎいやああああああああああああああああああ!?」


 ローグはレントが魔法を使う直前に、雷のような【外道魔法】を全身から発生することによって難を逃れた。ローグに密着していたレントはそのせいで【外道魔法】をまともにくらい、すぐには意識が戻らないくらい悲惨な状態になった。


「ふう、危ないところだったな」


 レントが使おうとした『魔力崩し』とは、触れた相手の魔力を強制的に対外に出して体のバランスを不安定にする魔法のことだ。【解析魔法】は決して単に相手を分析する等のサポート系ではない。意外と厄介な攻撃手段もある。


 それを知っているからこそローグは最初にレントを攻撃したのだ。最も、最初にレントを倒そうとした理由には、この3人の中で一番許せないということもある。


(レントに【解析魔法】があるってことは、『ロー・ライト』の頃の俺に【外道魔法】があることは知られていたはずだ。なのにこいつは何も言わなかった、言ってくれなかった。もっと早く言ってくれていれば虐められずに済んだのにな、そうだろレント?)


 レントが黙っていた理由は本人に聞けば分かるが、ローグはどんな理由を聞いても容赦しないつもりでいる。もうすでに容赦なしで攻めたのだが。


「ふふふ、これで3人ともノックアウトだ」


 この3人はローグに敗北した。彼らの未来は悪い方に決まった。

 二人の女性は信じられないものを見ていた。自分たちを縛り、二人の仲間を殺し、その前には大勢の冒険者を殺してきた男3人が一人の少年に倒されてしまったのだ。二人は絶望の中から希望を見出した。


((助かるんだ!))


 自分たちは助かるという希望が心の中にあふれる。だがそれだけではなかった。死んだ仲間が目に入った時、どす黒い感情が芽生えた。それは怒りと殺意だった。



数分後。


 気絶したレントを同じ岩に縛り付けた後、ローグは周りを見渡した。


「ふう、終わった。……にしてもひどすぎるな、これは……」


 ローグの目に映ったのは、大勢の冒険者達の死体だった。ローグの頭の中では、ケリー達が冒険者を襲っていると予想していたが、この世界の基準で成人したばかりの悪童とはいえまさか大量殺人までしていたとはさすがに予想していなかった。


(まったく恐ろしいことだ、あの3人がこれほど多くの人の命を奪い続けるなんて。こうなったのも冒険者役場の連中の危機管理が甘いせいだ。……いや、そもそもこの世界全体の文明が低いせいだろうな。そして、こいつらは……)


 ローグは縛った3人をこれからどうするかすでに決めていた。


(まず、意識が戻ってから魔法を奪う。俺に奪われた、魔法なしにされたと思ったらどんなに屈辱だろうな。その後で役場に殺人の罪で突き出してやろう、ついでに出身地を明かしてやろうか、村の評判は下がるだろうな、くくく。……ん?)


 何やら物音が聞こえ続ける。その近くまで寄ってみると、口と手足が縛られた二人の女性が見つかった。


「まさか、生き残りがいたのか!?」


「「…………!」」


 彼女たちは縛られた状態でもがき続けていた。それが物音の正体だった。女性の生き残り、それも縛られた状態でいることは、その事実だけでローグは推測できた。


(あいつらはそんなことまでやろうとしていたというわけか……。あれほどの悪童を若いうちから野放しにすると手に負えなくなるものだな)


 ローグは彼女達のそばまで来るとすぐに開放した。そして、口が自由になった彼女達が最初に発した言葉は重なってローグに聞こえた。


「「あいつらを殺して!」」


 明確な殺意のこもった言葉だった。



数分後。


「早くあいつらを殺して!」


「そうよ! 殺してよ!」


 手足まで自由になった彼女達は3人を殺すことを訴え続けていた。この二人はかなり取り乱しているようだ。だが、ローグになだめられてやっと落ち着いた二人は、ローグに助けてもらったことに対して涙すら流して何度もお礼を言った。


「う、う、助かりました……ありがとう…ありがとう…」


「本当に、本当にありがとうございます!」 


「俺はロー・ライト。君たちもう大丈夫だから、何があったか教えてくれないか?」


「はい、実は……」


 赤い長髪の女性はカティア、青い短髪の女性はノエルと名乗った。彼女達はカティアの兄クラウとその友人ディオと一緒にこの森に入ったが、この辺りでケリー達に襲われてクラウとディオを殺されてしまった。二人だけは生きて縛られてもうすぐ別の意味で襲われる寸前だったという。 


 ローグに事情を説明していた二人は仲間を殺されたことに対する怒りと悔しさを思い出し、再び3人を殺すと言い出した。  


「あいつらは殺しましょう! 兄さんの仇です!」


「死んだのは二人だけじゃないわ! 大勢死んでる! あいつらがやったのよ!」


 どうやら、恐怖にさらされたことで取り乱したのではなく、本当に強い殺意を抱いているようだった。しかし、


「落ち着いて二人とも、俺達がここで殺しても意味が無いだろ」


「「え?」」


 復讐を望むローグとしては3人にはまだ生きてもらう必要がある。二人の言い分も分かるが、ここで簡単に死なれてもローグの気が済まない。そこでローグは、二人にある提案を持ちかけた。


「この3人のやったことは死刑にされてもいいぐらいだ。君たちという証人がいるから、役場に差し出せばこいつらの死刑はすぐに決まるだろう」


「それは……そう……だけど……」


「…………うん」


「でも、それだけじゃ君たちの気が済まない。自分達の手で苦しめてやりたい、復讐してやりたい、そうだろう?」


「「はっ!?」」


「俺もあの3人には復讐してやりたかったんだ。今、それを実行中だからさ、良かったら君たちも手伝ってくれないか?」


 ローグの提案は、ケリー達への復讐を『共犯者』として共に実行しようというものだった。

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