第15話:会長の秘密


「か、かわいい!!新、この猫ちゃんどうしたの!?」


リビングに入ると当然だがあの猫がいた。雫は猫を見つけるとすぐに駆け寄り、抱き上げた。


「いや、拾ったんだ。汚い身なりしてたから放っておけなくてな」


「そうなんだ!新はやっぱり優しいね!それしてもこの子かわいいねー!」


〈や、やめろ、小娘!ワシをなんじゃと心得る!ワシは偉大なる猫神ぞ!わかっておるのか!ごろにゃーん!〉


「ふふ、ここが気持ちいいんだね!ほら、よしよし〜!」


雫は猫を撫で回し続ける。猫がなんかほざいてたけど雫にはその声が聞こえてないようだ。雫にとってはごろにゃーっとしか聞こえてないのか。


「そうだ!この子の名前なんていうの?」


名前か、そう言えばまだ決めてなかったな。


「ポチ」


〈だ、誰がポチじゃ!〉


「え?本当に?この子なんだか嫌がってるみたいだよ?」


んーそういってもなあ。特に候補があるわけでもないし。


「じゃあ、雫がつけてやってくれよ」


〈ふむ、小娘の方が小僧よりかは、いくらかマシな名前をつけそうじゃな。喜べ、お主にワシの名を名付ける名誉を与えよう!〉


にゃにゃにゃにゃーにゃにゃーにゃー

雫にはきっとこう聞こえているだろう。

普通に聞いてたらまじでやかましい猫だな。


「ふふ、この子もつけて欲しいのかな?どうしようかなぁ。白に少しクリーム色の混じったキレイな毛並みしてるし...」


猫の言ってること分かってるのかと思ったが違うだろう。リアクション薄いし。


「そうだ!琥珀こはくちゃん!この子の名前は琥珀ちゃんね!」


琥珀か。まあポチよりかはいい名前だな。


〈ふむ。琥珀か!悪くないな。褒めて遣わすぞ、小娘!〉


「よろしくね、琥珀ちゃん!」


いつまで経っても偉そうな猫だ。

名前を決めたところで雫は猫をおろし、キッチンで食材を準備し始めた。


トントントントンと野菜が規則正しく切られていく音がする。

実は雫がこうやってキッチンに立って料理をしてくれる姿は結構好きだったりする。


「今日のメニューは?何する予定?」


「今日はカレーだよ!しかも、新の好きな甘口ね!」


雫は俺の好みを完全に把握してくれている。カレーなど簡単なものはもちろんだが、雫は和食に洋食、なんでも作ることができる。


「将来、いいお嫁さんになりそうだ。」


「ふえっ!?ちょっと!新、何言ってるの!?」


顔を真っ赤にし慌てふためく雫。

何をそんなに慌ててるんだ?


「いや、雫は料理上手だし、面倒見がいいし、旦那さんになる人は幸せ者だなって思ってな!」


「そ、そう...。人の気も知らないで...。」


雫が何か言った気がする。なんて言ったんだ?


「はい、琥珀ちゃんのご飯ね!」


聞きなおそうとしたところで雫は琥珀用のご飯も用意してくれていた。


〈おお、小娘やるではないか!久しぶりのバナナ以外の飯にありつけるのじゃ!〉


琥珀は大いに喜んで駆け寄って行った。「うまい、うまいぞぉ」といいながら涙を流して餌を食べている。


「ふふ、琥珀ちゃん喜んでくれているみたいだね。よかった!」


〈ええ娘じゃあ、ええ娘じゃあ〉


泣きながら飯食うなよ。さっきまで偉そうにしてたくせに見事に餌付けされてんな。


「じゃあ、私たちも食べよっか!今よそうね!」


「ああ、ありがとう。」


俺たちも雫の作ったカレーとサラダを食べ始める。やはりカレーは甘口に限るな!


「そういえばね、今日、帰りにね生徒会長とあったの」


食べながら、雫が今日あったことを話して来た。


「へえ。そうなんだ。そういえば俺も今日会長と会ったな。ぶつかっただけだけど」


「どうせ、新のことだから考え事でもしててぶつかったんでしょ?それでね、なんだか慌てて探し物をしてたみたいでさ。生徒手帳って言ってたかな?見つけたら中身を見ずにすぐに届けて欲しいって言ってた。いつもクールな生徒会長があれだけ焦ってるの初めて見たなあ」


ふーん。生徒会長も慌てることあるんだな。鉄で心臓ができてるくらい物怖じしなさそうな印象なのに。でもいつもクールな人に限って、そういうギャップを見せられると堪らなかったりするよな。

あれ?そういえば、俺、生徒手帳拾った気がする。


「その中身を見るなってのはどういうことなんだ?中身見ないと本人のかどうか分からなくないか?」


「うーん、よく分かんないんだけど理由教えてくれなかったんだよね。手当たり次第に人に聞いてて。なんか鬼気迫るものがあったなあ。」


「そんな会長も見てみたかったけどな。多分、その生徒手帳俺拾ったわ」


別に隠すことでもないし、正直に雫に打ち明けて見た。中身も見てないし。


「ええ!?そうなの?明日、ちゃんと返した方がいいよ?なんだかすごい迫力だったから」


「分かった。明日返しておくよ」


その後、雫は今日あった委員会のことや俺の身長のことなど軽く雑談をし、帰って行った。身長に関しては意味不明すぎるので一度病院行った方がいいよと勧められた。



〈それでは、ワシは夜の散歩でも行ってくるでな。鍵は開けといてくれい!〉


あほ猫がなんか言ってたが気にしないことにした。戸締りは大事。


「ふう、お腹いっぱい。そういえば、生徒手帳、制服のポケットに入れてたな。一応確認しとこうか」


制服のポケットを探り、生徒手帳を取り出した。


「あったあった。明日忘れずに会長に渡そう。」


(見つけたら中身を見ずにすぐに届けて欲しいって言ってた。)

雫が言っていたことが気になった。

人間誰しも、するなと言われたらどうしてもしたくなってしまうものである。

それも、あの生徒会長の私物なら尚更。


ちょ、ちょっとくらいいいよな?バレないよな?いや、でも流石にまずいか?女子の私物だし...。

葛藤が生まれていた。


「やっぱり、やめておこう!」


己の中で天使と悪魔が戦っていたが天使に軍配が上がったようだ。


「あっ!」


そう思ったのも束の間。生徒手帳をしまう時に何かのカードが一枚、生徒手帳からするっと落ちた。


「なんだこれ...?」


そこには、意味不明な羅列とともにこう書かれていた。

”日本超魔術協会 神楽支部所属 音坂凛”


「...。超魔術協会?」


なんだそれは...?これが会長の焦ってた理由?


「!!」


一つの合点がいってしまった。そうか、そういうことだったんですね。会長。

あなたは...。

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