悠久の魔導王 第十八話 禁呪

 ユニは四つん這いのままアッシュのもとへ転げるようにして這い寄った。

 仰向けになって転がっている彼女の身体を抱き上げると、首ががくんと傾いて頭が垂れ下がる。

 右腕が千切れた肩のあたりからは、動脈から鮮血が間歇的に噴き出し、ユニの上着から膝のあたりまでがたちまち血で真っ赤に染まった。


「しっかりして! 今、血止めをするから!」

 ユニは悲鳴にも似た声で叫び、いつも背負っている背嚢を下ろして包帯や薬を取り出そうとしたが、その動作が途中でびくりと止まった。

 身をかがめた拍子に、抱き起したエルフの右上半身を覗き込むような姿勢になったためだ。

 アッシュの肩から下の方は、とても正視できないような悲惨な状態だったのだ。


 腋の下から脇腹にかけては皮膚も肉も引き剥がされたように失われ、白い肋骨がきれいな間隔で顔を覗かせていた。

 その肋骨も、揃っているのは上半分だけで、下半分を含めて脇腹には吹き飛ばされたように大穴が開いていた。

 腹部の右側、ほぼ三分の一が消滅していて、その傷口は真っ黒に焼け焦げて炭化している。


 ユニが背嚢を取ろうと身体をよじった拍子に、腹部から炭となった肉片がぼろぼろと崩れ落ち、その奥からぬめぬめした茶色の粘液にまみれた腸がぞろりとこぼれ出てくる。

 肩の傷からは、血の吹き出す勢いがどんどん弱まっていく。

 血を失い過ぎたためなのか、心臓が弱っているためなのか、それともその両方なのか、医者ならぬ二級召喚士には判断がつかなかった。


 ユニは途方に暮れた。

 肩に布を当て包帯できつく縛り出血を止めたとして、この腹の大穴はどうするのだと……。

 ――と言うよりも、これではアッシュが生きているとはとても思えなかった。

 ユニは力なくうなだれているエルフの頭を両手で抱えて上に向け、まだ息があるのか確認しようとした。


 驚いたことにアッシュは微かだが呼吸をしていた。

 そして彼女はうっすらと目を開け、土気色になった唇をわずかに動かしさえした。

 唇が歪み、彼女が笑みを浮かべようと努力しているのが分かる。

 力を失った小さなかすれ声でアッシュはささやいた。


「……私では、まだまだおじさまには敵わなかった……。

 戻るのが遅くなって済まない、ユニ」


 ユニは涙声で怒鳴った。

「しゃべらないで! い、いい今、手当てをしてあげる!

 大丈夫だから! 絶対大丈夫だからっ!」

 涙がぱたぱたとアッシュの顔に落ち、埃で白く汚れたエルフの頬にまだら模様を描く。

 流れ出た鼻水が糸を引いてアッシュの唇に落ちそうになり、ユニは慌てて手の甲でそれを払った。

 正直この状態でなぜアッシュが意識を保ち、話までできるのかユニには理解できなかった。


 エルフの娘は焦点の定まらぬ目のまま、少し不思議そうな表情を浮かべた。

「……大丈夫? 私がか?

 ……そうだな、ああ、私は大丈夫だ……。

 だからユニ、泣くな。泣きたいのは私の方だぞ」

 アッシュは苦笑を浮かべたまま、無事な方の左腕をのろのろと動かすと、首のあたりで何かを掴み、服の中から紅い石を引っ張り出した。


 それはアッシュがいつも身につけているペンダントで、銀の細い鎖に少し不釣り合いな大きさの紅い珊瑚玉のような宝玉が、トップとして下がったものだった。

 ユニはこの道中、何度となくアッシュと一緒に水浴びをしてきたが、一糸まとわぬ全裸となっても、アッシュが決してそのペンダントを外さないのでよく覚えていた。


 エルフの左手は、胸の谷間から引き出した紅い宝玉をまさぐると、しっかりとそれを握りしめた。

 するとその途端、アッシュの表情に明らかな変化が起きた。

 薄開きの白く濁った目が、ぱちりと大きく開き、瞳に意志の力が戻った。

 土気色だった唇にもわずかに赤みがさし、そこから発せられた言葉には驚くような力強い響きがあった。


「ユニ、私から離れるのだ。そして耳を塞ぎなさい!」

 アッシュは首を振って左右を見たが、まだ視界は立ち込める埃で白く閉ざされている。

「マリウス!

 その辺にいるのだろう?

 聞こえているなら今すぐ耳を塞げ! 禁呪・・を使う!

 さぁ、ユニも早く!」


 有無を言わさぬ強い口調に気圧されたように、ユニはアッシュの身体をそっと地面に横たえ、そのまま後ずさった。

 そして言われたとおりに両耳を塞ぐ。

 それと同時にエルフの唇から呪文が洩れ出した。


 ユニとマリウスは、アッシュが魔法を使う場面を何度か見ている。

 彼女の呪文はほんの数秒で終わったが(マリウスは実に羨ましそうにそれを見ていた)、それは呪文と言うより心地よい歌に近かった。

 ところが今、アッシュの唇からこぼれ出る呪文は、不吉で、不快で、ねっとりとした呪いの言葉のように不気味に周囲を侵食していった。

 ユニは両手でしっかりと耳を塞いでいたが、その呪いの言葉はわずかな指の隙間からもナメクジのように這い入ってきた。


 凄まじい頭痛と吐き気がユニを襲い、彼女は胃の中に残ったわずかな残留物をげえげえと吐き出した。

 酸っぱい胃液までが逆流し、喉に灼けるような痛みが走る。

 口から腕を突っ込まれて、胃を引きずり出されるような感覚を味わいながら、ユニは目の前のアッシュから目を離せずにいた。


 不吉な呪文はわずか数秒で終わった。

 それと同時にエルフの身体は、しゅうしゅうと音を立てる白い蒸気に包まれた。

 湯気はアッシュの傷口のあたりから吹き出し、風の具合でわずかに蒸気が流された際には、傷口が赤い泡でぶくぶくと覆われているのが見えた。

 青白かった彼女の身体には見る間に赤みが差し、その色はどんどん濃くなっていった。

 まるで夏に裸で太陽の光を浴び続けた後のように、アッシュの全身の皮膚が赤く腫れあがったように見えた。


 彼女の眼球は、飛び出るのではないかと思われるほど見開かれた。

 その目は充血して真っ赤になり、目尻からこぼれた涙は血の色に染まっている。

 大きく開かれた口からは、真珠のように白く形のよい歯並びが見えていたが、その上顎の犬歯がみるみる伸び、五センチほどの長さがある牙となった。

 ぬらぬらとした唾液にまみれた舌は、まるでオオカミのように長く伸び、口の端からはみ出してだらしなく垂れ下がった。


 アッシュの身体から噴き出す白い蒸気は徐々に弱まってきた。

 湯気が薄まると傷口をぶくぶくと覆う赤い泡がはっきりと見え、右肩からは血に汚れた芋虫のようなものが這い出してきた。

 白い芋虫は好き勝手な方向にもぞもぞ蠢きながら、肩から抜け出そうともがいているように見えた。

 やがてそれは五本の指と化した。

 そしてそのまま「ずるり」と肩から手が生え、手首が押し出され、肘までが生えた。

 次の瞬間には、二の腕が吐き出されるように生え、右腕が完全に再生していた。


 ユニはその不気味な光景に呆けたようになっていたが、我に返った時には、肋骨が見えていた腋の下はおろか、炭化して大穴が開いていた腹部までも再生していた。

 さすがに布地の再生までは行われないようで、ぼろぼろになった衣服は左半身だけがわずかに残り、形のよいへそや右の乳房、ピンク色の小さな乳首までもが露わになっている。


 アッシュは自分の上半身が半裸であることを全く気にしていないように立ち上がった。

 その姿は力に満ち溢れ、先ほどまでの瀕死の状態が嘘のようであった。


 呆然としていたユニは、ふと自分の足元からも、しゅうしゅうという音とともに白い蒸気があがっていることに気がついた。

 慌てて目を下に向けると、蒸気は萎びた小枝のようなものから噴き出している。

 そしてそれはみるみる縮んでいくと、やがて跡形もなく消滅した。

 ユニはそれが先ほど地面に置いた、アッシュの腕であったことを思い出した。


 ユニの目の前で起きた完全な再生。

 それが現実だったとしても、まともな人間なら自分が目にしたものを信じないだろう。

 だが、ユニはこの事態をあっさりと受け入れた。

 なぜなら、つい数か月前に同じような光景を見ていたからだった。


 そう、赤い泡と青い泡の違いはあるが、それは魔人の心臓を埋め込まれたナフ国の女王ナイラ、真祖たる吸血鬼が見せた再生の光景と瓜二つだったのだ。


 アッシュが吸血鬼化し、その再生力を使って自身の修復を図ったことは明らかだった。

 彼女が握りしめた赤い宝玉は、あの青い宝珠〝魔神の心臓〟と同種のものなのだろう――ユニはそう確信した。


      *       *


 森の中の小さな広場に立ち込めていた白い煙は、もうかなり薄くなって見通しが利くようになっていた。

 爆風はユニやマリウスだけでなく、オオカミたちや帝国の兵士たち、そして駆けつけたばかりの援軍をも等しくなぎ倒していた。


 オオカミたちは比較的早くに立ち直り、毛並みを埃で真っ白にして、よたよたとユニのもとに集まってきた。

 ライガも悪態をつきながらユニの傍へと戻ったが、やはりアッシュの異様な様子に驚いて立ち尽くしていた。

 マリウスも頭を振りながら立ち上がっていた。彼の左腕は魔法で灼かれ、痛々しく腫れ上がっている。


 だが、立ち直ったのはユニたちだけではなかった。

 帝国の兵士たちも、突然の衝撃からどうにかして秩序を取り戻そうとしていた。

 特に広場に飛び込んだ援軍は相当のダメージを受けていたが、まだ森の中にいた後続は幸いにもほぼ無傷だった。

 彼らは負傷者を手早く茂みの中に退避させ、指揮官は怒鳴り声をあげて三十人余りの兵に隊列を組むよう指示している。

 バタバタしながらも、その場に三列の弩隊が整列し、その後方では数人の魔道士が早くも呪文の詠唱を始めていた。


 ライガはその様子に気づき、慌ててユニたちの前に出ようとした。

 すでに十本近い矢を身体に受けたまま、なおも盾になろうという覚悟だった。

 しかしアッシュがそれを制した。彼女は何ごとかをエルフ語で命じ、ライガを下がらせたのだ。


 そして吸血鬼化したエルフは、口を大きく開けて言葉にならない雄叫びをあげた。

 白く不気味に伸びた鋭い犬歯が剥き出しとなり、血走った目は帝国兵たちを睨みつけている。

 その瞳は、これから始まる殺戮への期待でとろりと潤んでいた。

 アッシュは引き絞った弓のように身体をたわませ、跳躍の準備に入った。


 ユニにも一瞬先の光景が目に見えるようだった。

 吸血鬼と化したアッシュは、ひと跳びで十数メートルの距離を詰めるだろう。

 敵のただ中に飛び込んだ彼女は、恐ろしい膂力で革鎧を着た兵士の身体を紙のように引き裂き、殺戮の限りを尽くすはずだ。

 矢も剣も魔法も、彼女には無意味だ。どんな傷も一瞬で超回復する吸血鬼に、ただの人間が勝てるはずがない。


 これから巻き起こる血の惨劇を代償として、確かにユニたちはこの窮地を脱するだろう。

 だが、それでよいのだろうか……。

 ユニは下を向いて拳を痛いほど握り、目をつぶった。

 彼女は何もできなかったが、アッシュが血と臓物まみれになって荒れ狂う姿を見たくはなかったのだ。

 旅の途中に言われた「それは偽善だ」という彼女の言葉が甦り、ぐるぐると頭の中で回り続ける。


 しかし数秒が過ぎたが、アッシュの跳躍で巻き起こる風も、哀れな帝国兵たちの断末魔の絶叫も、一向に聞こえてこなかった。

 その代わり、下を向いたユニの頬にふわりとした布地の感触と、微かな風が感じられた。


 恐る恐る顔を上げたユニの目の前に、いつの間に現れたのだろう、白い薄絹のローブを纏った背の高い男の背があった。

 彼はアッシュを後ろから抱きしめ、大きな手を彼女の額に当ててその目を塞いでいた。

「もう、およしなさい」

 男はアッシュの耳元に唇を寄せると、低く、柔らかな声音でそう囁いた。


 その瞬間、アッシュの身体は糸の切れた操り人形のようにくたりと崩れてしまった。

 そして不思議なことに、こちらを攻撃しようとしていた帝国の援兵たちまでも、なぜだか動きを止めたまま固まっている。


 ユニは一瞬で我に返った。

 腰のナガサ(山刀)を逆手で抜くと顔の前で構え、厳しい顔で叫んだ。

「アッシュに何をした!? 答えなさい!

 返答次第ではあなたの身体をオオカミたちが引き裂きます!」


 そう言いながらもユニは理解していた。

 この男はエルフ王なのだろう。だとしたら、ユニはもちろんオオカミたちでも歯が立つまい、と。

 それでも彼女は精一杯の虚勢を張り続けた。


 男はユニの叫びに振り返ると、「少しお待ちなさい」と静かに言って、抱きかかえたアッシュをそっと地面に横たえた。

「心配はいりません、眠っているだけです。

 ただ、魔力を根こそぎ禁呪に持っていかれたようですから、丸一日は目覚めないでしょうね」


 地面に横たわったアッシュは寝息を立てているのか、規則正しく胸が上下している。

 唇から突き出ていた犬歯も見当たらず、顔や身体も、もとの白い肌にもどっている。

 男は嘘をついていないように感じられた。


 それでもユニはナガサを構えたまま警戒を解かなかったが、口調は少し柔らかくなった。

「あの帝国兵たちはなぜ動かないの?

 石化の呪文でも使ったのですか?」


 男は首を横に振った。

「彼らの周りだけ時間の流れを遅くしました。

 あれでも少しずつ動いてはいるのですよ。

 さすがに私でも時間を完全に止めることはできないのでね」


 それを聞いて、ユニはやっと構えを解き、ナガサを下ろした。

 マリウスもいつの間にか横に立っていて、状況を把握しようと努めている。

 ライガやオオカミたちは、最初から男に敵意を見せなかった。


「あなたは西の森のエルフの王ですね?

 どうかご無礼をお許しください」

 ユニはそう言ってその場で片膝をついた。


「〝元〟王です。今はこのが新たな西の森の王となりました。

 まぁお立ちなさい。そうかしこまらなくていいですよ。

 あなたが〝ユニねえ〟ですね?」

 微笑む元エルフ王に対し、ユニもぎこちない笑顔を見せた。


「ただの〝ユニ〟です。

 彼女が王……ということは、アッシュはエルフの秘儀を受け継いだのですね?」

 元王は静かに頷いた。


「……よかった」

 ユニは深い溜め息をついた。秘儀の継承がアッシュの一番の目的であることを知っていたからだ。

 とりあえずユニとマリウスは、このエルフの姫を助けて目的を果たさせるという任務に成功したことになる。


「では、何故!」

 きっと顔を上げたユニの顔は再び険しくなった。

「アッシュはあなたの姪だと聞いています。

 彼女は秘儀の継承と同時に、あなたを救出するため、はるばるここまで旅をしてきたのです。

 なのになぜ、帝国兵が待ち伏せしていたのですか?

 先程の爆発はあなたの魔法なのでしょう?

 なぜアッシュにあんな酷いことを……!」


 元王は少し困った顔をして、寝息を立てているアッシュのそばに腰をおろした。

 そしてユニたちにも座るよう、仕草で促した。「まぁ、落ち着きなさい」という意味なのだろう。

 ユニとマリウスは顔を見合わせたが、素直にその指示に従った。


「君の質問に答える前にだ。

 君がさっきからアッシュと呼んでいるのは、こののことだね?」

 ユニが頷いたのを見て、彼は言葉を重ねた。

「それはどういうことなのだろう? 君たちが名付けたということなのかな?」


「今それを聞くか?」という気もするが、彼からすれば当然の疑問なのだろう。

 マリウスが目でユニに合図をして、彼がその質問に答えた。

「僕は元帝国の魔道士で、今はユニと行動をともにしているマリウスという者です。

 彼女の名前はエルフ語なので、僕たちでは発音することができません。

 ですが名前を呼べなくては何かと不便です。

 それで、彼女の名は人間の言葉に直訳すると、〝龍の灰〟だと聞きましたので、〝灰〟アッシュと呼ぶことにしたのです」

「〝ドラゴン〟でもいいけど、女の子っぽくないですからね」

 ユニが付け加えた。


「なるほど……。

 それは面白いな、人間風の名前か!

 そんなことは考えたこともなかったよ。うん、面白い!」

 元エルフ王はとても興味を惹かれたようで、ユニたちを少し驚かせた。


 彼は少し考え込んでいたが、ぱあっと明るい笑顔を浮かべて顔を上げた。

「そうだ! 私の名は§ΔΓ$¥Θと言うのだがね、人間の言葉にすると〝金色の花の蜜〟ということになる。

 花の蜜はネクタリンと言うのだったね?

 では、私の名は〝ネクタリウス〟でどうだろう? なんだか人間の名前っぽいと思わないか?」


「……は、はぁ。悪くない名前だと思いますけど」

 ユニとマリウスは曖昧な笑みを浮かべて頷いた。

 正直二人には、エルフがなぜ人間風の名前をこんなに面白がっているのか理解できなかったのだ。


「そうだろう!

 元王ネクタリウスか……いや、元王というのは少し語呂が悪いな。

 先王ネクタリウス……も今ひとつな気がする。

 ……ふむ、私はもう西の森の一族からは離れた身だったな。

 では、魔導王ネクタリウスというのはどうだろう!

 うん、なかなか威厳があっていい名だ。これからは帝国の連中にもそう呼ばせることにしよう!」


 すっかり上機嫌になってはしゃいでいる〝魔導王〟を前に、ユニとマリウスは顔を見合わせた。

「あの……それではネクタリウス様、話を元に戻しますが、なぜアッシュに瀕死の重傷を負わせるような真似をしたのですか?」

 ここは詰問すべきところなのだが、今のやりとりでユニはすっかり毒気を抜かれてしまい、言葉に迫力がない。


 ネクタリウスは少し真面目な顔を取り戻した。

「あれは不可抗力だよ。

 アッシュは秘儀を受け継いだあと、私が西の森に戻らずに帝国に協力をすると言ったら、私を殺そうとしたのだ」

 ユニたちは思わず息を飲んだ。

 だが、これまでのアッシュの言動から、それは密かに予想していたことでもあった。


あれ・・は魔法のやいばで私を刺そうとした。

 普通の刃物と違って、あの手の宝具で受けた傷は回復魔法があまり効かないのでね、とっさに爆裂魔法で吹き飛ばしたのだが……。

 私が買いかぶっていたのかな……。アッシュならあの程度は抵抗レジストすると思ったのだが、急所を逸らすので精一杯だったようだ。

 気の毒なことをしたと思っているよ」


 ユニは溜め息をついた。

 アッシュの方が先にネクタリウスを殺そうとしたのなら、反撃した魔導王を責めるわけにはいかないではないか。

「……それで、真祖・・となって身体を再生したってわけですか。

 アッシュが禁呪で使った宝玉って、色は違いますけど〝魔人の心臓〟ですよね? よくもまぁ……そんな危険なことを」


「……どういうことかね?」

「え?」

 ネクタリウスの雰囲気が一瞬で変わり、凄まじい殺気が圧力となってユニに襲いかかってきた。

 ユニは改めて思い知らされた。このエルフはその気になれば、自分など一瞬で殺せるのだと。


「なぜ、君は魔人の心臓のことまで知っているのだ?

 一体どこで聞いた? 答えろ!」

 魔導王の言葉には、あからさまな怒気が込められていた。

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