第30話:退院祝い

あれから1週間が経とうとしていた。

俺は今、自分の家を飾り付けている。それはなぜかと言うと、雫の退院祝いを俺の家で行うこととなったからだ。

俺の家で行う理由は雫の家も近く、俺以外に誰もいないため、多少騒いでも問題ないからである。

元々は遊びに行く予定ではあったが、雫の体調面を考慮してこうしてホームパーティなるものを開くこととなったのだ。



〈それは厄介なことじゃな。まさかここを遠く離れた場所にそれほどのオウムが発生するとはのう。それにお主でも苦戦させられたか〉


「ああ、あいつはいつものオウムとは違った。いつものやつなら大体一発で倒せてたんだけどな。反撃も食らったしちょっと怪我した」


俺と琥珀は飾り付けや準備をしながら、林間学校で現れたいつもとは違うオウムについて話していた。あれからいろいろ忙しかったため琥珀とはこの件についてまともに話ができていなかった。今日久しぶりこうやって話すこととなったのだ。


「体が鉄のようなお主に怪我を負わすとはの。それにしてはお主元気じゃな。やつらの攻撃は魔術でも使えん限り、体にとっては毒じゃが」


「そういうの早く言ってくれる?なんで俺大丈夫なの?今になって心配になって来たんだけど...」


「忘れておったわい。それにお主前にも攻撃受けたときピンピンしてたし?今回も多分大丈夫じゃろ。多分...」


「語尾の方が弱々しくなるのやめてくんない?やっぱ不安なって来た」


でも結局あのオウムから受けた裂傷は1日も経たず治癒していた。そしてその後の経過もどうもないところを見ると本当に大丈夫なのだろう。


「そういえばだけど、今日協会の魔術師くるけどお前大丈夫なの?」


「なにゅ?それは誠か?ふうむ。今のわしは魔力もない残りカスのような存在じゃからの。魔力がなければ普通の猫と同じじゃ。多分気づかれんと思うが。まあ一応、皆の前には顔を出さぬよう2階におるかの」


えらく、楽観的だなあ。バレた時、俺もお前もいろいろ厄介なことになりそうなんだけど。多分山につれ返されるんじゃね?


ピンポーン。


家のチャイムが響き渡る。どうやら買出しに行っていた碧人と雅さんがうちに来たようだ。琥珀はすぐに二階へ登っていった。

玄関まで出て行く、ドアを開ける。


「うぉ!」


がそこにいたのは、碧人と雅さんではなかった。


「えっと、ごめんなさい。早かったかな?」


「あ、いえ、大丈夫です。どうぞ、汚いところですが...」


「ええ、お邪魔します」


先に来たのは、遅れてくると聞いていた高崎さんだった。

白のワンピースがよく似合っている。かわいい。


うーん、気まずい。気まずいよぅ。


あれ?俺って雫以外の女子を家に上げるの初めてじゃない?しかもあの高崎さん...

いかん緊張して来た...

ああ、横を通る高崎さんからいい匂いがする...


ダメだダメだ。今日は雫の退院祝いだ。目的を忘れるな!己の中の邪念は捨てるべし!


「あ、それとこれ!」


高崎さんが振り返る。その瞬間にその豊満で華やかな香りが辺りを覆う。

無意識のうちにその香りを堪能している自分がいた。そして、再度我に返る。

振り向いた彼女は手に持っていた紙袋を俺に渡して来た。


「えっ?あ、け、ケーキか!ありがとう!冷蔵庫に入れておくよ」


急なことと香りに気を取られていた俺は、返事でどもってしまった。


「適当なところ座っててよ」


「うん、ありがとう」


ああ、俺がいつも座っているところにあの高崎さんが!

どうも二人きりだと平常心が保てなくなる。早く来てくれ碧人、雅さん!


「...」


「...えっと、何か手伝おうか?」


「あ、じゃあそこの飾り付けしてくれる?」


「...」


「...」


長らく沈黙が続く。気まずく感じているのは向こうも同じなのだろう。


「雫、元気だった?」


唐突に質問が飛んで来た。


「うん、もうすっかり元気になってるよ。本人は早く学校に行きたがってるみたい。今日もみんなと久しぶりに会うの楽しみにしてるよ」


「よかった...」


雫は退院後もしばらく安静を見て学校を休んでいた。俺は学校から帰るとすぐに雫の家に行き、一緒にいたと言うわけだ。

その1週間の間に2度程、病院に行きもう通院の必要もないと診断された。

つまり、俺以外が雫と会うのは今日が久しぶりとなる。


それにしてもやはり気に病んでいたようだ。彼女の立場からするにオウムが一般人を襲っていたとなればかなりの問題だろう。それもクラスメイトの友達をだ。

俺が間に合ったとはいえ、後悔の念は残っていることだろう。


俺が雫を背負って下山した時、その様子からオウムを倒していることがバレるかと思ったが、なぜかそんなに疑われることはなかった。

きっと俺がついた嘘をしっかりと信じてくれたのだろう。あれは我ながら完璧な嘘だったと思う。


そうやって、いつの間にか気まずさも消えていた俺たちは準備も終えつつ、雑談に勤しんでいた。


そこで本日2度目のチャイムが鳴った。

家のドアをドンドンと叩く音がする。

このうるさいのは碧人だな。


「チャイムだけで分かるから叩くのをやめろ!」


「ふぐあっ!」


俺はドアの目の前にいる碧人を思い切り、ドアを使って跳ね飛ばした。


「ちゃお!」


雅さんが隙間から顔を覗かせる。


「ああ、雅さんいらっしゃい。上がってよ」


「ありがと!じゃあ失礼するねっ!」


「お、俺も...へぶぅ」


雅さんを中へ招き、ドアを閉めた。ドアに何かへばりついた気がするが気にしない。




雫は午後から家に来るように行ってある。

それまでは碧人や雅さんが買って来た食材で料理を作る。


みんなで料理を作るとなっていたのだが、その料理のほとんどは雅さんが作った。「やっぱり男どもは役に立たない」と雅さんはぼやいていた。

高崎さんは?と思ったが、以前食べた彼女の料理を思い出し、何も言わないことにした。


「よし!これで完成!」


そこには豪勢な料理が机に所狭しと並べられている。皿への盛り付けも完璧だ。

ちなみにその盛り付けは俺が担当しました。


パスタにオムライスにフライドチキン、フライドポテト。それにピザに気持ちばかりのサラダ。そこにジュースを並べれば準備は万端だ。

大人だったらお酒を用意して、それに合うおつまみとかも用意するのがセオリーかと思うけど、俺たちくらいだったらどうしてもこんな濃いものばっかになってしまうな。

炭水化物のオンパレードだ。こんな量本当に食べれるのか?


「じゃあ、三波、雫を呼んで来て!」


「あー分かった。行って来るよ」


なんで俺?と思ったが家も隣だし、幼馴染だし当然か。




俺は隣の家に赴き、チャイムを鳴らした。


「あ、新!もうお家行ってもいいのかな?」


そこには、みんなと久しぶりに会うからか、おめかしを決め込んだ雫がいた。

紛うことなき美少女である、雫をいつもみているはずなのに今日はなぜかドキリと心臓が跳ね上がった気がした。


「?どうしたの、新?」


雫が笑顔でこちらを見てくる。

よかった。なんだか安心した。


「なんでもない。もう準備できたからさ。行こうか」


俺はどうにか取り繕い彼女を連れて、家に戻った。


「お邪魔しまーす...」


なぜだか妙に家が静まり帰っている気がする。

なんだ?


リビングのドアを開けて二人がそこをくぐり抜けた時だった。


パンッ!と破裂する音が数度響き渡った。


「「「雫、退院おめでとう!!!」」」


どうやら家に残った俺以外のメンバーでクラッカーを準備していたようだ。

俺そんなの聞いてないよ。仲間はずれよくない。ぐすん。


「あ、ありがとう!みんな久しぶり...」


雫は目に水の玉を浮かべながらみんなからのお帰りに感極まっていた。



雫を迎えた後は、みんなで和気藹々わきあいあいと歓談しつつ、食事を楽しんだ。

だけどここで一つ問題が発生する。


「あ、そういえば新、琥珀ちゃんはどうしたの?」


「琥珀?誰それ?新が作り上げた想像上の妹の話か?」


お前は俺をなんだと思ってやがる。


「この前拾った、うちで買ってる猫だよ」


「え!?猫ちゃんがいるの!?」


ここで以外にも食いついたのは高崎さんだった。


「あ、ああいるけど、今は2階...」


「早く!早く連れて来て!!」


あまりに真に迫るものがあり、たじろいでしまった。

そして有無も言わさず、連れて行くこととなったのだ。協会の関係者とか忘れて。


「なんじゃ。女子がワシを必要としとるのか。モテる猫は辛いのう」


もちろん、猫もそんなこと忘れてかなりの乗り気だった。


「やあああ、かわいいいっ!!」


高崎さんを筆頭に女子たちが琥珀に群がる。

高崎さんの方が可愛いよ。

それにしてもおい、クソ猫そこを代わりやがれ。


「おい、クソ猫そこを代わりやがれ」


一瞬心の声が出てしまったのかと思ったが、それ発したのは碧人だった。

碧人と同じ思考回路だと...。少し凹んだ。


〈にゃにゃ、やめるのじゃ〉


過剰なスキンシップに思わず乗り気であった琥珀は助けをこちらに求めていた。

これも周りにはニャニャーとしか聞こねえんだなと思っていると二人ほど反応が違う者がいた。


「「え!?」」


「今、この子喋らなかった!?」


「わ、私も何か聞こえた...」


高崎さんと雫である。

...なぜに?


〈にゃ、にゃあー〉


おい、苦し紛れすぎるだろ。琥珀も何か察したのか、普通の猫のような真似をした。棒読みだったけど。



そんな棒読みにも関わらず、うまく誤魔化しきれた琥珀は最後までもみくちゃにされていた。羨ましい。


そうして楽しい時間はすぐに過ぎ去って行った。みんなで片付けをある程度手伝ってもらい残りは俺がやっておくと言うことでみんなは帰って行った。

雫は手伝うと行ってくれたが、病み上がりのため雫にも帰ってもらった。


「なあ、それにしてもなんでお前の声が聞こえたんだ?」


〈わからぬ。あの金髪の少女は、協会のものじゃろう?魔力を持つものならば聞こえても不思議はないが。雫は前まで聞こえなかったのにそこがわからんのじゃ〉


「うーん、碧人や雅さんはそんな様子もなかったしな。気になるな...」


〈まあ考えても仕方あるまい。今日はワシも疲れた。早々に寝かせてもらうぞい〉


へいへい。でも雫が聞こえるとなると、よく来るからあいつも苦労するだろうけど、分かってないのか?まあいいか。


また一つ謎が増えてしまった。けど俺はあまりこのことを気に留めていなかった。そしてその事が深い後悔につながることとなる。









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