第16話:初陣
会長の秘密を知り、俺は風呂につかりながら考え事をしていた。
まさか会長にそんな秘密があったなんてなあ。明日会う時、普通に接することができるだろうか。中身見たわけじゃないけど、きっとあれが見られたくなかったことだろうし...。ボロが出ないといいけど。
ああ、のぼせそうだ。そろそろ出ようかな。
風呂をあがり、タオル一枚つけて牛乳を飲む。風呂上がりに飲むこれがまたうまいだよな。
「ふー」
〈小僧!おるか!?〉
この至福の一時を堪能していると邪魔が入った。どうやら琥珀が帰ってみたいだ。
「なんだよ、騒々しいな」
〈今しがたオウムが現れよった!行くんじゃろ?準備をせい!〉
俺、今風呂入った時なんだけど...。なんて間の悪い時に現れる迷惑なやつなんだ。
身から出た錆なので嘆いていても仕方ない。さっさと服着るか。
帰って来たらまた風呂入らないといけないのはめんどくさい。
心の中で文句を垂れつつ、準備を進める。
玄関を出たところで琥珀も一緒について来た。
「それでどの辺に湧いてるんだ?協会とやらはまだ向かってないのか?」
〈ふむ。発生地点はここから南東に1.8キロほど。協会の連中の反応はまだないの。〉
協会ってのが対処してくれるとのことだが、まだ向かっていないというのは大丈夫なのだろうか。向かうのが遅くなれば普通の人への被害が出そうなものだが。
とりあえず急いだ方がいいだろう。
「それじゃあ、肩に乗れ。一気にいくぞ?」
〈どういうことじゃ?お主そこまでどうやって行く気じゃ?〉
琥珀は疑問に思いつつも、肩に飛び乗る。
「南東...。あっちらへんか。それはな?こう、すんだよ!」
地面を踏みしめ、足に力を込める。
〈お主、まさか!?ちょっと待つのじゃあああああああ!!!!〉
一気に力を解放した。
そして俺は今まさに空を跳んでいる。飛んでいるのではない。跳んでいる。
空中で俺は気持ちよく風を受けている。それに対して猫は騒がしかった。
そして降り立って一言。
〈お、お主はワシを殺す気か!?動物虐待じゃぞ!?動物愛護団体に訴えるぞ!?〉
お前神なんだろ?じゃあ大丈夫だ。
「それで、この辺だろ?どこにいるんだ?」
〈全くお主は!ワシの扱いというものがなっておらん!〉
猫はプリプリ怒っている。本当に一々ねちっこいやつだな。そんなんだと可愛いメス猫は寄ってこないぞ?そういえばこいつって性別どっちなんだろう。ワシ言うてるしオスか。
〈ぬ?小僧、気をつけよ!奴がくるぞ!〉
琥珀がそう言ったところで急に気配を感じた。すると正面に見える道の宙が突如ひび割れを起こす。奴だ。
「ぐぎぎぎぎぎ?」
気持ち悪い悲鳴とともにオウムが現れた。
奴の姿は、前回見たものと違っていた。前回のが触手に一つ目に対し、今回現れたのは、少し人に近い形をしていた。首を横に傾け、全身真っ白の表皮に覆われている。目はなく、避けた口からはみ出る牙が特徴的だ。
見た目だけで言えば、前回見たものより恐怖心を煽られる。むしろ前見た奴はなんか愛らしかった気がする。
奴はこっちの方へむかってゆっくりと近づいてくる。
その瞬間、瞬時にこちらとの距離を詰め、腕を振るって来た。
「いっ!?」
思わず反射的に避けることができた。
焦った。あんな急に攻撃してくるとは。
「ちょっ!!」
その後も奴は腕を伸ばし、攻撃を続ける。まるで鞭のようにしなるその腕は確実に俺を絡め取ろうとしてくる。
トラックの衝突でさえ耐えたこの体だ。ちょっとやそっとの攻撃では怪我すら負わないと思うが、相手は人外。大丈夫だと思うが一応避けておくにこしたことはない。
「ッ!!」
しかし連続で繰り出される攻撃に精一杯避けているつもりだったが、ついに一撃を食らってしまった。
俺は吹き飛ばされ、住宅を囲う外壁にぶち当たってしまう。
〈大丈夫か!?小僧!〉
「いったっ〜〜〜くない。」
なんだこれ全然大丈夫だったわ。吹き飛ばされたのは意外だったけど。
案外踏ん張れば攻撃を食らっても大丈夫かもしれん。
よし。次はこっちからいかせてもらおう。
立ち上がった俺は軽くその場で軽く数回ジャンプする。
そして刹那。踏み込み奴の頭上から、かかとを振り下ろす。
ギロチンの如く、振り下ろされた足は奴の肢体を踏み越え、地面まで届く。
地震のようなうねりが広がった。
大きく舞った土埃から一つの影が出てくる。
「うえ〜。ぺっぺ。口に砂入っちまった」
〈ぶ、無事だったか、小僧!〉
「ああ、この通り無事だよ」
靴はボロボロになっちまったけど。これお気に入りだったのに...。次からは蹴り使うのはやめよう。
それにしても戦闘経験もあまりないのに、妙に体が思ったように動いてくれるな。才能か?
〈以前のものより強い個体だったとは思うが、よもや一撃で倒すとは...。恐れ入ったわい。これなら、もう少し早く倒せたのではないか?〉
「まあ、得体の知れない相手だからな。少しは慎重にもなるさ。というよりこれほっといていいのか?死体とか。めり込んだ地面とか」
こんな化け物の死体が放りっぱなしだったら、次の日絶対ニュースなるよな。UMA発見だよ。
〈それは安心せい。やつらはこの世界に本来存在せぬものじゃ。生命活動を停止した今、時期に粒子となり消えるじゃろ。〉
そう言うことなら安心だ。ん?でも俺がぶち壊した地面は直らないんじゃ。
早いとこ帰ることにしよう。俺は知らない。
「さっ、汚れちまったしさっさと帰って、またシャワーでも浴びるか!」
〈まあ待て。今しがたもう一体出ておるわ。東に1キロほどじゃ。さっさと行くぞ!〉
くそ。協会の連中は何してんだよ!結局俺が全部やることになるじゃん!
「へいへい、じゃあ行くぞ」
俺は猫を掴み、先程と同様に跳躍した。
その夜、猫の悲鳴が町中に響いたのは言うまでもない。
その後もう一体現れた化け物も同様に、一撃でなぎ倒し、さっさと家に帰った。
協会の人たちはいつになったら行動するのだろう。その疑問は消えることはなかった。
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