密林の賢王 第四話 学術調査

 アリストアが来るまでの二日間、リディアは赤龍帝としての忙しい時間を無理やり調整し、できる限りユニと遊んだ。

 〝視察〟と称して市中で服や雑貨の買い物に付き合わせたり、庶民的な料理屋で香辛料の効いた南部の煮込み料理をふるまったりしたのだ。


 街中へはリディアとヒルダが騎馬で、ユニはライガの背に乗って出かけるのだが、それは彼女たちの周りを市民で取り囲まれるのを防ぐためだ。

 赤城市民の間で〝姫さま〟こと赤龍帝の人気は凄まじく、徒歩で出かけようものならあっという間にパニックになる。

 騎馬でも似たようなものだったが、馬並みの巨体を誇るオオカミに跨ったユニが側にいると、さすがに恐ろしいのか市民たちも遠巻きにするしかなかった。


 その代わり、店の中に入ると小柄なリディアは人々にもみくちゃにされた。

 彼女も心得たもので、彼らの好きにさせ、気軽に挨拶や握手を交わして愛想を振りまく。

 そしてひとしきり人々の興奮が収まると、自然と誰かが「姫さまがお買い物にいらしたのに、俺たちが邪魔をしたらかわいそうだろう」と言い出して、彼女たちを自由にしてくれるのだ。


 市民たちの前では、リディアは彼らの思い描く〝姫さま〟を完璧に演じていた。

 賢く、凛々しく、可憐な美少女――しかも漆黒の髪に浅黒い肌は、明らかに自分たちと同じ南方人だとはっきりと示している。その娘が、この国で王よりも尊敬される四帝の一人なのだ。市民の得意げな表情は、余所者であるユニにも十分理解できた。


 群がる市民たちから解放されると、リディアはたちまち快活な若い娘の表情を取り戻して、服屋でユニとヒルダを観客にして試着を繰り返したり、かわいい小物に嬌声をあげたりして、つかの間の自由を存分に楽しんでいた。


 城外でのリディアは何一つ面倒を起こさなかったので、教育係のヒルダも安心して彼女の買い物や食事を見守っていた。

 その赤い目は優しく細められ、口元には自然と微笑が浮かぶ。市民に愛されて大切にされているリディアの姿を、ヒルダは誰よりも誇らしく思っていたのだ。


 ユニは自分がリディアの息抜きの〝だし〟に使われていることを感じ取っていたが、ユニ自身この遊びを十分に楽しんでいた。

 特に、寡黙で哀しそうな表情を浮かべることの多いヒルダが気にかかっていたので、彼女がこんなにも穏やかな顔をしているのを見ていると、心が温かくなって涙が出そうになった。


      *       *


 アリストアが赤城市に入る予定日になった。

 午前九時頃には到着の知らせがあり、ユニはロレンソ少佐とともに城門で出迎えることにした。


 三人いる副総長の筆頭として事実上参謀本部を取り仕切るアリストアは、多忙を極めるため赤城市のような遠方へは、部下であるアランの鳥型幻獣ロック鳥に運ばせるのが普通だった。

 それならば直接赤城の中庭に降りる。こうして城門を通るということは、今回陸路をとったということを意味している。


 アリストア一行は馬車での到着となった。二頭立て四人乗りの馬車が二台と荷物用の馬車が一台という編成で、護衛の兵はついていない。

 馬車列の最後尾に国家召喚士であるアリストアの幻獣、ミノタウルスの巨躯が控えているのを見ればそれも納得がいく。


 アリストアは窓の馬車からユニたちに声をかけた。

「出迎えご苦労。城まで乗っていきたまえ」

 ユニとロレンソが勧めに応えて馬車に乗り込むと、中には副総長の秘書であるロレッタ中尉も座っていた。

 ロレンソはその隣へ、ユニはアリストアの隣りの席へ座る。

 ユニは腰を下ろした座面に体温のぬくもりを感じた。

『ああ、さっきまでは並んで座ってたのね。お熱いことだわ』


 彼女は美人秘書と名高いロレッタがその上司と深い仲になっていることを知っている。隣りですました顔をしているアリストアの顔を見ると、思わず噴き出しそうになる。

「なんだユニ、私の顔に何かついているか?」

「いえ、何も」

「ならばよろしい。久しぶりだね、元気そうで何よりだ」


 ユニは小さいがわざとらしい溜め息をついた。

「あら、前に会ってからまだ二か月経っていませんけど。

 副総長殿は、私が近年よく会う人物として五本の指に入っていますのよ」

 彼女の皮肉にも、アリストアは全く動じなかった。

「それは知らなかった。ロレッタ、この栄誉は忘れぬよう記録しておいてくれ」

 軍服を一分の隙もなく着こなした美女はくすくす笑う。

「承知しました」


 さて、挨拶は済ませた――とばかりに、ユニは早速質問を投げかける。

「どうしてわざわざ赤城まで来られたのですか?

 打ち合わせや命令だったら、参謀本部に私を呼びつける方が簡単でしょう」

 アリストアは片眼鏡モノクルを外してハンカチで磨きながら答えた。

「すぐに分かることだが、今回は学術調査――場所は南部密林地帯なんだよ。

 赤龍帝の管轄内だから、彼女にも話を通しておく必要がある。

 それには直接話に加わってもらうのが一番手っ取り早いだろう?

 彼女を抜きに参謀本部で打ち合わせて、痛くもない腹を探られてはかなわんからな……」


 ユニはきょとんとする。

「リディア様が参謀本部を疑うというのですか?」

 アリストアは「意外だな」という表情を浮かべた。

「君はあの娘――」

 彼はそう言いかけたが、ロレンソの顔を見てすぐに訂正した。


「あの赤龍帝の恐ろしさを知らんのかね?

 若さや外見に騙されてはいけない。彼女には歴代の赤龍帝の智謀が宿っているのだよ。

 リディア様はもともと資質が優れていたのだろうな。赤龍がお選びになるはずだ。

 まぁ四帝はそれぞれ皆、〝切れる〟方ばかりだがね。赤龍帝は少し危ういくらいに頭が切れ過ぎる。違いますか? ロレンソ少佐」


 アリストアよりも年上の少佐は鷹揚にうなずいた。

「いかにも。

 私は先代のフレディ様にもお仕えしました。あの方は歴代に劣らぬ立派な赤龍帝でしたが、私の見るところリディア様はその上を行っておられます。

 恐らく歴史に名を残す赤龍帝になることでしょうな。

 小官は――それを見届けられぬのが無念でなりません」


 ロレンソ少佐は幻獣ナラシンハ(ライオンの獣人)を従える国家召喚士であり、今年でもう四十一歳になる。

 あと一、二年以内に彼の肉体は消滅して、幻獣界へその魂が転生することが運命づけられているのだ。


      *       *


 赤城に着いてユニたちが馬車を降りると、後続の馬車からはプレートアーマーを装着した武人と、軽装の革鎧を身に纏った男が下りてきた。

 リディアが洩らしたとおり、アスカとアシーズが同行していたのである。

 ユニは駆け寄って、アスカとはハグを(相手は金属の塊りだが)、アシーズとは握手を交わした。

「ご無沙汰しています、アシーズさん。

 辺境で稼いでいたそうですね。今度来るときは声をかけてください。

 美味い店を知ってるんです、冷たいビールを奢りますよ!」


 男はにかっと笑い、黒髭に覆われた口元から白い歯が覗いた。この手の渋い中年はユニの好みなので、愛想も良くなろうというものだ。

「そいつはいいことを聞いた。

 オーク狩りもいい実践訓練になったし、また行こうかと思っていたんだ」

 彼らは賑やかに談笑しながら城内に案内された。客人はそれぞれに宿泊用の部屋が与えられた。そして旅の埃を払って昼食を済ませ、落ち着いたところで集まることになった。


      *       *


 午後二時、赤城の一室で会議が始まった。

 赤城側が赤龍帝リディアと二人の副官、参謀本部からはアリストア副総長に蒼龍帝麾下のアスカと私設警備隊長アシーズ、そしてユニだった。

 しかし、もう一人ユニの知らないスキンヘッドの大柄な男も着席していた。革鎧をつけているが正規軍の装備ではなく、恐らくアシーズ同様の傭兵ではないかと思われた。

 アスカもその男が気になるらしく、ちらちらと視線を送っている。

 二人の様子に気づいたアシーズは、片手を挙げて立ち上がった。目で男に合図を送ると、男も椅子を引いて立ち上がる。


「会議の前に彼を紹介しておきたい。みんな初めてのはずだ。

 俺の警備兵仲間でゴードン・スレイグと言う」

「ゴードンです。以後お見知りおきを」

 そう言うと男はぺこりと頭を下げた。

「彼は俺が連絡してここに呼んだ。理由は後で話そう。

 ――時間を取らせて済まなかった。始めてくれ」


 ホスト側であるリディアが自然と進行役を買って出て、会議は始まった。

 ロゼッタが今日の資料らしき書類を各人の前に配っていく。

「みな、遠路はるばるご苦労であった。

 今回、参謀本部の提唱で南部密林での学術調査が行われるそうだ。

 本日はその打ち合わせだと承知しているが、正直なところ私も詳しく知らされていない。

 当然、この場で説明がなされるものと期待している。

 アリストア殿、そうでしょうな?」


 アリストアはうなずいて口を開いた。

「お手元の書類をご覧になりながら聞いていただきたい。

 昨年の夏から秋にかけて、わが国東部の辺境の村々から、オークの襲撃が頻発しているとの訴えがありました。

 軍による聞き取り調査では、その頻度はおおむね例年の五割増しといったところで、冬となった現在に至るまで変化は見られません」


「幸い在野の二級召喚士がどうにか対応し、これまでのところ人命は失われていませんが、家畜への被害は確実に増加しており、討伐報償費の増大と併せて、辺境の地域経済に大きな負担となってのしかかっています。

 軍としても有効な対応策を打ち出すべく検討しているところですが、何分にもオーク出現の急激な増加原因が不明のままであります。

 われわれはこれまでにもオークに関する基礎調査を不断に続けておりましたが、事ここに至ってさらなる調査が必要であると判断したのです」


 ユニは配られた資料に目を通していたが、オークの出現・討伐数の変化やそれにかかる経費の累積などのデータがグラフで分かりやすくまとめられている。多分〝完璧超人〟と言われるロゼッタが用意したものだろう。

 アリストアの説明はさらに続く。


「ここに出席していただいたアシーズ殿は、長年隊商の警備隊長として王国とルカ大公国を結ぶ街道を行き来されています。

 ご存知のようにこの街道は南部密林の西端に沿った通商路で、これまでも稀ではありますがオークの襲撃がありました。無論、アシーズ殿はその経験を積んでおります。

 昨年の大公国派兵、それに続く吸血鬼の襲撃事件では、赤龍帝麾下第三軍が多大な犠牲を払ってこれを退けています。

 私は事件後、その調査のために多くの関係者に聞き取り調査をしました。

 アシーズ殿とはその過程で再会したのですが、彼は私の魔導院時代の先輩であり、また一時期軍に所属していたこともあって、互いに見知った仲でした」


 それはユニも聞いたことがある。さらに言えば、彼はすでにこの世界を去ったゴーマ(アスカの兄)の後輩で、軍隊時代も世話になったらしい。


「そのアシーズ殿が先日、ふらりと私のもとを訪ねてくれました。彼は辺境で急増しているオークを狩っていたということです。

 私は彼と夕食を共にしたのですが、その際に興味深い話を聞いたのです。

 彼の話によると、南部密林のオークと辺境のオークとでは、まるで別種かと思うほど違っているのだそうです。

 ……この辺は、本人から語っていただいた方がよいでしょうな」


 アシーズはうなずいて話を引き取った。

「知っている者も多いだろうが、隊商を襲うのはもっぱら人間――野盗であって、昨夏の魔人事件を別にすれば、南部街道におけるオークの襲撃はめったに起きない。

 今回、俺は辺境に出稼ぎに行って、自分自身でオークと戦い、十頭以上これを倒した。その上での感想なのだが、辺境のオークはデカくて怪力だが、それ以上に馬鹿だ。

 戦う相手としては、体格で劣る南部密林のオークの方が遥かに難敵だと言える。

 密林のオークが隊商を襲う場合、奴らは身体に泥を塗って体臭を消したり、身体に葉のついた小枝をくくりつけるといった偽装をする。

 襲う時も正面からは絶対に来ない。必ず不意をつき、複数で来る場合は伏兵を使う。

 一度などは、さらったラクダに松明をくくりつけ、そいつを暴走させて隊商に突っ込ませ、その混乱に乗じて襲ってきたこともあった。

 そればかりか人質をとって盾にしたことすらあったそうだ。

 要するに密林のオークはずる賢く頭が回る。奴らは作戦を立てるし、仲間同士で役割分担をして連携を取る。


 ――それが辺境のオークはどうだ。

 奴らは確かに大柄で力も強い。だがそれこそ馬鹿の一つ覚えで直線的に突っ込んでくるだけ、作戦なんて何もない。

 武器だって棍棒だけだ。密林のオークが原始的でも弓矢だって使うのに比べれば、脅威は比較にならない。

 俺が実際に戦った感触では、密林と辺境のオークは外見が似ているだけで、全く別の種族だと言っていい」


 アリストアが割って入る。

「密林のオークに知恵があるという報告は、これまでにも上がっています。

 実際、ここにいるユニは辺境でオーク狩りの名手と言われている専門家ですが、その彼女からも同じような指摘を受けています」


 それはユニがアシーズらとともに隊商の護衛をした時の話だ。確かに襲ってきたオークからは高い知能が感じられた。

 ただ、そのオークたちはサキュラ首長国の呪術師に操られていたので、もともと賢いのかどうかユニには判断がつかなかった。


「そんな話を聞いた、だいぶ後のことです。酔ったアシーズ殿が面白い噂話を教えてくれたのですが……」

 目で合図されたアシーズが再び口を開く。


「これはルカ大公国の北部都市、リレンの酒場じゃよく知られた噂話だ。

 南部密林のオークは集団でそれなりに秩序だった生活をしている。

 俺たち人間から見れば、ひとつの村といった規模なんだが、奴らは自分たちが住む密林を〝王国〟だと言っているらしい。

 まぁ、どう呼ぼうが奴らの自由だから、それはいい。

 だが、国家を名乗る以上、そこには王が存在するはずだ――いや、実際にいるらしいんだ。

 ここまでは事実だと言っていいだろう、噂はその先だ。


 大公国のある男が、王国に向かって南部街道を北上した時のことだ。

 途中で日が暮れ、男は野営をしたのだが、寝る前につい酒を飲み過ぎたそうだ。

 そこをオークに襲われたんだが、男は泥酔していて起きないものだから、オークはラクダと積荷ごと悠々とかっさらい、ついでに男も担いで密林の奥へと消えていった。

 翌朝、男がやっと目を覚ますと、彼は身体を縛られていることに気づいた。

 しかも周囲を見回すとオークだらけだ。

 男は自分がさらわれてオークの集落へと連れてこられたのだと理解した。


 彼は自分がオークに食われるのだろうと思った。

 やがて男が目覚めたことに気づいたオークが、彼を村の広場に連れ出した。

 見たこともない大勢のオークに取り囲まれ、彼はひときわ派手な飾りに身を包んだ立派なオークの前に引き出された。

 さあ、いよいよ自分の命もここまでか――そう覚悟した時、男の耳に意外な言葉が届いたのだ。

 それは少し訛って、たどたどしいものだったが、間違いなく人間の言葉――それも俺たちが話すのと同じ中原語だった。


 立派な身なりのオーク――多分、オーク王なのだろうが、そいつははっきりとした人間の言葉で、男に謝罪をしたのだ。

 ――自分たち密林のオークは人間に敵対する意思を持っていない。

 今回の件は不幸な事故である。お前を襲い、拉致したオークには十分な罰を与えた。

 お前の身の安全はわが名にかけて保証しよう。ラクダも積荷も何一つ欠けることなく返却しよう。

 だからどうか我らの非礼を許してほしい。


 王はそう言って、深々と頭を下げたそうだ。

 その後、男は目隠しをされたものの、もとの街道へと連れていかれ、ラクダと積荷とともに解放された。

 その時に、驚くことに大公国で通用する貨幣で相当の額まで渡されたということだ」


 アシーズはここでいったん言葉を切って一同の表情を確認した。

「やはりユニは驚かないか。

 アリストア殿もそうだったからな。だから逆にこの話をした俺の方が驚いたんだ」


 自分の方を見てアシーズが言うので、ユニは答えざるを得なかった。

「ええ、確かに私はオークが人間の言葉を話すのを聞いたことがあります。

 今の話ほど知性を感じさせるものじゃありませんでしたが……」


 アリストアは満足そうにうなずいて話を引き取った。

「今のユニの話は軍機に触れるので説明はしない。赤龍帝は知っているはずですね?」

 リディアはうなずいた。


 アリストアは結論を述べた。それまでの丁寧な口調が上位者らしいものに変わった。

「よろしい。

 大公国の酒場の与太話とされているものだが、私は確たる理由で十分に信憑性のある噂だと思っている。

 そこで、これまで誰も足を踏み入れたことのない密林を調査することが、わが国のオーク研究に大きな進歩をもたらすと判断した次第だ。

 この学術調査は相当の危険が伴う。だが、ここに召集した面々はその危険を冒してなお、目的を達成しうる力を持っているはずだ。

 オークに関する経験と見識では、わが王国随一と言われる二級召喚士ユニ・ドルイディアを中心に調査班を編成し、南部密林のオーク王国の実態解明を参謀本部の権限において命ずるものである」


 アリストアの話の途中から、ユニは頭を抱えていた。

『よりによってまた、なんちゅー無茶な命令を……! ロゼッタには悪いけど、アリストア先輩は〝魔女の婆さんに呪われろ!〟だわ』

 ユニの恨みがましい視線を無視して、アリストアは話を進める。


「ユニの護衛には、いつもなら元帝国軍魔導士で防御魔法の遣い手、マリウスを付けるのだが、今回は都合により同行させられない。

 そこで蒼龍帝フロイア殿の了解を得て、アスカ殿をお借りした。


 アスカは「なるほど、そういうことか」という顔をしている。彼女は何も説明されていなかったようだが、全く意に介していない。

 アスカとしては軍の命令を淡々とこなすだけである。それが親友であるユニを守ることになるのなら、願ったりの任務だった。


「それともう一人、南部街道と密林に詳しく、なおかつ腕の立つ護衛として当初はアシーズ殿に依頼したのだが、残念ながら彼にも都合があって辞退された。その代わりにアシーズ殿から推薦していただいたのが、ゴードン・スレイグ殿だ」

 アリストアの紹介に、ゴードンは小さく会釈をした。

 それを受けてアシーズが補足をする。


「ゴードンは召喚士ではなく、軍歴もない在野の剣士だ。

 だが、その実力は俺を遥かに上回る。度胸も据わっているし、信頼がおける奴だ。

 もちろん、南部街道や密林にも詳しい。安心して護衛を任せてほしい」


 マリウスが不参加なのはまぁいいだろう。だが、ゴードンが参加する経緯を聞く限り、アシーズには参加の可否を選択する権利が与えられたらしい。

 それならば、『あたしはどうなのよ!』とユニは思う。

 自分だけが拒否権なく学術調査のリーダーですって? 少しは怒ったっていいだろう。


 ユニの右足が不満をぶつけたくてうずいている。

 彼女はそれに気づくと大げさに嘆いた。

『ああ、こんな時にマリウスが側にいてくれたら……八つ当たりで蹴飛ばせるのに!』

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