第18話:身体測定
翌日、雫と登校した俺は、朝から生徒会長の元を訪れようとした。
しかし、さすが三年の教室。二年生にとって三年生の教室とはなんだか異質に見えるもので中々訪ねるのにも勇気がいる。
三年生の教室まで来たものの、会長がどの組であるかまでは知らなかったことを思い出した。
ダメじゃん...。
「君は...。二年生がこんなところで珍しいね。どうしたのかな?」
三年生教室でうろうろしているとメガネの先輩に声をかけられた。
恐らくだ。恐らく本当に用事があるか聞いているだけの親切心なのだろう。
だが、「おい、二年が三年の教室まで来てなん用だ?おおん!?」こう受け取れなくもない。
どう答えるか迷っていたらチャイムが鳴ってしまった。
くそう。ここは戦略的撤退だ!さらば!
俺はメガネ先輩の優しさを完全に無下にし、逃げるように立ち去った。
「お前、朝からどこいってたの?」
「生徒会長のとこ」
「何しに?お前生徒会長と面識あったけ?」
「いや、生徒手帳拾ったから届けようと思って」
朝は撤退してしまったので渡せず終いだった。これはもう昼休みに探して渡すしかないだろう。
「そういえば、碧人。お前生徒会長のクラス知ってるか?」
先程は知らなかったから負けたのだ。知っていれば負けることはなかった!失敗を学び、次に活かす。俺は常に成長しているのだ。
「4組だろ?確か。」
「そうか、さんきゅ!」
これで昼休み迷うことなく、メガネ先輩に脅されることなくミッションを遂行できる。
「お前らーしゃべってないでさっさとこっちへこい。」
そう。俺たちは体育の授業中だった。準備運動のためにグラウンドを数周走らされていたのだが、ダラダラとしゃべりながら走っていたら他の生徒は既に周回を終え、先生の元へ集まっていた。
今日の体育の内容は体力測定。上体起こしや長座体前屈、反復横跳びはこないだやったが、記録はイマイチだった。そんなに運動神経がいいわけでもないしね。
今回もどうせ微妙だろうからあまりやる気でないなあ。
うーん、女子も見てるしあんまり下手な記録だすと格好悪いな。
適当に頑張るか。
体育の授業では他のクラスも合同で実施している。
俺の所属している1組は、2、3組と合同である。
ちなみに3組には八代がいる。
そんな八代は、今まさに50メートル走を走ろうとしていた。
よく見ると、今から走る八代のグループに女子たちは皆一様に熱い視線を送っている。
ケッ!!これだからイケメンは!!コケちまえ。
「新、すげえ顔してんぞお前。」
いかんいかん。顔に出ていたようだ。
そうしているうちにスタートの合図が鳴った。
六人グループで走っているがやはり、八代が群を抜いている。
もちろん1位でゴールしてしまった。
女子からは黄色い歓声が上がっている。クソが。
「5秒80!?陸上部でもないのにやべえな。流石光輝だ!」
チャラそうな男を筆頭に八代は褒め称えられている。クソが。
皆友達だろうか。八代は謙遜して「いや、まだまだだよ」と答えている。
その記録でまだまだとか舐めてんのか。
はあ。高崎さんが見てくれていたら俺だって早く走れそうなのに。
50メートル走のグループはどんどん消化されていく。もう目的の八代を見終わったはずだが相変わらず女子は、男子の50メートル走を見ている者が多い。
それだけスポーツのできる男子ってのは、格好良く見える者なのだろう。
それに見られている男子たちも満更でもない様子で「うっし、やるか!」など俺やっちゃいますよアピールに勤しんでいる。
アホだな。皆八代がいる限り勝てないというのに。
バカらしくも思いつつもついに自分の番が回って来た。
碧人はもう先に走ったようでゴール地点からこちらを見ている。
俺は一応、高崎さんも見てないかな?と期待を込めて女子の方を確認した。
すると、女子の集団の中に雫と雅さんを見つけた。高崎さんは...。あ、いた。高崎さんも見ている!!振られたといってもやはりまだ好きなのである。そんな人の視線は気になる。
さっきまでバカにしていたくせに急にやる気が出てくる新。さっきの考えを聞いたやつならゲンキンなやつだと思ったことだろう。
しかし、新は忘れていた。自分の体に変化が起きていたことを。そして忘れていたことを深く後悔することを新は知らない。
位置について。用意。パンッ!
スタートの音が鳴り響いた。
新はいつも通り走ろうとする。
軽く踏み出しただけで、新は確信した。あれ?これやばいやつ!?
その瞬間、どうにかブレーキをかけ、自分の体を制御しようとした。
その結果どうにか通常通りの速さで走ることができた。
息一つ乱さずに。
ゴールした新だったが、ないやら周りが騒がしいことに気づく。
ん?どうしたんだ?いつも通り走れた...よな?
「あ、新お前...。5秒36ってマジかよ...。どうなってんだよ」
やってしまったあああああ。明らかに異常なタイムを出してしまった。
ちなみにこれは世界記録を軽く凌駕している。
ただしみんなは世界記録までは詳しく知らないようで、普段運動もあまりできない新が異次元の速さを見せたことに戸惑っていた。
女子からは黄色い声援というよりか、軽く引かれてしまった気がする。
こ、こんなはずじゃなかったのに...。
高崎さんも目を見開いてこっちを見ていた。これは完全に他の女子と同様に引かれているな。
「すごいすごい!!新すごい!!」
ただ、遠くの方で雫だけは興奮しているのがわかった。
その後も握力測定、ボール投げなどを行なったがどれも手を抜いたのに関わらずあの八代を上回る異常な記録を出してしまった。
俺はクラスの皆から見事に奇異な目で見られるようになってしまった。
悪目立ちしすぎたため、先生にも声を掛けられかねんと思った俺は授業が終わると足早に更衣室へ向かった。
「新!ちょっと待てよ!」
いいや、またない。目立つ前にさっさと教室に戻るのみ。
「お前、本当にどうしたんだ。さっきの記録もそうだし、脱いでみてもそんなにいい体してたか?」
やだっこの子!私の体が狙いなの!?そんな風に私を見てたなんて最低ね!
「声出てんぞ!」
「失敬。とにかく、このことで特に話せることはない!さっさと教室戻ろう」
そう言うと碧人はなんとも言えない顔をしながらもこれ以上は何も聞いてこなかった。
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