悠久の魔導王 第二十六話 帰還

 自分たちがなぜ帝国にいるのかを説明するに当たって、最初にユニはゲルトに詫びた。

「ごめんなさい。でも、どうか分かってちょうだい。

 私たちはあなたにすべての事情を話すわけにはいかないの。

 もしあなたがそれを知ってしまったら、かえって迷惑をかけることになるわ。

 あなたたちも今、帝国との関係を悪化させるわけにはいかないでしょう」


 ゲルトは黙って頷いた。

 ユニは小さく安堵の息をついて話し始めた。

「ありがとう、ゲルトさん。

 私とライガ、それにマリウスも、アッシュの願いを助けるために帝国に送り込まれました。

 彼女の最大の目的は叶ったのですが、そのために帝国軍と戦うはめとなり、現在私たちは彼らの追跡を受けています。

 追手はあのマグス大佐――赤毛の魔女で、帝国軍は軍用犬を投入してしつこく跡をつけてきています。

 オオカミたちだけならそんなもの簡単に振り切れるのですが、私たち人間がいるためそれができません。こんな辺鄙なところにいるのも、人目につかないよう逃げ回っているためなんです」


 きわめてざっくりした説明だったが、ゲルトはそれで十分だという顔をしている。

 ゲルトの表情については、相変わらずマリウスには全く分からない。ただしユニはもちろん、アッシュも普通にそれを読み取れるようだった。


「なるほど、大体のところは分かりました。

 それで、俺に何かできることはありますか?」

 正直、ゲルトのこの言葉はユニたちにとっての光明だった。


「すべてを話さないでおいて、勝手だということは分かってるわ。

 それでもあなたにお願いします。

 私たちをあなたの馬車に乗せて、コルドラ大山脈の麓まで送ってほしいの!」


 真剣な顔で訴えるユニを、ゲルトは笑い飛ばした。

「何を水臭いことをおっしゃる。

 ユニ様、それに何よりもライガ様とその一族は、われら獣人族の恩人です。

 俺の方から頼みます。どうか手伝わせてください!

 ユニ様たちに追手がかかっているということは、多分川港のクレアだけでなく、北カシルにまで手配が回っているでしょうね。

 都合のいいことに村の者が舟で俺を迎えにくる手筈になっています。

 俺の方も帝国人に騒がれたくありませんから、わざと誰もいないような待ち合わせ場所にしてあります。ユニ様たちを見つからずに乗せることができるでしょう。

 舟さえ出すことができれば、対岸の王国領に降ろすなんて雑作もありません」


 ゲルトの提案は願ったり叶ったりだった。

 彼らはさっそく大山脈を越えるルートでいったん別れること、東部で再び落ち合うことや、別行動を取って追跡部隊を引きつける群れのオオカミたちとの連絡方法など、具体的な打ち合わせに入った。


      *       *


 ゲルトの馬車の荷台には、中の土産物やロバの飼料を濡らさないため、幌がかかっていた。ユニたちは干し草の中に潜り込んで、久しぶりにゆっくりと眠ることができた。

 馬車に乗り込んでからの旅は順調そのものだった。

 町に寄って乏しくなっていた食糧を補給できるのも有難かった。

 ゲルトは朝貢のために帝都に上ったので、その帰途の便宜と安全は皇帝から保証されていた。したがって彼の馬車が止められたり、荷台を調べられるというようなことも一切ない。

 群れのオオカミたちとの連絡調整は、犬サイズに変身して荷台に乗り込んでいたライガが担当し、打ち合わせ済みの日時と場所で互いの状況を確認し合った。


 オオカミたちの報告によると、追手であるマグス大佐の部隊の追跡速度は、ある日を境にどういうわけか突然鈍化したとのことであった。

 まるで追跡への熱意を失ったかのようで、走り続けるつもりだった群れのオオカミたちは、逆に追跡部隊を引きつけるためしばしば休憩して彼らが追いつくのを待たなければならなかった。


「どういうつもりでしょう?

 あの執念深い大佐らしくありませんね」

 マリウスも首をひねるばかりだった。

 それならユニたちが安心したかというと、それもまた逆で、大佐が何か罠をしかけているのではないかという疑念が付きまとい、彼らの神経をすり減らすこととなった。


 ヒマワリ畑の戦いから約三週間後、ユニたちは裏ノルド道に通じる山麓の森の入口でゲルトといったん別れた。ゲルトは正規のノルド道を通過しないとかえって怪しまれるし、そこでの検問はさすがに厳しく、いかに皇帝のお墨付きとはいえ荷台が調べられるのは避けられないからだ。

 余裕で追跡部隊を振り切ってきた群れのオオカミたちは、すでに到着して待機している。

 ゲルトとは川港クレアの郊外で再び落ち合うことになっていた。


 その合流も滞りなく済み、彼らはクレアの下流、二十キロほどの川岸で獣人族の舟に乗り込むために東街道を急いでいた。

「結局、マグス大佐は何もしてこなかったわね」

 馬車の荷台で揺られながら、ユニは自らの疑問を口にした。

 マリウスも同意する。

「そうですね。

 ゲルトさんの馬車に乗れてからここまで、最大のトラブルと言えばユニさんが『温泉に入っていく!』と駄々をこねたことくらいですから。

 恐らく何らかの事情があって、大佐は追跡を諦めたんだと思います。

 ただ、引き返さずにずっと追ってきましたから、表向きは追跡を続けなきゃいけない……やはり軍内部のゴタゴタでしょうね。

 大佐としては、裏ノルド道というルートを発見したことが手土産になるんでしょうか」


「そうよ、お風呂よ!」

 突然思い出したかのようにユニが勢いづく。

防人村さきもりむら(カシルの上流約百キロほどの地点にある王国軍の第八駐屯所)なら、お風呂に入れるのよね!」

「ええ、まぁそうですね……」

 マリウスが苦笑していると、アッシュが訊ねてきた。


「獣人族の舟で直接カシルに行ってはまずいのか?」

 ユニは頷いた。

「ええ、あたしたちは無許可で舟に乗り込んでいるから、いわば密航者なのよ。

 いくら王国領側の南カシルだとしても、さすがにまずいわ。

 それで、カシルからも近い軍の駐屯所に一度寄って、アッシュの身分証を作ってもらうのよ。

 多分、黒蛇帝が話をつけてくれていると思うわ。

 そこからはオオカミに乗せて南カシルまで送ってあげるわよ」


      *       *


 その後ユニたちは、すでに迎えに来て待機していた獣人族の舟に乗って、無事にボルゾ川を下ることとなった。

 ゲルトはクレアの町で帆布を購入しており、日中はそれをかけてオオカミたちの姿が見られないようにした。

 したがってそれはあまり快適な旅とは言えなかったが、何しろ川下りの舟は速く、最短の辛抱で済んだのが救いだった。


 ゲルトは夜陰に紛れ、ユニたちを中之島のやや下流の浅瀬で舟から降ろした。

 かつて島で帝国軍の特殊部隊が獣人たちに皆殺しにされ、その死体が流れ着いた岸である。

 このあたりの川岸には王国軍の監視所が複数設置されている。

 サクヤ山麓の〝穴〟に近いこの地で、狂教主アルケミスは帝国の支援を受けてオークの召喚や繁殖実験を行ったことがある。

 そして最終的にアルケミスは王国に牙を剥く〝クロウラ事件〟を起こすに至った。

 事件後、王国軍はこの地の重要性に気づき、監視体制が強化されたのである。


 ユニたちはその監視所の一つに出頭して、アルケミスの村跡に置かれた第八駐屯所の司令官への面会を求めた。

 さすがに一般の兵士まで黒蛇帝の要請は伝わっていなかったが、この監視所の当番兵は元第四軍の兵士でアスカの部下であった。以前にユニとアスカが駐屯所を訪れたことも記憶していたため、一行は丁重に扱われ、とりあえず朝になるまで監視所で休むことが許された。


 翌日、朝一番で伝書鳩が飛ばされ、駐屯所にことの次第が伝えられると、ユニたちの希望はすぐに叶えられた。

 第八駐屯所には二つの大隊が駐屯し、その指揮を二人の国家召喚士が交替で執る体制となっていたが、この時の当番指揮官はギリアム中佐と言い、ユニとは顔見知りであった。

 ユニが予測したように、中佐のもとにはすでに黒蛇帝からの協力要請が届いており、ユニたちやライガばかりか、群れのオオカミまでもが駐屯所に入ることを許可された(オオカミたちは森の中の方が居心地がよいため、ライガを除いてこの申し出は辞退した)。


 駐屯所に入ると、ユニたちはすぐに指揮所に案内された。

 待ち構えていたギリアム中佐は、丸顔で腹の出た四十歳に近い男だったが、首も腕も指も何もかもが太く、がっちりとした体格をしている。

 人懐っこい笑顔を浮かべているが、時折細められる目は鋭く、彼が叩き上げの軍人であることを物語っていた。


 彼の座る椅子の後方の床には、ライガと同じくらいの体格をした虎のような獣が横たわっている。

 背中のあたりは茶色の毛に覆われているが、そこ以外は虎そのもので、尻尾は蛇になっている。

 ユニは直接見たことがないが、四神獣の一柱である白虎ラオフウも尻尾が蛇になった虎だという。少し違うのは、背中の毛並のほかに顔が人面に近いことだ。

 それは国家召喚士でもあるギリアム中佐が契約した幻獣ヌエであった。

 いわゆるキマイラ(合成獣)であり、ラオフウに似ていることでも分かるが、稲妻や電撃を操る能力を持った雷獣である。


 中佐は立ち上がってユニと握手を交わし、彼女はマリウスとアッシュを紹介した。

「マリウス君の噂は聞いている。

 アリストア殿の〝おもちゃ〟だとな。

 さぞかし苦労が絶えないことだろうと同情するよ」

 マリウスは何も言わずに笑顔で頭を下げた。


「アッシュ嬢のことは黒蛇帝の書簡で連絡を受けている。

 もっとも『身元は詮索無用』と書いてあったがね。

 なるほど、このような美しい女性であっては、あれこれ探るのは無粋というものだな」

 中佐はそう言って笑うと、ユニにウインクをして見せた。


 ユニはにっこり笑った。

「あら、中佐。

 私は中佐からそのようなお褒めの言葉をいただいた記憶がありませんが……。

 女性としての魅力に欠ける自分を嘆くばかりですわ」


 中佐はからからと笑って自分の椅子に戻った。

「そういじめるな。

 君が魅力的な女性だと認めることを、私は少しも躊躇ちゅうちょしないぞ。

 だがな、率直に言って今の君は全身が埃まみれで、しかもかなり臭う。

 将校用の浴室を準備させておいたから、入ってくるがいい」


 ユニの目には明らかな歓喜の色が浮かんだ。

『帝都以来のお風呂だ!』

 額にそんな文字が浮かび上がっていたとしても、彼女は驚かなかっただろう。

 それでもユニは自分の欲望をどうにか抑えつけた。


「ありがたいお言葉に心から感謝しますわ。

 もし私の身体が臭くなかったら、中佐の頬にキスをしていたところです。

 ですがその前に、私たちの要件というか、お願いを聞いていただきたいのです」


 中佐は自分の机の隣りに置かれた袖机の引き出しを開け、そこから何やら手帳のようなもの取り出しユニの前にぽんと置いた。

 見ただけで分かる。それは王国が発行する身分証だ。

「これが必要なのだろう?

 黙って持って行きたまえ。黒蛇帝から『詮索無用』と言われているからな。

 何も説明せんでいいぞ」


 アッシュがユニの前に置かれた身分証を手に取り、中を改めた。

 そこには〝アッシュ・ファン・パッセル〟という名前と、彼女が王国の著名な商家ファン・パッセル家の三女で、貿易部門の渉外責任者であることが記されている。そして王国産農産物の売り込みのため、海外を歴訪するという旅の目的まで説明されていた。

 参謀副総長アリストアの秘書、ロゼッタ中尉を通して彼女の実家に協力を要請したことが明白である。

 ロゼッタはこの年の初めに誘拐されたことがあり、軍がその解決に動いたことでファン・パッセル家には〝貸し〟があったのだ。


 アッシュは優雅な動作で腰を落として礼を取った。

 ユニと同じ旅をしてきたというのに、彼女の身体には埃ひとつなく、もちろん臭いもない。

「ギリアム中佐殿、ご配慮感謝申し上げる。

 先を急ぐ旅ゆえ、当所にゆっくり滞在する時間がないのが残念だ。

 中佐殿をお守りしているヌエ殿とも語り合いたいところなのだが……本当に残念だ」


 自分のことを呼ばれたヌエはむくりと身を起こし、少しサルに似た顔をアッシュの方に向けた。

 そして口を開くと、そこから流暢りゅうちょうな中原語が発せられた。

エルフの姫君・・・・・・にそのように言ってもらえるとは、光栄の極みだな。

 まさかこの世界であんたら一族と会うとは思わなかったぞ。

 やれやれ、長く生きていると面白い目に遭うものだな……」


 ギリアム中佐は慌ててわざとらしい咳払いをしてヌエの言葉を遮った。

 そして振り返ると、少し離れたところに控えていた数人の部下に怒鳴った。

「貴様ら!

 今、何か聞こえたか?」


 部下たちはそれぞれとぼけた顔で、上を向いた。

「さて、何のことでしょうか?」

「最近年齢のせいでしょうか、めっきり耳が遠くなりました」

「つい書類に夢中になっていまして」


 中佐は満足そうに頷くと、ユニたちの方に向き直った。

「無論、私も何も聞いていないぞ。

 さ、もう風呂に行かれてはどうかな?」

 ユニたちは、もちろん中佐の勧めに従うことにした。またヌエがとんでもないことを口走っては大変である。


      *       *


 翌早朝、ユニたちは第八駐屯所を出立してカシルへと向かった。

 三人ともオオカミたちの背に乗っての移動なので(マリウスは嫌がったが)、その日の午後にはカシルに入っていた。

 アッシュは翌日に出立する外洋船の切符を無事に手に入れ、マリウスはやはり翌日、川を遡行する定期船で黒城市に向かうこととした。

 ユニはもちろんオオカミたちとタブ大森林を抜けるルートで黒城市を目指す。


 三人はその夜、〝海馬の穴〟でささやかな別れの宴を開いた。

 目の粗いザルのようにビールを呷るユニとアッシュだったが、表情はあまり冴えなかった。

 今回の旅での出来事をあれこれ思い出しては笑い合ったが、互いの今後については、思うところがあるのかあまり話さなかった。


 ユニとマリウスは黒蛇帝とウエマクに旅の報告をしなければならない。

 それはそもそもの約束だったから当然として、アリストアにはどう説明するのか、頭の痛い所だった。

 事情を知らされぬまま、さまざまな協力を強いられた彼が、事の次第を知りたがるのは当然だからである。

 ウエマクに口止めされるかどうかでその対応は変わるだろうが、いずれにせよやっかいなことになりそうだった。


 ユニはまた、魔導王に投げかけられた「オークに関する課題」について、ウエマクに話すべきかどうかでも悩んでいた。


 アッシュはアッシュで、西の森の新たなエルフ王として今後どうしていくつもりなのか、人間に話すわけにいかない事情があったのだろう。

 彼女もやはり口が重かったが、杯を重ねるうちにぽつりとつぶやいた。


「私は今度の旅を経験できてよかったと思っている。

 正直言って、これほど長い時間を人間と過ごしたことはなかったんだ。

 そうだな……私は人間に少し偏見を持っていたと言ってもいい。

 だが――」


 彼女は話を途中で止め、まったく違う話を始めた。

「私は、おじさまが何をしようとしているのか、それは何のためなのか、調べてみようと思う。

 その結果次第では、私は君たちと敵対する立場になるかもしれない。

 だが――」


 アッシュはまたも話を打ち切った。

 そして、意を決したように打ち明けた。。

「君たち人間の命は私たちエルフから見れば、一瞬で燃え上がり、すぐに灰となってしまうスギの葉のようなものだ。人間と知り合い、懐かしさにかられて会いに行ったら、相手はすでに墓の下だったということが珍しくないのだ。

 だが――私はいつか君たちと再び巡り合いたい! 心からそう思っている」


 彼女は叫ぶように言うと、手を伸ばしてユニの胸にそっと押し当てた。

 二つの控えめな乳房、そのちょうど中間にエルフの白く長い指が吸いつくように添えられる。

 戸惑うユニに、アッシュは優しくささやいた。

「これは魔法ではない。

 私の一族に伝わる占いだ。ユニ、少しの間動かないでいてくれるか?」


 ユニは黙って頷いた。

 押し当てられたアッシュの指先から熱と微かな鼓動が伝わってくる、不思議な感覚がある。それは決して不快なものではなかった。

 どのくらい時間が経っただろうか、二人の女性は彫像のように動かなかった。

 やがてアッシュはゆっくりと手を離すと、にこりと笑った。


「私たちはそう遠くない将来、再び会うことになるだろう――そう占いに出た」


      *       *


 宴が始まって二時間近くが経ったころ、テーブルの上に熱いコーヒーが入った陶製のカップが置かれた。

「何よ、頼んでないわよ?」

 ユニが見上げると、そこには〝海馬の穴〟の主人が立っていた。

「俺の奢りだ。

 そろそろしゃきっとした方がいいんじゃないのか?

 いいか、お前ら。暴れるんだったら店の外でやるんだぞ」


 ユニは熱い上にとてつもなく苦いコーヒーを啜って顔をしかめた。

 酔いの半分は吹っ飛んだ気がする。

「気づいていたの? さすがだわ。

 だてに〝情報屋〟をやっているわけじゃなさそうね」


 ユニたちが南カシルの門をくぐってわずか十分後、アッシュと犬サイズのライガは早くも監視者の存在に気づいていた。

 さらにライガは相手の匂いから、彼らがユニたちとアッシュが初めて会った夜に襲ってきた連中だと告げてきた。

 ユニたちが監視者の存在を無視して散々飲み食いしている間に、この〝海馬の穴〟は三十人ほどの敵によってすっかり囲まれていたのだ。


 ユニは懐から革袋を取り出すと、数枚の銀貨をつまみ出してテーブルの上に置いた。

 そして大きく腕を上げて背伸びをすると、勢いよく立ち上がった。

「それじゃ、そろそろ行きましょうか!

 あんまり待たせたら悪いものね」


 マリウスもこきこきと音をさせて頭を回し、立ち上がった。

「そうですね、もう十二月ですから外はずいぶん冷えるでしょうに。

 ご苦労なことですね、まったく」


 アッシュも楽しそうな顔で立ち上がる。

「まったくだ。

 最後まで楽しませてくれるとは、サービスが良過ぎだろう。

 では、食後の運動に行こうじゃないか!」


 三人はのんびりと店の出入り口へと向かった。

 少し遅れて、床に寝そべっていたライガが起き上がり、のそのそと付いていく。

 その後姿に向かって店の主人が声をかけた。


「おいライガ、待ちねぇ!

 お前にも餞別をやろう」

 そう言うと主人はまさかりほどもある大きな牛の骨を、ライガに向かって放り投げた。

 ライガは一瞬で変身を解き、巨大なオオカミの姿に戻ると、器用に投げられた骨を口でキャッチした。

『ありがとよ!』

 とでも言うように、ライガは大きな尻を主人に向けると、ばっさばっさと尻尾を振ってみせた。

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