白狼の娘 第二話 救出

 門番は自分を見下ろしている若い女性の顔を、泣きそうな表情で見つめていた。

 彼の関心は女性が跨っている巨大な獣にあったが、恐ろしくてそちらを見る勇気がなかったのだ。


「あの……」

 娘が少し困ったような表情で声をかけると、門番は「はっ」と正気を取り戻し、同時に自分の役目も思い出した。

「召喚士のヨーコ様でしょうか? 親郷クリル村からの知らせは届いております」

 彼女はにっこりと笑って「はい」と答えた。

 彼女の声は若い娘にありがちな甲高いものではなく、低くまろやかな落ち着いたアルトで、人の心に染み入るような魅力があった。


「オークの駆除に参りました二級召喚士、ヨーコ・マクレーンと申します。

 このオオカミの名はロキ、噛んだりしませんから怖がらないでくださいね。とてもおとなしいのよ。

 肝煎はいらっしゃいますか?」


「えええ……えと、その」

 門番は顔を真っ赤にして口ごもった。

 噂では天女のような美女だと言うから、どんなひとだろうと思っていたが、実際の召喚士は確かに美しいがとても親しみやすく、若いのにまるで母親のような優しさを感じる。彼はそう思ったことが何だか恥ずかしくなったのだ。


 もう一人の門番が見かねて彼のわき腹に肘を入れ、代わりに答えた。

「実はついさっき放牧場にオークが現れたようなのです。肝煎は村の男たちを集めて現場に向かいました。

 仲間が一人やられた上に、女の子がさらわれたようなんです。

 着いた早々で申し訳ないですが、そちらへ向かってもらえないでしょうか」


「あらまあ、それは大変だわ」

 ヨーコは眉根を寄せて顔を曇らせた。

「では、さっそくそちらへ向かいましょう。場所を教えてくださいますか?」


 彼女は落ち着いた様子でオオカミに跨ったまま門番から放牧場の方向を聞き、颯爽と去っていった。

 残された二人の門番は「ほう」と溜め息をついて、みるみる小さくなっていく後姿を見つめていた。


「小山のような怪物だと聞いていたが、それほどデカいわけじゃないな……」

「ああ。だが、馬や牛よりデカいオオカミってのは、初めて見たぞ」

「そうだな。……それにあのヨーコって娘、都会の貴族の娘よりも美しいって話だったが……結構逞しかったな」

「ああ。身体は細いけど、なんか迫力があったな」


「それに……」

 一人の門番が何か付け加えたいといった顔でつぶやくと、相方も大きくうなずいた。彼も同じ思いだったのだ。


「胸がデカいな……」

「ああ。十人の子持ちみたいなデカい胸だったな……」


      *       *


 門番たちが失礼な感想を述べあっているとも知らず、ヨーコはロキに揺られながら村郊外の放牧場へ向かっていた。

 彼らの説明によれば、現場は二キロも離れていないらしい。

「いきなり出てくれたわね。オーク退治なんて初めてなんだから、もうちょっと心の準備がほしいのに……気配りが足りないわ。

 ねえ、ロキはオークと戦ったこと、あるの?」


 白狼はのんびりとした口調で言葉を返す。顔はまっすぐ前を向いたままだ。

『いや、オークと会ったことはあるが、奴らはオオカミを襲わない。俺たちも同じだ。

 だがまぁ、一対一なら多分心配いらないだろう。

 それより妙だな……』


 ヨーコが首を傾げる。

「ん? 何が妙なの?」

『さっき門番が言ったことだ。オークが人間の子どもをさらうなんて聞いたことがないぞ。どういうつもりだろう?』


 ヨーコはますます首を捻った。

「言ってる意味がよく分からないわ。あなたの世界ではオークと人間は仲がいいの?」

『そういうわけじゃ……あー、いや、別に大したことじゃない。確かに、この世界と俺の故郷とでは、オークに対する認識が違うようだ。忘れてくれ』

 二人の会話はそこで中断された。ヨーコの視界に人だかりが見えてきたからだ。オオカミの足にかかれば、二キロ程度の距離はあっという間である。


 突如現れた巨大な白狼と若い娘に対し、村人たちは驚きながらも理性を総動員して敵意を向けなかった。ヨーコたちが朝から散々噂していた存在に違いないと、即座に理解したからだ。


「召喚士殿ですな?

 お出迎えもせずに失礼した。私はこの村の肝煎、ケネルと言います」

 肝煎にしてはかなり若い、まだ五十代に見える男が帽子を取って挨拶をした。

 濃い顎髭を短く刈り込み、身体つきはがっちりとした男だ。日焼けした顔には深い皺が刻まれており、彼が働き者であることを感じさせる。


「二級召喚士のヨーコ・マクレーンです。

 門番さんから聞きましたがオークが出たとか。状況を教えていただけますか?」


 ケネルは手早く分かる範囲の現況を説明しようと努めた。

「昼前に放牧場の警備に当たっていた村の者がオークに襲われました。

 現場に居合わせた者の話では、羊は無事だったもののリーアムという男が殺され、ちょうど弁当を届けに来ていた彼の娘、エーファが連れ去られたとのことです」


 ヨーコは小さくうなずいて案内された現場の様子を見て回った。

 前日の雨で湿っていた草地は滅茶苦茶に踏み荒らされ、靴を履いた人間の足跡と、その二回りは大きい裸足の足跡が入り乱れている。

 小さな血溜まりが残され、濡れた草の葉にべったりと血痕がついている。それは引きずられるように森の方向へと続いていた。


 ヨーコは白狼の背から滑り降りると、片膝をついて躊躇ためらいもせずにその血を指で掬い取り、ぺろりと舌で舐めた。

「確かにあまり時間は経っていないですね。その殺された方の遺体はどこに?」

 肝煎を含めた村人は、ヨーコの行動にぎょっとしてその顔を凝視する。大きな赤い唇の端には固まりかけた赤黒い血がゼリーのようにくっつている。彼女の顔立ちが愛らしいだけに、ぞっとするような凄みがあった。


「いっ……いえ、死体はオークが引きずっていったそうです」

 彼女は人差し指を頬に当てて首を傾げた。

「もう死んでいるのにですか? どうしてかしら?」


 肝煎はすっかり気圧けおされていた。

「それは……喰うつもりではないでしょうか?」

 召喚士はいきなり肝煎の両肩を掴んで揺さぶった。女性とは思えない強い力だった。


「喰う? オークは人を食べるのですか!」

 気の毒な肝煎は手で顔をかばいながら、小さく呻いた。それほどヨーコの顔が間近に迫っていたのだ。

「はっ、はい。よその村でも人が喰われたと聞いています」


 ヨーコは肝煎から手を離さずに、もう一度がくんと揺さぶってから確認した。

「その、さらわれたという女の子は、まだ生きていたのですね?」

 肝煎は声を出せないまま二、三度うなずいた。


 彼女はやっと肝煎を開放した。まるでゴミでも捨てるように押しのけたので、彼女より頭二つは背の高い肝煎が尻餅をついたくらいだ。

 唖然として見守っていた村人は声も出せない。幻獣がこの世ならざる怪物だとは聞いていたが、それを操る召喚士も人間離れした存在だとは予想もしていなかったのだ。


 実際には、ヨーコはただの女性である。だが、魔導院で軍人並みの訓練を受けてきたので、一通りの武器は扱えたし、格闘術の心得もあった。

 彼女はそれを得意としていたし、五年にわたって犯罪者集団と命のやりとりをしてきた経験がある。田舎の力自慢など、簡単に組み伏せることができたのだ。


「一刻を争いますね。私はさらわれたという少女を救いに向かいます。

 援軍は無用、かえって邪魔になります。皆さんは村に戻って警戒に当たってください!」

 再び白狼の背に飛び乗った召喚士は、それだけ言い残すとあっという間に森の中へ吸い込まれていった。


      *       *


 ロキはオークの真新しい臭いをたどって、速足で森の奥へと進んでいく。

『オークの奴、追手を撒くつもりが全然ないな。

 引きずられている人間はやはり死んでいるようだ。もう血の流れは止まっている。

 子どもの匂いはしないから、オークが抱えているんだろう。

 ――それにしても、オークが人間を喰うとは驚きだな。反吐がでる話だ』


 ロキの思念がヨーコの頭の中に次々と流れ込んでくる。

 そこには怒りとも嫌悪とも、困惑ともとれる複雑な感情が入り混じっていた。

 オークの出現はこの数年来始まったばかりで、王国の民にはまだオークがどのような存在かよく知られていなかったのだ。ヨーコが戸惑うのは当然だった。


 しかしオークを知っているロキまでが戸惑った反応を見せたのは、よくよく考えると不自然である。ただ、ヨーコとロキの双方がその矛盾を追求しなかったとしても、この時点では責められないことだ。


 森の中をかなりの速さで進んでいたロキは、突如として足を止めた。

 微動だにしなくなったオオカミは、地面すれすれにつけていた鼻面を頭上高くに上げ、漂う空気の臭いを感じ取ろうとしている。

 やがて彼は閉じていた目を開くと、姿勢を低くして慎重に動き出した。


 ヨーコはとっくに地面に降りて、オオカミの白い巨体に隠れるように身をかがめる。

 この辺はうんの呼吸である。彼らは強盗犯や誘拐犯を追跡し追い詰める過程で、何度も同じような経験を重ねてきたのだ。


「近いの?」

『ああ。オークはそれほど鼻が利かないが、念のため風下から近づく。

 ……? 血の臭いがするな。

 どうやら奴は食事中らしい』

「まさか女の子が?」

『いや、違うな。そこまで新鮮な血の臭いじゃない。死んだ男の方が喰われているようだ』


 ヨーコはほっと息をついた。

「そう……よかった。いや、あんまりよくないか。

 それなら食事の邪魔をしに行くわよ!」

『年頃の娘が……行儀が悪いぞ?』


「嫁に行くのは十五年も前に諦めたわ! あ、でもロキだったら抱かれてもいいわよ? 可愛い〝狼人間〟ライカンスロープを産んであげるわ」

『よせよ、俺はこの歳で子づくりする気はないぞ』

「あら、残念!」


 二人はひとしきり軽口を交わし、その後は無言となって藪の中に姿を消した。


      *       *


 食事の好みは人それぞれである。好物をまっ先に食べる者もいれば、最後まで取っておく者もいる。

 このオークは後者のタイプであったのが、少女にとって幸いした。


 五日前、人間の村から奪ってきた羊は喰い尽くしてしまった。肉には独特の臭みがあるが脂がたっぷりで、丸々と太った羊は実に旨かった。

 放牧場にはまだまだたくさんの羊がいることは、前回の襲撃で確認済みである。

 また一匹くらい貰ったって、人間も文句を言わないだろう。

 彼としてはそのくらいの気分で食糧を調達しに行ったのである。


 ところがいざ放牧場に近づき様子を窺ってみると、意地悪な人間が武器を手にして警戒しているのだった。

 理不尽である。なぜ奴らは俺の空腹を理解しない? あれだけたくさんいる羊を一匹も渡さないのは因業いんごうというものではないか?

 オークは怒りに燃えた。必ずかの吝嗇りんしょく家の人間に天誅を下さねばならない……。


 ――彼が具体的にそう考えたわけではないが、心情としてはそんなところだったのだろう。

 オークはお喋りに夢中になっている人間たちの背後に忍び寄ると、手近な男の頭に殴りかかった。

 「ごん!」という小気味のいい音とともに、男の頭はがくんと崩れ、同様に身体もへなへなと地面に倒れ伏した。

 一撃で首がへし折れたのだろう、頭が背中の方に捻じれてぶら下がっている。


 人間の仲間は悲鳴を上げて逃げ出し、距離をとってこちらの様子を窺っている。

 あいつらは武器を持っているのに戦おうともしなかった。

 オークは軽蔑の眼差しをくれると、正当な獲物である最初の男の足を掴んで持ち帰ろうとした。


 その時、彼はすぐ近くで倒れてる人間の存在に気がついた。

 どうやら子どものようである。攻撃した覚えはないので、勝手に気絶したのだろう。

 子どもは肉が少ないが柔らかくて旨い。

 オークは上機嫌でその子どもを拾い上げた。

 片手で摘まみ上げ、くんくんと匂いを嗅ぐ――メスだ!


 彼は己の幸運を天に感謝した。何しろオークにもメスがいるらしいことは知識として持っているが、彼の記憶(酷く曖昧なものだったが)では会ったことがない。


 オークはぶら下げた少女の服を、尖った爪で引っ張り破ってみた。

 生白い肌が露わとなり、うすっぺらな胸には微かな膨らみが認められた。

 彼は軽い失望を覚えた。これでは穴が狭すぎて使えないかもしれない。もう少し育っていれば申し分ないのだが……。


 しかしオークは気を取り直す。常に前向きなのは、彼の美点なのだ。

 なぁに、尻の穴なら使えるだろう。肛門の筋さえ切ってしまえばいいのだ。それなら子どもであっても使えるだろう。

 彼は自分の思いつきに上機嫌となり、ねぐらと定めた森の中へと帰っていった。


      *       *


 そして今、彼は日が落ちる前に早めの夕食を摂っていた。

 殴り殺した人間の服を剥ぎ、まずは柔らかい腹にかぶりつく。


 「ぶつり」と腹壁の筋を噛み破ると、たちまち腹圧に押し出されて口の中に臓物が溢れかえる。

 まだ生暖かい腸をじゅるじゅると啜ると、未消化の食物が胃液の酸味を加えてよい刺激となり、たまらなく旨かった。喰い応えのある大きな甘い肝臓、ぐにゃぐにゃした歯応えが面白い胃、次々に食感が異なる内臓を食べ進めるのは楽しかった。

 そのまま肋骨の周りの肉を歯でこそぎ取りながらしゃぶっていると、いい加減腹がくちてくる。


 まだたっぷり肉のついた尻や太腿、腕が残っていたが、それは明日の食事のためにとっておこう。

 それよりも大事なメインディッシュが待っているのだ。

 その辺から引き千切ってきた蔦で身体を縛り、木の枝にぶらさげていたメスの子どもを楽しむ番だ。


 汚らわしい陰茎は期待に膨らみ、生皮の腰巻から顔を出して悪臭を撒き散らしている。

 オークはいそいそと少女のもとに近寄り、枝に結んでいた蔦を解こうと手を伸ばしたが、その伸びきった脇腹に突然連続して衝撃が走った。


「ぶすっ!」「ぶすっ!」「ぶすっ!」

 鈍い音を立てて、彼の肉体に何かが突き刺さったのだ。

 オークは驚いて自分の左脇腹を凝視した。そこには短い矢が三本、深々と潜り込み、小さな矢羽根の部分だけが見えている。

 同時に焼け火箸を押し当てられたような鋭い痛みが身体を走り、脳に達して意志とは無関係に喉が咆哮を上げていた。


 オークは怒りに任せて三本の矢を掴むと一気に引き抜いたが、刺さった時とは比べ物にならない激痛に、彼は再び絶叫した。


 やじりには小さな〝返し〟がついていて、それが抜ける際に抵抗し、オークの肉を引き千切ったのだ。

 彼は眩暈めまいのするような痛みに耐えて振り返る。


「ぶすっ!」「ぶすっ!」

 その途端にまた二本の矢が立て続けに飛んできて、オークの胸と太鼓腹に突き刺さる。

 彼は怒りのあまり叫ぶことも忘れ、矢の飛んできた方向を睨みつけた。


 しかし、彼の目には何の光景も映らなかった。いや、正確には彼の視界が真っ白なもので埋め尽くされていたのだ。

 次の瞬間、オークは吹っ飛ばされ、地面に仰向けに叩きつけられていた。

 巨大な白狼が彼に体当たりし、その太い二の腕に牙を立てて噛みついていたのである。


 自分を襲ってきた相手が巨大なオオカミであることに気づくには、しばらく時間がかかった。

 だが、気づいたからといって何かの役に立つわけではない。

 オークが噛まれていない方の腕でオオカミを殴りつけようとすれば、白狼はそれを巧みにかわしながら、喉元ががら空きになる瞬間を狙う。白い獣と褐色の巨人は絡み合ったままごろごろと地面を転げ回った。


 その塊りは喰い残しの人間の残骸を圧し潰し、泥にまみれ血を吸って、形容のし難い色に染まっていった。

 だが、それはいつまでも続かなかった。徐々にオークの呼吸が乱れ、動きが弱ってきたのだ。


 みるみるうちにオークの顔に脂汗が浮かび、顔色がどす黒く変色していく。

 そして突然彼は咳き込み、ごぼっと音を立てて口から反吐を噴き出した。喰ったばかりの人間のピンク色をした肉が、黄白色の腸の切れ端が、ぬめぬめとした粘液とともに吐き出され、オオカミの白い毛皮を汚した。


 嘔吐は数回繰り返され、最後には黄色い胃液とともにどす黒い血の塊りを吐き戻した。オークは胃液で自らの喉を焼き、激しく咳き込んでいる。


 白狼はがっちりと牙を喰い込ませていた二の腕から口を離し、すかさず吐瀉物にまみれたオークの喉笛に食らいつくと、強靭な顎の力で一気に噛み千切った。


 太い首の大半がえぐられ、皮膚も、肉も、気道も、食道も消え去り、白い頸椎が剥き出しとなった。千切れた頸動脈が踊り狂い、鮮血が噴水のようにびゅうと噴き出す。

 オークは二、三度びくびくと痙攣したかと思うと、あっけなくこと切れた。


「血に毒が回っているから飲み込まない方がいいわよ」

 背後の茂みから姿を現したヨーコが、おっとりした口調でロキに忠告する。

『頼まれたってご免だ』

 血の混じった唾を「べっ」と吐き出しながら白狼が応える。


 ヨーコの手には携帯用のれんが下げられていた。

 連弩は連射式のいしゆみで、彼女が手にしているのは五連射ができるタイプである。


 小型で矢の威力は普通の弩より劣るが、近距離でなら十分過ぎる殺傷力があった。さらに彼女の場合はやじりに即効性の毒を塗っているため、必殺の武器といってよかった。


 ただ、よいことばかりではなく、矢の装填が自動とはいえ発射するにはいちいち大型のレバーを引かねばならず、連射速度はあまり早くない。

 そして矢を射ち尽くすと、それまでであった。


 矢を矢倉に込めるのが手間である上、毒矢は扱いに慎重ならざるを得ないので、再び連射が可能になるまでは時間がかかり、その間はまったく無防備となるのだ。

 敵を眼前にした戦闘で、そんな暇を与えてくれる間抜けはそうそういないだろう。

 ――こんな危うい武器を使えるのも、ロキという相棒に全幅の信頼を置いているからに他ならない。


 ヨーコは枝からぶら下がっている少女を地面に下ろし、膨らみかけた乳房が露わになった胸に耳を押し当てる。

 続いて耳の下に指を押し当てて脈をはかり、呼吸を確かめる。

「うん、大丈夫。命に別状はなさそうだわ。

 ……起こさない方がよさそうね」


 彼女は周囲に散乱している父親の残骸を見て溜め息をついた。

「すぐに村の人たちを呼ぶから、このままにしておいていいかしら?

 でも、その隙に森の動物に持っていかれたらまずいから、頭だけでも持って行った方がいいかな?

 どう思う? ロキ」


 巨大な白狼はあからさまな溜め息をついた。

『まぁ、持って行った方がよさそうだな。だが、絶対引かれるから、そのままぶら下げていくんじゃないぞ。

 ちゃんと何か布で包むんだ』

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