第17話:彼女の焦燥
私、音坂凛はこの学校、神楽高校の生徒会長である。
今日は、放課後に生徒会を開くこととなっている。
本日の議題は、2年生のこの時期に行われる林間学校に関する打ち合わせとなる。基本的に学校行事は生徒会が主導でことに当たることが多い。林間学校は2年生の学校行事なので、もちろん2年生の生徒会役員をメインにして準備を行ってもらうことになる。
「それでは、林間学校はこのような計画で進めていきたいと思います。八代君、高崎さん宜しくお願い致します。」
「「はい!」」
学校行事としての打ち合わせは以上となるが、それは表向きの内容だ。この会議の本当の目的は別にある。
本当の目的とは昨日、神楽山で発生した緊急事態に関するもの。つまり魔術師としての会議である。
私、生徒会長である音坂凛を筆頭に、ここの生徒会役員は全員で6名で構成される。その全てがみな魔術師協会に属しており、この神楽町においてオウムの討伐はもちろん、魔術的事件の捜査や新たな魔術師の発見・勧誘等を行っている。
この学校は魔術師協会とつながりを持っている。そのため生徒会は全て魔術師で構成される訳だ。
「それではこれより、神楽山の封印に関する調査についての報告会を行う。報告会といっても昨日、支部長から説明の合った通りで状況は特に変わっていない。いのりと悠馬くんは昨日いなかったため、確認も含めて再度私から説明することとしよう。」
私が説明した内容は以下だ。
・封印が何者かに解かれたこと。
・封印の解除により、オウムが街中に発生する可能性がある。そのため、私たちで対処に当たる。
・封印を解いた犯人について調査を行う。しかし、深追いは禁止。
・本部より調査官が派遣され、補助を行なってくれる。
「ここまでで質問はあるだろうか」
スッと一人の男子生徒が手を挙げる。髪の毛は茶色く少し身長は小さめ、幼く見える。
「なんだろうか、悠馬くん」
「犯人の深追いは禁止ということですが、なんでっすか?それほどの相手なら必ず捕まえなければ危険っすよね?」
「そう。捕まえたいのは山々だが、どんな相手かも判明していない。ましてやあの教団の関係者である可能性も否定できないのだ。かなりの危険がつきまとう。ゆえに危険と判断したら、あまり無理はしないでほしい。」
「それであれば、本部の人がその犯人を調査すればいいんじゃないんですか?」
今度はピンク色の髪をした女子生徒、いのりが間を割って質問して来た。
「ふむ。確かに本来であればそうすべき案件なのだが、如何せん本部の魔術師も忙しくてね。アメリカで完全なる人型で意思を持つオウムが発生したらしい。それで世界中の優秀な魔術師がアメリカに集められているんだよ。」
そうなんですね。と小さく呟いた。
結局のところ、魔術師は常に人材不足なのである。そんな中、一人でも派遣されることに感謝しなければならない。
「それで調査と討伐について、それぞれこの六人で手分けして行うことにする。それぞれ二人一組を作り、一組を相良さんとの調査。もう二組を巡回・討伐に分ける。担当はそれぞれローテションする予定だ。」
その後も質問は特になく、滞りなく今後の対応について決まって行く。
組み分けはそれぞれ学年ごとで分けることとなった。
つまり、私の相方は誠ということになる。
真白は光輝、いのりは悠馬とそれぞれペアとなった。
そしてその後は、特に質問のなかったので今日の生徒会の会議はこれで終わりとなった。
他の役員が出ていった生徒会室には私と真白が残って話を続けていた。
「それで、彼のことは踏ん切りがついたのかい?」
「いえ、ちょっと今日はそれどころではなくて...。なんていうか今日登校した彼の様子がおかしくて。余計に気になったというか...。べ、別に異性としてという意味ではないですよ?」
彼というのは一昨日、真白が告白された、三波新という同じクラスの男子生徒のことだ。
様子がおかしかったとはどういうことだろうか。まさか真白に玉砕したことに心を病んでしまったのだろうか。かわいそうに。
「それがですね。三波くんなんですが、昨日学校休んで今日来たと思ったら、身長が伸びていたんです!10センチほど...。もしかしたら私のせいかなって思ったらなんだか気になっちゃって...。」
ん?この子一体何をいってるんだ?振られたら10センチ身長が伸びた?彼はそういう癖を持つ人間なのだろうか。私も少し興味が湧いた。
「確かにそれは様子がおかしいと言えるものだろうね。あんまり見たことのない変わりようだが。どんな見た目をしてるんだい?」
「んー特徴ですか。ちょっと癖っ毛で目は少し覇気のない感じですかね?」
聞く限り、突出した特徴はないようだ。でもそれっぽい生徒なら今日あった気がする。そう生徒会行く前にぶつかった彼だ。
私が落とした資料を拾ってくれていたが、危うく魔術協会の資料を見られた時は焦ってしまった。
ん?そういえばあの時、生徒手帳も手に持っていたがどこへやったかな?
「あれ?へ?まさか...。ない...」
私は体に手を当て、制服のポケットをすべて探す。しかしどこにも手帳の存在を感じられない。
「?どうしたんですか、会長?」
「ないんだ...。生徒手帳が...。」
「どこか落としたんですかね?誰か生徒が届けてくれるんじゃないですか?」
生徒手帳だけであれば大丈夫なんだが、問題はそこではない。
「あ、あの手帳には協会の免許証が入っているんだ...。」
「えええーーー!!なんでそんな大事な物そこに入れてるんですか!?それにあれは普通の人に見られたら本当にまずくないですか!?」
ああ、言わないでくれ。どどどどうしよう。
そう、彼女は普段全生徒の前ではクールを装っているが、実のところポンコツな部分があったりする。時折、大事なものをなくしたり、約束を忘れたり。そのポンコツ具合を知ってるのは真白だけだ。
「今度は洒落になりませんよ?どうするんですか!?」
「と、とりあえず探し周ってくる!今日は先に協会へ行って今日のことを進めておいてくれ!すまない!」
その後、学校に残っているあらゆる生徒に聞いて周ったが、誰も知らないとのことだった。落し物も届いていない。
と、とりあえず私も協会へ行こう...。
その後、支部長からこっぴどく叱られるのだった。
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